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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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それでも、あなたは私の運命だった。



平成元年に生まれた男。平成15年に迷宮入りした教員一家惨殺事件。
平成が終わる直前に起きた男女殺人事件。
ひとつの時代の中でつながっていく真実。
児童虐待、貧困、外国人労働者。
格差社会の生んだ闇に迫る、クライムノベルの決定版!

***

平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に死んだひとりの青年の物語。
そんな書き出して始まる本作。
それだけで興味をそそられるのに加え、著者の葉真中さんは私が最近の小説家の中で
かなり高く評価している作家さんなので、かなり期待して読み始めました。
主人公・Blueに「誰か」が語りかける「For Blue」パートから惹き込まれ、
退屈することは一切なくあっという間に読み終えてしまった。

平成という時代を生きた人間なら誰しも記憶にあるだろう芸能・政治・自然災害、
そういったものがどんどん出てきて、「そうだ、平成というのはこんな時代だったな」
と懐かしむような、再確認するような、そんな気持ちで読み進んでいくうちに、
平成半ばに起きた一家殺害事件に物語は言及していく。
第一部の主人公である刑事が、聞き込みや自身の直感を通して事件の核心に
迫っていく過程、それによってどんどん明らかになっていく真実に、
ページを繰る手が止まらなかった。
Blueという人間の生き様も同時に浮き彫りにされ、物語が進むほどに
彼に惹かれていく自分を感じた。

一家殺害事件の真相が徐々に解き明かされていくストーリー運びは
確かにミステリなのだけど、本作は謎解きをメインに据えているわけではなく、
あくまでBlueという人間がいかに平成という時代を生きてきたかということが主軸の
物語なので、ミステリ的驚きを期待して読むのはあまりお勧めしない。
平成を舞台にしたひとりの青年の、いや、様々な人間の織り成す壮大なドラマとして
読むことをお勧めします。

最後の章「For Blue」を読んだときは切なさでしばらく身動きがとれないほど
だった。主人公に語りかける「誰か」が最後で明らかになる、という手法は
重松清さんの「疾走」を思わせる。
ただ、本作の場合、その「誰か」とBlueの絡みというか繋がりがほとんどないので、
もう少し彼ら二人のエピソードがあれば最終章がもっと感動的なものになったのに、
というのが唯一残念な点。
あと、著者のせいではありませんが、脱字がひどい。写植何やってるんだ。
いい作品が台無しだよ。
「生まれる」「産まれる」と漢字が統一されてないのは著者のミスかも知れませんが。

葉真中さんの著作は、デビュー作「ロスト・ケア」で今までにないものを書く
作家さんが出てきたぞと思い、「絶叫」でこの作家さんはすごいと唸ったのですが、
本作もそれらに負けないぐらい非常に良作だった。

とてもお勧めです。
本作を読んでいる間、心が満たされ、毎日が充実して感じられた。
いい物語がそばにあることの幸せを久しぶりに噛み締めることが出来た。
葉真中さん、素晴らしい作品をありがとうございます。
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「今から起こることは、全部おまえのせいだ」。
高校時代の同級生に復讐するため、高層ビルの展望室を占拠し、
多数決で殺す人質を決める“命の投票”を始めた男・伏見。
彼の計画は、一人の男の登場によって綻び始める……。
人それぞれの隠れた弱みを巧みに見抜き、利用し、業務をこなす義波と
復讐代行業者《援助者》。
だが、彼らにもある組織が忍び寄る――。
変幻自在にあなたを惑わす、衝撃のミステリ!

***

「GIVER」に続く、<復讐の贈与者>シリーズ第二弾です。

まずとにかく、本作の著者は文章表現がうまい。
文章が巧みというのはもちろんですが、登場人物の些細な仕草や表情まで、
どう書けば魅力的に読者に見えるのかということがとてもよくわかっている。
本作収録の「グラスタンク」では、主人公や作中に登場する少女の魅力が
すごいなもうこの作家さんは、と思わず唸ってしまうほど伝わってきて、また内容も
連作短編集であるこの作品の中ではずば抜けていて、読んでいて
「自分もこういうものを書けるようになれたらどんなにいいか」と
心底思った。そして「グラスタンク」を読んだことが原因で
作ってあった自分の短編のプロットがいかにしょうもないものであるかに
気付かされ、速攻ボツに。新しい短編のプロットを立て直したほどだった。
元々この「グラスタンク」という話は、「ザ・ベスト・ミステリーズ」という
アンソロジーに収録されていたものを読んでこのシリーズに興味が湧き、
今となってはこの作家さんにドはまりしている状態なので、日野草さんという
作家さんとこのシリーズの存在を教えてくれたそのアンソロジーには感謝したい。
ただ、本書収録の「スプリング・ブレイク」を読んだときは、
何が言いたいのかわからず、もやっとしたものが残りましたが(恐らくは
三作目「TAKER」の伏線として書かれた物語であるためなのでしょうが)。

明るい物語ではないですが、コテコテではないほどよいダークな世界観に、
日々に鬱屈を抱えていたり胸の裡に不満を溜め込んでいるような人が読めば
一種の悦楽を感じることが出来るのではないかと思う。
もちろん普通にエンタメとして読んでも面白いです。主人公の義波がとにかく
イカれてて格好いいので。

おすすめです。
次は前述のシリーズ最終作「TAKER」を読む予定なのですが、
このシリーズを読み終えるのがもったいなくてなかなか手が出せない。
この世界と主人公・義波とお別れしたくなさ過ぎて。


人生のすべてを祖母と母の介護に捧げてきた勝村瞳子は、四十歳目前にして
未来が見えない。妻の執拗なDVに悩む丹羽顕は、母に認知症の疑いがあることを知り、
愕然となる。心療内科で出会った2人は次第に心を通わせていく。だが。。。
「――妻を、殺してしまいました」「……すぐに行くから、待っていてください」
自首しようとする顕を止め、遺体を隠そうと言い出す瞳子。
果たして殺人の隠蔽は成功するのか?

***

毒舌レビューになります。

新年最初に読んだのが本作なのがとても悲しい。
そもそもデビュー作を読んだ時点で「この作者の本はもう読むのをやめよう」と
思っていたのに、何となくあらすじに惹かれて読んでしまったのが運の尽きだった。
もう面白いとか面白くないとかそういうことじゃなく、これを商業出版するのが
許せないレベル。そこまで思ったのは「ドミノ倒し」「スマホを落としただけなのに」
を読んだとき以来。

まず、主人公の女が心療内科に行く描写からしておかしい。
何で受付に白衣を着た人間がいる? 病院では看護師さんは受付をしないし、
受付には制服を着たその場所専門の人間がいるのに。
この作者病院行ったことないんじゃないか?
たかが病院に行く描写すら満足に出来ないことに、物書きとしてのこの作者への
不信感が芽生えた。
主人公の女と男がまったく何でもないことでお互いに「優しくしてもらった」とか
言ってるのも、「え? これって優しくしてもらったことになるの?」と首を捻り、
そんな基本的な描写さえも出来ないことでその不信感に拍車がかかった。
そして登場人物がどいつもこいつも不快な人間ばかりで、読んでいてイラつく。
特に主人公の男の虚言癖には腹が立つを通り越して脱力してしまった。
どうしてそこまで嘘を吐くのか意味がわからない。不眠じゃなく虚言癖の治療で
心療内科通ったほうがいいんじゃないかと思った。
その男が隠した死体をろくに下調べもせず山に埋めて、その山が土砂崩れにあって
やばい死体が見つかっちゃうとふたたび現場へ行き、埋めた死体があっさりと
見つかるシーンはもう何というか笑ってしまった。こんなご都合主義、漫画でも
そうそうお目にかからない。
だいたい主人公女はどうして自分に理不尽につらく当たる母親の言いなりに
なっているのかも理解出来ない。半身不随になる前は優しかった、とかいうなら
まだわかるけど、何? 毒親ほど子供は洗脳されて執着してしまうとでも?
母親の介護をすることに自分の存在意義を見出しているとでも?
それならそういう心理描写がないとわからない。行間を読めとでもいうんだろうか。
だとしたらあまりに横暴過ぎる。
そして作者が書きたかったテーマが何なのか最後まで読んでもわからない。
身内を介護することの過酷さを書きたいならまるでその描写が足りないし、
ミステリと呼ぶにはミステリに失礼過ぎる代物だし、
主人公二人の絆を書きたいならあまりにも薄っぺらだし。
薄っぺらと言えば、文章が薄っぺら過ぎてあっという間に読んでしまった(読むのに
時間がかかる作品だったらとっくに投げ出してる)。
先が気になるとか文章が(いい意味で)読みやすいとかじゃなく、
ぺらぺらだから簡単にページが捲れてしまう。
そして文体がダサくておばさん臭い。作者の経歴を見たらまだ三十代半ばなのに、
何でこんなに加齢臭がする文章が書けるのかある意味気になる。
あとデビュー作のときにも思ってたのだけど、短い台詞をいちいち改行するのは
本当にやめてほしい。長台詞の語る内容が変わるタイミングで改行する作家さんは
普通にいるけど、この作者の改行はそうする意味がわからない。絵本でも
こんな無駄に改行しないよ。

大好きなメフィスト賞受賞作の中で一番受賞に納得がいかない作家(本当は
「作家」とすら呼びたくない)だけど、それでもデビュー作はまだかろうじて読めた。
でも本作はあり得ない。これを買った人が「金返せ」って言ったら出版社は
返金するべきだと思う。

何も心に残らず、不快感と腹立たしさだけが残った。
この作者の作品は今度こそ一切読みません。
私の中の小説家ブラックリストに載ったので。
お前達も少しは僕の苦しみ、運命に感染するがいい。



幼い頃から僕は人と上手く話せなかった。
僕はスナックを経営する母親と二人暮らしだった。
母親とも上手く話せない僕は、よく叱られた。いつもひとりで過ごしていた僕は、
中学生の頃からネットの中に居場所を見つけた。
大学まで行きたくて高校に上がったが、2ヶ月で辞めた。
スナックのお客の紹介で地元の縫製工場に就職した。その工場では、
僕が一生買うこともできないような高価な服を作っていた。
4年間勤めたが、小さな事件を起こして退職した。
僕は地元を逃げ出し、東京へ向かった。だがそれが、大きな転落の始まりだった。。。

***

以前、新幹線で殺人を犯した青年のニュースを観たとき、
被害者が年輩の女性だったということについて、ネットの某掲示板で
「『誰でもよかった』とか言いながら、やっぱり弱者である女子供を狙うんだな」という
書き込みに対して、ある人が、
「楽しそうに旅行して友人と談笑しているその被害女性こそが、犯人の眼には社会的強者に
映ったんじゃないか?」
とコメントしていましたが、その言葉にとても納得がいって、今でも印象に残っている。
本作の主人公にとっても、そこは同じだったのではないかと思う。

無差別殺人を犯す人間にもそれなりの理由があるんだよ、と
月並み過ぎる言葉で纏めることは簡単だけど、やはり場合によっては
加害者の背景に眼を向けることも必要なことなのだと改めて思った。
自分が傷付けられたからといって他人を傷付けていいことにはならないけど、
そこまで追い詰められるほどの何があったのかということは知るべきだと。
とはいっても、人間自分が同じ立場にならないと相手の気持ちなんてわからない
ものだから真に理解するのは難しいとは思うけど。

本作の主人公は、これだけの境遇に身を置きながら、自分より恵まれた他者に対して
嫉妬という感情を抱くことがなかった。そのことはそのへんの(私を含め)
何だかんだ言ってそれなりに快適に生きているくせに他人を羨み妬み憎む人間より
よっぽど立派だと感じる。けれど彼の抱える障害と無知と不器用さが
彼が幸せになることを許さなかった。

でも主人公にも(そんなこと考える余裕なんて微塵もなかっただろうことは
承知の上で)知っていてほしかったのは、楽しそうに笑ったりはしゃいだりしている
人間たちも、そのほとんどが何かしらの苦しみを抱えているのだということ。
まあこれは私もちょくちょく忘れがちで、幸せそうな人を見る度に
嫉妬したり傷付いてしまったりしますが。そして自分が幸せなときは
そんな自分をつらい思いをしている第三者が見ているかも知れないということも
忘れてしまったりしますが。

人間は本当に自分のことしか見えてないんだな、と、
読んでいる間は主人公の苦しみに「感染」してつらく、読後はその結論に行き着いて
哀しくなってしまった物語でした。
けれど一読に値します。決して明るい物語ではないけれど色々な立場の人に
読んでほしい作品です。
「僕はいつも君を見てる。逃がさない」



彼が現れるとき、物語は180度表情を変える。
これは、ある秘密を抱えた復讐代行業者の、恐ろしくも切ない軌跡――。

雨の降り続く日、訪ねてきた女に俺は仰天する。
彼女は数時間前、俺に殺され、浴室で冷たくなっているはずだ――。
過去に負い目を抱えた人々に巧みに迫る、正体不明の復讐代行業者。
彼らはある「最終目的」を胸に、思いもよらない方法で標的の一番の弱みを利用し、
恨む人・恨まれる人を予想外の結末に導く。
人間の心を丸裸にする、6つの恐るべき復讐計画とは――。
再読必至の新感覚リベンジ・ミステリ!

***

だいぶ前に単行本で読んで、面白かったので再読してみたら、
文庫版では「復讐の贈与者」という副題が付いているんですね。
微妙にハリウッドのB級映画臭がして、内容はわかりやすいけどないほうが好きかも。

という余談はさておき、恨みを晴らしたい人から依頼を受けて
恨まれている相手を様々な方法で痛い目に遭わせる(時には命も奪う)
という裏社会の会社に所属する主人公の義波、格好いいです。
6章から始まり1章で終わるという時間軸が逆行した表現も、
「ああ、あのときのあの台詞、あの人は〇〇だったのか」と
はっとさせられ、趣向としては面白い(伊坂幸太郎さんも短編でやってますが)。
(まあ、時間軸を逆行させるという手法を使うほどの驚きが
最後に待ち構えているわけではないのですが)
 各話ごとに色々な人間に「復讐」をする義波ですが、
一話ずつ技巧が凝らされていて単なる復讐劇としてマンネリ化することなく
最後まで新鮮に読める。

ただ、サイコパス気質で「感情」というものがわからない冷酷で無機質な
人間、という設定の割に、変なところで(「復讐」のために必要な演技とかではなく)
簡単に動揺したりする描写が義波にあるのはどうかと。
若干キャラがブレてる印象を受けた。
最後にわかる復讐代行業者のボスの「何故この会社を起ち上げたのか」という
言い分も、わかるようなわからないような。
もうこの際義波にもボスにも徹底的に壊れてほしかった(まあそうすると
暗くなり過ぎて誰も読まなくなるかも知れませんが)。

もっと義波の「怖さ」や「狂気」みたいなものが描写されていれば
もっと評価上がるのにな。
文章表現が上手い作家さんですが、そういった点もより達者だったら
かなりのお気に入りになったと思う。今のままでも結構好きなだけに。
私の嫌いなほんわか日常系ミステリばかりの昨今、こういうシリアスな作品は
非常にありがたいので。
 
三部作なので次はシリーズ二作目の「BABEL」を読みます。
「ただいま」



両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、
アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。
なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。
それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、
線を描くことで次第に恢復していく。

***

私が購入した時点で四刷でした。
なかなか売れていて、あちこちで話題になっているみたいですね。
私は単にメフィスト賞受賞作だから、という理由で手に取ってみたのですが。。。

何だろう。
筆力も高いし、芸術に生きる人間の、いや、すべての人間の心に響く
とても深いことを「水墨画」をテーマに書いているのですが、
正直既視感が拭えなかった。

大切な人間を亡くし、その悲しみや不遇に耐えて生きている主人公が、
何かと出会い、その才能に開眼し、様々な人との出会いを経て、
つらさを乗り越えていく。
こういう流れってもう使い古されている気がして。
いや、王道なテーマなので別にいいのですが、王道でマンネリ化している
このテーマを、そんなこと気にならなくなるほどすごい、と絶賛するまでには
至らなかったというのが正直な感想です。

同じテーマなら、漫画ですが、
「3月のライオン」のほうがずっと言葉も胸に響くものがあって感動するし、
「この音とまれ!」「四月は君の嘘」のほうがずっと主人公たちが奏でる音が
聴こえてくるように思えるし、
「ガラスの仮面」のほうがずっと感情移入出来ると思うし。
漫画と小説を比べるのはナンセンスな気がしますが、私の中では本作は
それらの漫画を超さなかった。

というか、終盤で語られる、「人の幸福さえ自分の幸福のように感じる」という
境地にまで至らなければ傑作が生まれないのであれば、「他人の不幸は蜜の味」
的スタンスで生きている私のような性格の悪い人間には一生いいものは
生み出せないだろうなとへこんでしまった。

あと、本作と上記の漫画に共通して言えることですが、
芸術がどうのこうの言ってても結局一番大事なのは恋愛なんだなおまえら、
みたいなツッコミも禁じ得なかった。
本作ラストの、「君の笑顔が一番の贈り物」みたいな主人公の考えには
正直がっかりしました。おまえも何だかんだ言ってやっぱり一番は女か、と。
一度でいいから、恋愛が絡まなくてもひたすら自分の選んだ道に邁進する
主人公を見てみたいものです。
こういう王道系の話って、「大きなものを失った代わりにもっと大きなものと
大切な人を手に入れて幸せになりました」みたいなオチばかりなので。
(「四月は君の嘘」はヒロインがいなきゃ成立しない話だしちょっと王道とは
違うかもですが)

いい話だな、とは思ったけれど、感動するとまではいかなかった。
というか著者はどうしてこれをメフィスト賞に投稿しようと思ったんだろう?
小説すばる新人賞とかのほうが向いてる気がするのですが。
まあ別に受賞さえすれば何でもいいのかも知れませんが。

とごちゃごちゃ書きましたが、ひと言で言えば私にはあまり合いませんでした。
でもゴミ小説が乱発されている最近の文壇の中では良作だと思うので、
読んで損はないです。
バカなので無理です。



クワコーこと桑潟幸一准教授が、たらちね国際大学に転勤して最初の夏休み。
低偏差値大学の「受験生応援プログラム」というリクルート大作戦の一環として、
ティッシュ配りにあけくれていたクワコーへの、次なる指令は?
「ゆるキャラの恐怖」…大学対抗ゆるキャラコンテストに着ぐるみで出場せよ。
審査委員長はみうらじゅん、「おそろしき事がおこるぞよ」との脅迫状が届いて…。
「地下迷官の幻影」…セミの次はキノコだ!理想の食材を求めるクワコーは、
エロナマズ大王に恫喝され、学園に渦巻く権力闘争の暗流に巻き込まれる。
文壇のマエストロの脱力系ミステリー!

***

大好きなシリーズです。
真面目な文章で笑いをとってくる、ある意味夏目漱石の「坊ちゃん」的作風。
特に表題作「ゆるキャラの恐怖」には爆笑させてもらった。
強いて言えばユーモアミステリというジャンルに入るのでしょうが、
ミステリの要素はほんのり味つけ程度。それでも主人公・クワコーを初めとする
登場人物たちのキャラの濃さで存分に楽しむことが出来ます。
「地下迷宮の幻影」は表題作に比べてあまり面白くありませんでしたが、
タイトルが格好いいのにその意味するところがわかったときは
そのあまりのギャップに吹いた(そもそも「スタイリッシュな生活」という
副題が付いてるのに全然スタイリッシュじゃないところがいい意味ですごい)。
「インダギャイ」(意味は読めばわかります)には腹を抱えて笑った。
クワコーみたいな人間のことを「愛すべきバカ」というんでしょう。
セミとかザリガニ獲って食べちゃうし。それで食費浮かせてるし。
挙げ句毒キノコ食って病院送りになるし。
埼玉のザリガニについて熱く語って小学生に「サイタマン」とかあだ名付けられてるし。
もうほんと作者の奥泉さん、年に三冊ぐらいこのシリーズ出してくれないかな。

「駄目ぽ」とか「ヨロシコ」とか、出てくる大学生の言葉が古いにもほどがあるのが
ちょっと著者の年齢を感じさせますが、そこにさえ眼を瞑れば楽しめます。
シリーズ未読の方は是非一作目からどうぞ。


俺を殺した犯人は誰だ?
現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘――沙羅。
赤いマントをまとった美少女は、生き返りたいという人間の願いに応じて、
あるゲームを持ちかける。自分の命を奪った殺人犯を推理することができれば蘇り、
わからなければ地獄行き。犯人特定の鍵は、死ぬ直前の僅かな記憶と己の頭脳のみ。
生と死を賭けた霊界の推理ゲームが幕を開ける――。

***

タイトルとあらすじから、軽いノリのありがちな話だろ、と
ナメてかかってましたが。。。
面白かった。読み終えてしばらく経ちますが、どの話も未だに心に残っているぐらい。

殺された人間が、自分を殺した犯人とその方法を推理する時間が
「10分」と短いところも、物語がスピーディーに展開されるということに
ひと役買っている。
そしてどの話も押しつけがましくない温かさを持っている。
私的には、凍死する青年の話が一番印象深かった。
現在五作目まで続編が出ていますが、すべて図書館で借りてきてしまった。
読むのが楽しみです。

ただひとつ難を言うなら、本作、ただの短編集で「連作短編集」にはなっていないこと。
物語同士が繋がって最後にひとつに収斂し、大きな謎が明かされる。。。
そういう仕様になっていないことが本作を少し単調にしている。
シリーズ化しているのだから、「ビブリオ古書堂の事件手帳」とかみたいに
一巻ごとに伏線を張って最後に「そうだったのか!!」的なオチがどーん、
とかのほうが絶対に面白いと思うんですけどね。
それとも二巻以降はそういう展開になるんでしょうか。

何はともあれ、サクサク読めるしミステリ初心者の人にもおすすめです。


メフィスト賞史上最大の問題作!!

「絶賛」か「激怒」しかいらない。
これはすべてのミステリ読みへの挑戦状――。

私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。
けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで
飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。
決めた! 私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育て上げる!
そのためには……ねえ。

「推理って、別にいらなくない――?」。

NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、
本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!

***

ここんとこメフィスト賞らしい作品が受賞してないなあ、と思っていたら、
来ました。これぞ正にメフィスト賞受賞作。
「絶賛」か「激怒」しかいらない、と帯には書かれていましたが、
そのどちらでもなく、普通にメフィスト賞ならではの変化球を楽しませてもらいました。

ボケ(助手)とツッコミ(探偵)のやり取りがやや寒いのと、
一つのギャグがしつこいこと、表現がやや古い点(主人公がユウとアイ(YOU&I)
って。。。まあそれ以外にも「キターーー!!」とか色々あるのですが)を除けば、
要所要所でくすりとさせられ(助手が探偵をコケにしてるのも新しくていい)、
真相パートも「あー、そういう手で来たか」といい意味で裏切られ、
「探偵がごちゃごちゃ推理して真相を導き出すなんて今どき古いだろ」と
散々言っておきながらも、最終章では著者の本格ミステリへの愛が感じられ。
第三話の下ネタにはさすがに引きましたが、終始面白く読むことが出来た。

メフィスト賞受賞作には、自分の作品に入り込んでしまわず、
一歩引いた視点というか少し冷めた目線で「おまえら、こういうのもアリだと
思ってるんだろ?」みたいなスタンスで書かれた作品が紛れ込んでたりしますが
(深水黎一郎さんのデビュー作然り)、本作もその例に洩れず。
そういう作品を書ける作家さんというのは、本を大量に読んでおり、
筆力もある人である場合がほとんどなので、本作の作家さんもかなり書ける
人なんでしょう。

最終章の「読者への挑戦」も、真相が明かされたとき
「わかるわけねーだろ」と笑いながらツッコミを入れてしまいました。

本作は、小説家を目指す人が読んだらより楽しめるんじゃないかな。
ダブルクリップ云々のくだりは笑ってしまった。

メフィスト賞受賞作らしいものを読みたい人にはおすすめです。
逆に、普段ミステリを読まない人にはすすめません。
あと、東野圭吾さんの「名探偵の掟」が好きな人にもすすめたい。
本格ミステリをいい意味で茶化してる部分が共通しているので。


元警察官の辰司が、隅田川で死んだ。
当初は事故と思われたが、側頭部に殴られた痕がみつかった。
真面目で正義感溢れる辰司が、なぜ殺されたのか?
息子の亮輔と幼馴染みで刑事の賢剛は、死の謎を追い、
賢剛の父・智士の自殺とのつながりを疑うが…。
隅田川で死んだふたり。そして、時代を揺るがした未解決誘拐事件の真相とは?
辰司と智士、亮輔と賢剛、男たちの「絆」と「葛藤」を描く、
儚くも哀しい、衝撃の長編ミステリー!

***

「ドミノ倒し」で作者の才能も倒れたと思って以来、
警戒してその著書を読むようになった作家さん。
今回こそはと期待したのですが。。。やっぱり才能枯れちゃったのかな、というのが
正直な感想です。

まず、過去パートの登場人物たちが事件を起こそうと思った動機が弱すぎる。
「そこまで親しくなかった」とかいう描写が頻発するほど関係性が希薄なのに、
何故その人の敵を討つためにこんな犯罪に手を染めようと思ったのか納得がいかない。
ものすごく親しい人間が命を落としたというならまだわかるんだけど。
バブルという時代がその当時を生きる地元の人間たちを死に追いやったという
ことに対する怒りも、主人公たちからまったく伝わってこない。
犯行グループの女に至っては、グループに入った理由が
「好きな人がグループにいるから一緒にいたかった」だし。バカ女丸出し。
誘拐した子供が死んだ理由もとってつけたようで「は? そんな理由で死んだの?」と
呆気に取られた。ここはもっと衝撃的な別の理由にしたほうがよかった。
大体、子供を相手にする職業に就いている人間なら、子供にアレルギーがないかどうか
確認するのが普通なのにそれもしないのがおかしい。
私は子供相手の仕事をしているけど、お菓子をあげるときは必ず
「アレルギーない?」と確認するので。
その時代はアレルギーの知識があまりなかったとか作中ではフォロー入れてるけど、
繰り返しになりますが子供相手の仕事で「知りませんでした」は通用しない。
加えて、自分たちの友人を死に向かわせた会社に対する復讐のために
動いているはずなのに、奪った身代金はちゃっかり山分けしようとしているのが
不快だった。
それ以前に、どうして自分たちが誘拐という犯罪に手を染めたのか
先方に言わなきゃ何も伝わらないだろうにと頭の中に疑問符浮かびまくり。

そして現在パートの主人公のひとり、亮輔の父親が殺された理由ですが。。。
何それ? それが真相? という感じ。
賢剛の父親が自殺した理由ですら「は? 何で自殺すんの?」という感じなのに、
亮輔の父親の死因がそれだとは。。。
そして犯人の動機もショボすぎる。慕ってる人が亮輔の父親のせいで死んだから
悔しくて殺したとか言ってるけど、犯人がその人を慕ってる描写が
後半中の後半になってちょろっと出てくるだけなので、感情移入もクソもない。
もっと最初から「慕ってる」描写なりエピソードなりを入れておけば
少しは違ったかも知れないのに。
というかそうだとしても逆恨みもいいとこ。
大体亮輔の父親も、自分の死の原因を他人に押し付けるなよと。

タイトルである「罪と祈り」も、書かれていることは「罪」がほとんどで、
「祈り」は最後のページにちょろっと出てくるだけ。タイトル意味なし。

もうこの作者に「慟哭」「乱反射」みたいな傑作を書くことは無理なんだろうか。
好きな作家さんだっただけに残念です。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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