愛されている。
生きるということは、透明魔人をたくさん生み出していくことなのだ。
空飛ぶ一家と家族の交換。
額に書かれた自分の名前。
バットでボコボコ僕のプリウス。
学校襲撃絶対ノンノン!!
夢と嘘と優しさと愛と憎しみと悲しみと平和と暴力。
どうして目に見えないものばかりが世界に満ちているのだろう?
21世紀型作家による5つの世界創造。
★収録作品★
みんな元気。
Dead for Good
我が家のトトロ
矢を止める五羽の梔鳥
スクールアタック・シンドローム
***
舞城氏にしては何だかパっとしないなあ。。。というのが正直な感想。
これまでは、作中でどんなに破天荒なことをやらかしていても
その根底には読者に対するサービス精神(といっても、よくある
『どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ』みたいなへりくだったものじゃなく、
『おうおまえら、俺は好き勝手やるけどまあおまえらもせいぜい楽しんでいけよ。
じゃあなあばよ』的な)があったのに、今回はもうほんと
〝自分の、自分による、自分のための小説〟
みたいな感じだった。
著者読み手のこと完全に無視というか。
人の夢(寝て見る方のね)日記を覗き見た感覚に近い、というか。
どうにも荒唐無稽すぎて、読んでいて置いてきぼり感が。
表題作〝みんな元気。〟の恋愛+ファンタジーな世界観は
氏の以前の著作〝阿修羅ガール〟にかなり近い。
と、いうよりほぼその焼き直し(〝阿修羅~〟にも〝透明魔人〟ならぬ〝グルグル魔人〟が
登場するし。けれど本作ではその魔人がいてもいなくてもいいほど存在意義が希薄かつ無意味。
「舞城氏、どんだけ魔人って設定が好きなんだ?」とこれまたどうでもいい感想が湧いただけ)。
玄関チャイムやキャラの笑い声を独特の擬音で表現するのも、
初めて見たときはすごく斬新だったけど何度も繰り返されると鼻につく。
「これ著者が実際交わしたものをそのまま書いてるんじゃないの?」というほどリアルな
登場人物同士の会話も、あまりにダラダラ続けられると
「そのへんははしょっていいから早く話を進めてよ」と思ってしまう。
その他表題作に関しても、小説というよりは論文を読んでいるようで、舞城氏が〝物語〟ではなく
単に自分の主張をそのまま書いただけ、という印象を受けた。
登場人物も、これまでの著作に登場する
〝まともでもいい奴でもないけどどこか一本芯が通っていて愛せる〟キャラから一転、
不快なだけの人物が多いし(自分的には特に〝我が家のトトロ〟の
主人公の奥さんが好きになれなかった。
むしろ〝普通に考えたら絶対におかしい(しかもそれが人を傷つける)ことを一片の疑念もなく
堂々とポリシーとして掲げにっこり微笑む〟という彼女のキャラに
恐怖すら感じる始末←友人にそういう人がいるせいかもしれませんが)。
唯一よかったのは〝スクールアタック・シンドローム〟。
これだけは舞城氏本領発揮。
登場する父子むっちゃ格好いい&親子愛すてき。
(出版社もわかっているのかこれは本作とは別に文庫本が出てます↓)
読んで十分満足いったのはこれだけ。
でもどの作品も〝人に読ませるための物語〟の体をあまり成していない、というだけで
(いやそれが問題なんだよ、という意見はさておき)、読後何も得るものがないわけでは
もちろんないので(〝みんな元気。〟のラストは感動だし)、読むならやっぱり
本作を読んでみてほしいな。
やっぱり舞城氏は好きなので次回作に期待します。
ちなみに文庫版には〝トトロ〟と〝スクール〟収録されてないのでご注意。
生きるということは、透明魔人をたくさん生み出していくことなのだ。
空飛ぶ一家と家族の交換。
額に書かれた自分の名前。
バットでボコボコ僕のプリウス。
学校襲撃絶対ノンノン!!
夢と嘘と優しさと愛と憎しみと悲しみと平和と暴力。
どうして目に見えないものばかりが世界に満ちているのだろう?
21世紀型作家による5つの世界創造。
★収録作品★
みんな元気。
Dead for Good
我が家のトトロ
矢を止める五羽の梔鳥
スクールアタック・シンドローム
***
舞城氏にしては何だかパっとしないなあ。。。というのが正直な感想。
これまでは、作中でどんなに破天荒なことをやらかしていても
その根底には読者に対するサービス精神(といっても、よくある
『どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ』みたいなへりくだったものじゃなく、
『おうおまえら、俺は好き勝手やるけどまあおまえらもせいぜい楽しんでいけよ。
じゃあなあばよ』的な)があったのに、今回はもうほんと
〝自分の、自分による、自分のための小説〟
みたいな感じだった。
著者読み手のこと完全に無視というか。
人の夢(寝て見る方のね)日記を覗き見た感覚に近い、というか。
どうにも荒唐無稽すぎて、読んでいて置いてきぼり感が。
表題作〝みんな元気。〟の恋愛+ファンタジーな世界観は
氏の以前の著作〝阿修羅ガール〟にかなり近い。
と、いうよりほぼその焼き直し(〝阿修羅~〟にも〝透明魔人〟ならぬ〝グルグル魔人〟が
登場するし。けれど本作ではその魔人がいてもいなくてもいいほど存在意義が希薄かつ無意味。
「舞城氏、どんだけ魔人って設定が好きなんだ?」とこれまたどうでもいい感想が湧いただけ)。
玄関チャイムやキャラの笑い声を独特の擬音で表現するのも、
初めて見たときはすごく斬新だったけど何度も繰り返されると鼻につく。
「これ著者が実際交わしたものをそのまま書いてるんじゃないの?」というほどリアルな
登場人物同士の会話も、あまりにダラダラ続けられると
「そのへんははしょっていいから早く話を進めてよ」と思ってしまう。
その他表題作に関しても、小説というよりは論文を読んでいるようで、舞城氏が〝物語〟ではなく
単に自分の主張をそのまま書いただけ、という印象を受けた。
登場人物も、これまでの著作に登場する
〝まともでもいい奴でもないけどどこか一本芯が通っていて愛せる〟キャラから一転、
不快なだけの人物が多いし(自分的には特に〝我が家のトトロ〟の
主人公の奥さんが好きになれなかった。
むしろ〝普通に考えたら絶対におかしい(しかもそれが人を傷つける)ことを一片の疑念もなく
堂々とポリシーとして掲げにっこり微笑む〟という彼女のキャラに
恐怖すら感じる始末←友人にそういう人がいるせいかもしれませんが)。
唯一よかったのは〝スクールアタック・シンドローム〟。
これだけは舞城氏本領発揮。
登場する父子むっちゃ格好いい&親子愛すてき。
(出版社もわかっているのかこれは本作とは別に文庫本が出てます↓)
読んで十分満足いったのはこれだけ。
でもどの作品も〝人に読ませるための物語〟の体をあまり成していない、というだけで
(いやそれが問題なんだよ、という意見はさておき)、読後何も得るものがないわけでは
もちろんないので(〝みんな元気。〟のラストは感動だし)、読むならやっぱり
本作を読んでみてほしいな。
やっぱり舞城氏は好きなので次回作に期待します。
ちなみに文庫版には〝トトロ〟と〝スクール〟収録されてないのでご注意。
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覚悟しておけ。
精神科医・南川藍子の前にあらわれた三人の男たちは、それぞれが脳に「傷」を持っていた。
試合中、突然マスコットガールに襲いかかり、殺人未遂で起訴されたプロ野球選手。
制服姿の女性ばかりを次々に惨殺していく連続殺人犯。
そして、事件捜査時の負傷がもとで、大脳に障害を負った刑事。
やがて、藍子のもとに黒い影が迫り始める――。
人間の脳にひそむ闇を大胆に抉り出す、傑作長編ミステリ。
***
過去にドラマ化されてるんですね。知らなかった。
20年前(本書は88年発刊)の時点で精神病・脳障害というテーマをここまで描き切れる
著者の技量にはただただ感服。
現代では普通に使われている医学用語(〝性同一性障害〟etc.)が
本作中にはまだ存在しない等、やはり時代を感じる部分はあるものの、
徹底した取材に基づいたリアルな描写、テンポのよいストーリー展開に惹き込まれ、
一晩で一気に読みきってしまいました。
ただ惜しむらくは、作中で同時進行する複数の事件が、最後までほとんど絡まないこと。
一般にミステリやサスペンスでは、平行して進んでいた事柄が
終盤でねじり飴(変なたとえですいません)のように収束し一つの驚くべき真実を導き出す、
というのがパターンであり醍醐味であるわけですが、本作はラストまでほぼ平行線。
クライマックスで明かされる主人公のある重大な秘密も、
それがその他の事件と絡んでいればもっと面白かったのにな、と少し残念。
読んでいて違和感もいくつか。
一つは作中に登場する女性たちが総じて性欲過剰なこと。
まるで思春期の少年のように終始発情しっぱなしで、「女にしてはこれはなあ。。。」と苦笑。
一つは主人公である女医が、精神科医の割にそっち方面の知識が乏しい。
エイリアンハンド症候群ぐらい、医者である以上知ってなきゃ不自然。
さらに〝鏡〟や〝ボール〟に(病気の故に)てんかん発作並みの拒絶反応を起こす恋人を、
バッティング設備や鏡の迷路がある遊園地に連れていき挙げ句そのアトラクションをやらせ、
案の定恋人がパニックを起こしている最中にある人物に襲われ、
(当然ながら)恋人が助けてくれなければ「ここまで使えないとは思わなかった」って。。。
精神科医どころか恋人として、いや人として失格だってこれじゃ。
「女であることに違和感がある。ずっと男になりたかった」と語気荒く言う割には、
その片鱗があまり窺えずそれどころか平均より〝女性〟が強い印象だし。
上記の点にはやはり「著者が男だからなあ」という感想は否めなかった。
そして何より「そりゃないだろ」と言いたいのは、プロローグで登場する謎の人物Xが口にしたものと
まったく同じ台詞を吐く人物Aがおり、「お、口癖が同じ。じゃあX=Aだな」と確信していたら、
結局何の関係もないただの他人だった点。
伏線かと思うじゃん!(どうやら単に著者の言い回しがかぶっただけのようです)。
なので読むときは皆さんくれぐれも騙されないでください。
それ以外の伏線はさすがミステリ界の大御所、完璧過ぎてうならせてもらいましたけどね。。。
大脳生理学や心理学に興味のある人はもちろん(作中に登場する人間の脳&心理にまつわる
うんちくにはかなり驚かされます)、サイコホラー好きの人にもおすすめ。
精神科医・南川藍子の前にあらわれた三人の男たちは、それぞれが脳に「傷」を持っていた。
試合中、突然マスコットガールに襲いかかり、殺人未遂で起訴されたプロ野球選手。
制服姿の女性ばかりを次々に惨殺していく連続殺人犯。
そして、事件捜査時の負傷がもとで、大脳に障害を負った刑事。
やがて、藍子のもとに黒い影が迫り始める――。
人間の脳にひそむ闇を大胆に抉り出す、傑作長編ミステリ。
***
過去にドラマ化されてるんですね。知らなかった。
20年前(本書は88年発刊)の時点で精神病・脳障害というテーマをここまで描き切れる
著者の技量にはただただ感服。
現代では普通に使われている医学用語(〝性同一性障害〟etc.)が
本作中にはまだ存在しない等、やはり時代を感じる部分はあるものの、
徹底した取材に基づいたリアルな描写、テンポのよいストーリー展開に惹き込まれ、
一晩で一気に読みきってしまいました。
ただ惜しむらくは、作中で同時進行する複数の事件が、最後までほとんど絡まないこと。
一般にミステリやサスペンスでは、平行して進んでいた事柄が
終盤でねじり飴(変なたとえですいません)のように収束し一つの驚くべき真実を導き出す、
というのがパターンであり醍醐味であるわけですが、本作はラストまでほぼ平行線。
クライマックスで明かされる主人公のある重大な秘密も、
それがその他の事件と絡んでいればもっと面白かったのにな、と少し残念。
読んでいて違和感もいくつか。
一つは作中に登場する女性たちが総じて性欲過剰なこと。
まるで思春期の少年のように終始発情しっぱなしで、「女にしてはこれはなあ。。。」と苦笑。
一つは主人公である女医が、精神科医の割にそっち方面の知識が乏しい。
エイリアンハンド症候群ぐらい、医者である以上知ってなきゃ不自然。
さらに〝鏡〟や〝ボール〟に(病気の故に)てんかん発作並みの拒絶反応を起こす恋人を、
バッティング設備や鏡の迷路がある遊園地に連れていき挙げ句そのアトラクションをやらせ、
案の定恋人がパニックを起こしている最中にある人物に襲われ、
(当然ながら)恋人が助けてくれなければ「ここまで使えないとは思わなかった」って。。。
精神科医どころか恋人として、いや人として失格だってこれじゃ。
「女であることに違和感がある。ずっと男になりたかった」と語気荒く言う割には、
その片鱗があまり窺えずそれどころか平均より〝女性〟が強い印象だし。
上記の点にはやはり「著者が男だからなあ」という感想は否めなかった。
そして何より「そりゃないだろ」と言いたいのは、プロローグで登場する謎の人物Xが口にしたものと
まったく同じ台詞を吐く人物Aがおり、「お、口癖が同じ。じゃあX=Aだな」と確信していたら、
結局何の関係もないただの他人だった点。
伏線かと思うじゃん!(どうやら単に著者の言い回しがかぶっただけのようです)。
なので読むときは皆さんくれぐれも騙されないでください。
それ以外の伏線はさすがミステリ界の大御所、完璧過ぎてうならせてもらいましたけどね。。。
大脳生理学や心理学に興味のある人はもちろん(作中に登場する人間の脳&心理にまつわる
うんちくにはかなり驚かされます)、サイコホラー好きの人にもおすすめ。
「でも、死んだんでしょう?」
「ここにいない、というだけだ」
僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。
その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう――。
近未来を舞台に、戦闘機パイロットである「僕」の日常を描き、「死とは」の問いに挑む。
***
いわゆる〝セカイ系〟小説。
わかっているのは主人公がパイロットで、空の上で人を殺すことを生業としている、ということだけ。
彼の属する組織がどういった性質のものか、その組織はいったい何と戦っているのか、
また戦わざるを得ないような世界情勢とはどんなものなのか――そういう一切が描かれておらず、
読み手はそのすべてを自分の想像力で補うしかない。
〝エヴァンゲリオン〟しかり、〝最終兵器彼女〟しかり、この手の手法を使った物語は
ひどく切ないものが多いですが、本作の全体を支配するのも、一見無機質な中にばらまかれた
〝悲しみ〟。
誰も泣かない。
誰も怒らない。
負の感情なんておくびにもださず、気取りすぎとも言える洒脱な会話を交わしながら、
ただ淡々と日々を送っている。
なのにこの物語の登場人物たちからは、やるせないほどの悲しみが伝わってくる。
あえて伏せられた世界観と同じ、彼らの感情も表だって伝わってこないからこそ、
読み手の中で切ない想像が否応なく膨らんでしまう。
終盤で明かされる主人公の〝秘密(キルドレ)〟はSFなんかではありがちだし、
感情が昂ぶった際の主人公のモノローグにやたら改行が入るのも
強調し過ぎで違和感があったけど、全体に良作だと思う。
真理に触れそうで触れない位置でふわふわと漂っているばかりの、一見中身のない
薄っぺらい描写も、
飛行機の腹が水面に触れて起こる水しぶきはごくたまに読み手にかかるからこそ
インパクトが強いのであって
絶え間なくしぶきを浴び続けていたら読み手はずぶぬれの自分の衣服に重さと不快感を感じて
去っていってしまう、ということを分かってやっているのだとすれば、なかなかにレベルが高い。
純文学と比べてしまうとやはり文章は拙い印象があるけど、
思わずどきっとしてしまう表現にも何度か出会った。
本作の見せ場とも言うべきクライマックスの〝殺害〟シーンでは、
成されていることが殺人であるにも関わらず
殺した側と殺された側の間に第三者は容易に立ち入れないほどの〝愛情〟と〝絆〟を感じ、
人間にはこういう関わり合い方もあるのか、と感動すると同時にひどく羨ましくもなった。
押井守氏監督で映画化されるそうです。
願わくばタレントとかじゃなく本物の声優を起用して良質なものを創り上げてほしいな。
ほどよくファンタジー、ほどよくリアル。
それがこの〝スカイ・クロラ〟シリーズ。
現実から離れたい、でも完全に離れてしまうと読み終えたときの揺り返しが怖い。
そんな人におすすめです。
「ここにいない、というだけだ」
僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。
その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう――。
近未来を舞台に、戦闘機パイロットである「僕」の日常を描き、「死とは」の問いに挑む。
***
いわゆる〝セカイ系〟小説。
わかっているのは主人公がパイロットで、空の上で人を殺すことを生業としている、ということだけ。
彼の属する組織がどういった性質のものか、その組織はいったい何と戦っているのか、
また戦わざるを得ないような世界情勢とはどんなものなのか――そういう一切が描かれておらず、
読み手はそのすべてを自分の想像力で補うしかない。
〝エヴァンゲリオン〟しかり、〝最終兵器彼女〟しかり、この手の手法を使った物語は
ひどく切ないものが多いですが、本作の全体を支配するのも、一見無機質な中にばらまかれた
〝悲しみ〟。
誰も泣かない。
誰も怒らない。
負の感情なんておくびにもださず、気取りすぎとも言える洒脱な会話を交わしながら、
ただ淡々と日々を送っている。
なのにこの物語の登場人物たちからは、やるせないほどの悲しみが伝わってくる。
あえて伏せられた世界観と同じ、彼らの感情も表だって伝わってこないからこそ、
読み手の中で切ない想像が否応なく膨らんでしまう。
終盤で明かされる主人公の〝秘密(キルドレ)〟はSFなんかではありがちだし、
感情が昂ぶった際の主人公のモノローグにやたら改行が入るのも
強調し過ぎで違和感があったけど、全体に良作だと思う。
真理に触れそうで触れない位置でふわふわと漂っているばかりの、一見中身のない
薄っぺらい描写も、
飛行機の腹が水面に触れて起こる水しぶきはごくたまに読み手にかかるからこそ
インパクトが強いのであって
絶え間なくしぶきを浴び続けていたら読み手はずぶぬれの自分の衣服に重さと不快感を感じて
去っていってしまう、ということを分かってやっているのだとすれば、なかなかにレベルが高い。
純文学と比べてしまうとやはり文章は拙い印象があるけど、
思わずどきっとしてしまう表現にも何度か出会った。
本作の見せ場とも言うべきクライマックスの〝殺害〟シーンでは、
成されていることが殺人であるにも関わらず
殺した側と殺された側の間に第三者は容易に立ち入れないほどの〝愛情〟と〝絆〟を感じ、
人間にはこういう関わり合い方もあるのか、と感動すると同時にひどく羨ましくもなった。
押井守氏監督で映画化されるそうです。
願わくばタレントとかじゃなく本物の声優を起用して良質なものを創り上げてほしいな。
ほどよくファンタジー、ほどよくリアル。
それがこの〝スカイ・クロラ〟シリーズ。
現実から離れたい、でも完全に離れてしまうと読み終えたときの揺り返しが怖い。
そんな人におすすめです。
昂ぶりすぎた感情は時に愉快な見世物なのだ。
車がほしかった結城理久彦。「滞って」いた須和名祥子。
オカネが欲しいふたりは、高給の怪しげな実験モニターに応募した。
こうして12人が集まり、館の地階に7日間、閉じ込められることに。
究極の殺人ゲームが始まる…。
***
ジ・インサイト・ミル。
訳すなら〝挑発する風車〟とでもいったところでしょうか。
正に風車のような形の得体の知れない建物の地階で、ろくに互いの素性も知らない
アルバイトモニター12人が巻き起こす殺人&推理劇。
英語をローマ字読みしたタイトルは
〝スカイ・クロラ(Sky Crowler)〟〝ナ・バ・テア(None But Air)〟等の
著作を持つ森博嗣を彷彿とさせるものがありますが(ちなみに私の大学時代の先輩は、
ラルクアンシエルの〝Dive to blue〟を〝大仏ブルー〟と呼んでいました笑)、
中身はまんま貴志祐介氏の〝クリムゾンの迷宮〟。
ただあちらがホラーを主軸に据えて書かれたものだったのに対し、本作はむしろ
オーソドックスといっていいほど正統な〝本格推理〟(まあ、〝高額アルバイト〟の謳い文句に
釣られて来てみたら殺戮ゲームの被験者だった、というのは十分にホラーではありますが)。
アンフェアな展開もないので、純粋に犯人当てを楽しみながら読み進めることができます。
まあただ、彼ら被験者たちに課されたルールが、ちょっと著者に都合がよすぎる部分もあるかな。
夜間は館内をロボットが巡回して参加者たちが自室を離れないよう監視するという決まり
なのですが、巡回するのはあくまで廊下。
〝もし一つの部屋に二人以上いたらスタンガンで撃っちゃうよ〟というルールもあるにはあっても、
気をつけてこそこそ動き回っていればいくらでも監視の眼をかいくぐれる、
まるでFF7の神羅ビル潜入時みたいな(オタクな例えすいません。最近やったもので)温い状況で、
たとえこっそり誰かの部屋に忍び込んだところで、ロボットにはわかりようもないはず。
なのに誰もそれをやらないことに違和感。
各個室に備え付けられたジャグジーはなぜサウナ並みの高温に設定されているのか?
館内のどこかにあると言われている外への隠し通路の在り処は?
といった謎も、比較的早い段階で察しがついてしまうのも少し物足りなかった。
あとは。。。(文句みたいな感想ばかりですみませんが)著者・米澤穂信氏の〝文体〟と
扱っているテーマとのミスマッチ。これをかなり感じた。
氏の著作は割と読んだことがあるほうですが、どこかとぼけた少年(や青年)が「僕は~」と
一人称で語る、独特ではあるけれど全体にほのぼのした氏の作風にあって、本作の雰囲気は
どこか浮き立っていた感じがした。温かみある筆致のせいで緊張感が保たれない、というか。
加えてみんながみんな、「あんたたちこんな状況下でそこまでのん気なのはいくらなんでも
平和ボケしすぎじゃないか?」と突っ込みたくなるほど詰めが甘い。
危ないに決まっていることを平気でやらかす。もしくはそれを回避するための行動を怠る。
ここまで危機感のない登場人物を見たのは〝シャトゥーン〟以来。
キャラにどこか抜けたところがないと話が進まない、というのはあるけど、
抜けすぎていると物語の展開よりそのふがいなさのほうが気になってしまう。
そして一番その傾向が顕著なのが主人公。
本格推理の探偵役は得てして滑稽なほどにのん気で(刑事コロンボしかり、古畑しかり)、
でもそれでも許せるのは彼らがいわゆる〝天才〟だから。
彼らの能力がクライマックスでフル発揮されるのがわかっているからこそ、
何をしても笑って見ていられる。
むしろバカをやればやるほど、後の推理シーンが引き立つ。
けれど本作の探偵役・結城はごくごく平凡な大学生。
そんな彼が緊張感の欠片もない言動に走るたび、読んでいて苛つくこともしばしば。
というか彼は終始一貫して人格が安定していなかった気がする。
やけに繊細かと思えば初対面の相手を「お前」呼ばわり。妙にお人よしかと思えば
ちょっと的を射た推理を披露してみせたぐらいで「俺以外はみんなバカだ」と有頂天。
まあある意味典型的な今の若者像ではあるのですが、純文学ならまだしも
エンターテインメント小説でまでそんな魅力のない人間見たくありません。
内容自体はとても面白いので一気に読むことができましたが、主人公に魅力があれば
もっと本作の評価も上がっただろうにな、といったところです。
彼以外の登場人物たちはそれぞれに個性もあり、人間くさい部分も魅力も
十分に兼ね備えているので、惜しいなと思う。
ラストで描かれるそれぞれの末路は〝(疑心)暗鬼館〟内での出来事より
ある意味インパクト強いです。
おそらく読み手の想像力が掻き立てられるせいでしょうが。
本作を楽しめた人は、東野圭吾氏の〝ある閉ざされた雪の山荘で〟もおすすめ。
クローズドサークルものを踏襲したクローズドサークルもの、という設定が同じです。
ってあー今気づいたけどこの小説、同人ゲームのキラークイーンにかなり似てるんだ!!
設定も出てくる人間のキャラも相当近い。
著者、もしかしてプレイしたことあるのかも。。。(これ知ってる私も軽くやばいけど)
車がほしかった結城理久彦。「滞って」いた須和名祥子。
オカネが欲しいふたりは、高給の怪しげな実験モニターに応募した。
こうして12人が集まり、館の地階に7日間、閉じ込められることに。
究極の殺人ゲームが始まる…。
***
ジ・インサイト・ミル。
訳すなら〝挑発する風車〟とでもいったところでしょうか。
正に風車のような形の得体の知れない建物の地階で、ろくに互いの素性も知らない
アルバイトモニター12人が巻き起こす殺人&推理劇。
英語をローマ字読みしたタイトルは
〝スカイ・クロラ(Sky Crowler)〟〝ナ・バ・テア(None But Air)〟等の
著作を持つ森博嗣を彷彿とさせるものがありますが(ちなみに私の大学時代の先輩は、
ラルクアンシエルの〝Dive to blue〟を〝大仏ブルー〟と呼んでいました笑)、
中身はまんま貴志祐介氏の〝クリムゾンの迷宮〟。
ただあちらがホラーを主軸に据えて書かれたものだったのに対し、本作はむしろ
オーソドックスといっていいほど正統な〝本格推理〟(まあ、〝高額アルバイト〟の謳い文句に
釣られて来てみたら殺戮ゲームの被験者だった、というのは十分にホラーではありますが)。
アンフェアな展開もないので、純粋に犯人当てを楽しみながら読み進めることができます。
まあただ、彼ら被験者たちに課されたルールが、ちょっと著者に都合がよすぎる部分もあるかな。
夜間は館内をロボットが巡回して参加者たちが自室を離れないよう監視するという決まり
なのですが、巡回するのはあくまで廊下。
〝もし一つの部屋に二人以上いたらスタンガンで撃っちゃうよ〟というルールもあるにはあっても、
気をつけてこそこそ動き回っていればいくらでも監視の眼をかいくぐれる、
まるでFF7の神羅ビル潜入時みたいな(オタクな例えすいません。最近やったもので)温い状況で、
たとえこっそり誰かの部屋に忍び込んだところで、ロボットにはわかりようもないはず。
なのに誰もそれをやらないことに違和感。
各個室に備え付けられたジャグジーはなぜサウナ並みの高温に設定されているのか?
館内のどこかにあると言われている外への隠し通路の在り処は?
といった謎も、比較的早い段階で察しがついてしまうのも少し物足りなかった。
あとは。。。(文句みたいな感想ばかりですみませんが)著者・米澤穂信氏の〝文体〟と
扱っているテーマとのミスマッチ。これをかなり感じた。
氏の著作は割と読んだことがあるほうですが、どこかとぼけた少年(や青年)が「僕は~」と
一人称で語る、独特ではあるけれど全体にほのぼのした氏の作風にあって、本作の雰囲気は
どこか浮き立っていた感じがした。温かみある筆致のせいで緊張感が保たれない、というか。
加えてみんながみんな、「あんたたちこんな状況下でそこまでのん気なのはいくらなんでも
平和ボケしすぎじゃないか?」と突っ込みたくなるほど詰めが甘い。
危ないに決まっていることを平気でやらかす。もしくはそれを回避するための行動を怠る。
ここまで危機感のない登場人物を見たのは〝シャトゥーン〟以来。
キャラにどこか抜けたところがないと話が進まない、というのはあるけど、
抜けすぎていると物語の展開よりそのふがいなさのほうが気になってしまう。
そして一番その傾向が顕著なのが主人公。
本格推理の探偵役は得てして滑稽なほどにのん気で(刑事コロンボしかり、古畑しかり)、
でもそれでも許せるのは彼らがいわゆる〝天才〟だから。
彼らの能力がクライマックスでフル発揮されるのがわかっているからこそ、
何をしても笑って見ていられる。
むしろバカをやればやるほど、後の推理シーンが引き立つ。
けれど本作の探偵役・結城はごくごく平凡な大学生。
そんな彼が緊張感の欠片もない言動に走るたび、読んでいて苛つくこともしばしば。
というか彼は終始一貫して人格が安定していなかった気がする。
やけに繊細かと思えば初対面の相手を「お前」呼ばわり。妙にお人よしかと思えば
ちょっと的を射た推理を披露してみせたぐらいで「俺以外はみんなバカだ」と有頂天。
まあある意味典型的な今の若者像ではあるのですが、純文学ならまだしも
エンターテインメント小説でまでそんな魅力のない人間見たくありません。
内容自体はとても面白いので一気に読むことができましたが、主人公に魅力があれば
もっと本作の評価も上がっただろうにな、といったところです。
彼以外の登場人物たちはそれぞれに個性もあり、人間くさい部分も魅力も
十分に兼ね備えているので、惜しいなと思う。
ラストで描かれるそれぞれの末路は〝(疑心)暗鬼館〟内での出来事より
ある意味インパクト強いです。
おそらく読み手の想像力が掻き立てられるせいでしょうが。
本作を楽しめた人は、東野圭吾氏の〝ある閉ざされた雪の山荘で〟もおすすめ。
クローズドサークルものを踏襲したクローズドサークルもの、という設定が同じです。
ってあー今気づいたけどこの小説、同人ゲームのキラークイーンにかなり似てるんだ!!
設定も出てくる人間のキャラも相当近い。
著者、もしかしてプレイしたことあるのかも。。。(これ知ってる私も軽くやばいけど)
私の心は、もうすぐ死にます。
ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。
仕事は霊魂を体内に受け入れること。
彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。
ある日、殺傷沙汰のショックで生きながら霊魂が抜けてしまった少女・エリカを救うことに成功する。
だが、白い部屋でエリカと語ったジュンはその面影に恋をしてしまったのだった…。
斬新な設定を意外なラストまで導き、ヴィジョン豊かな美しい文体で読ませる新感覚ホラーの登場。
第十回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。
★収録作品★
白い部屋で月の歌を
鉄柱
***
近年のホラー小説は〝幽霊or怪物の脅威〟といった定番ものから
人間の狂気をテーマにしたサイコもの、
理系知識を駆使して描かれた〝リングシリーズ(これ実は貞子の呪いの話じゃないんですよ。
知ってた?)〟〝パラサイト・イヴ〟といった(いわゆるサイエンスホラー)ものに
シフトしつつありますが、そこに新たに加わったジャンルが〝切ない〟ホラー。
本書はそれの先駆けではないでしょうか。
〝花まんま〟で直木賞を受賞した朱川氏のデビュー作である本作ですが、
新人作家とは思えないほど文章のクオリティが高い。
極めてシンプルな筆致なのに(いや、むしろシンプルだからこそかな)、純文学小説のように美しく、
主人公・ジュンの感情がもう苦しいから勘弁してと言いたくなるほど流れ込んでくる。
ジュンは霊魂をその身にとり憑かせるいわゆる〝憑巫(よりまし)〟を生業とする少年だけど、
むしろ読み手であるこっちに彼という存在が憑依したような感覚に陥る。
だから当然の流れとして(女の私ですら)彼と共に〝エリカ〟という奔放な少女に恋をしてしまう。
何というかもう実際の自分の経験より数段上の、密やかではあるけれど
〝狂おしい〟といっていいほどのテンションで。それはジュン、ひいてはこの物語全体に、
得体の知れない〝儚さ〟が漂っているからなおさらそう感じるんだろうけど。
そしてラストで明かされるその〝儚さ〟の正体。
あまりに切なすぎて正直悶えた。
本作と同時に〝オール読物推理小説新人賞〟も受賞している朱川氏だけあって
この物語も多分にミステリ要素を含んでおり、序盤からいたるところに
伏線がばらまかれているのですが、ここまで切ない伏線はこれまでに見たことがない。というか
こんな悲しい伏線仕掛けないでほしかった。
終盤でそれが全部回収されて一つのとんでもない真実を導き出したときにはもう、
驚くより何よりやるせなさで胸がいっぱいになってしまった。
胸いっぱいといえばラスト三行の表現もそう。ヘタなそのへんの純文学凌駕してます。
初読からだいぶ経つのに、未だにその文章だけは忘れられない。
将来ボケたらその三行ブツブツ口にしてそうな自分が怖い。
そしてその三行が示すある行為を実際にやってそうな自分が怖い←意味は読めばわかります。
ものすごくおすすめの小説です。
同時収録作〝鉄柱(〝くろがねのみはしら〟と読みます)〟も、
〝人間はどういうタイミングで死ぬのが一番幸せなのか〟という普遍的テーマが描かれていて
とても面白い(ちなみに単純な怖さでいったらこっちのほうが上)。
出会えてよかった、
心からそう思わせてくれる物語です。
「竜崎と呼んでください」
あなたはLの伝説を見る!
「週刊少年ジャンプ」で大人気を博した“予測不可能”なサスペンス漫画が、待望のノベライズ!
原作の大場・小畑、両先生が熱望した、ノベル界で最も熱い西尾維新先生が描く
完全オリジナルストーリー。
***
発売当時予約までしてこれを買った私は何だかんだでデスノート大好きらしい。
というか著者の西尾維新氏がかなり好きなのです。
ラノベは全然読まない私ですが彼の〝戯言シリーズ〟はとても楽しく読破しました。
という余談はまあいいとして、
原作3巻のLの台詞
〝南空ナオミ 女性でありながら異例の早さでFBI捜査官として採用され
2002年6月22日「ロサンゼルスBB連続殺人事件」と呼ばれた事件の犯人を逮捕
そうか あの事件 私の下で働いてくれた 彼女が日本に…〟
本作はまさにその「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を描いたもの。
中表紙もLと南空ナオミの2ショットです。
この小説では当時26歳と22歳だったナオミ&Lの話を読むことができる(ちなみに
物語の語り部はメロ。
加えてアイバー&ウエディのコンビまで出てくるわ〝L〟〝M〟〝N〟だけでなく
〝A〟や〝B〟についてまで語られるわ、著者のサービスっぷり(彼自身も
楽しんで書いてそうですが)には頭が下がる思いです)。
ナオミの性格が原作と違う、
ラストを読んだときに「そりゃないだろ」と文句を言いたくなる(決して内容がつまらないという
意味ではないです。たぶん〝腐女子〟と呼ばれるLファンの人たちは腹立つだろうなといった類の)、
本作に対してよく呈される苦言ですが、総合的には非常によくできた娯楽小説。
西尾氏独特の言葉遊び的文体がデスノートの世界観にもひどくマッチしているし、
作中に仕掛けられたあるトリック(事件とは別の)も、ミステリ小説では常套手段ではあるものの
この〝デスノート〟という舞台で使うことによってこの上なく効果を発揮している。
これは原作を読み込んでいる人ほど騙されるはず。かくいう私も(ミステリ小説なら腐るほど
読んでいるにも関わらず)見事に引っかかりました(そして「西尾、うまい!」と思わず叫んだ)。
というか既に上述しましたが、西尾維新さん、相当デスノート読み込んでそうだな彼は。。。
そうでなきゃ、才能だけじゃ、ここまで見事に原作をうまく活かした物語は書けないでしょう。
まだまだまだまだ自分はデスノのサイドストーリー書けるし書きたいんだむしろ書かせろ、って
オーラが文章からガンガン伝わってくる。
ラスト一行なんか原作に鮮やかなほどうまく結びついていて鳥肌たったし。
私的には是非書いてほしいです。本作中でちょっとだけ触れられていた、
Lとワタリの出会いの話、
世界三大探偵であるワイミーズハウス出身者X、Y、Zの探偵合戦、
おもしろそう。かなり読んでみたい。
気長に期待して待つとします。
ちなみに本作を読むとLがなぜカポエラを使えるのかがわかります。
ではアニメ版デスノートのOP(Lのカポエラが見れます笑)を貼り付けて今日はこれにて。
今気づいたけど最初のLがお菓子食べてるところでちゃんとサクサク音が入ってるとこが芸細かくてすごい。
あなたはLの伝説を見る!
「週刊少年ジャンプ」で大人気を博した“予測不可能”なサスペンス漫画が、待望のノベライズ!
原作の大場・小畑、両先生が熱望した、ノベル界で最も熱い西尾維新先生が描く
完全オリジナルストーリー。
***
発売当時予約までしてこれを買った私は何だかんだでデスノート大好きらしい。
というか著者の西尾維新氏がかなり好きなのです。
ラノベは全然読まない私ですが彼の〝戯言シリーズ〟はとても楽しく読破しました。
という余談はまあいいとして、
原作3巻のLの台詞
〝南空ナオミ 女性でありながら異例の早さでFBI捜査官として採用され
2002年6月22日「ロサンゼルスBB連続殺人事件」と呼ばれた事件の犯人を逮捕
そうか あの事件 私の下で働いてくれた 彼女が日本に…〟
本作はまさにその「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を描いたもの。
中表紙もLと南空ナオミの2ショットです。
この小説では当時26歳と22歳だったナオミ&Lの話を読むことができる(ちなみに
物語の語り部はメロ。
加えてアイバー&ウエディのコンビまで出てくるわ〝L〟〝M〟〝N〟だけでなく
〝A〟や〝B〟についてまで語られるわ、著者のサービスっぷり(彼自身も
楽しんで書いてそうですが)には頭が下がる思いです)。
ナオミの性格が原作と違う、
ラストを読んだときに「そりゃないだろ」と文句を言いたくなる(決して内容がつまらないという
意味ではないです。たぶん〝腐女子〟と呼ばれるLファンの人たちは腹立つだろうなといった類の)、
本作に対してよく呈される苦言ですが、総合的には非常によくできた娯楽小説。
西尾氏独特の言葉遊び的文体がデスノートの世界観にもひどくマッチしているし、
作中に仕掛けられたあるトリック(事件とは別の)も、ミステリ小説では常套手段ではあるものの
この〝デスノート〟という舞台で使うことによってこの上なく効果を発揮している。
これは原作を読み込んでいる人ほど騙されるはず。かくいう私も(ミステリ小説なら腐るほど
読んでいるにも関わらず)見事に引っかかりました(そして「西尾、うまい!」と思わず叫んだ)。
というか既に上述しましたが、西尾維新さん、相当デスノート読み込んでそうだな彼は。。。
そうでなきゃ、才能だけじゃ、ここまで見事に原作をうまく活かした物語は書けないでしょう。
まだまだまだまだ自分はデスノのサイドストーリー書けるし書きたいんだむしろ書かせろ、って
オーラが文章からガンガン伝わってくる。
ラスト一行なんか原作に鮮やかなほどうまく結びついていて鳥肌たったし。
私的には是非書いてほしいです。本作中でちょっとだけ触れられていた、
Lとワタリの出会いの話、
世界三大探偵であるワイミーズハウス出身者X、Y、Zの探偵合戦、
おもしろそう。かなり読んでみたい。
気長に期待して待つとします。
ちなみに本作を読むとLがなぜカポエラを使えるのかがわかります。
ではアニメ版デスノートのOP(Lのカポエラが見れます笑)を貼り付けて今日はこれにて。
今気づいたけど最初のLがお菓子食べてるところでちゃんとサクサク音が入ってるとこが芸細かくてすごい。
そのうち殺してやるから。
熊の置物を赤い紐で引いて立っていた少女アリス。信用金庫に勤める由記子と出会うが、
「わたしのこと、おぼえていて」と言い残して死んでしまう…。
大人の理不尽な行為により絶望した少年・少女たちを描く5つの短編、衝撃の結末。
新感覚ホラー・ミステリー。
★収録作品★
不思議じゃない国のアリス
青い月
飛行熱
空中庭園
銃器のアマリリ
旅をする人
***
かの乙一氏が本書を評して曰く、
少年少女はバスにゆられてどこへ連れて行かれるのでしょうか。
自分では運転できない年頃なので、大人の運転に身をゆだねるしかないのでしょうか。
ところでこの本、バスの運転手が沙藤一樹でなければ、きっと旅は快適だったでしょうに。
ホラー小説というのはどこかしらファンタジーな雰囲気が漂うものですが、
沙藤氏の書く物語は、非日常的な世界観の向こうにおそろしくリアルな〝現実〟がくっきりと
垣間見えてしまう。それも救いようのないほど絶望的な。
〝現実離れしたホラー〟
というより、
〝ただでさえ過酷な現実にホラーのスパイスまで振りかけてみました〟
といったような。
基本、精神的にこたえるドロンドロンの話ばかりですが、
だからこそその中に砂粒並みにささやかに添えられている〝希望〟の要素が
もう輝いて見える見える。
延々闇の中にいたところにふいに100Wの懐中電灯かざされたようなものです。
心拍数上昇します。瞳孔開いて涙も出ます。
慣れるのに少し時間がかかりますが、一度慣れればすごく快適。
沙藤氏の小説はそんな感じ(まあ慣れたころにはまた暗闇に突き落とされるんですが)。
物語ごとの大まかなレビュー。
◆不思議じゃない国のアリス◆
痛い、としか言いようがない。
生理的不快さとやるせなさが読後一気に押し寄せてくる。
〝クドリャフカ〟についての知識があればよりいっそう深く読めるかも。
(というわけでフラッシュ↓置いておきます。涙腺弱い人は注意)
クドリャフカ
◆青い月◆
色覚異常により青い色しか見えない少年。
そんな彼が一人の少女に出会い、会話を重ねるうちに彼女が憎むべき存在であることを知るが。。。
という物語ですが、私にはどうしてもこの話は二人のラブストーリーに思えた。
歪みに歪んだ恋愛感情ってこんな感じなんじゃないでしょうか。
少年がラストシーンで少女に向かって吐く台詞も、あれは絶対一種の愛の告白です(いや、別に
私の恋愛嗜好が偏ってるわけじゃ断じてないよ)。
◆飛行熱◆
ラストが驚愕。いろんな意味で。
これは下手に感想を言うとネタバレになりかねないので、先入観なしでとにかく読んでみてください。
◆空中庭園◆
角田光代さんのあれじゃないですよ(って言ってもわかる人にしかわからないかξ)。
オンラインゲームが舞台の物語。
これが一番ミステリ色が強い。私には一番面白く読めた。
ゲーム上の話なのに現実よりよっぽど現実っぽいのは、仮想世界で匿名の皮を被ることによって
人間の感情や行為が理性で繕わないむき出しのものになるからでしょう。
でも〝励ましの代わりに回復呪文〟みたいなバーチャルならではのスタンスはいい感じで好きです。
(蛇足ですが、私は昔友人にメールで〝メラ〟を唱えられたことがあります(ドラクエのあれ)。
炎系の最弱呪文でやっつけられるほどの雑魚だと思われてるのかと一瞬切なくなりましたが、
本人曰く冬なのであっためてくれたそうです。まあ嬉しかったです)。
◆銃器のアマリリ◆
この世はクソだ人間もクソだ俺がこの世界で一番偉いそれ以外はバカばっかりだ
どいつもこいつもまともに付き合う価値なんてない世界も人間もみんなまとめて滅びればいい
死ね死ねみんな死ね何もかも息絶えろ俺のことも誰か殺してくれこの先生きてたって
何一ついいことなんてありはしないこんなクソつまらない絶望と怨恨の日々を送るぐらいなら
いっそ今一思いに死んでしまいたいもう嫌だ何もかもが嫌だ助けてくれいや俺を助けられるほどの
存在なんて神ぐらいしかいないこの現実世界にはただ一人も存在しないだからもういい
殺してくれ死んでくれ俺もお前らもみんなみんなみんなうわあああああああああああ
とか思いつめまくってる人でも、こんなにも些細なことであっけなく救われたりする。
だから悩むだけ損なんだよ。
という物語。
人間なんて意外と単純なものです。
まあだからこそ生きてられるんですが。
◆旅をする人◆
著者のエッセイのような、わずか4Pの物語。
短いぶん読み手の想像力が広がります。
ちょっと寂しく、でも爽快感の残る掌編。まさに〝旅〟です。
不思議じゃない国のアリス。
まだ現実社会への適応能力を持たない子供たちにとっては、〝不思議じゃない国〟のほうが
よっぽど恐ろしく、生きるのに困難な世界なんだろうな。
熊の置物を赤い紐で引いて立っていた少女アリス。信用金庫に勤める由記子と出会うが、
「わたしのこと、おぼえていて」と言い残して死んでしまう…。
大人の理不尽な行為により絶望した少年・少女たちを描く5つの短編、衝撃の結末。
新感覚ホラー・ミステリー。
★収録作品★
不思議じゃない国のアリス
青い月
飛行熱
空中庭園
銃器のアマリリ
旅をする人
***
かの乙一氏が本書を評して曰く、
少年少女はバスにゆられてどこへ連れて行かれるのでしょうか。
自分では運転できない年頃なので、大人の運転に身をゆだねるしかないのでしょうか。
ところでこの本、バスの運転手が沙藤一樹でなければ、きっと旅は快適だったでしょうに。
ホラー小説というのはどこかしらファンタジーな雰囲気が漂うものですが、
沙藤氏の書く物語は、非日常的な世界観の向こうにおそろしくリアルな〝現実〟がくっきりと
垣間見えてしまう。それも救いようのないほど絶望的な。
〝現実離れしたホラー〟
というより、
〝ただでさえ過酷な現実にホラーのスパイスまで振りかけてみました〟
といったような。
基本、精神的にこたえるドロンドロンの話ばかりですが、
だからこそその中に砂粒並みにささやかに添えられている〝希望〟の要素が
もう輝いて見える見える。
延々闇の中にいたところにふいに100Wの懐中電灯かざされたようなものです。
心拍数上昇します。瞳孔開いて涙も出ます。
慣れるのに少し時間がかかりますが、一度慣れればすごく快適。
沙藤氏の小説はそんな感じ(まあ慣れたころにはまた暗闇に突き落とされるんですが)。
物語ごとの大まかなレビュー。
◆不思議じゃない国のアリス◆
痛い、としか言いようがない。
生理的不快さとやるせなさが読後一気に押し寄せてくる。
〝クドリャフカ〟についての知識があればよりいっそう深く読めるかも。
(というわけでフラッシュ↓置いておきます。涙腺弱い人は注意)
クドリャフカ
◆青い月◆
色覚異常により青い色しか見えない少年。
そんな彼が一人の少女に出会い、会話を重ねるうちに彼女が憎むべき存在であることを知るが。。。
という物語ですが、私にはどうしてもこの話は二人のラブストーリーに思えた。
歪みに歪んだ恋愛感情ってこんな感じなんじゃないでしょうか。
少年がラストシーンで少女に向かって吐く台詞も、あれは絶対一種の愛の告白です(いや、別に
私の恋愛嗜好が偏ってるわけじゃ断じてないよ)。
◆飛行熱◆
ラストが驚愕。いろんな意味で。
これは下手に感想を言うとネタバレになりかねないので、先入観なしでとにかく読んでみてください。
◆空中庭園◆
角田光代さんのあれじゃないですよ(って言ってもわかる人にしかわからないかξ)。
オンラインゲームが舞台の物語。
これが一番ミステリ色が強い。私には一番面白く読めた。
ゲーム上の話なのに現実よりよっぽど現実っぽいのは、仮想世界で匿名の皮を被ることによって
人間の感情や行為が理性で繕わないむき出しのものになるからでしょう。
でも〝励ましの代わりに回復呪文〟みたいなバーチャルならではのスタンスはいい感じで好きです。
(蛇足ですが、私は昔友人にメールで〝メラ〟を唱えられたことがあります(ドラクエのあれ)。
炎系の最弱呪文でやっつけられるほどの雑魚だと思われてるのかと一瞬切なくなりましたが、
本人曰く冬なのであっためてくれたそうです。まあ嬉しかったです)。
◆銃器のアマリリ◆
この世はクソだ人間もクソだ俺がこの世界で一番偉いそれ以外はバカばっかりだ
どいつもこいつもまともに付き合う価値なんてない世界も人間もみんなまとめて滅びればいい
死ね死ねみんな死ね何もかも息絶えろ俺のことも誰か殺してくれこの先生きてたって
何一ついいことなんてありはしないこんなクソつまらない絶望と怨恨の日々を送るぐらいなら
いっそ今一思いに死んでしまいたいもう嫌だ何もかもが嫌だ助けてくれいや俺を助けられるほどの
存在なんて神ぐらいしかいないこの現実世界にはただ一人も存在しないだからもういい
殺してくれ死んでくれ俺もお前らもみんなみんなみんなうわあああああああああああ
とか思いつめまくってる人でも、こんなにも些細なことであっけなく救われたりする。
だから悩むだけ損なんだよ。
という物語。
人間なんて意外と単純なものです。
まあだからこそ生きてられるんですが。
◆旅をする人◆
著者のエッセイのような、わずか4Pの物語。
短いぶん読み手の想像力が広がります。
ちょっと寂しく、でも爽快感の残る掌編。まさに〝旅〟です。
不思議じゃない国のアリス。
まだ現実社会への適応能力を持たない子供たちにとっては、〝不思議じゃない国〟のほうが
よっぽど恐ろしく、生きるのに困難な世界なんだろうな。
戻れない。
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。
2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、
まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。
S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。
***
メフィスト賞出身者だけあって、単なる本格推理ものとは一線を画した作風が売りの森博嗣氏。
そんな氏のデビュー作〝すべてがFになる〟を第一作とする
〝S&M(空前絶後のお嬢様・西之園萌絵&大学助教授・犀川創平)〟シリーズの
八作目にあたるのがこれ。
それぞれが独立した物語なのでどの巻から読んでも特に支障はない本シリーズではありますが、
この作品だけは最低でも2・3冊S&Mシリーズを読んでから手にとってほしい。
そのほうがラストの驚きも倍増。
ミステリ部分は被害者である双子の姉妹の描写が若干ややこしく把握しづらい部分もあるものの、
最後まで非常に面白く読めます。
というか本作のメインは〝ミステリ〟というより〝ラブストーリー〟で、著者の真の狙いである
〝仕掛け(トリック)〟は殺人事件解決後にやって来るので、むしろそっちを楽しみに
読み進めていくのがいいかも。
情景&心理描写はそこそこに、ただ事件の経過を淡々と書き連ねていく。
理系ミステリ作家に共通する作風ですが、森氏はその中にキャラの人間くささ&文学的表現を
挟み込むがほんとうまいなあ。ラスト一行なんか鳥肌ものです。
そして女のくせにラブストーリーというものにアレルギーがあり、無理して読もうものなら
別の意味で全身に鳥肌が立ってしまう私が(あまりに盛大に立ったので思わず親に
『見て見て鳥肌!』と見せつけてしまったこともある私が笑)、
「いいなあ、恋愛って。。。 」
とうかつにもときめいてしまった稀有な作品でもあります(恋愛描写が白黒時代の洋画風なので
逆に「クッセー」とか感じなかったのかも。メインキャラの男性が惚れた相手を
セクシィセクシィ連発するのにはちょっと笑いましたが)。ゼクシィ?
ロジカルで、おもしろい。そして、せつない。
と思わずmother3のコピーをパクってしまいたくなるほど、
ひとつぶでさんどおいしい、非常にお勧めの作品です。
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。
2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、
まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。
S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。
***
メフィスト賞出身者だけあって、単なる本格推理ものとは一線を画した作風が売りの森博嗣氏。
そんな氏のデビュー作〝すべてがFになる〟を第一作とする
〝S&M(空前絶後のお嬢様・西之園萌絵&大学助教授・犀川創平)〟シリーズの
八作目にあたるのがこれ。
それぞれが独立した物語なのでどの巻から読んでも特に支障はない本シリーズではありますが、
この作品だけは最低でも2・3冊S&Mシリーズを読んでから手にとってほしい。
そのほうがラストの驚きも倍増。
ミステリ部分は被害者である双子の姉妹の描写が若干ややこしく把握しづらい部分もあるものの、
最後まで非常に面白く読めます。
というか本作のメインは〝ミステリ〟というより〝ラブストーリー〟で、著者の真の狙いである
〝仕掛け(トリック)〟は殺人事件解決後にやって来るので、むしろそっちを楽しみに
読み進めていくのがいいかも。
情景&心理描写はそこそこに、ただ事件の経過を淡々と書き連ねていく。
理系ミステリ作家に共通する作風ですが、森氏はその中にキャラの人間くささ&文学的表現を
挟み込むがほんとうまいなあ。ラスト一行なんか鳥肌ものです。
そして女のくせにラブストーリーというものにアレルギーがあり、無理して読もうものなら
別の意味で全身に鳥肌が立ってしまう私が(あまりに盛大に立ったので思わず親に
『見て見て鳥肌!』と見せつけてしまったこともある私が笑)、
「いいなあ、恋愛って。。。 」
とうかつにもときめいてしまった稀有な作品でもあります(恋愛描写が白黒時代の洋画風なので
逆に「クッセー」とか感じなかったのかも。メインキャラの男性が惚れた相手を
セクシィセクシィ連発するのにはちょっと笑いましたが)。ゼクシィ?
ロジカルで、おもしろい。そして、せつない。
と思わずmother3のコピーをパクってしまいたくなるほど、
ひとつぶでさんどおいしい、非常にお勧めの作品です。
『カラスヤノ アサイケイスケ アキミレス』
忘れてしまってはいませんか? あの日、あの場所、あの人の、かけがえのない思い出を。
東京・下町にあるアカシア商店街。
ある時はラーメン屋の前で、
またあるときは古本屋の片隅で――。
ちょっと不思議な出来事が、傷ついた人々の心を優しく包んでいく。
懐かしいメロディと共に、ノスタルジックに展開する七つの奇蹟の物語。
★収録作品★
紫陽花のころ
夏の落し文
栞の恋
おんなごころ
ひかり猫
朱鷺色の兆し
枯葉の天使
***
これはまずいです。
朱川湊人氏に傾倒している私ですが、この作品だけはもう別格。
直木賞受賞作である〝花まんま〟より、こっちのほうがずっと好きだし
内容もハイクオリティだと思う。
ジャンルがホラー寄りのファンタジーという点でも、胸の内にどこかしら傷・または孤独を抱えた
人間の再生を描いた話が多い点でも、朱川氏の作風はかの乙一氏に通じるものがある。
ただしこちらは時代設定が昭和初期。
ただでさえ切ない物語なのに舞台をそんな古き良き時代にされちゃ、
一遍一遍を読み終えたときのやるせなさに拍車がかかって、
もう悶えながら泣くしかありません(笑)。
それぞれの話に当時ヒットした曲がモチーフとして設定されているので、
若い世代の人は両親にでも尋ねながら、まさにその時代を生きたという人は
メロディを思い出して懐かしみながら、本作を読み進めるといいかも。
今はネットで何でも聴けるし、作中の曲をBGMとして流しながら読むのも
またおつかもしれません。
人一倍辛い思いを抱えながらも人一倍誰かを思いやれる、そんな
奇跡のような温かくそして強い人間はこの世界に確かに存在していて、
それは今をちょっと遡ったこんな時代のほうが多かったのかもしれない。
朱川氏はそれをわかっていて、当時のそういった人々のしなやかな強さと優しさを
こうやって書き留めておいたのかもしれない。
氾濫する情報に振り回されることなく自分の頭でものを考えて動けた。
眼の回るような日常に忙殺されることなく自分のペースで日々を生きられた。
親の確かな教育と貧しさへの忍耐に由来する一本芯の通った人間が多かった。
そんな時代。
今はもうほとんど失われてしまった〝人間性〟という名の〝かたみ〟が
ここには描かれている。
忘れてしまってはいませんか? あの日、あの場所、あの人の、かけがえのない思い出を。
東京・下町にあるアカシア商店街。
ある時はラーメン屋の前で、
またあるときは古本屋の片隅で――。
ちょっと不思議な出来事が、傷ついた人々の心を優しく包んでいく。
懐かしいメロディと共に、ノスタルジックに展開する七つの奇蹟の物語。
★収録作品★
紫陽花のころ
夏の落し文
栞の恋
おんなごころ
ひかり猫
朱鷺色の兆し
枯葉の天使
***
これはまずいです。
朱川湊人氏に傾倒している私ですが、この作品だけはもう別格。
直木賞受賞作である〝花まんま〟より、こっちのほうがずっと好きだし
内容もハイクオリティだと思う。
ジャンルがホラー寄りのファンタジーという点でも、胸の内にどこかしら傷・または孤独を抱えた
人間の再生を描いた話が多い点でも、朱川氏の作風はかの乙一氏に通じるものがある。
ただしこちらは時代設定が昭和初期。
ただでさえ切ない物語なのに舞台をそんな古き良き時代にされちゃ、
一遍一遍を読み終えたときのやるせなさに拍車がかかって、
もう悶えながら泣くしかありません(笑)。
それぞれの話に当時ヒットした曲がモチーフとして設定されているので、
若い世代の人は両親にでも尋ねながら、まさにその時代を生きたという人は
メロディを思い出して懐かしみながら、本作を読み進めるといいかも。
今はネットで何でも聴けるし、作中の曲をBGMとして流しながら読むのも
またおつかもしれません。
人一倍辛い思いを抱えながらも人一倍誰かを思いやれる、そんな
奇跡のような温かくそして強い人間はこの世界に確かに存在していて、
それは今をちょっと遡ったこんな時代のほうが多かったのかもしれない。
朱川氏はそれをわかっていて、当時のそういった人々のしなやかな強さと優しさを
こうやって書き留めておいたのかもしれない。
氾濫する情報に振り回されることなく自分の頭でものを考えて動けた。
眼の回るような日常に忙殺されることなく自分のペースで日々を生きられた。
親の確かな教育と貧しさへの忍耐に由来する一本芯の通った人間が多かった。
そんな時代。
今はもうほとんど失われてしまった〝人間性〟という名の〝かたみ〟が
ここには描かれている。
私は豪徳二を殺した。理由はない。
私は佐野美香を殺してしまった。理由はない。
描くことに没頭し燃え尽きるように自殺した画家、東条寺桂。
『殉教』『車輪』―二枚の絵は、桂の人生を揺さぶったドラマを語るのか…。
劃期的な、余りに劃期的な、図像学ミステリの誘惑。
第九回鮎川哲也賞受賞作。
***
芸術をテーマにした推理小説っていうのは何でこうも面白いんだろう。。。
漫画〝ギャラリーフェイク〟にはまった人には非常におすすめの〝美術ミステリ〟です。
二枚の絵に込められた〝意味〟を、主人公が図像学(彫刻や絵画に表現された場面が
何を表しているのか、誰が表されているのかを理解するための学問)の観点から解き明かし、
それがある一つの殺人事件の真相を暴き出していくという趣旨のストーリー。
「この絵のこの部分は○○を表しているんだ!」
と主人公が発見するたびに、おおーなるほどお! と読み手も否応なしに驚かされ、
そしてその都度主人公によって展開される美術うんちくが自分の中に速やかに浸透していって、
またそれがやたら心地いい。
私が美術の教師なら間違いなく本書を教科書代わりにするでしょう(内容は殺人事件ですが笑
でもこれなら生徒もほぼ全員が試験で満点を取るだろうなあ。面白すぎて)。
肝心の殺人事件の真相は絵に隠された謎に比べると若干肩透かし気味(というよりむしろトンデモ)
ですが、それでも最後まで面白く読めます。
これまで読んだ鮎川哲也賞受賞作の中で一番好きかもしれない。
ちなみに作中に登場する絵画は、何と著者本人の筆によるものです。
これだけでも一読(一見?)の価値あり。
蛇足ですが、FFシリーズ好きの人はこれ↓を念頭に置きながら読むと
クライマックスシーンがもっと面白くなるよ。
FFⅩの召喚獣。それが示すものとは?! 次号に続かない!
私は佐野美香を殺してしまった。理由はない。
描くことに没頭し燃え尽きるように自殺した画家、東条寺桂。
『殉教』『車輪』―二枚の絵は、桂の人生を揺さぶったドラマを語るのか…。
劃期的な、余りに劃期的な、図像学ミステリの誘惑。
第九回鮎川哲也賞受賞作。
***
芸術をテーマにした推理小説っていうのは何でこうも面白いんだろう。。。
漫画〝ギャラリーフェイク〟にはまった人には非常におすすめの〝美術ミステリ〟です。
二枚の絵に込められた〝意味〟を、主人公が図像学(彫刻や絵画に表現された場面が
何を表しているのか、誰が表されているのかを理解するための学問)の観点から解き明かし、
それがある一つの殺人事件の真相を暴き出していくという趣旨のストーリー。
「この絵のこの部分は○○を表しているんだ!」
と主人公が発見するたびに、おおーなるほどお! と読み手も否応なしに驚かされ、
そしてその都度主人公によって展開される美術うんちくが自分の中に速やかに浸透していって、
またそれがやたら心地いい。
私が美術の教師なら間違いなく本書を教科書代わりにするでしょう(内容は殺人事件ですが笑
でもこれなら生徒もほぼ全員が試験で満点を取るだろうなあ。面白すぎて)。
肝心の殺人事件の真相は絵に隠された謎に比べると若干肩透かし気味(というよりむしろトンデモ)
ですが、それでも最後まで面白く読めます。
これまで読んだ鮎川哲也賞受賞作の中で一番好きかもしれない。
ちなみに作中に登場する絵画は、何と著者本人の筆によるものです。
これだけでも一読(一見?)の価値あり。
蛇足ですが、FFシリーズ好きの人はこれ↓を念頭に置きながら読むと
クライマックスシーンがもっと面白くなるよ。
FFⅩの召喚獣。それが示すものとは?! 次号に続かない!
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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