ただ、おそらく、これが最初で最後の恋なのだ。
洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけが、社会との繋がりだった鈴木誠。
女性など無縁だった男が、美しいモデルに心を奪われた。
偶然の積み重なりは、鈴木の車の助手席に、美縞絵里を座らせる。
***
さすがベテランだけあって、肩に力の入らない読みやすい文体で
一気に読ませる。
三分の二ぐらいまでは悪く言えばだらだらと間延びした描写が延々と
続くのだけど、終盤を読んだ時点でそれはこのラストを描くための
長い長い布石だったのだなと気付かされ驚かされた。
淡々としつつも猟奇的な物語が、最後の最後で切ないどんでん返しを見せる。
ラスト一行を読んだときには、やりきれないような、それでいて「よかったね」と
頬笑みを湛えた拍手を贈りたくなるような、何とも複雑な気分にさせられた。
周りの人間がどう評しようとその幸せが紛い物であろうと、
本人がそれを幸せと心から感じることが出来るならそれは間違いなく
〝幸せ〟のひとつの形であるのだろう。
この手の話は東野圭吾氏や歌野昌午氏も書いていて
決して目新しくはないのだけれど、それでも心を大きく揺さぶられるのは
偏に著者の力量所以なのだろうと思う。
面白かったです。
ただ、本作を読んだ私の知人も言っていたことだけど、
鈴木誠さん、どうやって免許取ったの?
洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけが、社会との繋がりだった鈴木誠。
女性など無縁だった男が、美しいモデルに心を奪われた。
偶然の積み重なりは、鈴木の車の助手席に、美縞絵里を座らせる。
***
さすがベテランだけあって、肩に力の入らない読みやすい文体で
一気に読ませる。
三分の二ぐらいまでは悪く言えばだらだらと間延びした描写が延々と
続くのだけど、終盤を読んだ時点でそれはこのラストを描くための
長い長い布石だったのだなと気付かされ驚かされた。
淡々としつつも猟奇的な物語が、最後の最後で切ないどんでん返しを見せる。
ラスト一行を読んだときには、やりきれないような、それでいて「よかったね」と
頬笑みを湛えた拍手を贈りたくなるような、何とも複雑な気分にさせられた。
周りの人間がどう評しようとその幸せが紛い物であろうと、
本人がそれを幸せと心から感じることが出来るならそれは間違いなく
〝幸せ〟のひとつの形であるのだろう。
この手の話は東野圭吾氏や歌野昌午氏も書いていて
決して目新しくはないのだけれど、それでも心を大きく揺さぶられるのは
偏に著者の力量所以なのだろうと思う。
面白かったです。
ただ、本作を読んだ私の知人も言っていたことだけど、
鈴木誠さん、どうやって免許取ったの?
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「愛だよ、愛」
廃刊寸前のオカルト雑誌「アーバン・レジェンド」の編集長・岩波美里は頭を悩ませていた。
謎の殺し屋を追った「死神」特集が大コケした責任を問われた彼女は、
新しい題材を探すようライターの陣内に命じる。
ネットで話題になっている呪いの映像の真相を追い始めた陣内は、
恐ろしい人類滅亡計画に辿りつき…。
「死神」に狙われながらも計画を防ごうと奮闘する陣内と天才投資家の本宮の運命は。
***
知人のプロ作家である七尾与史さんの最新作。
〝死亡フラグが立ちました! 凶器は…バナナの皮!?殺人事件〟の続編なので
そちらを読んでからのほうがより楽しめます。
今回は超高性能な人工知能が出てきたり魔女が登場したりと、
オカルトというよりはややファンタジー寄りといった感じ。
それでもめちゃくちゃ絵心のあるひとがわざと崩して描いた絵のような、
本当はかなりの筆力を有しているのにその能力よりも
いい意味でのバカバカしさ、コミカルさを前面に押し出して物語を紡ぎ出す
著者の七尾氏のお茶目さには相変わらず好感を持てた。
ミステリとしての伏線ももちろんしっかりしていて、
七尾氏特有のユーモラスな中に見え隠れするダークさも堪能出来、
非常に楽しませてもらいました。
そろそろ七尾さんがコミカルさを一切排除して書いた
シリアスものが読んでみたいな~。
七尾さん、近々お願いします。
廃刊寸前のオカルト雑誌「アーバン・レジェンド」の編集長・岩波美里は頭を悩ませていた。
謎の殺し屋を追った「死神」特集が大コケした責任を問われた彼女は、
新しい題材を探すようライターの陣内に命じる。
ネットで話題になっている呪いの映像の真相を追い始めた陣内は、
恐ろしい人類滅亡計画に辿りつき…。
「死神」に狙われながらも計画を防ごうと奮闘する陣内と天才投資家の本宮の運命は。
***
知人のプロ作家である七尾与史さんの最新作。
〝死亡フラグが立ちました! 凶器は…バナナの皮!?殺人事件〟の続編なので
そちらを読んでからのほうがより楽しめます。
今回は超高性能な人工知能が出てきたり魔女が登場したりと、
オカルトというよりはややファンタジー寄りといった感じ。
それでもめちゃくちゃ絵心のあるひとがわざと崩して描いた絵のような、
本当はかなりの筆力を有しているのにその能力よりも
いい意味でのバカバカしさ、コミカルさを前面に押し出して物語を紡ぎ出す
著者の七尾氏のお茶目さには相変わらず好感を持てた。
ミステリとしての伏線ももちろんしっかりしていて、
七尾氏特有のユーモラスな中に見え隠れするダークさも堪能出来、
非常に楽しませてもらいました。
そろそろ七尾さんがコミカルさを一切排除して書いた
シリアスものが読んでみたいな~。
七尾さん、近々お願いします。
もう聞こえない、死者からの口笛。
あたし、月夜は18歳。紫の瞳を持った、無花果村のもらわれっ子。
誰よりも大好きだったお兄ちゃんに死なれてから、あたしはどうもおかしくて…
少女の思いが世界を塗り替える。そのとき村に起こった奇跡とは!?
***
自分の近しい人間との「別れ」はどういうことかを、
ライトで個性的なタッチで描いた作品。
出てくる台詞や登場人物たちの挙動や挿入されるエピソードは
悪い言い方をすればベタでありふれているけれど、
それを桜庭さんならではの味付けで彩ってあるので読後何とも言えない
寂寥感と切なさを感じた。
大切な人間との別れは、
相手が生きている場合でも死を伴う別れであっても
どうしようもなく遣る瀬無いものがある。
でもそれでも残された者は生きて前に向かって歩いていくしかない。
そんな、ともすればクサくなってしまいがちなテーマを、
敢えて筆致をライトにすることでさらっと読ませてしまう桜庭さんの技量には
舌を巻いた。
独創性溢れる主人公たちの住む町、無花果町の描写も見どころ。
ちょっと若いひと向けの物語だけど、まあまあおすすめかな。
シンプルなラブソングのように、読み手の心に飾りのないストレートな
真実を伝えてくれる。
あたし、月夜は18歳。紫の瞳を持った、無花果村のもらわれっ子。
誰よりも大好きだったお兄ちゃんに死なれてから、あたしはどうもおかしくて…
少女の思いが世界を塗り替える。そのとき村に起こった奇跡とは!?
***
自分の近しい人間との「別れ」はどういうことかを、
ライトで個性的なタッチで描いた作品。
出てくる台詞や登場人物たちの挙動や挿入されるエピソードは
悪い言い方をすればベタでありふれているけれど、
それを桜庭さんならではの味付けで彩ってあるので読後何とも言えない
寂寥感と切なさを感じた。
大切な人間との別れは、
相手が生きている場合でも死を伴う別れであっても
どうしようもなく遣る瀬無いものがある。
でもそれでも残された者は生きて前に向かって歩いていくしかない。
そんな、ともすればクサくなってしまいがちなテーマを、
敢えて筆致をライトにすることでさらっと読ませてしまう桜庭さんの技量には
舌を巻いた。
独創性溢れる主人公たちの住む町、無花果町の描写も見どころ。
ちょっと若いひと向けの物語だけど、まあまあおすすめかな。
シンプルなラブソングのように、読み手の心に飾りのないストレートな
真実を伝えてくれる。
私は私の心のまま、あなたに会いにいきます。
拉致監禁。両手親指切断。暴行、そして扼殺。
あまりに残虐な連続OL殺人事件が世間を賑わせていたとき、
ひとりの女子高生が俺の前に現れた。
「私、たぶん犯人知ってる」。
そうだとしたら何?
私をどうするの?
私を殺す?
あなたに私を殺せる?
ノンストップ恋愛ホラーサスペンス。
***
文体が軽いのは誉田氏のデフォルトだから仕方ないにしても、
あまりにも先の展開が読め過ぎ。
途中経過はもちろん、オチまでどうなるのかが簡単に読めてしまう。
しかも登場人物たちが作者に都合よく動き過ぎ。
人物のための物語、じゃなく
物語のための人物、になってしまっている感があった。
あと、登場人物たちの心理描写を始め
描写不足の部分がかなり多い。
かと思えば喫茶店のウェイトレスのどうでもいい台詞までもを描写したりしていて
「そういうところはいいからもっと肝心な点を書いてよ」と
著者に突っ込みを入れたくなった。
中盤からのSF路線も、決して嫌いじゃないけど
そこはもっと瀬名秀明氏みたいに徹底的に科学的検証を織り込むか
そうでなければもっと全体にファンタジー色で染めていい感じにぼやかしてほしいのに
舞台だけは変にリアルに現代なものだからどっちつかずで中途半端な感じがした。
というかあの「子供」も、普通に考えればまず産ませないだろうし、
産ませるにしてもそれまでにもっと主人公の葛藤シーンを入れるべきだったと思う。
「主人公バカ? 何考えてんの?」と読んでいて呆れてしまったし。
あまりおすすめしません。
ていうかこれ、明らかに「おもいでエマノン」のパクリだろ。
拉致監禁。両手親指切断。暴行、そして扼殺。
あまりに残虐な連続OL殺人事件が世間を賑わせていたとき、
ひとりの女子高生が俺の前に現れた。
「私、たぶん犯人知ってる」。
そうだとしたら何?
私をどうするの?
私を殺す?
あなたに私を殺せる?
ノンストップ恋愛ホラーサスペンス。
***
文体が軽いのは誉田氏のデフォルトだから仕方ないにしても、
あまりにも先の展開が読め過ぎ。
途中経過はもちろん、オチまでどうなるのかが簡単に読めてしまう。
しかも登場人物たちが作者に都合よく動き過ぎ。
人物のための物語、じゃなく
物語のための人物、になってしまっている感があった。
あと、登場人物たちの心理描写を始め
描写不足の部分がかなり多い。
かと思えば喫茶店のウェイトレスのどうでもいい台詞までもを描写したりしていて
「そういうところはいいからもっと肝心な点を書いてよ」と
著者に突っ込みを入れたくなった。
中盤からのSF路線も、決して嫌いじゃないけど
そこはもっと瀬名秀明氏みたいに徹底的に科学的検証を織り込むか
そうでなければもっと全体にファンタジー色で染めていい感じにぼやかしてほしいのに
舞台だけは変にリアルに現代なものだからどっちつかずで中途半端な感じがした。
というかあの「子供」も、普通に考えればまず産ませないだろうし、
産ませるにしてもそれまでにもっと主人公の葛藤シーンを入れるべきだったと思う。
「主人公バカ? 何考えてんの?」と読んでいて呆れてしまったし。
あまりおすすめしません。
ていうかこれ、明らかに「おもいでエマノン」のパクリだろ。
いついかなるときも、穏やかに微笑む人だった。
エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、
逮捕・拘留された安治川事件。
犯人の仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。
この事件に興味をもった小説家の「私」は、
ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。
周辺の人物は一様に「仁藤はいい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。
さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが不審な死を遂げていることが判明し……。
仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその理由とは!?
貫井氏が「ぼくのミステリーの最高到達点」と語る傑作。
読者を待つのは、予想しえない戦慄のラスト。
***
冒頭で事件を提示し、何故それが起こったのかということを
周囲へのインタビューを交えて描き、徐々に炙り出していくという手法は
〝愚行録〟に通じるものがある。
けれど個人的にはあの作品よりも楽しんで読むことが出来た。
というか最早面白くて一気読み。
ただ、終盤で「いかにもわかりやすい理由を事件に与えて
話を締めくくることは簡単だ」と登場人物に語らせている割に、
本作自体がそういう「いかにもわかりやすいオチ」を付与されて
薄っぺらく終わってしまっているのが残念だった。
結局著者が本作で言いたかったのは
「人間なんて端から見ててもその本質は決して窺い知れないものだ」
ということで、でもそんなテーマは今更ベタだし
直球すぎて若干鼻白んでしまった。
それともこれがエンタメ小説の限界なんだろうか。そうは思いたくないけど。
とりあえず自分の意見を言うなら、
どうせエンタメなら仁藤俊実の異常性、さもなくば
異常か正常かもわからない得体の知れなさを
徹底的に強調してほしかったと思う。
こんな「わかりやすいオチ」に逃げてほしくなかった。
テーマとかそういう難しいことを考えず
普通に読むぶんにはとても面白い内容でおすすめだけど、
貫井氏はもっと深い世界が書けるひとだと思うだけに惜しい。
エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、
逮捕・拘留された安治川事件。
犯人の仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。
この事件に興味をもった小説家の「私」は、
ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。
周辺の人物は一様に「仁藤はいい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。
さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが不審な死を遂げていることが判明し……。
仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその理由とは!?
貫井氏が「ぼくのミステリーの最高到達点」と語る傑作。
読者を待つのは、予想しえない戦慄のラスト。
***
冒頭で事件を提示し、何故それが起こったのかということを
周囲へのインタビューを交えて描き、徐々に炙り出していくという手法は
〝愚行録〟に通じるものがある。
けれど個人的にはあの作品よりも楽しんで読むことが出来た。
というか最早面白くて一気読み。
ただ、終盤で「いかにもわかりやすい理由を事件に与えて
話を締めくくることは簡単だ」と登場人物に語らせている割に、
本作自体がそういう「いかにもわかりやすいオチ」を付与されて
薄っぺらく終わってしまっているのが残念だった。
結局著者が本作で言いたかったのは
「人間なんて端から見ててもその本質は決して窺い知れないものだ」
ということで、でもそんなテーマは今更ベタだし
直球すぎて若干鼻白んでしまった。
それともこれがエンタメ小説の限界なんだろうか。そうは思いたくないけど。
とりあえず自分の意見を言うなら、
どうせエンタメなら仁藤俊実の異常性、さもなくば
異常か正常かもわからない得体の知れなさを
徹底的に強調してほしかったと思う。
こんな「わかりやすいオチ」に逃げてほしくなかった。
テーマとかそういう難しいことを考えず
普通に読むぶんにはとても面白い内容でおすすめだけど、
貫井氏はもっと深い世界が書けるひとだと思うだけに惜しい。
ぼくの心に、負の感情が降り積もっていく。
少年院を出た彼は本当に更正できたのか。
久藤美也は自分の容姿や頭脳が凡庸なことを嫌悪している。
頭脳は明晰、経済的にも容姿にも恵まれている葛城拓馬だが、
決して奢ることもなく常に冷静で淡々としている。
神原尚彦は両親との縁が薄く、自分の境遇を不公平と感じている。
〈上巻〉第一部ではこの3人の中学生が殺人者になるまでを、
その内面を克明にたどりながら描く。
その3人が同じ少年院に収容されて出会うのが第二部。
過酷で陰湿な仕打ちで心が壊されていく中、3人の間には不思議な連帯感が生まれる。
〈下巻〉第三部。少年院を退院した彼らはそれぞれ自分の生活を取り戻そうとするが、
周囲の目は冷たく、徐々に行き場をなくしていく。そして、再び3人が出会う日がくる。
少年犯罪を少年の視点から描いた、新機軸のクライムノベル。
***
貫井徳郎という作家は、
とにかく人間の心をとことんまでに掘り下げて書くひとなので、
胸が抉られていくようで精神が浸食されていくようで
いつも読んでいて怖くなる。
上巻は殺人を犯してしまった少年三人の心中を純文学ばりに細密に描いていて、
そんな彼らに同化してしまいそうになる、彼らの心に飲みこまれそうになる
自分を感じた。
ところが下巻は一転して様相が純文学モードからエンタメモードに切り替わる。
そこが貫井氏のミステリ作家たる所以なのだとは思うけれど、
読むひとによってはその変貌ぶりに戸惑いを感じるのではないかとも思った。
テーマは一貫しているものの、雰囲気があまりにごろっと変わるので。
なので本作は、人間の心を突き詰めて描き出しながらも
根本に流れるものはミステリなのだということを、
上巻の純文学性はあくまで下巻のミステリ的展開を盛り上げるための
長い長い布石なのだということを、忘れないで読み進めてほしいと思う。
単なる謎解きに終始しがちなミステリというジャンルを
ここまで深いものに仕上げられる貫井氏の力量には
相も変わらずただただ感服するばかりだったけれど。
おすすめです。
少年院を出た彼は本当に更正できたのか。
久藤美也は自分の容姿や頭脳が凡庸なことを嫌悪している。
頭脳は明晰、経済的にも容姿にも恵まれている葛城拓馬だが、
決して奢ることもなく常に冷静で淡々としている。
神原尚彦は両親との縁が薄く、自分の境遇を不公平と感じている。
〈上巻〉第一部ではこの3人の中学生が殺人者になるまでを、
その内面を克明にたどりながら描く。
その3人が同じ少年院に収容されて出会うのが第二部。
過酷で陰湿な仕打ちで心が壊されていく中、3人の間には不思議な連帯感が生まれる。
〈下巻〉第三部。少年院を退院した彼らはそれぞれ自分の生活を取り戻そうとするが、
周囲の目は冷たく、徐々に行き場をなくしていく。そして、再び3人が出会う日がくる。
少年犯罪を少年の視点から描いた、新機軸のクライムノベル。
***
貫井徳郎という作家は、
とにかく人間の心をとことんまでに掘り下げて書くひとなので、
胸が抉られていくようで精神が浸食されていくようで
いつも読んでいて怖くなる。
上巻は殺人を犯してしまった少年三人の心中を純文学ばりに細密に描いていて、
そんな彼らに同化してしまいそうになる、彼らの心に飲みこまれそうになる
自分を感じた。
ところが下巻は一転して様相が純文学モードからエンタメモードに切り替わる。
そこが貫井氏のミステリ作家たる所以なのだとは思うけれど、
読むひとによってはその変貌ぶりに戸惑いを感じるのではないかとも思った。
テーマは一貫しているものの、雰囲気があまりにごろっと変わるので。
なので本作は、人間の心を突き詰めて描き出しながらも
根本に流れるものはミステリなのだということを、
上巻の純文学性はあくまで下巻のミステリ的展開を盛り上げるための
長い長い布石なのだということを、忘れないで読み進めてほしいと思う。
単なる謎解きに終始しがちなミステリというジャンルを
ここまで深いものに仕上げられる貫井氏の力量には
相も変わらずただただ感服するばかりだったけれど。
おすすめです。
絶対に埋められない空白。
ダブル不倫、ストーカー、心変わり。どれも自分には関係ないと思ってた。
栄転を目前にした検察官が最後に手がけた事件は、社内不倫の果ての殺人だった。
故意なのか、それとも事故なのか。
「検事さんにだけは本当のことを知ってもらいたい」と、恋の始まりから終わりまでを
ねっとり語る被告の言葉が、真面目な官吏のおだやかな毎日を
少しずつむしばんでいく。
思わず我が身を振り返る心理サスペンス長編。
***
。。。惜しすぎる作品だと思う。
設定もいい、展開も面白い、人間描写も卓越している、
なのにラストがあまりに尻切れとんぼ。
もうちょっと狂気に満ちたものを予感させる終わり方でもよかったんじゃないかと。
ここまで物語を負の方向に引っ張っておいて
そのラストはあまりに中途半端なんじゃないかと肩透かしを食らった気分だった。
でも、いかにも単純な動機で犯罪を犯したかのように報道される
犯罪者の一人ひとりにもそれぞれにドラマ(というと言い方は悪いけど)が
あるのだと改めて気付かされる、そのテーマの明示の仕方はいいなと思う。
たぶん著者もそこから本作の着想を得たのだろうなと思った。
深く考えずエンタメとして読むぶんにはまあまあおすすめかな。
ダブル不倫、ストーカー、心変わり。どれも自分には関係ないと思ってた。
栄転を目前にした検察官が最後に手がけた事件は、社内不倫の果ての殺人だった。
故意なのか、それとも事故なのか。
「検事さんにだけは本当のことを知ってもらいたい」と、恋の始まりから終わりまでを
ねっとり語る被告の言葉が、真面目な官吏のおだやかな毎日を
少しずつむしばんでいく。
思わず我が身を振り返る心理サスペンス長編。
***
。。。惜しすぎる作品だと思う。
設定もいい、展開も面白い、人間描写も卓越している、
なのにラストがあまりに尻切れとんぼ。
もうちょっと狂気に満ちたものを予感させる終わり方でもよかったんじゃないかと。
ここまで物語を負の方向に引っ張っておいて
そのラストはあまりに中途半端なんじゃないかと肩透かしを食らった気分だった。
でも、いかにも単純な動機で犯罪を犯したかのように報道される
犯罪者の一人ひとりにもそれぞれにドラマ(というと言い方は悪いけど)が
あるのだと改めて気付かされる、そのテーマの明示の仕方はいいなと思う。
たぶん著者もそこから本作の着想を得たのだろうなと思った。
深く考えずエンタメとして読むぶんにはまあまあおすすめかな。
今はただ、走り続けろ。
2年前に自殺した腹違いの兄の墓参りをするため、避け続けてきた故郷に
12年ぶりに帰ってきた綾乃。兄は高校時代の親友・日南子の恋人でもあった。
翌日、綾乃は、顔を見る気もなかった父の前に引っ張りだされる。そ
こで聞かされたのは、驚愕のセリフ――私の議席は、お前が継げ!
綾乃にはまったくそのつもりはない。だが、その夜、事件は起きた。
綾乃は、幼馴染にして今は地元を牛耳る暴力団の組長・天堂に紹介された
女ヤクザ・穂波とともに、兄の死の真相を探るため、街を疾走しはじめる。
***
知人の作家さんの最新作。
今までの氏の作品の中で一番面白かった。
こう言ったら失礼かも知れないけど、
牧村作品の登場人物たちはどこか台詞が舞台的というか
それが個性といえば個性なのだろうけど自然さがない感じがあったのだけど、
今回はそういったこともなく人物たちの会話もテンポがよくて面白くて深みがあって、
展開もスピーディなので飽きることなく読むことが出来た。
私は個人的にはハードボイルドは苦手なのだけど
本作はそこまでコテコテのハードボイルドではないので
作品世界にも入りやすかった。
友人や親子の絆といったものも謎やアクションの中に無理なく盛り込まれていて、
いろいろな意味で物語を楽しむことが出来た。
ただひとつ残念だったのは、
既に逝去した人間ではあるものの物語の核となる人物、
ヒロインの綾乃の兄・直樹のエピソードが少なかったこと。
彼についての描写がもう少しあれば、内容にもっと謎の気配が満ちて
ラストで明かされるある真実にももっと驚くことが出来たのに、と思う。
読者としては彼のことをもっと知りたかった。
。。。と書いてはみたものの全体には非常に良作です。
牧村氏は、偉そうなことを言わせてもらえば書くたびに格段にうまくなっていっている
作家さんなので、今後にも期待。
おすすめです。
追記:
牧村氏曰く、本書は「ブラまよ」と略すそうです笑
確かにそうだ笑
2年前に自殺した腹違いの兄の墓参りをするため、避け続けてきた故郷に
12年ぶりに帰ってきた綾乃。兄は高校時代の親友・日南子の恋人でもあった。
翌日、綾乃は、顔を見る気もなかった父の前に引っ張りだされる。そ
こで聞かされたのは、驚愕のセリフ――私の議席は、お前が継げ!
綾乃にはまったくそのつもりはない。だが、その夜、事件は起きた。
綾乃は、幼馴染にして今は地元を牛耳る暴力団の組長・天堂に紹介された
女ヤクザ・穂波とともに、兄の死の真相を探るため、街を疾走しはじめる。
***
知人の作家さんの最新作。
今までの氏の作品の中で一番面白かった。
こう言ったら失礼かも知れないけど、
牧村作品の登場人物たちはどこか台詞が舞台的というか
それが個性といえば個性なのだろうけど自然さがない感じがあったのだけど、
今回はそういったこともなく人物たちの会話もテンポがよくて面白くて深みがあって、
展開もスピーディなので飽きることなく読むことが出来た。
私は個人的にはハードボイルドは苦手なのだけど
本作はそこまでコテコテのハードボイルドではないので
作品世界にも入りやすかった。
友人や親子の絆といったものも謎やアクションの中に無理なく盛り込まれていて、
いろいろな意味で物語を楽しむことが出来た。
ただひとつ残念だったのは、
既に逝去した人間ではあるものの物語の核となる人物、
ヒロインの綾乃の兄・直樹のエピソードが少なかったこと。
彼についての描写がもう少しあれば、内容にもっと謎の気配が満ちて
ラストで明かされるある真実にももっと驚くことが出来たのに、と思う。
読者としては彼のことをもっと知りたかった。
。。。と書いてはみたものの全体には非常に良作です。
牧村氏は、偉そうなことを言わせてもらえば書くたびに格段にうまくなっていっている
作家さんなので、今後にも期待。
おすすめです。
追記:
牧村氏曰く、本書は「ブラまよ」と略すそうです笑
確かにそうだ笑
クワコー使えず。
クワコー、海へ行く!
水着とケータイを残して消えた美女。不気味なストーカーの影。
日本一の下流大学教師・桑潟幸一が事件解決に乗り出した。
★収録作品★
期末テストの怪
黄色い水着の謎
***
ミステリのネタ自体は地味なのだけど、
キャラと文体が非常に個性的なので一気に読ませる。
そして著者の奥泉氏、けっこうな売れっ子作家なのに
何故ここまで所帯じみた主人公を書けるのかが
クワコーシリーズを読むたびに不思議でならない。
まだ作家になる前にこういう赤貧生活を送ったことでもあるのだろうか。
そんなことを想像しながら読んでも面白い物語だった。
ただちょっと今回はクワコーの性的な性癖が
女の身としては(潔癖すぎるかも知れないけど)ちょっと引いた。
おっぱいパブとか行くなよクワコー。。。笑
それにしても、
爆笑、とかいうんじゃなくところどころで地味にくすりと笑わせる
著者の独特の笑いの才能には毎回「センスあるよなあ」と
感服させられる。
ちょっとだけクセのある作家さんですが
ハマればかなり面白いのでおすすめです。皆さんも是非。
クワコー、海へ行く!
水着とケータイを残して消えた美女。不気味なストーカーの影。
日本一の下流大学教師・桑潟幸一が事件解決に乗り出した。
★収録作品★
期末テストの怪
黄色い水着の謎
***
ミステリのネタ自体は地味なのだけど、
キャラと文体が非常に個性的なので一気に読ませる。
そして著者の奥泉氏、けっこうな売れっ子作家なのに
何故ここまで所帯じみた主人公を書けるのかが
クワコーシリーズを読むたびに不思議でならない。
まだ作家になる前にこういう赤貧生活を送ったことでもあるのだろうか。
そんなことを想像しながら読んでも面白い物語だった。
ただちょっと今回はクワコーの性的な性癖が
女の身としては(潔癖すぎるかも知れないけど)ちょっと引いた。
おっぱいパブとか行くなよクワコー。。。笑
それにしても、
爆笑、とかいうんじゃなくところどころで地味にくすりと笑わせる
著者の独特の笑いの才能には毎回「センスあるよなあ」と
感服させられる。
ちょっとだけクセのある作家さんですが
ハマればかなり面白いのでおすすめです。皆さんも是非。
わたくしのすべてのさひはひをかけてねがふ。
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。
すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。
人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。
美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。
彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?
絆はとても近いところにもあるのかもしれない――。
これは“古書と絆”の物語。
プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅰ
第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
第三話 宮沢賢治 『春と修羅』(関根書店)
エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅱ
***
今まで出てきたキャラクターたちが勢ぞろいしていて楽しめた一冊。
栞子さんの秘密についてもちょっとだけ触れられています。
五浦くんとの仲も微妙に進展して微笑ましくなってしまう。
そして周到な取材に裏付けされた著者の古本の知識が相変わらずすごい。
昔に出版された本を読みたい気にさせてくれるという点で
著者は出版業界にとてもいい意味で貢献していると思う。
どの話もとても面白いミステリなのだけど、
今回一番驚かされたのは何と言ってもエピローグ。
「え?!」と思わず声が出た。
本シリーズはかなりの人気シリーズなので
話が核心に触れるのはまだまだ先なんだろうけど、
早く続きを読みたいという気にさせてくれる時点で
「著者め、うまいな。。。」と思わずほくそ笑んでしまった。
おすすめです。
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。
すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。
人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。
美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。
彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?
絆はとても近いところにもあるのかもしれない――。
これは“古書と絆”の物語。
プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅰ
第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
第三話 宮沢賢治 『春と修羅』(関根書店)
エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・Ⅱ
***
今まで出てきたキャラクターたちが勢ぞろいしていて楽しめた一冊。
栞子さんの秘密についてもちょっとだけ触れられています。
五浦くんとの仲も微妙に進展して微笑ましくなってしまう。
そして周到な取材に裏付けされた著者の古本の知識が相変わらずすごい。
昔に出版された本を読みたい気にさせてくれるという点で
著者は出版業界にとてもいい意味で貢献していると思う。
どの話もとても面白いミステリなのだけど、
今回一番驚かされたのは何と言ってもエピローグ。
「え?!」と思わず声が出た。
本シリーズはかなりの人気シリーズなので
話が核心に触れるのはまだまだ先なんだろうけど、
早く続きを読みたいという気にさせてくれる時点で
「著者め、うまいな。。。」と思わずほくそ笑んでしまった。
おすすめです。
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kovo
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女性
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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