「あのね、矢部君の考えてることは、星を見るよりも明らかなんだ」
「星じゃなくて、火だ」
あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。
2XXX年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。
犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、
いかにそれぞれの人生を送るのか?
傑作連作短編集。
★収録作品★
終末のフール
太陽のシール
篭城のビール
冬眠のガール
鋼鉄のウール
天体のヨール
演劇のオール
深海のポール
***
〝アルマゲドン〟〝ディープインパクト〟〝インデペンデンス・デイ〟を最近立て続けに
観たせいか(とはいえ最後の一つは隕石モノじゃないけど)、
本作を数年ぶりに読み返してみて、同じ隕石モノでもどこに焦点をあてるかで
まったく別物になるなあ、と新鮮味を感じてしまった。演出の違い、というか。
本作には隕石の脅威やその被害、パニックに陥る人々といった描写はまったくなく、
怯え、騒ぎ、暴れることにも既に倦んだ、一時的な小康状態の最中にある人間たちの
暮らしぶりと心理がただ淡々と描かれている。
その気になればいくらでもドラマチックに(悪くいえば大げさ&お涙頂戴的に)表現し得る
〝人類滅亡〟というモチーフも、伊坂氏の手にかかるとただ悲しいほどに静謐で透き通った、
現実味溢れる物語になるのだなと感心した。
同じ痛みを抱えるもの同士は否が応にも惹かれ合い分かりあうことができるけど、
本作の登場人物たち全員にはっきりとした絆が感じられるのは〝もうすぐ滅ぶ〟という
共通した痛みを抱えているからなんだろうな。
数年前、私の地元にミカン大のヒョウが降って町中の車の屋根がボコボコになるという
惨事が起きたのですが、その際表を出歩くたびに見知らぬ人たちとも苦笑いを交わしながら
「すごいことになりましたね」と当たり前のように気さくに言葉を交わせていたことを思い出した。
同じ辛い目に遭うから心が近づく。
もう時間がないから本音で語れる。
天災も悪くないかも、とこういう物語を読むたび思う。
因みに本作、マンガ版があるそうです↓
小説のマンガ版は乙一氏の〝GOTH〟だけ読んだことがあるけどあれは出来がよくて
思わず買ってしまったほど。
これはどうなんだろ。今度本屋で探してみよ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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