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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「でも、死んだんでしょう?」
「ここにいない、というだけだ」

 

僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。
その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう――。
近未来を舞台に、戦闘機パイロットである「僕」の日常を描き、「死とは」の問いに挑む。 

***

いわゆる〝セカイ系〟小説。

わかっているのは主人公がパイロットで、空の上で人を殺すことを生業としている、ということだけ。
彼の属する組織がどういった性質のものか、その組織はいったい何と戦っているのか、
また戦わざるを得ないような世界情勢とはどんなものなのか――そういう一切が描かれておらず、
読み手はそのすべてを自分の想像力で補うしかない。
〝エヴァンゲリオン〟しかり、〝最終兵器彼女〟しかり、この手の手法を使った物語は
ひどく切ないものが多いですが、本作の全体を支配するのも、一見無機質な中にばらまかれた
〝悲しみ〟。

誰も泣かない。
誰も怒らない。
負の感情なんておくびにもださず、気取りすぎとも言える洒脱な会話を交わしながら、
ただ淡々と日々を送っている。
なのにこの物語の登場人物たちからは、やるせないほどの悲しみが伝わってくる。
あえて伏せられた世界観と同じ、彼らの感情も表だって伝わってこないからこそ、
読み手の中で切ない想像が否応なく膨らんでしまう。

終盤で明かされる主人公の〝秘密(キルドレ)〟はSFなんかではありがちだし、
感情が昂ぶった際の主人公のモノローグにやたら改行が入るのも
強調し過ぎで違和感があったけど、全体に良作だと思う。

真理に触れそうで触れない位置でふわふわと漂っているばかりの、一見中身のない
薄っぺらい描写も、
飛行機の腹が水面に触れて起こる水しぶきはごくたまに読み手にかかるからこそ
インパクトが強いのであって
絶え間なくしぶきを浴び続けていたら読み手はずぶぬれの自分の衣服に重さと不快感を感じて
去っていってしまう、ということを分かってやっているのだとすれば、なかなかにレベルが高い。

純文学と比べてしまうとやはり文章は拙い印象があるけど、
思わずどきっとしてしまう表現にも何度か出会った。

本作の見せ場とも言うべきクライマックスの〝殺害〟シーンでは、
成されていることが殺人であるにも関わらず
殺した側と殺された側の間に第三者は容易に立ち入れないほどの〝愛情〟と〝絆〟を感じ、
人間にはこういう関わり合い方もあるのか、と感動すると同時にひどく羨ましくもなった。

押井守氏監督で映画化されるそうです。
願わくばタレントとかじゃなく本物の声優を起用して良質なものを創り上げてほしいな。

ほどよくファンタジー、ほどよくリアル。
それがこの〝スカイ・クロラ〟シリーズ。
現実から離れたい、でも完全に離れてしまうと読み終えたときの揺り返しが怖い。
そんな人におすすめです。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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