お前達も少しは僕の苦しみ、運命に感染するがいい。
幼い頃から僕は人と上手く話せなかった。
僕はスナックを経営する母親と二人暮らしだった。
母親とも上手く話せない僕は、よく叱られた。いつもひとりで過ごしていた僕は、
中学生の頃からネットの中に居場所を見つけた。
大学まで行きたくて高校に上がったが、2ヶ月で辞めた。
スナックのお客の紹介で地元の縫製工場に就職した。その工場では、
僕が一生買うこともできないような高価な服を作っていた。
4年間勤めたが、小さな事件を起こして退職した。
僕は地元を逃げ出し、東京へ向かった。だがそれが、大きな転落の始まりだった。。。
***
以前、新幹線で殺人を犯した青年のニュースを観たとき、
被害者が年輩の女性だったということについて、ネットの某掲示板で
「『誰でもよかった』とか言いながら、やっぱり弱者である女子供を狙うんだな」という
書き込みに対して、ある人が、
「楽しそうに旅行して友人と談笑しているその被害女性こそが、犯人の眼には社会的強者に
映ったんじゃないか?」
とコメントしていましたが、その言葉にとても納得がいって、今でも印象に残っている。
本作の主人公にとっても、そこは同じだったのではないかと思う。
無差別殺人を犯す人間にもそれなりの理由があるんだよ、と
月並み過ぎる言葉で纏めることは簡単だけど、やはり場合によっては
加害者の背景に眼を向けることも必要なことなのだと改めて思った。
自分が傷付けられたからといって他人を傷付けていいことにはならないけど、
そこまで追い詰められるほどの何があったのかということは知るべきだと。
とはいっても、人間自分が同じ立場にならないと相手の気持ちなんてわからない
ものだから真に理解するのは難しいとは思うけど。
本作の主人公は、これだけの境遇に身を置きながら、自分より恵まれた他者に対して
嫉妬という感情を抱くことがなかった。そのことはそのへんの(私を含め)
何だかんだ言ってそれなりに快適に生きているくせに他人を羨み妬み憎む人間より
よっぽど立派だと感じる。けれど彼の抱える障害と無知と不器用さが
彼が幸せになることを許さなかった。
でも主人公にも(そんなこと考える余裕なんて微塵もなかっただろうことは
承知の上で)知っていてほしかったのは、楽しそうに笑ったりはしゃいだりしている
人間たちも、そのほとんどが何かしらの苦しみを抱えているのだということ。
まあこれは私もちょくちょく忘れがちで、幸せそうな人を見る度に
嫉妬したり傷付いてしまったりしますが。そして自分が幸せなときは
そんな自分をつらい思いをしている第三者が見ているかも知れないということも
忘れてしまったりしますが。
人間は本当に自分のことしか見えてないんだな、と、
読んでいる間は主人公の苦しみに「感染」してつらく、読後はその結論に行き着いて
哀しくなってしまった物語でした。
けれど一読に値します。決して明るい物語ではないけれど色々な立場の人に
読んでほしい作品です。
幼い頃から僕は人と上手く話せなかった。
僕はスナックを経営する母親と二人暮らしだった。
母親とも上手く話せない僕は、よく叱られた。いつもひとりで過ごしていた僕は、
中学生の頃からネットの中に居場所を見つけた。
大学まで行きたくて高校に上がったが、2ヶ月で辞めた。
スナックのお客の紹介で地元の縫製工場に就職した。その工場では、
僕が一生買うこともできないような高価な服を作っていた。
4年間勤めたが、小さな事件を起こして退職した。
僕は地元を逃げ出し、東京へ向かった。だがそれが、大きな転落の始まりだった。。。
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以前、新幹線で殺人を犯した青年のニュースを観たとき、
被害者が年輩の女性だったということについて、ネットの某掲示板で
「『誰でもよかった』とか言いながら、やっぱり弱者である女子供を狙うんだな」という
書き込みに対して、ある人が、
「楽しそうに旅行して友人と談笑しているその被害女性こそが、犯人の眼には社会的強者に
映ったんじゃないか?」
とコメントしていましたが、その言葉にとても納得がいって、今でも印象に残っている。
本作の主人公にとっても、そこは同じだったのではないかと思う。
無差別殺人を犯す人間にもそれなりの理由があるんだよ、と
月並み過ぎる言葉で纏めることは簡単だけど、やはり場合によっては
加害者の背景に眼を向けることも必要なことなのだと改めて思った。
自分が傷付けられたからといって他人を傷付けていいことにはならないけど、
そこまで追い詰められるほどの何があったのかということは知るべきだと。
とはいっても、人間自分が同じ立場にならないと相手の気持ちなんてわからない
ものだから真に理解するのは難しいとは思うけど。
本作の主人公は、これだけの境遇に身を置きながら、自分より恵まれた他者に対して
嫉妬という感情を抱くことがなかった。そのことはそのへんの(私を含め)
何だかんだ言ってそれなりに快適に生きているくせに他人を羨み妬み憎む人間より
よっぽど立派だと感じる。けれど彼の抱える障害と無知と不器用さが
彼が幸せになることを許さなかった。
でも主人公にも(そんなこと考える余裕なんて微塵もなかっただろうことは
承知の上で)知っていてほしかったのは、楽しそうに笑ったりはしゃいだりしている
人間たちも、そのほとんどが何かしらの苦しみを抱えているのだということ。
まあこれは私もちょくちょく忘れがちで、幸せそうな人を見る度に
嫉妬したり傷付いてしまったりしますが。そして自分が幸せなときは
そんな自分をつらい思いをしている第三者が見ているかも知れないということも
忘れてしまったりしますが。
人間は本当に自分のことしか見えてないんだな、と、
読んでいる間は主人公の苦しみに「感染」してつらく、読後はその結論に行き着いて
哀しくなってしまった物語でした。
けれど一読に値します。決して明るい物語ではないけれど色々な立場の人に
読んでほしい作品です。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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