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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ふしぎ、大好きなのにいつか逃げ出せる日を夢見てる。



チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた
美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。
成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。

***


小説って間を置いて読み返してみると、ぜんぜん違った読み取り方ができるんだよなー。。。
発売当初に本作を読んだときは、主人公の夕子の生き様に対して(そしてそれを書いた
著者の綿矢さんに対しても)あまりに浅はかで薄っぺらだという印象しか受けなかったのに、
再読すると夕子の精神が植物のように悲鳴もあげず誰にも気づかれずにゆっくり、ゆっくりと
崩壊していく過程が痛いほどに伝わってきて読んでいて苦しくなった。
よしもとばななさんの〝アムリタ〟にも幼少時から芸能界入りして少しずつ壊れていく
人物が登場するけど、その人物がふいに死んでしまうシーンを思い出してやるせなくなった。

造花の観葉植物をそうとは気づかず「元気をもらった」と言ってしまうほどに蝕まれた夕子。
〝夢〟を大勢の他人に〝与える〟ほどに、自分自身の夢が削り取られていっていることに
気づかないところまで追い詰められてしまった夕子。
激流に流されそうなギリギリの状態なのに必死にそのことに気づかない振りをして微笑み、
それでもその手のひらだけは今にも千切れそうなワラをしっかりと掴んで離さない夕子。
飲み込まれるのは時間の問題。

でも夕子には一縷の希望がある。
その〝希望〟と再会することで、もう一度彼女が本来の心を取り戻すよう願ってやまない。
激流の中から救い出されることを願ってやまない。
〝アムリタ〟の彼女と同じ運命を、夕子が辿らずに済むように祈りたい。

それにしても今回みたいに〝物語〟を前面に押し出すような作風より、
綿矢さんなりの感性やセンスを主体に置いた〝インストール〟〝蹴りたい背中〟のほうが
レベルが高い感は否めなかったな。
でも彼女もまだまだ若いし、これからどんな風に作風が変化していくのかを
ファンとして見守り続けるのもまた楽しみでもあります。
(顔のほうは変化させないでほしかったけど。。。元のままで十分可愛いのに。。。(TT))
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「だが、本物だ」



インチキ催眠術師の前に現れた不気味な女性。突然大声で笑い出しては、
自分は宇宙人だと叫ぶ彼女が見せる予知能力は話題となり、
日本中のメディアが殺到した。その頃、二億円もの横領事件の捜査線上には、
ある女性が浮かび上がっていた。
臨床心理士・嵯峨敏也が超常現象の裏を暴き巨大な陰謀に迫る松岡ワールドの原点。

***

うーん。。。
多重人格系の話なら〝ISOLA〟(貴志祐介)とか〝39〟(永井泰宇)のほうが
よっぽど面白かったなあ。。。
本作は心理学をテーマに扱っている割に精神病理についての説明があまりにもアバウトというか
いい加減というか。。。これがけっこう昔の作品だということを差し引いて考えても、
これは統合失調症や解離性同一性障害(いわゆる多重人格)という病気に対して
読み手に間違った解釈を与えかねない小説のような気がする。
ミステリとしても冗長で、やたら長い割りにはありきたりな結末だったし。
ただ、〝催眠〟というものに対して抱いていた私の偏見(というか思い違い)を
修正してくれたことには感謝。恥ずかしながら催眠ってものは、よくテレビでやってる類の
うさんくさいものだと思っていたので。
(でも実際〝催眠療法〟と銘打っている病院にもヤブなはかなりあるので
受診する人はよく下調べをしてから治療を受けるのが賢明です)

で、最後に言いたいのは。。。
あとがきで解説を書いていた某氏が「そんなことは突っ込むだけ野暮だ」と書いてはいたけど、
敢えて突っ込ませてもらう。

こんな臨床心理士いねえよ!


一人の人間にここまでいちいち時間割いて心砕いてたら(しかも無料で)身がもたんわ。
まあ私自身が今カウンセリングを受けている身なのでやっかみも多少ありますが。。。

因みに蛇足ですが〝統合失調症〟〝解離性同一性障害〟等の精神病について
正しい知識を得たい人には〝症例A〟(多島斗志之)がおすすめ。
かなりリアルに精神病理の実情が書かれており、小説としても面白いです。
「あたりまえですよ。俺は……ミュージシャンですから」



唐島英治クインテットの面々が遭遇した不思議な出来事や謎。
テナーサックス奏者・永見緋太郎の鮮やかな名推理は――。
ライヴ感溢れる文体が魅力の“日常の謎”的ジャズミステリシリーズ、第二弾。
名古屋のライヴハウスに現れたという伝説のブルースマンにまつわる謎、
九州地方の島で唐島と永見が出合った風変わりな音楽とのセッションの顛末、
“密室”から忽然と消失したグランドピアノの行方、など七編を収録。
田中啓文おすすめのジャズレコード、CD情報付。

★収録作品★

 苦い水
 酸っぱい酒
 甘い土
 辛い飴
 塩っぱい球
 渋い夢
 淡白な毒

***

あまりに好きで、図書館で借りてきたものを読んだ直後に購入してしまった
↓の続編となる音楽ミステリ。



音楽ミステリ作家を志す者として音楽をテーマにした様々な小説を読み漁ってきた
私ではありますが、初めて〝落下する緑〟に出会ったときには、大きな衝撃を感じると共に
「うわーこんなものを書く人が先達にいるんじゃ自分が音楽ミステリ作家として大成するのは
難しいなあ。。。」
と焦りを感じた記憶があります。

文体も非常にテンポがよくて読みやすく、登場人物も全員一癖ありつつも
魅力溢れる人物ばかり。特に探偵役の天才サックスプレイヤー・永見には、
一時期本気で惚れていた時期もあったほど。
それだけ著者の生み出すキャラが見事に立っているんだよなー。
たぶん永見は男性から見ても友人になりたいタイプなんじゃないかな。
それか直接的には関わりたくないけど遠くから見守っていたいような笑。

収録されている短編も、それぞれに音楽ミステリならではのトリックが仕掛けられていて
読むたびに「うおー音楽をそうトリックに使ってくるかあ!」とうならされます。

シリーズ二作目になる本作は、一作目に比べてやや永見のキャラが弱いことと、
彼と狂言回しの唐島との掛け合いがあまり面白くなかったことが少し残念でしたが、
一話一話のクオリティは相変わらず保たれていて最後までとても楽しく読めた。
特に表題作〝辛い飴〟は、現実にはあり得ないことだろうとわかってはいても
思わず鳥肌が立ってしまいました。

でもやっぱり何より本シリーズの一番すごいところは、読んでいると
サックスやピアノ、トランペットの音が実際に聴こえてくるその表現力&臨場感。
まさに〝読む音楽〟です、これは。

ちなみに蛇足ですが、本作のある短編のトリックが
今自分が考えているものと若干かぶっていてやばい。。。と焦り中。
尊敬する作家と考えがかぶったというのは栄誉だけどでもそれじゃあなあ。。。
。。。ま、いっか。自分は自分だし偶然だし。

とにかくおすすめのシリーズ。
是非是非是非、読んでみてください。
私を見ないで。



東京でカメラマンとして活躍する弟。
実家に残り、家業と父親の世話に明け暮れる兄。
対照的な兄弟。だがふたりは互いを尊敬していた。あの事件が起こるまでは…。
2006年7月公開映画を、監督自らが小説化。

***

様々な人の証言から意外な真相が導き出されていく――
〝愚行録〟(貫井徳朗)や〝Q&A〟(恩田陸)っぽい構成の小説です。
ただ、映画のノベライズであるせいか、上記二作と比べると、文章や構成がうまい割りに
小説と呼ぶにはどこか薄っぺらであっけない印象を受けた。
けれど、その後の展開を敢えて書かず読み手の想像に委ねるラストシーンには
感動と心地よい焦燥感がこみ上げてきて、思わず主人公二人のために祈ってしまった。
〝ハイドラ〟(金原ひとみ)のラストでも感じたけど、こういう
「え、結局どっちに転ぶの?!」というところで終わってしまう話というのが
切なくてスリリングで自分的にはすごく好きです。

おすすめですが、でもやっぱりこれはまずは映画を観るべきかもな、と思う。
今度借りてくる予定です。



◆後日談◆



映画観ました(10/14)。
オダギリジョーの演技が微妙だったことをのぞけば、終始淡々とはしているものの
良質な映画だった。
ラストの兄弟を隔てる道路が〝川〟を暗示しているようで、そこに橋がかかるかどうか
思わず息をつめて見守ってしまうのはやはり〝映像〟ならではの効果。
でもラストシーンの緊張感と余韻は小説のほうが好きかな。
映画はその後〝兄〟がどうするかなんとなく予測できてしまう感じだったし。
でも全体的には映画のほうがよかった。
「私もよく考えるんです――
苦しみと引き替えの才能と、安らかな凡庸と、どちらが幸せなのかと」




華々しい経歴を持ちながら、訳あって自分の絵筆がとれない洋画家の本庄敦史は、
師の勧めにより知的障害者更生施設「ユーカリ園」でアートワークグループの指導を
することになった。
初めて訪れた「ユーカリ園」の園庭で敦史は、妖精のように美しくあどけない、22歳の
河合真理亜と出会う。真理亜は少女時代に崖から転落、頭部を打った後遺症による
精神発達遅滞のため「ユーカリ園」で暮らしていた。
敦史に絵画の指導を受け始めた真理亜は、たちまち驚異的な画才を発揮する。
真理亜は、後遺症と引き替えに、高度な直観像記憶・カメラアイを獲得していたのだ。
真理亜の絵は、瞬く間に評判となるが、あるとき彼女が描いた一枚の絵が、
真理亜と敦史の運命を激しく変えていく。
その絵こそ、時効を目前に控えた虐殺事件の「目撃証言」だった。

芸術によって結ばれた至高の純愛。
欲望と悪意と謀略が支配する世界に生まれた、あまりにも儚い無垢な心を
過酷な運命が翻弄する。
真理亜は、深い記憶の底から追ってくる恐怖の刃から逃れ、
聖なる未来へと辿り着けるのか。

日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作家が、
圧倒的なリアリティと壮大なスケールで描きだす現代の『神曲』。
今、新たなる伝説が始まる──

***

主な感想としては、〝四日間の奇跡〟(浅倉卓弥)とかなり似てるよなあ、ということ。
知的障害&トラウマを持ちつつも天才的な芸術の才能を宿した少女と、それを世話する
心の傷&罪悪感を抱えた、かつては天才と呼ばれたが今はもうそのころの栄華を
完全に手放してしまっている男、そんな二人が主役だというところもそうだし、
文章はむちゃくちゃうまいんだけどあまりに整いすぎていて教科書を読んでいるような
気にさせられる文体も共通してる。
あとは〝異様に長い〟。ここまでページ数割かなくても。。。ってほど長い。
そのせいでちょっと中だるみしてしまっていたように思えた。

そして〝四日間~〟のほうがあくまでファンタジーに徹していたのに対して、
本作はポエティックな描写が延々続いたかと思えば突如福井晴敏ばりのアクションが
炸裂するシーンがあったりして、物語の空気感が分裂してしまっている気がした。

主人公が絵を描けなくなった理由というのも予想より陳腐だし、
作中のある登場人物の恋心がラストではご都合主義的になかったことになってるし、
悪役が全然悪役らしくなくて(というかステロタイプすぎて)、主人公たちが
危機に瀕するシーンもまったく手に汗握れなかった(ただし〝一矢〟という悪役の狂気っぷりは
ハンパじゃなくてうっかりホレそうになった。一本キレてるキャラが好きなんだよ私は。。。)。

でもなんだかんだ書いたものの、私的には〝四日間~〟よりも本作のほうが
何倍も面白かったですけどね。500P近くの長編ですがおすすめです。

個人的に本作を読んで思ったのは、「私もハイパーグラフィア(病名)に罹りたい。。。」。
スランプに陥っている身としては^^;
あの病気はあれはあれでつらいに決まってるんですが。

因みに〝四日間の奇跡〟や本作のような物語が好きな人には、
このマンガ↓もおすすめです。コンセプトが似てるし、中学のときに読んで以来
大人になった今でも好きでよく読み返しているので。

 

歌が、始まる。



誰にでもその人だけの歌(ストーリー)がある――

恋人に、友達に、きっと伝えたくなる7つのやさしい物語。
『東京バンドワゴン』の著者が描く珠玉の短編集!

★収録作品★

 クラプトンの涙
 左側のボーカリスト
 唇に愛を
 バラードを
 笑うライオン
 その夜に歌う
 明日を笑え

***

著者の既刊に〝歌〟がやたらタイトルやモチーフに出てくるものが多いので
たぶん音楽好きな作家さんなんだろうなとは思ってましたが、ついに
音楽だけをテーマにした短編集を出してきましたねー。
歌をやっている私としては嬉しい限り。

全体的にちょっとクサめですが(そして文体が甘くてやわらかい感じなので
どちらかというと小説というより童話っぽいですが)なかなかの良作でした。
〝クラプトンの涙〟はほどよくミステリ要素が入っていてラストであっと驚かされるし、
〝左側のボーカリスト〟も登場人物二人の運命的な絆の深さにじんとさせられる。

多少ネタやオチがかぶっている話があったり、〝バラードを〟のように
「それはちょっと無理があるだろ」的な話も中にはあるし(ネタばれにならない程度にいうと、
もしこの話が現実にあったら、書かれる曲はバラードではなくレクイエム、あるいはもっと
絶望的な旋律になるはず)、クサすぎて思わず失笑してしまった話も(すいません性格歪んでて)
いくつか収録されていますが、読んで決して損はしないはず。

それにしても、作中のある登場人物が奏でる曲のタイトルに
〝HEART BEAT〟(小路氏の既刊)が使われていたのには
氏の遊び心を感じてファンとして嬉しかったなー。

おすすめの一冊です。
ただ細かい難をいえば、氏の作品って語尾が「~なんだ。」「~だったんだ。」が多くて
しかもその使い方が不自然なので、そこさえ直してくれればなーと読むたび毎回思ってしまう。
「大好きだから、そうしたのよ」



善悪ってなに? 何を基準に誰が決めるの?
医学部合格の太鼓判を押されている桂木涼子が始めた「悪魔の実験」。それは、
最愛の母親に劇薬タリウムを飲ませることだった…。
『ポンツーン』連載を加筆・修正し単行本化。

***

面白いといえば面白いんだけど、
実際にあった事件に多少の色づけをして書いているだけ、という点では
著者の力量を素直に認めづらい作品ではある(〝東京タワー〟(リリー・フランキー)や
〝フラッシュバック〟(永井泰宇)と同じような)。
それにやっぱり実話となるとさすがに面白いと思っている自分に嫌気がさして
どうにものめりこみづらいんだよな。。。(じゃあ読むなよという話ですが)

ヒロインが猟奇的行動に走るに至った理由や経緯も、とりあえず作中で
説明されてはいるもののどこか輪郭がぼんやりしていて掴みづらいし、
彼女が何度も声高に叫ぶ〝主張〟も、ありがちな上にちょっと宗教がかっていて
賛同しにくかった(って賛同しちゃまずいんだけど)。
しかもところどころに、彼女は統合失調症を発症しているのではと匂わせる描写があり、
一体ヒロインは独自の論理に基づいて冷静に行動しているのか、それとも病が彼女に
そうさせているのか、最後までよくわからなかった。
最後といえば、オチの会話ベタすぎて冷めた。

決してつまらなくはないんだけど。。。
おすすめはしづらい作品です、いろんな意味で。
〝ミステリ〟ってジャンルにおいては、実話を基にした話なんて
読むもんじゃないなと思い知らされた一冊だった。
「俺は恋をしたんだ」
「それは犯罪っていうんだ」




女房の尻にしかれ、毎日の小遣い500円でカツカツの生活を送る須賀啓一、50歳。
彼が通勤電車の中でみかけた美しい女子高生に恋をする。
人生の半ばを過ぎながらも、生まれて初めてとも言える恋に燃えた啓一は、
女子高生を陰ながら支える守護天使になることを決意する。
その一方的、盲目的、騎士道的な恋は成就なるのか?
ネットブログの書き込みから変質者に誘拐されてしまった女子高生を
彼は救うことができるのか?
笑いとペーソスに満ちた、爆笑ハートフルラブストーリー!

***

 〝空中ブランコ〟(奥田英朗)・〝神さまからひと言〟(荻原浩)以来だなあ。。。
小説を読んでここまで爆笑したのは。
もうほんと、うだつのあがらない主人公・啓一のやることなすこと裏目に出っぷりと
彼と登場人物たちとの絡みが、本作がデビュー作の新人作家が書いたとは思えないほど
面白いので、絶対に他人がいる場所では読まないほうがいいです。たぶん恥かきます。

それにしても著者の上村氏のこの筆力・表現力・構成力。。。言われなきゃ到底新人だなんて
信じられない。本作が大賞を射止めた〝日本ラブストーリー大賞〟はプロも応募可能な賞であり、
作者も経歴を見る限りもちろんまったくの素人ではないみたいですが、それにしてもすごい。
次の作品がとても楽しみな作家さんです。

冒頭から主人公がぶちかます数々のバカエピソードが実は重大な伏線になっており、
それがラストで一気に一つに収束する様も爽快&圧巻。
「伏線を読者に気づかれたくなければそれらを笑いの中に紛れ込ませればいい」と
外国の某有名ミステリ作家が言っていましたが、ほんとそうだなあと
こんなところで実感することになってしまった。

本大賞受賞作は映画化するそうなので、絶対に観に行きたいところです。

一人の作家を別の作家と比較して語るのは失礼かとも思いますが、
荻原浩氏や金城一紀氏の作品とテイストが似ているので、彼らのファンには特におすすめの
一冊です。

僕の命も、
君の命も、
すべてがここにある。
ここにあった。



永遠の命を持ち、戦い続ける子供たちキルドレ。
戦闘機乗りのクリタは、上司クサナギの幼馴染によって、
彼女が今や、キルドレでなくなっていると知らされるが……
大好評シリーズ急展開!

***

シリーズ最終章〝クレィドゥ・ザ・スカイ〟への橋渡しともいうべき第四作。
本作ではある一つの重大な秘密が明かされますが、それ以外は淡々と、
とりたてた起承転結もなく物語は進んでいきます。
唯一印象深かったのは、本作の語り部であるクリタにとっての〝花束〟という
ファクターが、最後の最後でその意味を変えるシーン。
そして人間的感情というものをほとんど持っていないかに見えるクリタが、
〝愛情〟とは何かについて、彼なりの答えを導き出すくだり。
月並みな表現ですが、ああやはりキルドレも一人の人間なのだなと。
そしてそれに気づくためにはやはり常人と同じように第三者への特別な感情が必要なのだなと
痛感させられた作品でした。

最終章を読むのが心から楽しみでもあり、
「もう次で終わりなのか。。。」と寂しい気持ちでもあります。
あともう少しこのシリーズの世界観に浸っていたかった。
思ってたよりずっとこの物語に惹かれていたんだな、私は。
それでいいだろう。
他に、何を、どうすればよかった?




いわゆる女たらし系の「おれ」は、いろんな女性をナンパしつつ、
一人の恋人に出会ってここで「死のう」と思う…。
現代文学版「100万回生きたねこ」。第46回群像新人文学賞受賞作。

***

。。。駄目だ冷静な感想が思い浮かばない。
なんで?
なんで?
なんでここまで痛々しいほどに切ないラブストーリーが書ける?
主人公の男の最愛の女性は作中に一度も出てこないのに。
その見えない透明な存在が、ギリギリ胸と涙腺を締め付けてくるのはなんで?
たくさんの女と寝てばかりの主人公が(性格だってちゃらんぽらんで
美徳や魅力なんていったものは少しも感じられないこの男が)
この世で一番誠実な人間に見えてくるのはなんで?

主人公がある一人の女に向けた愛情があまりに本物であまりに純度が高すぎて、
感動したり涙することすら憚られた。むしろその崇高さに畏怖の念さえ感じた。怖かった。
彼の〝彼女〟に対する心理描写なんて一行も出てこないのに、
彼の思いの強さだけはもういいよってほど伝わってくる、この不思議な物語は一体なんだ?

〝彼女〟についての描写は、メール文のみで構成された17章だけ。
それ以外の〝彼女〟にまつわることには、主人公は口を閉ざしすべて隠してしまっている。
この世界の誰もからかばうように、触れさせないように。
〝彼女〟の描写がない、というのはつまりはそういうことなんだろう。

ほかのその他大勢の女性とは違って、唯一主人公に「君」と呼びかけられる〝彼女〟。
三人称ではなく二人称で。
私もそんな風に心で呼びかけてくれる人と出会いたいなと正直心底思ってしまった。
今まで読んだ(or映画で観た)どんなものよりも憧れる物語だ。
今まで出会った中で最高のラブストーリーだった。
〝彼女〟になりたい。
〝彼女〟が羨ましい。
本作を読んで泣けるとしたらその思いからくる悔しさと妬ましさだけだ。


↑ちなみにこれが知る人ぞ知る〝100万回生きたねこ〟。
読んだのだいぶ子供のころなのに未だに憶えてるんだよなあ。。。
それにしても私の好きになる純文作家はどうして愛知の人が多いんだろう。。。どうでもいいけど
プロフィール
HN:
kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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