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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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私の心は、もうすぐ死にます。



ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。
仕事は霊魂を体内に受け入れること。
彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。
ある日、殺傷沙汰のショックで生きながら霊魂が抜けてしまった少女・エリカを救うことに成功する。
だが、白い部屋でエリカと語ったジュンはその面影に恋をしてしまったのだった…。
斬新な設定を意外なラストまで導き、ヴィジョン豊かな美しい文体で読ませる新感覚ホラーの登場。
第十回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。 

★収録作品★
 
 白い部屋で月の歌を
 鉄柱

***

近年のホラー小説は〝幽霊or怪物の脅威〟といった定番ものから
人間の狂気をテーマにしたサイコもの、
理系知識を駆使して描かれた〝リングシリーズ(これ実は貞子の呪いの話じゃないんですよ。
知ってた?)〟〝パラサイト・イヴ〟といった(いわゆるサイエンスホラー)ものに
シフトしつつありますが、そこに新たに加わったジャンルが〝切ない〟ホラー。
本書はそれの先駆けではないでしょうか。

〝花まんま〟で直木賞を受賞した朱川氏のデビュー作である本作ですが、
新人作家とは思えないほど文章のクオリティが高い。
極めてシンプルな筆致なのに(いや、むしろシンプルだからこそかな)、純文学小説のように美しく、
主人公・ジュンの感情がもう苦しいから勘弁してと言いたくなるほど流れ込んでくる。
ジュンは霊魂をその身にとり憑かせるいわゆる〝憑巫(よりまし)〟を生業とする少年だけど、
むしろ読み手であるこっちに彼という存在が憑依したような感覚に陥る。
だから当然の流れとして(女の私ですら)彼と共に〝エリカ〟という奔放な少女に恋をしてしまう。
何というかもう実際の自分の経験より数段上の、密やかではあるけれど
〝狂おしい〟といっていいほどのテンションで。それはジュン、ひいてはこの物語全体に、
得体の知れない〝儚さ〟が漂っているからなおさらそう感じるんだろうけど。

そしてラストで明かされるその〝儚さ〟の正体。
あまりに切なすぎて正直悶えた。
本作と同時に〝オール読物推理小説新人賞〟も受賞している朱川氏だけあって
この物語も多分にミステリ要素を含んでおり、序盤からいたるところに
伏線がばらまかれているのですが、ここまで切ない伏線はこれまでに見たことがない。というか
こんな悲しい伏線仕掛けないでほしかった。
終盤でそれが全部回収されて一つのとんでもない真実を導き出したときにはもう、
驚くより何よりやるせなさで胸がいっぱいになってしまった。

胸いっぱいといえばラスト三行の表現もそう。ヘタなそのへんの純文学凌駕してます。
初読からだいぶ経つのに、未だにその文章だけは忘れられない。
将来ボケたらその三行ブツブツ口にしてそうな自分が怖い。
そしてその三行が示すある行為を実際にやってそうな自分が怖い←意味は読めばわかります。

ものすごくおすすめの小説です。
同時収録作〝鉄柱(〝くろがねのみはしら〟と読みます)〟も、
〝人間はどういうタイミングで死ぬのが一番幸せなのか〟という普遍的テーマが描かれていて
とても面白い(ちなみに単純な怖さでいったらこっちのほうが上)。

出会えてよかった、
心からそう思わせてくれる物語です。
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「竜崎と呼んでください」



あなたはLの伝説を見る!
「週刊少年ジャンプ」で大人気を博した“予測不可能”なサスペンス漫画が、待望のノベライズ! 
原作の大場・小畑、両先生が熱望した、ノベル界で最も熱い西尾維新先生が描く
完全オリジナルストーリー。 

***

発売当時予約までしてこれを買った私は何だかんだでデスノート大好きらしい。
というか著者の西尾維新氏がかなり好きなのです。
ラノベは全然読まない私ですが彼の〝戯言シリーズ〟はとても楽しく読破しました。

という余談はまあいいとして、

原作3巻のLの台詞

〝南空ナオミ 女性でありながら異例の早さでFBI捜査官として採用され
2002年6月22日「ロサンゼルスBB連続殺人事件」と呼ばれた事件の犯人を逮捕 
そうか あの事件 私の下で働いてくれた 彼女が日本に…〟

本作はまさにその「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を描いたもの。
中表紙もLと南空ナオミの2ショットです。
この小説では当時26歳と22歳だったナオミ&Lの話を読むことができる(ちなみに
物語の語り部はメロ。
加えてアイバー&ウエディのコンビまで出てくるわ〝L〟〝M〟〝N〟だけでなく
〝A〟や〝B〟についてまで語られるわ、著者のサービスっぷり(彼自身も
楽しんで書いてそうですが)には頭が下がる思いです)。

ナオミの性格が原作と違う、
ラストを読んだときに「そりゃないだろ」と文句を言いたくなる(決して内容がつまらないという
意味ではないです。たぶん〝腐女子〟と呼ばれるLファンの人たちは腹立つだろうなといった類の)、
本作に対してよく呈される苦言ですが、総合的には非常によくできた娯楽小説。
西尾氏独特の言葉遊び的文体がデスノートの世界観にもひどくマッチしているし、
作中に仕掛けられたあるトリック(事件とは別の)も、ミステリ小説では常套手段ではあるものの
この〝デスノート〟という舞台で使うことによってこの上なく効果を発揮している。
これは原作を読み込んでいる人ほど騙されるはず。かくいう私も(ミステリ小説なら腐るほど
読んでいるにも関わらず)見事に引っかかりました(そして「西尾、うまい!」と思わず叫んだ)。

というか既に上述しましたが、西尾維新さん、相当デスノート読み込んでそうだな彼は。。。
そうでなきゃ、才能だけじゃ、ここまで見事に原作をうまく活かした物語は書けないでしょう。
まだまだまだまだ自分はデスノのサイドストーリー書けるし書きたいんだむしろ書かせろ、って
オーラが文章からガンガン伝わってくる。
ラスト一行なんか原作に鮮やかなほどうまく結びついていて鳥肌たったし。
私的には是非書いてほしいです。本作中でちょっとだけ触れられていた、
Lとワタリの出会いの話、
世界三大探偵であるワイミーズハウス出身者X、Y、Zの探偵合戦、
おもしろそう。かなり読んでみたい。
気長に期待して待つとします。

ちなみに本作を読むとLがなぜカポエラを使えるのかがわかります。
ではアニメ版デスノートのOP(Lのカポエラが見れます笑)を貼り付けて今日はこれにて。


今気づいたけど最初のLがお菓子食べてるところでちゃんとサクサク音が入ってるとこが芸細かくてすごい。
そのうち殺してやるから。

 

熊の置物を赤い紐で引いて立っていた少女アリス。信用金庫に勤める由記子と出会うが、
「わたしのこと、おぼえていて」と言い残して死んでしまう…。
大人の理不尽な行為により絶望した少年・少女たちを描く5つの短編、衝撃の結末。
新感覚ホラー・ミステリー。

★収録作品★

 不思議じゃない国のアリス
 青い月
 飛行熱
 空中庭園
 銃器のアマリリ
 旅をする人

***

かの乙一氏が本書を評して曰く、

少年少女はバスにゆられてどこへ連れて行かれるのでしょうか。
自分では運転できない年頃なので、大人の運転に身をゆだねるしかないのでしょうか。
ところでこの本、バスの運転手が沙藤一樹でなければ、きっと旅は快適だったでしょうに。



ホラー小説というのはどこかしらファンタジーな雰囲気が漂うものですが、
沙藤氏の書く物語は、非日常的な世界観の向こうにおそろしくリアルな〝現実〟がくっきりと
垣間見えてしまう。それも救いようのないほど絶望的な。
〝現実離れしたホラー〟
というより、
〝ただでさえ過酷な現実にホラーのスパイスまで振りかけてみました〟
といったような。

基本、精神的にこたえるドロンドロンの話ばかりですが、
だからこそその中に砂粒並みにささやかに添えられている〝希望〟の要素が
もう輝いて見える見える。
延々闇の中にいたところにふいに100Wの懐中電灯かざされたようなものです。
心拍数上昇します。瞳孔開いて涙も出ます。
慣れるのに少し時間がかかりますが、一度慣れればすごく快適。
沙藤氏の小説はそんな感じ(まあ慣れたころにはまた暗闇に突き落とされるんですが)。


物語ごとの大まかなレビュー。

◆不思議じゃない国のアリス◆

痛い、としか言いようがない。
生理的不快さとやるせなさが読後一気に押し寄せてくる。
〝クドリャフカ〟についての知識があればよりいっそう深く読めるかも。
(というわけでフラッシュ置いておきます。涙腺弱い人は注意)
 クドリャフカ

◆青い月◆

色覚異常により青い色しか見えない少年。
そんな彼が一人の少女に出会い、会話を重ねるうちに彼女が憎むべき存在であることを知るが。。。
という物語ですが、私にはどうしてもこの話は二人のラブストーリーに思えた。
歪みに歪んだ恋愛感情ってこんな感じなんじゃないでしょうか。
少年がラストシーンで少女に向かって吐く台詞も、あれは絶対一種の愛の告白です(いや、別に
私の恋愛嗜好が偏ってるわけじゃ断じてないよ)。

◆飛行熱◆

ラストが驚愕。いろんな意味で。
これは下手に感想を言うとネタバレになりかねないので、先入観なしでとにかく読んでみてください。

◆空中庭園◆

角田光代さんのあれじゃないですよ(って言ってもわかる人にしかわからないかξ)。
オンラインゲームが舞台の物語。
これが一番ミステリ色が強い。私には一番面白く読めた。
ゲーム上の話なのに現実よりよっぽど現実っぽいのは、仮想世界で匿名の皮を被ることによって
人間の感情や行為が理性で繕わないむき出しのものになるからでしょう。
でも〝励ましの代わりに回復呪文〟みたいなバーチャルならではのスタンスはいい感じで好きです。
(蛇足ですが、私は昔友人にメールで〝メラ〟を唱えられたことがあります(ドラクエのあれ)。
炎系の最弱呪文でやっつけられるほどの雑魚だと思われてるのかと一瞬切なくなりましたが、
本人曰く冬なのであっためてくれたそうです。まあ嬉しかったです)。

◆銃器のアマリリ◆

この世はクソだ人間もクソだ俺がこの世界で一番偉いそれ以外はバカばっかりだ
どいつもこいつもまともに付き合う価値なんてない世界も人間もみんなまとめて滅びればいい
死ね死ねみんな死ね何もかも息絶えろ俺のことも誰か殺してくれこの先生きてたって
何一ついいことなんてありはしないこんなクソつまらない絶望と怨恨の日々を送るぐらいなら
いっそ今一思いに死んでしまいたいもう嫌だ何もかもが嫌だ助けてくれいや俺を助けられるほどの
存在なんて神ぐらいしかいないこの現実世界にはただ一人も存在しないだからもういい
殺してくれ死んでくれ俺もお前らもみんなみんなみんなうわあああああああああああ

とか思いつめまくってる人でも、こんなにも些細なことであっけなく救われたりする。
だから悩むだけ損なんだよ。
という物語。
人間なんて意外と単純なものです。
まあだからこそ生きてられるんですが。

◆旅をする人◆

著者のエッセイのような、わずか4Pの物語。
短いぶん読み手の想像力が広がります。
ちょっと寂しく、でも爽快感の残る掌編。まさに〝旅〟です。



不思議じゃない国のアリス。
まだ現実社会への適応能力を持たない子供たちにとっては、〝不思議じゃない国〟のほうが
よっぽど恐ろしく、生きるのに困難な世界なんだろうな。
戻れない。



避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。
2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、
まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。
S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。 

***

メフィスト賞出身者だけあって、単なる本格推理ものとは一線を画した作風が売りの森博嗣氏。
そんな氏のデビュー作〝すべてがFになる〟を第一作とする
〝S&M(空前絶後のお嬢様・西之園萌絵&大学助教授・犀川創平)〟シリーズの
八作目にあたるのがこれ。

それぞれが独立した物語なのでどの巻から読んでも特に支障はない本シリーズではありますが、
この作品だけは最低でも2・3冊S&Mシリーズを読んでから手にとってほしい。
そのほうがラストの驚きも倍増。

ミステリ部分は被害者である双子の姉妹の描写が若干ややこしく把握しづらい部分もあるものの、
最後まで非常に面白く読めます。
というか本作のメインは〝ミステリ〟というより〝ラブストーリー〟で、著者の真の狙いである
〝仕掛け(トリック)〟は殺人事件解決後にやって来るので、むしろそっちを楽しみに
読み進めていくのがいいかも。

情景&心理描写はそこそこに、ただ事件の経過を淡々と書き連ねていく。
理系ミステリ作家に共通する作風ですが、森氏はその中にキャラの人間くささ&文学的表現を
挟み込むがほんとうまいなあ。ラスト一行なんか鳥肌ものです。
そして女のくせにラブストーリーというものにアレルギーがあり、無理して読もうものなら
別の意味で全身に鳥肌が立ってしまう私が(あまりに盛大に立ったので思わず親に
『見て見て鳥肌!』と見せつけてしまったこともある私が笑)、
「いいなあ、恋愛って。。。
とうかつにもときめいてしまった稀有な作品でもあります(恋愛描写が白黒時代の洋画風なので
逆に「クッセー」とか感じなかったのかも。メインキャラの男性が惚れた相手を
セクシィセクシィ連発するのにはちょっと笑いましたが)。ゼクシィ?

ロジカルで、おもしろい。そして、せつない。

mother3.gif






と思わずmother3のコピーをパクってしまいたくなるほど、
ひとつぶでさんどおいしい、非常にお勧めの作品です。
『カラスヤノ アサイケイスケ アキミレス』

 


忘れてしまってはいませんか? あの日、あの場所、あの人の、かけがえのない思い出を。
東京・下町にあるアカシア商店街。
ある時はラーメン屋の前で、
またあるときは古本屋の片隅で――。
ちょっと不思議な出来事が、傷ついた人々の心を優しく包んでいく。
懐かしいメロディと共に、ノスタルジックに展開する七つの奇蹟の物語。 

★収録作品★

 紫陽花のころ
 夏の落し文
 栞の恋
 おんなごころ
 ひかり猫
 朱鷺色の兆し
 枯葉の天使

***

これはまずいです。
朱川湊人氏に傾倒している私ですが、この作品だけはもう別格。
直木賞受賞作である〝花まんま〟より、こっちのほうがずっと好きだし
内容もハイクオリティだと思う。

ジャンルがホラー寄りのファンタジーという点でも、胸の内にどこかしら傷・または孤独を抱えた
人間の再生を描いた話が多い点でも、朱川氏の作風はかの乙一氏に通じるものがある。
ただしこちらは時代設定が昭和初期。
ただでさえ切ない物語なのに舞台をそんな古き良き時代にされちゃ、
一遍一遍を読み終えたときのやるせなさに拍車がかかって、
もう悶えながら泣くしかありません(笑)。

それぞれの話に当時ヒットした曲がモチーフとして設定されているので、
若い世代の人は両親にでも尋ねながら、まさにその時代を生きたという人は
メロディを思い出して懐かしみながら、本作を読み進めるといいかも。
今はネットで何でも聴けるし、作中の曲をBGMとして流しながら読むのも
またおつかもしれません。

人一倍辛い思いを抱えながらも人一倍誰かを思いやれる、そんな
奇跡のような温かくそして強い人間はこの世界に確かに存在していて、
それは今をちょっと遡ったこんな時代のほうが多かったのかもしれない。
朱川氏はそれをわかっていて、当時のそういった人々のしなやかな強さと優しさを
こうやって書き留めておいたのかもしれない。

氾濫する情報に振り回されることなく自分の頭でものを考えて動けた。
眼の回るような日常に忙殺されることなく自分のペースで日々を生きられた。
親の確かな教育と貧しさへの忍耐に由来する一本芯の通った人間が多かった。

そんな時代。
今はもうほとんど失われてしまった〝人間性〟という名の〝かたみ〟が
ここには描かれている。
私は豪徳二を殺した。理由はない。
私は佐野美香を殺してしまった。理由はない。



描くことに没頭し燃え尽きるように自殺した画家、東条寺桂。
『殉教』『車輪』―二枚の絵は、桂の人生を揺さぶったドラマを語るのか…。
劃期的な、余りに劃期的な、図像学ミステリの誘惑。
第九回鮎川哲也賞受賞作。 

***

芸術をテーマにした推理小説っていうのは何でこうも面白いんだろう。。。
漫画〝ギャラリーフェイク〟にはまった人には非常におすすめの〝美術ミステリ〟です。

二枚の絵に込められた〝意味〟を、主人公が図像学(彫刻や絵画に表現された場面が
何を表しているのか、誰が表されているのかを理解するための学問)の観点から解き明かし、
それがある一つの殺人事件の真相を暴き出していくという趣旨のストーリー。
「この絵のこの部分は○○を表しているんだ!」
と主人公が発見するたびに、おおーなるほどお! と読み手も否応なしに驚かされ、
そしてその都度主人公によって展開される美術うんちくが自分の中に速やかに浸透していって、
またそれがやたら心地いい。
私が美術の教師なら間違いなく本書を教科書代わりにするでしょう(内容は殺人事件ですが笑 
でもこれなら生徒もほぼ全員が試験で満点を取るだろうなあ。面白すぎて)。

肝心の殺人事件の真相は絵に隠された謎に比べると若干肩透かし気味(というよりむしろトンデモ)
ですが、それでも最後まで面白く読めます。
これまで読んだ鮎川哲也賞受賞作の中で一番好きかもしれない。

ちなみに作中に登場する絵画は、何と著者本人の筆によるものです。
これだけでも一読(一見?)の価値あり。

蛇足ですが、FFシリーズ好きの人はこれ↓を念頭に置きながら読むと
クライマックスシーンがもっと面白くなるよ。

d0155010.jpg






FFⅩの召喚獣。それが示すものとは?! 次号に続かない!
[How much the hell are you gonna gain,you piggy!]



舞台は教室。イジメられっ子転校生(キモチ悪いほどおどおどしたデブ)を人気者にすべく、
オレはプロデューサーを買って出た!
 「『セカチュウ』で泣いてる場合ではない、『野ブタ。』を読んで笑いなさい」と斉藤美奈子氏絶賛、
第41回文藝賞受賞作!
「大した才能だよ。期待してるぜ、白岩玄。」(高橋源一郎氏) 

***

原作のいじめられっ子はドラマ版みたいなかわいらしい女の子じゃありません。
上記の通り、所謂〝キモデブ〟。
そんな対象を人気者にするにはより一層の手腕が必要とされるわけですが、だからこそその
〝キモデブ君〟が主人公の手によってあの手この手でじわじわと人気者に〝されて〟いく過程が
より痛快に感じられる。

著者が若い(本作執筆時、若干二十歳!)だけあって、文章も非常ーに若者。
全体的なノリもそうだし、主人公・修二の友人らとの受け答えが、もうまんま高校生。
よく年輩の作家がやたら登場人物にカタカナ言葉を連発させることで
(例:〝私はマジで~と思った。〟〝それってヤバイじゃん。超ヤバイ。〟等)
若者っぷりを表現しようとして失敗してますが、本作に至ってはその手の違和感がまったくない。
「ああ確かに最近の若い子はこうだわ」とすらすら読める。
小説(しかも純文学)で作中に〝(笑)〟が出てくるのは初めて見たので斬新でしたが、
たぶん著者狙ってやってるしそれもまた面白い。

ただし心理描写を読む限りでは修二は高校生というには少し精神年齢が高く、
だからこそ周囲より一つ上の視点で物事を捉えることが出来るわけで、
つまりその部分にだけは著者の歳相応の思考が反映されてる。
人間は〝ちょっと過去の自分〟ぐらいが一番振り返りやすいものだと思うので(今の自分は
客観的に見れないし、あまりに遠い過去だと忘れる)、
白岩氏にとっては高校生というのは一番書きやすい年代だったのではないでしょうか。

基本的にはコメディですが、やはりそこは純文学(文藝賞はあの綿矢りささんも受賞された
賞です)、
十代特有の繊細で見栄っ張りで不器用な精神が非常にうまく描写されていて、
笑えるシーンの合間合間に胸を衝く文章がやって来ます。

ラストだけは「修二、もっと違う道があるだろ。。。」と少し不満に感じましたが、
総合的にはすごくおすすめ。
自意識過剰で、些事に戦々恐々として、どんな他愛ないことにも腹を抱えて笑い転げていた
拙い十代のころの自分が思い浮かんで、懐かしいなと微笑むのを通り越して
つい顔が赤らんでしまう。
そんな気分を味わわせてくれる物語です。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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