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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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それでも、あなたは私の運命だった。



平成元年に生まれた男。平成15年に迷宮入りした教員一家惨殺事件。
平成が終わる直前に起きた男女殺人事件。
ひとつの時代の中でつながっていく真実。
児童虐待、貧困、外国人労働者。
格差社会の生んだ闇に迫る、クライムノベルの決定版!

***

平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に死んだひとりの青年の物語。
そんな書き出して始まる本作。
それだけで興味をそそられるのに加え、著者の葉真中さんは私が最近の小説家の中で
かなり高く評価している作家さんなので、かなり期待して読み始めました。
主人公・Blueに「誰か」が語りかける「For Blue」パートから惹き込まれ、
退屈することは一切なくあっという間に読み終えてしまった。

平成という時代を生きた人間なら誰しも記憶にあるだろう芸能・政治・自然災害、
そういったものがどんどん出てきて、「そうだ、平成というのはこんな時代だったな」
と懐かしむような、再確認するような、そんな気持ちで読み進んでいくうちに、
平成半ばに起きた一家殺害事件に物語は言及していく。
第一部の主人公である刑事が、聞き込みや自身の直感を通して事件の核心に
迫っていく過程、それによってどんどん明らかになっていく真実に、
ページを繰る手が止まらなかった。
Blueという人間の生き様も同時に浮き彫りにされ、物語が進むほどに
彼に惹かれていく自分を感じた。

一家殺害事件の真相が徐々に解き明かされていくストーリー運びは
確かにミステリなのだけど、本作は謎解きをメインに据えているわけではなく、
あくまでBlueという人間がいかに平成という時代を生きてきたかということが主軸の
物語なので、ミステリ的驚きを期待して読むのはあまりお勧めしない。
平成を舞台にしたひとりの青年の、いや、様々な人間の織り成す壮大なドラマとして
読むことをお勧めします。

最後の章「For Blue」を読んだときは切なさでしばらく身動きがとれないほど
だった。主人公に語りかける「誰か」が最後で明らかになる、という手法は
重松清さんの「疾走」を思わせる。
ただ、本作の場合、その「誰か」とBlueの絡みというか繋がりがほとんどないので、
もう少し彼ら二人のエピソードがあれば最終章がもっと感動的なものになったのに、
というのが唯一残念な点。
あと、著者のせいではありませんが、脱字がひどい。写植何やってるんだ。
いい作品が台無しだよ。
「生まれる」「産まれる」と漢字が統一されてないのは著者のミスかも知れませんが。

葉真中さんの著作は、デビュー作「ロスト・ケア」で今までにないものを書く
作家さんが出てきたぞと思い、「絶叫」でこの作家さんはすごいと唸ったのですが、
本作もそれらに負けないぐらい非常に良作だった。

とてもお勧めです。
本作を読んでいる間、心が満たされ、毎日が充実して感じられた。
いい物語がそばにあることの幸せを久しぶりに噛み締めることが出来た。
葉真中さん、素晴らしい作品をありがとうございます。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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