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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。


東京・豊島区で猟奇的な夫婦殺害事件が発生する。
現場には夫と腹部を裂かれた妊娠中の妻が息絶えていた。
警察は僅かな手掛りから劇団員の柴田真樹を犯人と断定し、逮捕する。
初公判当日、入廷した柴田が突然大声を発する。
国選弁護人はこの行為から柴田の司法精神鑑定を請求。
鑑定書には被告人は多重人格、つまり刑事責任能力はなしと記されていた。
そして捜査が打ち切られようとした時、精神鑑定人・小川香深が
被告人の鑑定結果に異を立てる―。

***

相当久しぶりに読み返しました。
当時はワクワクハラハラしながら読んでいた記憶があるけど、
改めて読むと謎とか真相がぼんやりしているというか、説明不足というか、
何か物足りなさを感じてしまった。
主人公・香深が真相を暴くラストシーンも、「え? それだけで?」という
感が否めず。

ただ、私も昔ロールシャッハとかSCTをカウンセリングで受けたことが
あるのですが、「こんなのそのときの気分次第で結果は変わるよなー。。。」と
懐疑的になってしまい、しかも多少それらのテストに対する知識があったので、
純粋に取り組むことが出来なかったこともあって、カウンセリングに対する
猜疑心を本作を読んで改めて思い起こさせられた。

繰り返しになりますが、事件の真相解明に至るまでの経緯も
輪郭が曖昧でぼやっとした印象を受けるので、ミステリとしては
どうだろうか、といったところです。
出版された当時は斬新な物語だったのかも知れないけど。

目が多少肥えた今となってはあまり楽しめなかった。
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「『本物』がどんなだか、あいつに見せてやろうよ」



僕に近づいてはいけない。 あなたを殺してしまうから。

週刊誌記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂木錠也。
この仕事を選んだのは、スリルのある環境に身を置いて心拍数を高めることで、
“もう一人の僕”にならずにすむからだ。
昔、児童養護施設<青光園>でともに育ったひかりさんが教えてくれた。
僕のような人間を、サイコパスと言うらしい。
ある日、<青光園>の仲間の“うどん”から電話がかかって来て、
平穏な日常が変わり始めた。これまで必死に守ってきた平穏が、壊れてしまう――。

***

夜に「ちょっと読んで寝るかー」と読み始めたら面白過ぎて止まらず、
徹夜で読破してしまった。

道尾氏の著作は「スタフ」あたりからつまらなくて手に取っても
全部数十ページもいかないうちに放り出していたのですが、
久々に大好きだった初期のころを髣髴とさせる道尾節を堪能させてもらった。
道尾氏は変に純文学調の重厚な書き方をせず、こういうエンタメに徹したほうが
一番本領を発揮するなと改めて思った次第。

オチは読めず見事に騙され、でも最初から読み返してみると
至るところに伏線が散りばめられている。
主人公がやってたゲームとか、コンビニで買ったものとか。
こういう昔からミステリにある、手垢のついた「実は〇〇でした」トリックを
ここまで面白く読ませる実力はさすが道尾氏ならでは。

サイコパスが主人公の本作、前に友人に借りて読んだサイコパスについて書かれた
専門書に出てくるサイコパスと比べるとやや平凡に過ぎる印象はあるものの
(サイコパスは得てして周囲の人間を魅了する魅力を持っていることが多いので)、
まあ物語の主題はそこじゃないしそういう上辺の魅力を持つサイコパスものを
読みたいなら貴志祐介氏の「悪の教典」を読めばいいしな。

そういえば昔知人が「俺はサイコパスかも知れない。調べたらほとんど
自分に当てはまる」と何故か嬉しそうに言ってたけど、
ちょっとのことでヘタレてテンパる、人殺しする度胸なんかありそうにもない
そのひとは完全なサイコパスもどきで、でもその本性を知らない人間からは
やたらとモテてたのを思い出した。まあ彼にもその片鱗ぐらいはあったんでしょう。

ラストはちょっと綺麗に纏めすぎかなとは思ったけど、
全体に陰惨な物語なので唯一の救いのシーンであるのも確か。
私的には終始一貫どす黒くても一向に構わなかったのだけど、それだと
一般受けが悪いんだろうな。

徹夜で一冊本を読んだなんてものすごく久しぶりの体験だった。
非常におすすめです。
ちなみに本作が好きなひとは、前述の「悪の教典」と
辻村深月の「子どもたちは夜と遊ぶ」もおすすめ。
あと漫画の「MONSTER」も。
私は月島の彼女になりたいと望む一方で、女になることを見下していた。
見つめ合いたいと思う一方で、同じ方向を見据えて肩を並べたいと思っていた。



SEKAI NO OWARI Saoriによる初小説、ついに刊行。第158回直木賞候補作。

大切な人を大切にすることが、こんなに苦しいなんて――。

彼は私の人生の破壊者であり想造者だった。
異彩の少年に導かれた少女。その苦悩の先に見つけた確かな光。

***

セカオワのSaoriの自伝的小説。
芸能人の書いた小説を読むとき、どうしても偏見から
構えてしまうことがあるのですが、本作は当たりだった。

まずは恋愛的要素から。
恋をしたことがある人間(特に女性)なら誰しもが共感するような
苦しみがこれでもかと伝わってくる。
恐らくはSaoriが実体験から書いているのだろう内容だから、
リアルであるのは当たり前なのかも知れないけど、
自分の気持ちをうまく文章化することに見事成功している。

どうしてもセカオワのFUKASE(Vo.)とSaoriを
主人公ふたりに当てはめて読んでしまうので
彼らの顔が浮かんでしまって完全に物語として読むことは難しかったけど、
内容が面白く、また文体もセンスがあって読みやすく、
あっという間に読んでしまった。

主人公であるSaoriの分身は、よく言えば繊細で真面目、
悪く言えば考えすぎで神経質な部分があるのだけど、
恐らくはそういう部分を月島(FUKASE)が
「何言ってるの。いいから行こうよ」と背中を(ちょっと強めに)
押していたのだろうな、と感じられた。いいコンビだと思う。
セカオワのバンド名の由来は、「自分の世界の終わりに唯一残った仲間と組んだ
バンドだから」というものだと前に何かで読んだことがあるけれど、
本作を読んで「なるほどこういうことだったんだな」と納得がいった。

友達でも恋人でもない、けれどそういう肩書きを超越した
絶対的な絆もあるのだということが、本作には書かれている。
もし自分がFUKASEの恋人だったら、「ああ、このふたりの結び付きには
敵わないな」と白旗をあげていたかも知れない。いや確実にあげている。

個人的な話をすると、私も昔別れて尚、心の病気を抱えた元恋人を
「介護」した経験があるので、主人公の女の子の気持ちはとてもよくわかった。
私の場合は自分も相手と同じ病気に罹ったことがあったので
相手の病状を理解することが出来たけど、心が健康な人間にとって
心の病を持つ人間を理解し、受け止めるのは相当に難しいことだっただろうし、
それでも月島から離れなかった、そして共依存になってしまわずに
自分の意見をはっきりと言い、自分の生き方を出来る限り崩さないようにした
彼女はとても大人びていて偉いと思った。
目指すもののために女として自分を繕うことを放棄した彼女が、
この上なく格好よく見えた。

ラスト一行には鳥肌が立った。

又吉直樹氏然り、自分の世界のことを書く芸能人作家は
二作目の完全なフィクションから面白くなくなっていくという法則みたいな
ものがあるけど(加藤シゲアキ氏は面白いけれど)、
彼女にはまた感動出来る二作目を書いてほしいと思う。

非常におすすめです。
When you have eliminated the impossible,whatever remains,
however improbable,must be the truth.


 
 
「謎はすべて解けました。これは――奇蹟です。」

かつて、カルト宗教団体が首を斬り落とす集団自殺を行った。
その十数年後、唯一の生き残りの少女は事件の謎を解くために、
青髪の探偵・上苙丞(うえおろじょう)と相棒のフーリンのもとを訪れる。

彼女の中に眠る、不可思議な記憶。
それは、ともに暮らした少年が首を切り落とされながらも、
少女の命を守るため、彼女を抱きかかえ運んだ、というものだった――。
首なし聖人の伝説を彷彿とさせる、その奇跡の正体とは……!?

探偵は、奇蹟がこの世に存在することを証明するため、
すべてのトリックが不成立であることを立証する!!

***

読んでいてそれなりに面白かった。
単に探偵が推理するのではなく、トリックなど存在しない
「奇跡」を信じる彼に数多の人間が仕掛けてくる
「いや、トリックはある。これは人間の犯行だ」という数々の推理を、
探偵が「いや、それはあり得ない」と具体的な例を挙げて反証するという
スタイルはなかなかに斬新。

ただ、そのスタイルがどうしても同氏のデビュー作「恋と禁忌の術語論理」と
被る。あちらのほうがインパクトが強かったため、比べてみると
本作は霞んでしまう印象。

あと、文章の巧みさ、美しさにこだわる私としては、
著者の文章の拙さというかラノベ感がどうにも読んでいてつらかった。
語り手の中国人が、「中国人が喋る日本語」を使っているのも
ヘタな漫画感があって何だかなあという感じ。

著者のデビュー作にも登場する探偵・上苙の過去を知ることが出来たのは
「そんな過去があったのか」とちょっと嬉しかったけど。
けれど繰り返しになるけど、物語の作りがどうにもデビュー作と被るので、
「またこの手の小説か」と思ってしまったのも事実。
この作家さんの著作は本作を含めて二冊しか読んでいないので、
ほかの作品は違うのかも知れないけど、ワンパターン化してるな、と
思ってしまった。
だいたいこの上苙という探偵、デビュー作の主人公にその推理をあっけなく論破
されてるので、「大した探偵じゃない」という刷り込みがなされてしまっていて
キャラは好きだけどいまいちその凄さを感じられなかった。
「こんなすごい探偵の推理さえもデビュー作の主人公は論破してしまえたんだ」
と感嘆することも可能だったはずだけど、そこまで思うには至らず。
探偵役への語り手の恋心を仄めかす展開もやはりデビュー作と若干被るし。
クライマックスも、「何でこのイタリア人日本語わかるんだよ」と
無粋とは知りつつも突っ込みを入れてしまった。

。。。とマイナス要素ばかり書きましたが、最近のミステリは
薄っぺらくてつまらないものが多いので、その点ではかなり楽しむことが出来た。
上から目線でなんだけど、著者がもうちょっと筆力をつけてくれれば
もっと好きになれるのに、と思う。
止揚を使って纏めたミステリも初めて読んだ気がするので、その点は
単純に凄いと思ったし、かなり実力を秘めた作家さんだと思うので。

また近々別の著作も読んでみるかー。


まさか、美人で頭のいいあの久曽神静香が結婚?
彼女をとりまく人々は、戸惑いつつも結婚式に出席する。
<新婦出席者>
佐古怜美 静香の幼稚園からの唯一の友人。
桜井祐介 高校生時代の久曽神に恋をした美容師。
富永仁 静香が足繁く通った結婚相談所の担当。
<新郎出席者>
高原満男 妹が結婚詐欺にあった警官。
小暮宏 三年間で十四回結婚式に代理出席。
その結婚相手には深い謎があった。
予測できないフィナーレが待っている!連作長篇。

***

面白くて一日で一気読み。
そういう本に久々に出会った。
やっぱりこの作者はミステリが真骨頂。

ヒロインの静香が魅力的過ぎて同性でもハマる。
こんなひとが友人ひとりしかいないとか32まで結婚してないとか
ありえんだろ絶対友達になりたいし
私が男なら一生懸けて猛アプローチするわってぐらい。

第二章を読み終えたあと、「オチはこうだな」と自分なりに
読んでいたのだけど、三章から雲行きが怪しくなり、ラストは
まったく予想外の展開に。
読後最近のクソ暑さを吹き飛ばすほどの爽快感を味わうことが出来た。

こういう魅力的な変人を描くのがこの作者は本当にうまいけど、
今まで読んだ同著者の著作の中でも静香は一番好きなキャラかも知れない。

「結婚」というものに対する登場人物たちの考えも
なるほどなーと思わされるものばかりだったし、
静香が結婚相談所を介して会って「あの男は駄目だ」とケチをつける男たちも
あーいるいるそういうやつ、という人間ばかりで笑った。

静香は本当に「本物」を見抜く目を持ってるよなーと感心させられた。
非常におすすめです。是非一読を。
俺も許されたいから。



歯科医院の跡取り息子の卓郎、中学3年生。平凡な地味キャラの自覚があるが、
学校一モテる美女ユーカに何故か告白され、付き合っている。
ある理由から、肉食女子ユーカの猛攻を避けている中、卓郎のクラスに
教育実習生がやってくる。陰気で冴えない女子大生に男子たちはがっかりだが、
卓郎は彼女に見覚えがある気がして…。
等身大の中学生の悩みと、それぞれの「秘密」を描くビターな青春小説。

***

デビュー作「プールの底に眠る」に感動し、
続く「角のないケシゴムは嘘を消せない」を壁に投げつけたという、
私的には当たり外れの極端に大きいと思う作家さん。

本作は。。。まあ、普通。
主人公の中三のタクローはその場凌ぎの嘘を吐いてはその場をやり過ごそうとし、
結局やり過ごせずテンパるアホで、あまり好きになれなかった。
というか登場人物全員がどこか生理的に嫌悪感を催す人間ばかりで、
まあその生々しいリアルさが白河節だとは理解しているつもりなのだけど、
読んでいる間中イライラした。
展開もどこか同氏の著作「私を知らないで」に似てる気がしたし。

そして主人公の感情の説明がいちいち長い。
ひとつの感情描写のモノローグに10行近く余裕でいったりする。
丹念に書き込んでいるというよりくどいという印象を受けた。
対して主人公の姉の心理は描写不足という感が否めず。

主人公が彼女に言いたい放題言うシーンはスカっとしたけど。
駄作だとは思わないしある程度よくまとまっているとは思うけど、
読んでいて心を動かされるってことはなかったな。
ところどころクサいし。まあこれはいい歳した大人が読むものではないなと
思った。
中学時代を思い出して感慨に耽るという読み方も出来たはずだけど、
主人公たちの思考回路が子供っぽくないのでそれも出来ず。

ていうかミステリを期待して読んだのですが、これ全然ミステリじゃなかったし。
また「プールの底に眠る」みたいな切ないミステリを書いてほしいものです。


日本推理作家協会が厳選。
至高のミステリー作品、夢の共演!

過去1年間に発表されたすべての短篇推理小説の中から、
日本推理作家協会が選び抜いた至高の作品だけを収録。
新鋭からベテランまでキャリアに関係なく、
とにかく面白くて優れた短篇ばかりを集めました。
巻末には「推理小説・二〇一六年」に加え、推理小説関係の受賞作を網羅した
リストも掲載。

★収録作品★

 黄昏/薬丸岳
 影/池田久輝
 言の葉の子ら/井上真偽
 陰獣幻戯/歌野昌午
 都忘れの理由/大崎梢
 みぎわ/今野敏
 旅は道連れ世は情け/白河三兎
 留守番/曽根圭介
 鼠でも天才でもなく/似鳥鶏
 ロングターム・サバイバー/南杏子
 きれいごとじゃない/若竹七海

***

 ◆黄昏◆

嫌いな作家さんじゃないけれど、本編は楽しめなかった。
どうしてこれが日本推理小説大賞受賞作?と首を捻った。
事件の真相も、「知られるのがいやなら単に言わなきゃいいだけじゃん」としか
思えなかったし、犯人が母親を慕っている描写もほぼ皆無なので
そこまでする理由がわからない。というか、慕ってるならトランク詰めに
するなよと。
細かい部分を言うと、主人公の刑事が聴き込みの際、
「どうして彼女が最近亡くなったと知ってるんですか」みたいに訊くシーンが
あるのだけど、「先日〇〇さんがな遺体で発見されて捜査をしてます」って
言われりゃ誰だって最近死んだんだろうなと思うだろと。
何だか微妙な作品でした。

 ◆影◆

速攻オチ読めた。なので途中からはダラダラ読み。
これが日本推理作家協会賞最終候補作だと思うと何とも言えない気持ちになった。
そして主人公がヘタレのくせにかっこつけで好きになれなかった。
ラストはクサい。まあそう来るだろうなとは思ってたけど。
赤の他人の些細な行動から「待てよ、もしかしたら。。。!」と
真相に気付くのも、コナンか二時間ドラマか!と突っ込みたくなった。
あと普通に星型のピアスを男がしてたらダサい。
ダサいと言えば、主人公が尾行する女、そのファッションに運動靴は
ないだろうと細かいとこまで気になった。現実でも実際大人っぽくキメてるのに
足元はスニーカーという女性が多くて「何でそのファッションでスニーカー?」
と内心で突っ込むことが多い日常、些細なことだけど気になってしまった。
面白くなかった。
というかタイトル、「影」なんかじゃなくて「三枚目の皿」とかにしたほうが
よかったのでは?と勝手に思った。
 
 ◆言の葉の子ら◆

謎そのものは、頭の体操的なクイズ本に載っていそうな感じのものだけど、
著者独自の世界観でそれを個性的な短編ミステリに仕上げている。
物語の要となる幼稚園児の不自然な話し方、何か困ったことがあると
何かと舌を出す癖のある主人公の描写が、ラストで真相に収束していく様は、
華麗とまではいかなくてもそれなりに「なるほどな」と思った。
主人公の生徒・福嗣の母親の「私は母親として完璧であろうと、私は、私は」
という、息子のことではなく自分のことしか考えていない様には
かなり苛々させられたけど、こういう母親実際にいるんだろうな。
ラストはちょっと説教臭い気がした。
子供を教える仕事に携わっている身としてはまあまあ面白く読めたけど、
やはりこれも日本推理作家協会賞最終候補作に選ばれるほどのものではない気が。
似た設定の話なら、太朗想士郎氏の「機巧のイヴ」のほうが
遥かに面白かった。
 
 ◆陰獣幻戯◆

主人公の変態描写が面白く、序盤から引き込まれた。
ストーカー被害に遭っている主人公の想い人が、変質者を怖がってる割には
主人公に簡単に好意を持つという展開には疑問を感じたけれど、
そして後半ふたりがセックスしたことを匂わせる描写があったのに
何で主人公何も気付かないんだ?とも思ったけれど、
そういう細かい突っ込みを抜きにすれば面白かった。
ちなみに三人称で書かれた本編、主人公のことが名前ではなく
「彼」と書かれていたので何かの伏線かと思っていたら何もなかったので肩透かし。
あと、殺人の動機は良いものの犯行の発覚に至った理由が唐突でご都合主義にも
感じた。
でも繰り返すけど面白いのでスイスイ読めた。
 
 ◆都忘れの理由◆

ほっこり話。
主人公の老人の心理が、ちょっとお茶目に丁寧に描写されている。
ただ、謎の真相を中盤で主人公がすべて頭の中で推理してしまい、
まさかそのとおりってことはなくて途中でどんでん返しがあるのだろうと
思っていたら本当にそのまんまだったので、構成に勿体なさを感じた。
「まさか、理由はあれじゃ。。。!」とぼかしておいて、
ラストの会話で真相を明かす、という構成にしたほうがいいのではと
思ってしまった。
このままではミステリとは呼べないと思うので。
 
 ◆みぎわ◆

警察小説が苦手なので、読むのに苦労した。
真相がわかっても、「あーまあ、そういうこともあるよね」としか思えず。
というか被害者に連れがいたかどうかなんて、被害者の携帯のメールのやり取りとか
見たらすぐにわかるんじゃないか?と。
同じ警察小説でも、横山秀夫氏のだったら割と面白く読めるのにな。
この作家さんの書く話はあまり好きじゃないみたいです。
 
 ◆旅は道連れ世は情け◆

メフィスト賞出身の作家さんはたまにとんでもないトリックを使ってくるので、
本編もそうなのではないかといろいろ考えを巡らせながら読んでいたものの、
ラストは予想外で「そう来たか」と驚かされた。すぐに読み返して、
散りばめられていた数々の伏線になるほどと感心した。
面白く読めたけれど、主人公と旅を共にする男が主人公に話した自分の過去と、
主人公が好きになる女性の夫がアニメ制作会社に勤めているということが
重要な伏線になっているのかと思いきや見事に本筋に関係なかったので、
そのふたつを物語に絡めればもっと面白くなったのにと個人的には思う。
あと、タイトルにしては、「世は情け」を思わせる描写がなかったので
そのあたりも何かしらのエピソードを入れればよかったのにとも思った。
 
 ◆留守番◆

読み始めてすぐオチがわかったので面白くなかった。
疑問だったのは、何故主人公は「彼女」が未だに女優になりたいと思っていたのかと
いうこと。そんな描写は皆無だったので。まあ単なる彼の妄執だったのかも
知れないけれど、そのあたりが描写不足に感じた。
有名女優を目指す女があんな場所で働いていることにも疑問を感じた。
あと警察無能過ぎ。

 ◆鼠でも天才でもなく◆

短編にしては長め。そしてそんな長さは必要ないのではと思った。
犯人は物語的に「このひとしかいないだろ」と読めてしまうので、
フーダニットは楽しめない。
あと、ある絵画を見て探偵役が事件の真相に気付くのだけど、
この絵で真相がわかるか?と思うほど事件との関連性を感じられなかった。
トリックにも無理があったし。
そして探偵役のヒロインの描写があざとくてちょっと鼻白んだ。
主人公のほかの登場人物への心の突っ込みがちょっと面白かった、
でもそれだけ。
この作家さんの作品で面白かったのは、短編「美しき余命」だけだな。
 
 ◆ロングターム・サバイバー◆

ミステリというにはミステリ要素が弱過ぎた。
そして何より突っ込みたいのは、末期癌にかかった名誉教授が手術を手掛けた
という患者の中にMM(多発性骨髄腫)のひとがいたこと。
私の身内がこれを患っているのだけど、MMは消化器系の癌じゃないので
消化器系癌の権威が手術を手掛けるのはおかしいし、そもそも
外科手術が出来る病気じゃないので。出来て自家移植がせいぜい。
現役医師であるひとが書いた話であるだけに、リアリティのなさを感じた。
ちなみに私事ですが、前述の身内は症状が軽くロングターム・サバイバーなので
安心しています。
 
 ◆きれいごとじゃない◆

好きな作家さんだけど、本編は楽しめなかった。
掃除とおせちに関する蘊蓄を読むのがただひたすらしんどかった。
伏線も、「散りばめられてる」というより「とっ散らかってる」という感じで
雑駁に感じた。物語に起伏もないし。
ラストは同氏の傑作「クール・キャンデー」を思い出してちょっとにやっと
なったけど。
それにしても女性の作家さんって、文体が男性に比べて軽いというか
バリバリの口語体って感じでそういうところはあまり受け付けない(もちろん
そうじゃない女性作家さんもいるけど)。

***

総評としては、どの作品もいまいち。
私の中では、
芹葉大学の夢と殺人(辻村深月)
透明ポーラーベア(伊坂幸太郎)
を超える短編は未だありません。

それでも、御劔を信じている。



高校生の木崎奏が出会ったのは、職業も風体もどこか浮世離れした御劔耕助という男。
常に和服で丸眼鏡、紙芝居屋を自称し、喫茶店“ひがな”の地下室で昭和レトロな品々に
囲まれて暮らす謎多き人物だ。観客のニーズをまるっと無視した
バッドエンドの紙芝居ばかりつくる御劔に、なぜかいたく気に入られてしまった奏は、
そこから不思議な夏休みを過ごすことに…。
紙芝居が秘められた過去をひもとく、心ほっこりミステリ!

***

著者のデビュー作「裏閻魔」が大好きで、シリーズ全作読破してしまったので、
またこの作家さんの本を読んでみたいと思い手に取った一冊。

角川ホラー文庫から出版されていますが怖いところはほとんどなく、
「なぞとき」と題されているもののミステリ要素もほとんどなく、
強いて言うなら「キャラ萌えほっこりストーリー」といったところ。
ミステリを期待して読んだのでその点はちょっと肩透かしでしたが、
御劔の優しくのほほんとしてとぼけたキャラがとても魅力的なことと、
文章の言い回しの随所にフフッと笑えるユーモアがあり、
楽しく読むことが出来た。
「裏閻魔」とはまるで違う文体に、いろいろな抽斗を持っている作家さん
なのだなあと感心もした。

連作ならでの、今後解き明かされていくだろう伏線もちょいちょい
散りばめられていて、続編も読まなければと思わされたのは
やはり御劔の圧倒的なキャラの良さに拠るものなのだろうなと思う。
あとは著者の筆力。ホラーでもミステリでもない物語をここまで読ませて
しまえるのは、氏の実力の故だと思う。

ちなみに著者の中村さん、ずっと小説を書き続けては賞に投稿することを
繰り返しているうちに次第に最終選考に残るようになり、デビューに至ったという
努力のひと。
下積みが長いひとは実力が安定しているなと改めて思った次第。

キャラ萌え、ほのぼの系が好きなひとは是非。
「裏閻魔」もとてもおすすめです。

 

「ホスト、やるやんな?」
就活に惨敗し、自暴自棄になる22歳の光太の前に現れた、関西弁のホスト・雫。
翌年のチャンスにかけ、就活浪人を決めた光太は、雫に誘われるままに
ホストクラブ「チュベローズ」の一員となる。
人並み外れた磁力を持つ雫、新入りなのに続々と指名をモノにしている
同僚の亜夢、ホストたちから「パパ」と呼ばれる異形のオーナー・水谷。
そして光太に深い関心を寄せるアラフォーの女性客・美津子。
ひとときも同じ形を留めない人間関係のうねりに翻弄される光太を、
思いがけない悲劇が襲う――。

***

同著者の著作はこれまでに二作読んだことがあるのですが、
「ピンクとグレー」では「友情」を、
「閃光スクランブル」では「喪失からの再生」を、
それぞれ描いていたのに対して、本作はテーマが何なのか
いまいち掴み切れなかった。

上巻の「AGE 22」は、主人公・光太のホストクラブでの描写が
だらだらと冗長に続き、物語に起伏が感じられず、読むのがしんどかった。
下巻の「AGE 32」からは多少展開が面白くなってくるものの、
上巻とあまりに雰囲気や内容が違うので違和感が。
本作は一応はミステリという括りに入るのだろうけど、それにしては
謎や真相にあまり魅力がない。いや、あるにはあるのだけど、
人物の書き込みが足りていないせいでミステリとしてはショボい印象を受けた。
著者が書こうと思っていたことが伝わってくるぶん、筆が追い付いていないのが
もったいなく感じた。
女子高生失踪事件とか正直要らないエピソードだと思ったし、
主人公が八千草の耳のアレを何ら疑問に思っていないのも謎だったし、
主人公たちがある犯罪を犯すシーンも、あんなもの絶対監視カメラに映ってる
だろうに警察が動く気配が一向にないのが不自然だったし、
何より著者が一番描きたかっただろうラストシーンも、主人公が
「彼女」を想う描写がこれまでほとんどなかったのでまったく感情移入出来ず。
下巻は2025年を舞台に描かれているけれど、科学が進歩している部分が
あったかと思いきや今とまったく変わらないところがあったりと、
世界観にも不安定さを感じた。

熱帯魚にスタンガンのシーンとか、表現の端々にとても光るものを感じる
著者であるだけに、その実力不足が残念。
もし著者が本作のテーマに掲げるものが「恋愛」であるのだとしたら、
失敗だと言わざるを得ない。先に書いたように、ミステリとしても。

風呂敷を広げ過ぎて畳み切れていない、そんな物語だった。
決して駄作ではないけれど、作家としての加藤シゲアキ氏には期待していたので
そのぶんがっかりしてしまった。

今後本作を読む方がいたら、最初に書かれている「人物相関図」は
見ないことをおすすめします。特に下巻。ある程度筋がわかってしまうので。
一度だけでいいから。



もしも「記憶屋」が、つらくて忘れたい記憶を消してくれるなら、
あなたはどうする――?

夕暮れ時、公園の緑色のベンチに座っていると現われ、
忘れたい記憶を消してくれるという怪人、「記憶屋」――。
大学生の遼一は、そんなものはただの都市伝説だと思っていた。
だが互いにほのかな想いを寄せ、一緒に夜道恐怖症を乗り越えようとしていた
先輩・杏子が「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも
忘れ去ってしまう。まさかと思う遼一だが、他にも周囲で
不自然に記憶を無くした人物を知り、真相を探り始める。
遼一は、“大切なものを守るために記憶を消したい"と願う人々に出逢うのだが……。

「記憶」を消せることは、果たして救いなのだろうか――?
そして、都市伝説の怪人「記憶屋」の正体とは――?

衝撃的で切ない結末に、きっと涙こぼれる。
二度読み必至の青春ノスタルジックホラー!

***

同年の日本ホラー小説大賞の大賞受賞作「ぼぎわんが、来る」
より面白かった。
ホラーというよりミステリなのだけど(何故著者はミステリ系の賞に
投稿しなかったのかと思うほど)、登場人物の描写と彼らのエピソードが
とにかく魅力的で、面白く最後まで一気に読めてしまった(文章が若干くどく、
ラノベっぽいきらいはあるけれど)。
特に弁護士・高原のキャラが抜群にいい。こういうひとが実在したらな、と
心から思うような素敵なひとだった。
中学生の少女・操の、自分の記憶を消したい理由も切なくてよかった。

「記憶屋」の正体には早い段階で気付いたので真相が明かされても
驚きはなかったけれど、ラストシーンはどうしようもなく胸が苦しくなった。
ああ、「記憶屋」は、これまでにも何度もこの台詞を
 口にしてきたのだろうなと思うと。

ひとが忘れたつらい記憶を、ひとりだけ憶えていて、それを抱え続けていく。
「記憶屋」のその在りようは、都市伝説の怪人というより「神」に近いと思う。

主人公・遼一の「ひとの記憶は消すべきではない。苦しい過去を持っていても、
それを抱えて生きていくことこそが人間の本当にあるべき姿だ」というスタンスは、
やはり綺麗ごとだと思ったけれど。
消してしまいたいほどつらい記憶を引き摺っていることで、逆にそのひと本来の
人間性や魅力が発揮出来なくなるということは絶対にあると思うから。
つらい過去を抱えていれば人間性に深みが増すというものでもないし。
私にも、消してもらえたらもっと人間らしく生きていけるのにと思える過去があるし、
大切なひとが抱えている故苦しんでいる過去を消してあげたいと思うこともあるし。

とにかくいい作品でした。おすすめ。
いい監督、脚本家、演出家、役者で映画化されればいいなと思う。

ちなみに本作、3まで続編が出ているようなので、そっちも読んでみようと
思います。
プロフィール
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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