破綻が近づいてくる。
リストラにおびえる父親・秀吉、
若い大工と密会を重ねる母親・昭子、
引きこもりの長男・秀樹、
10歳年上の元引きこもりの男と交際する長女・知美。
ある日、向かいの家で男に髪をつかまれて引きずられる女を目にした秀樹は、
それがDVだと知り、いつしか女を救うことを夢想しはじめるが…。
過酷な現実にさらされた内山家の人々に生き延びる道はあるのか?
家族について書かれた残酷で幸福な最後の物語。
テレビドラマ化もされたベストセラー。
***
4年前半年間自室に引きこもって母親を死ぬほど心配させ、
市の相談所や心療内科に通わせた親不孝の私から見て、
秀樹のキャラはリアルすぎて正直読んでいてつらかった。
他人の幸せが怖い。
楽しげな集団が怖い。
人の多いところが怖くて行けない。
何でわかってくれないのだと親を責め、そのあとで必ず後悔する。が長くはもたない。
秀樹は生きがいを見つけることでそこから脱したわけだけど、
生きがいを持つ私はどうして相変わらずそういった性癖を留めたままなんだろう?
と突然個人的な話になってしまってすみません。
今まで読んだ龍作品の中では一番面白かったと思う。
内容にぐいぐい引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。
母、父、息子、娘、それぞれの心理的葛藤が細密に描写されていて
とてもフィクションとは思えなかった。
いや、でも思えないというのは、やっぱり今の世の中こういう家族が実際に多いからだとは思う。
リストラ、引きこもり、そういった要素は、本作が書かれた8年前に比べて悪化の一方を
たどっているし。
本作のラストは、そんな厳しい世の中の中で家族が取り得る最高の在り方を示した。
ただ不満なのが、秀吉と知美の描写。
母親の昭子と息子の秀樹はラストで明示される生き方にたどり着くまでが
しっかりと描かれていたのに対し、あとの二人はそうでもないのでどうしてその道を選んだのかが
どうにもしっくり来なかった。とってつけっぽかった。特に知美。何でその道を選択したのか、
途中で最低限の伏線が張ってあってもよかったんじゃないかと思う。
あんたいつから家具に興味持ったのよ?
(まあよくよく考えたら、全員やけにタイミングよく揃って自立しすぎだしな)
作中で書かれる事柄に「え? そうかな?」と首を捻るものが多かったのも気になった。
たとえば〝寂しいほうが悲しいほうよりまし〟というような表現。
それはないだろ。悲しみは泣くことや自分を哀れんで自己陶酔することでどうにか
誤魔化せるけど、寂しさはどうにもならない。
自殺者のほとんどだって悲しみより寂しさが原因で死んでる。
悲しみに耐えられる人間はいても、孤独に耐えられる人間はいない、それが私の持論なので、
かなり違和感があった。
あと引きこもりはプライドが地に落ちているので、基本家族とは口をきかない。
姿も見せない。でも秀樹はそうでもない。これも読んでいていまいち納得がいかず。
とかいろいろ書いたけどなかなかの傑作と思う。
お父さん、お母さん、その子供たち全員におすすめです。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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