昂ぶりすぎた感情は時に愉快な見世物なのだ。
車がほしかった結城理久彦。「滞って」いた須和名祥子。
オカネが欲しいふたりは、高給の怪しげな実験モニターに応募した。
こうして12人が集まり、館の地階に7日間、閉じ込められることに。
究極の殺人ゲームが始まる…。
***
ジ・インサイト・ミル。
訳すなら〝挑発する風車〟とでもいったところでしょうか。
正に風車のような形の得体の知れない建物の地階で、ろくに互いの素性も知らない
アルバイトモニター12人が巻き起こす殺人&推理劇。
英語をローマ字読みしたタイトルは
〝スカイ・クロラ(Sky Crowler)〟〝ナ・バ・テア(None But Air)〟等の
著作を持つ森博嗣を彷彿とさせるものがありますが(ちなみに私の大学時代の先輩は、
ラルクアンシエルの〝Dive to blue〟を〝大仏ブルー〟と呼んでいました笑)、
中身はまんま貴志祐介氏の〝クリムゾンの迷宮〟。
ただあちらがホラーを主軸に据えて書かれたものだったのに対し、本作はむしろ
オーソドックスといっていいほど正統な〝本格推理〟(まあ、〝高額アルバイト〟の謳い文句に
釣られて来てみたら殺戮ゲームの被験者だった、というのは十分にホラーではありますが)。
アンフェアな展開もないので、純粋に犯人当てを楽しみながら読み進めることができます。
まあただ、彼ら被験者たちに課されたルールが、ちょっと著者に都合がよすぎる部分もあるかな。
夜間は館内をロボットが巡回して参加者たちが自室を離れないよう監視するという決まり
なのですが、巡回するのはあくまで廊下。
〝もし一つの部屋に二人以上いたらスタンガンで撃っちゃうよ〟というルールもあるにはあっても、
気をつけてこそこそ動き回っていればいくらでも監視の眼をかいくぐれる、
まるでFF7の神羅ビル潜入時みたいな(オタクな例えすいません。最近やったもので)温い状況で、
たとえこっそり誰かの部屋に忍び込んだところで、ロボットにはわかりようもないはず。
なのに誰もそれをやらないことに違和感。
各個室に備え付けられたジャグジーはなぜサウナ並みの高温に設定されているのか?
館内のどこかにあると言われている外への隠し通路の在り処は?
といった謎も、比較的早い段階で察しがついてしまうのも少し物足りなかった。
あとは。。。(文句みたいな感想ばかりですみませんが)著者・米澤穂信氏の〝文体〟と
扱っているテーマとのミスマッチ。これをかなり感じた。
氏の著作は割と読んだことがあるほうですが、どこかとぼけた少年(や青年)が「僕は~」と
一人称で語る、独特ではあるけれど全体にほのぼのした氏の作風にあって、本作の雰囲気は
どこか浮き立っていた感じがした。温かみある筆致のせいで緊張感が保たれない、というか。
加えてみんながみんな、「あんたたちこんな状況下でそこまでのん気なのはいくらなんでも
平和ボケしすぎじゃないか?」と突っ込みたくなるほど詰めが甘い。
危ないに決まっていることを平気でやらかす。もしくはそれを回避するための行動を怠る。
ここまで危機感のない登場人物を見たのは〝シャトゥーン〟以来。
キャラにどこか抜けたところがないと話が進まない、というのはあるけど、
抜けすぎていると物語の展開よりそのふがいなさのほうが気になってしまう。
そして一番その傾向が顕著なのが主人公。
本格推理の探偵役は得てして滑稽なほどにのん気で(刑事コロンボしかり、古畑しかり)、
でもそれでも許せるのは彼らがいわゆる〝天才〟だから。
彼らの能力がクライマックスでフル発揮されるのがわかっているからこそ、
何をしても笑って見ていられる。
むしろバカをやればやるほど、後の推理シーンが引き立つ。
けれど本作の探偵役・結城はごくごく平凡な大学生。
そんな彼が緊張感の欠片もない言動に走るたび、読んでいて苛つくこともしばしば。
というか彼は終始一貫して人格が安定していなかった気がする。
やけに繊細かと思えば初対面の相手を「お前」呼ばわり。妙にお人よしかと思えば
ちょっと的を射た推理を披露してみせたぐらいで「俺以外はみんなバカだ」と有頂天。
まあある意味典型的な今の若者像ではあるのですが、純文学ならまだしも
エンターテインメント小説でまでそんな魅力のない人間見たくありません。
内容自体はとても面白いので一気に読むことができましたが、主人公に魅力があれば
もっと本作の評価も上がっただろうにな、といったところです。
彼以外の登場人物たちはそれぞれに個性もあり、人間くさい部分も魅力も
十分に兼ね備えているので、惜しいなと思う。
ラストで描かれるそれぞれの末路は〝(疑心)暗鬼館〟内での出来事より
ある意味インパクト強いです。
おそらく読み手の想像力が掻き立てられるせいでしょうが。
本作を楽しめた人は、東野圭吾氏の〝ある閉ざされた雪の山荘で〟もおすすめ。
クローズドサークルものを踏襲したクローズドサークルもの、という設定が同じです。
ってあー今気づいたけどこの小説、同人ゲームのキラークイーンにかなり似てるんだ!!
設定も出てくる人間のキャラも相当近い。
著者、もしかしてプレイしたことあるのかも。。。(これ知ってる私も軽くやばいけど)
車がほしかった結城理久彦。「滞って」いた須和名祥子。
オカネが欲しいふたりは、高給の怪しげな実験モニターに応募した。
こうして12人が集まり、館の地階に7日間、閉じ込められることに。
究極の殺人ゲームが始まる…。
***
ジ・インサイト・ミル。
訳すなら〝挑発する風車〟とでもいったところでしょうか。
正に風車のような形の得体の知れない建物の地階で、ろくに互いの素性も知らない
アルバイトモニター12人が巻き起こす殺人&推理劇。
英語をローマ字読みしたタイトルは
〝スカイ・クロラ(Sky Crowler)〟〝ナ・バ・テア(None But Air)〟等の
著作を持つ森博嗣を彷彿とさせるものがありますが(ちなみに私の大学時代の先輩は、
ラルクアンシエルの〝Dive to blue〟を〝大仏ブルー〟と呼んでいました笑)、
中身はまんま貴志祐介氏の〝クリムゾンの迷宮〟。
ただあちらがホラーを主軸に据えて書かれたものだったのに対し、本作はむしろ
オーソドックスといっていいほど正統な〝本格推理〟(まあ、〝高額アルバイト〟の謳い文句に
釣られて来てみたら殺戮ゲームの被験者だった、というのは十分にホラーではありますが)。
アンフェアな展開もないので、純粋に犯人当てを楽しみながら読み進めることができます。
まあただ、彼ら被験者たちに課されたルールが、ちょっと著者に都合がよすぎる部分もあるかな。
夜間は館内をロボットが巡回して参加者たちが自室を離れないよう監視するという決まり
なのですが、巡回するのはあくまで廊下。
〝もし一つの部屋に二人以上いたらスタンガンで撃っちゃうよ〟というルールもあるにはあっても、
気をつけてこそこそ動き回っていればいくらでも監視の眼をかいくぐれる、
まるでFF7の神羅ビル潜入時みたいな(オタクな例えすいません。最近やったもので)温い状況で、
たとえこっそり誰かの部屋に忍び込んだところで、ロボットにはわかりようもないはず。
なのに誰もそれをやらないことに違和感。
各個室に備え付けられたジャグジーはなぜサウナ並みの高温に設定されているのか?
館内のどこかにあると言われている外への隠し通路の在り処は?
といった謎も、比較的早い段階で察しがついてしまうのも少し物足りなかった。
あとは。。。(文句みたいな感想ばかりですみませんが)著者・米澤穂信氏の〝文体〟と
扱っているテーマとのミスマッチ。これをかなり感じた。
氏の著作は割と読んだことがあるほうですが、どこかとぼけた少年(や青年)が「僕は~」と
一人称で語る、独特ではあるけれど全体にほのぼのした氏の作風にあって、本作の雰囲気は
どこか浮き立っていた感じがした。温かみある筆致のせいで緊張感が保たれない、というか。
加えてみんながみんな、「あんたたちこんな状況下でそこまでのん気なのはいくらなんでも
平和ボケしすぎじゃないか?」と突っ込みたくなるほど詰めが甘い。
危ないに決まっていることを平気でやらかす。もしくはそれを回避するための行動を怠る。
ここまで危機感のない登場人物を見たのは〝シャトゥーン〟以来。
キャラにどこか抜けたところがないと話が進まない、というのはあるけど、
抜けすぎていると物語の展開よりそのふがいなさのほうが気になってしまう。
そして一番その傾向が顕著なのが主人公。
本格推理の探偵役は得てして滑稽なほどにのん気で(刑事コロンボしかり、古畑しかり)、
でもそれでも許せるのは彼らがいわゆる〝天才〟だから。
彼らの能力がクライマックスでフル発揮されるのがわかっているからこそ、
何をしても笑って見ていられる。
むしろバカをやればやるほど、後の推理シーンが引き立つ。
けれど本作の探偵役・結城はごくごく平凡な大学生。
そんな彼が緊張感の欠片もない言動に走るたび、読んでいて苛つくこともしばしば。
というか彼は終始一貫して人格が安定していなかった気がする。
やけに繊細かと思えば初対面の相手を「お前」呼ばわり。妙にお人よしかと思えば
ちょっと的を射た推理を披露してみせたぐらいで「俺以外はみんなバカだ」と有頂天。
まあある意味典型的な今の若者像ではあるのですが、純文学ならまだしも
エンターテインメント小説でまでそんな魅力のない人間見たくありません。
内容自体はとても面白いので一気に読むことができましたが、主人公に魅力があれば
もっと本作の評価も上がっただろうにな、といったところです。
彼以外の登場人物たちはそれぞれに個性もあり、人間くさい部分も魅力も
十分に兼ね備えているので、惜しいなと思う。
ラストで描かれるそれぞれの末路は〝(疑心)暗鬼館〟内での出来事より
ある意味インパクト強いです。
おそらく読み手の想像力が掻き立てられるせいでしょうが。
本作を楽しめた人は、東野圭吾氏の〝ある閉ざされた雪の山荘で〟もおすすめ。
クローズドサークルものを踏襲したクローズドサークルもの、という設定が同じです。
ってあー今気づいたけどこの小説、同人ゲームのキラークイーンにかなり似てるんだ!!
設定も出てくる人間のキャラも相当近い。
著者、もしかしてプレイしたことあるのかも。。。(これ知ってる私も軽くやばいけど)
PR
この記事へのコメント
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
カレンダー
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |
アーカイブ
フリーエリア
最新コメント
[11/21 LaraGonzalez]
[02/24 kovo]
[02/24 稀乃]
[01/10 kovo]
[01/10 ゆうこ]
最新トラックバック
最新記事
(02/13)
(01/15)
(01/07)
(12/26)
(12/17)
ブログ内検索
最古記事
(09/14)
(09/14)
(09/15)
(09/25)
(09/29)