その枠を外れる異常。
"30歳"という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。
都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、
地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。
少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。
あの"殺人事件"が起こるまでは……。
何かに突き動かされるように、警察の手を逃れ今なお失踪を続けるチエミと、
彼女の居所をつきとめようと奔走するみずほ。
行方を追う中、不可解な事件とその真相が明らかに……!!
***
このタイトル絶対〝NANA〟のハチとナナから来てるよなあ。。。
女の友情話だし。
相変わらずの〝合コン〟〝児童会長〟といったキーワードにはちょっと食傷気味ですが、
著者久々のほのぼの系ではないまっとうなミステリ。
内容的には〝太陽の坐る場所〟とよく似てるので二番煎じな感もあるけど、
人間心理を「ここまで書くか」ってほど剥き出しに描写してしまう筆力と
ラストのやるせない温かさはさすが辻村さん、という感じ。
ヒロイン二人がどうしてそこまで相手に執着するのかが(特にみずほのほうが)
いまいちよくわからなかったので物語にそこまで入り込めなかったのが残念。
それにしてもこの作家さんの小説は怖いです。
リアルすぎて。
普通の作家の書くものがリアルさを排除したフィクションなのだとしたら、
この人の書く物語はリアルさをデフォルメしてよりリアルにした上でのフィクションだから。
特に著者とは完全に同い年だからなあ。。。
同年代の書くものは価値観や思考がかぶっている場合が多くて読んでいてつらくなる率が高い。
それにしても、
恋するみたいに同性の友人を好きになることがなくなったのって
一体いつ頃からだったろう。
短編ホラー映画主演女優としてロケ現場にやってきたマリア。
そこで監督に意味ありげに言われる。「きみ、羅針盤にいた子だよね」と。
マリアに忘れさりたい過去が甦る。伝説の女子高生劇団「羅針盤」。
監督はさらに言う。「一人、死んでるんだよね」
羅針盤はメンバーの死と共に活動を停止した。マリアが殺したのだった。
監督はいったいどこまで知っているのか。疑心はふくらむ。
そして物語は四年前、羅針盤の誕生と死へと移ってゆく。
島田荘司選第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞作!
***
面白かったー!
特に気張って推理しなくても犯人やその動機は比較的簡単に読めてしまうけど、
(ついでに言えばトリックもかなりバレバレの感はあるけど)
作家の乙一氏も言っていたとおり
「伏線がバレてもドラマ部分がしっかり成立していればそれでよし」
的な感じで許せてしまう。それぐらい面白かった。
ところで本作がデビュー作の水生さん、女性かな?
〝告白〟の湊かなえさんに似た性別を感じさせない中性的な文体に物語、
でも女性の心理描写が非常にきめ細かくリアルなところなんかがそう思わせるのですが。
もし男性なんだとしたらすごいな。
ちなみに最後の島田荘司氏の選評、
「え? そうかな? そんなことないと思うけど」という評価ばかりで、
本の評論には割かし自負のある私を一度はへこませたものの、
追記部分にてその選評のあと著者がかなり内容に手を加えたことがわかりひと安心。
物語を読む眼はちゃんと養われているようでよかった。
でも確かに島田氏の言うとおり、本作の元のタイトルが〝罪人いずくにか〟はないよなあ。。。
自分も最初知ったときびっくりしたもん。
ライトな文体の本作とは全然合ってないし、芝居をテーマにした物語なんだから
それに絡めたタイトルをつければいいのに。
と思っていたら最終的には〝少女たちの羅針盤〟。最高です。
このタイトルに惹かれて本作を手に取ったと言っても過言じゃない。
やっぱりタイトルは大切だよなー。
むちゃくちゃおすすめ。
破綻が近づいてくる。
リストラにおびえる父親・秀吉、
若い大工と密会を重ねる母親・昭子、
引きこもりの長男・秀樹、
10歳年上の元引きこもりの男と交際する長女・知美。
ある日、向かいの家で男に髪をつかまれて引きずられる女を目にした秀樹は、
それがDVだと知り、いつしか女を救うことを夢想しはじめるが…。
過酷な現実にさらされた内山家の人々に生き延びる道はあるのか?
家族について書かれた残酷で幸福な最後の物語。
テレビドラマ化もされたベストセラー。
***
4年前半年間自室に引きこもって母親を死ぬほど心配させ、
市の相談所や心療内科に通わせた親不孝の私から見て、
秀樹のキャラはリアルすぎて正直読んでいてつらかった。
他人の幸せが怖い。
楽しげな集団が怖い。
人の多いところが怖くて行けない。
何でわかってくれないのだと親を責め、そのあとで必ず後悔する。が長くはもたない。
秀樹は生きがいを見つけることでそこから脱したわけだけど、
生きがいを持つ私はどうして相変わらずそういった性癖を留めたままなんだろう?
と突然個人的な話になってしまってすみません。
今まで読んだ龍作品の中では一番面白かったと思う。
内容にぐいぐい引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。
母、父、息子、娘、それぞれの心理的葛藤が細密に描写されていて
とてもフィクションとは思えなかった。
いや、でも思えないというのは、やっぱり今の世の中こういう家族が実際に多いからだとは思う。
リストラ、引きこもり、そういった要素は、本作が書かれた8年前に比べて悪化の一方を
たどっているし。
本作のラストは、そんな厳しい世の中の中で家族が取り得る最高の在り方を示した。
ただ不満なのが、秀吉と知美の描写。
母親の昭子と息子の秀樹はラストで明示される生き方にたどり着くまでが
しっかりと描かれていたのに対し、あとの二人はそうでもないのでどうしてその道を選んだのかが
どうにもしっくり来なかった。とってつけっぽかった。特に知美。何でその道を選択したのか、
途中で最低限の伏線が張ってあってもよかったんじゃないかと思う。
あんたいつから家具に興味持ったのよ?
(まあよくよく考えたら、全員やけにタイミングよく揃って自立しすぎだしな)
作中で書かれる事柄に「え? そうかな?」と首を捻るものが多かったのも気になった。
たとえば〝寂しいほうが悲しいほうよりまし〟というような表現。
それはないだろ。悲しみは泣くことや自分を哀れんで自己陶酔することでどうにか
誤魔化せるけど、寂しさはどうにもならない。
自殺者のほとんどだって悲しみより寂しさが原因で死んでる。
悲しみに耐えられる人間はいても、孤独に耐えられる人間はいない、それが私の持論なので、
かなり違和感があった。
あと引きこもりはプライドが地に落ちているので、基本家族とは口をきかない。
姿も見せない。でも秀樹はそうでもない。これも読んでいていまいち納得がいかず。
とかいろいろ書いたけどなかなかの傑作と思う。
お父さん、お母さん、その子供たち全員におすすめです。
あなたですか?
言えたはずの言葉が胸の中に積もっている。
聞けたはずの言葉をいつも虚空に探している。
人の想いは死んでなお、愛する人によびかける…。
18歳の時に両親を亡くし、家業の葬儀屋を継いだ森野。
30万人の心に沁みた『MOMENT』から7年。
ほんとうに大切なものは、いつも側にあると気づいた。
関わった「死者」たちと、遺された人々が奏でる不思議な愛の物語。
***
某雑誌で著者が「続編が出ます」宣言をしてからずっと待ち侘びていた本作、
前作↑収録の〝WISH〟で号泣したことは未だに記憶に鮮明です。
だから本作はなかったことにしたい。
前作主人公はキャラ変わってるし、
森野のことは頭の中でずっと南海キャンディーズのしずちゃんだと思って読んでいた私には
前作主人公との恋愛的絡みは正直つらかった。
そもそもこの二人には恋人じゃなく親友でいてほしかったので(前作ラストで嫌な予感は
していたものの「あーあ、やっぱりか」)と失望。
著者の本多氏はほんとに何でも恋愛に持っていくのが好きだよなあ。。。
森野の考え方は好きだし森野自体も好きなだけに、
尚更恋愛要素が彼女の魅力の邪魔をしていた気がしてならない。
本作は遺族や近所の人たちとのやり取りだけで十分いい物語になったと思うのに。
(現に前作がそうだった)
そしてあのラストシーン。寒すぎ。今どきあんな会話って。。。
あれに感動する二十代後半(つまり私と同世代)の人とは正直友達になれないと思う。
あとは単純に内容がつまらない。
〝MOMENT〟の感動はどこに?
というか〝死〟がテーマにも関わらずまったく涙腺に来ない小説というのも
ある意味珍しい気がする。
前作で感動した人にはおすすめしません(まあそうじゃない人にも)。
福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃が、携帯サイトで知り合った
金髪の土木作業員に殺害された。二人が本当に会いたかった相手は誰だったのか?
佐賀市内に双子の妹と暮らす馬込光代もまた、何もない平凡な生活から逃れるため、
出会い系サイトへアクセスする。そこで運命の相手と確信できる男に出会えた光代だったが、
彼は殺人を犯していた。彼女は自首しようとする男を止め、一緒にいたいと強く願う。
光代を駆り立てるものは何か?
その一方で、被害者と加害者に向けられた悪意と戦う家族たちがいた。
誰がいったい悪人なのか?
事件の果てに明かされる殺意の奥にあるものは?
毎日出版文化賞と大佛次郎賞受賞した著者の最高傑作、待望の文庫化。
***
文章うまい。
構成力抜群。
内容めちゃくちゃ面白い。
久しぶりに〝当たり〟の小説に出会えた気がした。
ベタなキャッチコピーをつけるとすれば、本作の場合
〝誰が悪人だったのか〟。
貫井徳郎氏が書きそうな内容なので、氏の〝乱反射〟が面白く読めた人なんかは
こっちも確実におすすめ。
それにしても著者の吉田氏の女性心理の描写力はすごい。
男性作家でここまで巧みに描き出せる人もそういないと思う。
ある女性がウザい女として描写されてるシーンでは、
「ああ、ほんとにいるわこういう女」と妙に感心してしまった。
もちろん女性だけに限らず、とにかく人間の心理描写が非常にうまい作家さんなので、
大勢登場するどの人物にも感情移入することができて、
それぞれのキャラクターと一緒に笑い、怒り、怯え、泣き、と感情の休まる暇がなかった。
終わり方がほんのちょっとだけありきたりだったのが残念。
でもこの手の物語は大抵ラストで主人公が死んで(殺されて)終わる、というパターンが多いので
そこに落とさなかった著者は(偉そうだけど)でかした!と思う。
それにしても本作の主人公は、恋愛の〝恋〟じゃなく〝愛〟がとにかく欲しかったんだろうな。
どの女性に向ける激情も一途で激しいけれど決して恋ではなかった。
この物語が終わったあと、描かれていないその後の人生で、
彼がどちらも手に入れてくれることを願ってやまない。
加えていい物語と出会えたことに心から感謝したい。
Can you see me?
Can you hear me?
Can you see the truth?
ある虹の朝、ニューヨーク市警の失踪人課の男のもとへ、一人の少年が訪ねてきて言った。
「ペギーがいなくなったんだ」と。
彼の捜す少女は、一年ほど前から様子がおかしかったというのだが――。
一方、男の知り合いであるCGデザイナーの日本人の青年も、
ふとしたきっかけからある少女の行方を追い始める。
二人がそれぞれ動いた末に明らかになった真実とは――。
想いあう気持ちがみちびいた、哀しい現実に胸が締めつけられる、
小路幸也待望の書き下ろし長編。
***
の続編。
意味不明に連発される著者の口(?)癖〝~んだ。〟に恒例の文句を言う前に、
これちゃんと推敲した?と本気で訊きたくなった。
これ本気で書いてないでしょ?とも。
これはゲームでたとえるならあれだな、〝FFⅩ-2〟。
第一作目があるから読むけど単体で評価したら最悪、っていう。
そういや一作目の内容も〝FF-Ⅹ〟とかなりかぶってたしな。
幼児性虐待を取り扱った物語は最近多いけど、
本作のそれは生理的に受け付けなかった。
登場人物たちの思考回路や挙動がキモすぎて鳥肌が立った。
一作目を読んだ人は絶対読まないほうがいいです。
巡矢も大して活躍しないし、作中で固有名詞付きのレストランがばんばん出てきて
「著者経費でどんだけ豪遊してんだよ」
と読んでて何か腹立ってきたし。
腹も立つわ鳥肌も立つわ、考えたら最悪の小説だなこれ。
しかもブッシュが大統領の時代にこんだけのCG技術が何である?
こんな技術あと100年、最低でも50年は経たないと持てないだろ。
そして終盤、ダンに向かって彼の父親が「ダニエル」と本名で呼びかけるのは、
息子に最後のメッセージを残すという厳粛な状況である以上当然のことなのでは。
なのにダン、何でそこを訝る?
ミステリ部分も面白くないし、あーもう時間と体力と精神力返してくれ。
そしてこの著者の本を読むたび突っ込んでるけど、〝僕は~した。〟が普通のところを
〝僕は~したんだ。〟とかわざわざ書くの何かキモいからやめてくれ。
心の底からおすすめしません。
あーあ、デビュー作と〝東京バンドワゴン〟は結構よかったのになー。残念。
初恋に秘められた謎(ミステリ)を追え!
吹奏楽の“甲子園”――普門館を目指す弱小吹奏楽部で繰り広げられるチカとハルタの名推理。
『退出ゲーム』の続編にして青春ミステリの決定版。
★収録作品★
スプリングラフィ
周波数は77.4MHz
アスモデウスの視線
初恋ソムリエ
***
の続編である本作。
タイトルと表紙デザインから敬遠する読者(特に男の人)もいるでしょうが、
別にラブコメとかじゃないです。
ひと言で言えば〝ブラバン(吹奏楽)コメディ〟。
〝のだめカンタービレ〟の二ノ宮知子さんあたりに是非漫画家してほしい(ギャボー)。
それにしてもやっぱりこの著者、シリアスよりポップのが断然うまい。
今後はベースをそっちにして新作ばんばん書いてってほしい。
まさに音楽と言っていいほどにリズミカルな文体もさることながら、その内容に今回も何度
爆笑させられたことか。まさに〝文字で読む漫画〟といった感じ←褒めてる
〝周波数は77.4MHz〟、何気にナナシ(774)で2ch入ってるし。
日常の謎系ミステリ小説の中では秀逸です。かなりおすすめ。
少しずつ才能ある奏者が増えていくブラスバンド部の今後も楽しみ。
ていうか主人公のチカ、羨ましすぎる。何でこんなに周囲に変人が集まるんだろ?
この感情は何だろうか?
刑務所内での密室殺人。
社会派でありながら超本格。
読み落としていい箇所はラスト一行までどこにもない。
あなたは絶対に鉄壁のトリックを見破れない。
そして必ず、二度読む。
第55回江戸川乱歩賞受賞作。
***
↑「見落としていい箇所はない」というのは、
内容がひねりまくってあるのでちょっと眼を離すとあっという間にわからなくなるよ、の意。
多すぎて誰が主人公なのかわからない登場人物、
さらにそのうちの何人もが入れ替わってたり偽名使ってたりで
もう脳内地図作成に必死。
何で娯楽のはずのミステリで自分は苦痛を感じてるんだろ?と
読み進めるうちにどんどん疑問が湧いてくる始末。
人物たちの会話も何か変だし(強いて例えるなら英語の教科書の直訳っぽい)、
〝ヤフオク〟とか直截には使わないほうがいい単語をばんばん使っちゃうセンスのなさ。
トリックも〝プリズン・トリック〟なんてタイトルにしてるぐらいだから
さぞかしすごいんだろうと期待してたら、何だそれ。そんなもんがトリックか。
じゃあ何かこのタイトルは単に〝プリズンブレイク〟をもじっただけか。
ラストで読者を驚かせようという魂胆が見え見えな割りにそれも途中で簡単に予想つくし。
物語のキーになる〝トマトファーム事件〟はつまらんし。
今回の乱歩賞はハズレだな、というのが率直な感想。
すすめません。