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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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そのうち殺してやるから。

 

熊の置物を赤い紐で引いて立っていた少女アリス。信用金庫に勤める由記子と出会うが、
「わたしのこと、おぼえていて」と言い残して死んでしまう…。
大人の理不尽な行為により絶望した少年・少女たちを描く5つの短編、衝撃の結末。
新感覚ホラー・ミステリー。

★収録作品★

 不思議じゃない国のアリス
 青い月
 飛行熱
 空中庭園
 銃器のアマリリ
 旅をする人

***

かの乙一氏が本書を評して曰く、

少年少女はバスにゆられてどこへ連れて行かれるのでしょうか。
自分では運転できない年頃なので、大人の運転に身をゆだねるしかないのでしょうか。
ところでこの本、バスの運転手が沙藤一樹でなければ、きっと旅は快適だったでしょうに。



ホラー小説というのはどこかしらファンタジーな雰囲気が漂うものですが、
沙藤氏の書く物語は、非日常的な世界観の向こうにおそろしくリアルな〝現実〟がくっきりと
垣間見えてしまう。それも救いようのないほど絶望的な。
〝現実離れしたホラー〟
というより、
〝ただでさえ過酷な現実にホラーのスパイスまで振りかけてみました〟
といったような。

基本、精神的にこたえるドロンドロンの話ばかりですが、
だからこそその中に砂粒並みにささやかに添えられている〝希望〟の要素が
もう輝いて見える見える。
延々闇の中にいたところにふいに100Wの懐中電灯かざされたようなものです。
心拍数上昇します。瞳孔開いて涙も出ます。
慣れるのに少し時間がかかりますが、一度慣れればすごく快適。
沙藤氏の小説はそんな感じ(まあ慣れたころにはまた暗闇に突き落とされるんですが)。


物語ごとの大まかなレビュー。

◆不思議じゃない国のアリス◆

痛い、としか言いようがない。
生理的不快さとやるせなさが読後一気に押し寄せてくる。
〝クドリャフカ〟についての知識があればよりいっそう深く読めるかも。
(というわけでフラッシュ置いておきます。涙腺弱い人は注意)
 クドリャフカ

◆青い月◆

色覚異常により青い色しか見えない少年。
そんな彼が一人の少女に出会い、会話を重ねるうちに彼女が憎むべき存在であることを知るが。。。
という物語ですが、私にはどうしてもこの話は二人のラブストーリーに思えた。
歪みに歪んだ恋愛感情ってこんな感じなんじゃないでしょうか。
少年がラストシーンで少女に向かって吐く台詞も、あれは絶対一種の愛の告白です(いや、別に
私の恋愛嗜好が偏ってるわけじゃ断じてないよ)。

◆飛行熱◆

ラストが驚愕。いろんな意味で。
これは下手に感想を言うとネタバレになりかねないので、先入観なしでとにかく読んでみてください。

◆空中庭園◆

角田光代さんのあれじゃないですよ(って言ってもわかる人にしかわからないかξ)。
オンラインゲームが舞台の物語。
これが一番ミステリ色が強い。私には一番面白く読めた。
ゲーム上の話なのに現実よりよっぽど現実っぽいのは、仮想世界で匿名の皮を被ることによって
人間の感情や行為が理性で繕わないむき出しのものになるからでしょう。
でも〝励ましの代わりに回復呪文〟みたいなバーチャルならではのスタンスはいい感じで好きです。
(蛇足ですが、私は昔友人にメールで〝メラ〟を唱えられたことがあります(ドラクエのあれ)。
炎系の最弱呪文でやっつけられるほどの雑魚だと思われてるのかと一瞬切なくなりましたが、
本人曰く冬なのであっためてくれたそうです。まあ嬉しかったです)。

◆銃器のアマリリ◆

この世はクソだ人間もクソだ俺がこの世界で一番偉いそれ以外はバカばっかりだ
どいつもこいつもまともに付き合う価値なんてない世界も人間もみんなまとめて滅びればいい
死ね死ねみんな死ね何もかも息絶えろ俺のことも誰か殺してくれこの先生きてたって
何一ついいことなんてありはしないこんなクソつまらない絶望と怨恨の日々を送るぐらいなら
いっそ今一思いに死んでしまいたいもう嫌だ何もかもが嫌だ助けてくれいや俺を助けられるほどの
存在なんて神ぐらいしかいないこの現実世界にはただ一人も存在しないだからもういい
殺してくれ死んでくれ俺もお前らもみんなみんなみんなうわあああああああああああ

とか思いつめまくってる人でも、こんなにも些細なことであっけなく救われたりする。
だから悩むだけ損なんだよ。
という物語。
人間なんて意外と単純なものです。
まあだからこそ生きてられるんですが。

◆旅をする人◆

著者のエッセイのような、わずか4Pの物語。
短いぶん読み手の想像力が広がります。
ちょっと寂しく、でも爽快感の残る掌編。まさに〝旅〟です。



不思議じゃない国のアリス。
まだ現実社会への適応能力を持たない子供たちにとっては、〝不思議じゃない国〟のほうが
よっぽど恐ろしく、生きるのに困難な世界なんだろうな。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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