「うん。すごく」
高給優遇、初心者歓迎…求人広告の誘いに乗って、桃子はアルバイトの面接に行く。
ところがその会社、入ってみると社員は変人揃い、しかも事件・事故現場専門の清掃会社だった。
テレビ朝日系ドラマ化原作!
★収録作品★
おわりの街
赤い衝撃
ファンハウス
ブラッシュボーイ
***
テレ朝で放映中のドラマの原作。
ドラマのほうは観たことないですが、登場人物や設定等はだいぶ異なるみたいですね。
著者の加藤実秋氏はドラマ化を前提として本作を執筆したようですが、
ここまで別物になっていてハラ立たないのかなと余計な心配してみたり。
(ちなみにドラマのほうはどうも海外ドラマの〝トゥルーコーリング〟に似ている。
原作はほんのりPSゲーム〝エコーナイト〟風)
話変わって加藤実秋氏はかなり好きな作家さんです。
舞台が渋谷等の繁華街だったり出てくるキャラがホストだったりで
どうも〝軽い〟イメージを持たれがちな氏の作品ですが、
文章力や構成力、キャラの造形はここ最近の作家の中では抜きん出ている。
男性作家の書く女性は、あくまで〝女〟でしかなく、人間味皆無ということが
私の知る限りでは多いですが、加藤氏の描く女性は人間的魅力に溢れ
それでいて可愛らしく、女の私でもほれそうになる。
本作の主人公の桃子もむちゃくちゃ個性的でかわいいです。友達になりたい。
同性にもそう思わせる女の子を生み出せる加藤氏はすごいと思う。
桃子の同僚の未樹も、フェロモンブリンブリンのギャルだけど決してそれだけじゃない
愛すべきキャラだし。
内容に関しては、非常に面白くよく出来た作品だとは思いますが、
インパクトや物語の深みは氏の前著のほうが上だったかな。
人と人の絆がクサくなく描かれていていい感じだし、スピード感があって読んでいて爽快だった。
本作ではそんな人情や疾走感も弱まり、ラストも
どうせ続きを匂わせるような終わり方にするならもうちょっとさわやかにするか
いい意味で緊迫感漂う感じにすればいいのに、
どこかホラー的ですらある後味の悪い(というかちょっと分かりづらい)終わり方だし。
(交差点での〝別れ〟のシーンで締めておけば個人的にはよかったんじゃないかと思う)
でも読んで損はないです。
ミステリに興味のある人は入門書として手にとってみるといいかも。
世界に囚われている。
「ポンパ!」 突如失踪してしまった叔父が発する奇声!
アパートに残された叔父の荷物を引き取りに行った主人公は、そこで叔父の残した日記を見つける。
現代において小説を書く試みとは何なのか?
その創作の根源にある問いに、自身の言葉を武器に格闘し、練り上げられていく言葉の運動。
精緻にはり巡らされた構造と、小説としての言葉の手触りを同居させた、著者の大胆な試み。
読書家としても知られる各氏をうならせた、驚異の才能のデビュー作!
***
私は集団で会話するというのが苦手で、
何故かというと会話というものは人数が多ければ多いほど
話されるテーマが単純になり流れの細かな修正も利かず、
まるで予め決められた脚本通りに喋っている気がしてきて怖くなるからなのですが
(話し相手たちがロボットみたいに感じられるというか、
自分たちをマリオネットのように操っている見えない上位次元の誰かの存在を感じるというか)
私にとってのその〝集団〟が〝世界〟にまで膨らんでしまったのが
本作に登場する主人公の〝叔父〟なのではないかと思う。
自意識が過剰な人間にとっては、
まるで芝居をしているような瞬間、つまり自分が素の自分でなくなる瞬間というのは
(たとえば恋人相手に、ただの〝人間〟としてではなく〝性〟ある自分として接するとき、
もしくは勤務中等、パブリックな自分として行動しているとき、
要するに〝作られた舞台〟の中に身を投じなければならなくなったとき)
ひどく苦痛であり生理的嫌悪感すら伴う。
〝叔父〟が夫婦でくつろいでいるときに奇声を発するのはそういった感情の所以だと思う。
現実世界で展開されるうすら寒い三文芝居を打破するため、
その場の雰囲気や会話の流れに沿わない言葉を敢えて口にする。
つまり〝アドリブ〟。そうすることで見えない何かに抵抗する。
〝凡庸〟とは確かに怖いもので(才能やルックスや肩書の話じゃなく、あくまで〝人〟として)、
私も正直先の読める言動しかしない人間には尋常ならざる嫌悪を感じることがある。
なので近所でその日の天気やつまらない噂話しかしないおばさんに話しかけられたり
異性とファッションの話だけして十分楽しそうな友人と会ったりすると
決して大げさでなく恐怖で脂汗が流れる(←先日友人宅でその発作に見舞われ
恥ずかしくも泣き出してしまいみんなにどうしたんだと驚かれた。どうにか誤魔化した)。
冠婚葬祭等の改まった席でも、
自分がアドリブの一切利かない空間に押し込められたことに対する苦痛と
周囲の人間の決まり切った機械的・芝居的所作に耐えられず叫び出したくなることがある。
本作の〝叔父〟はそういった傾向が私よりずっと顕著で
ハトにエサをやる老人相手にすら精神的発作を起こす人間であり、
その凡庸なもの・芝居めいたものに対する恐怖心や嫌悪の度合ははかり知れない。
読んでいて苦しくなる。
そういった意味ではこの小説は、自意識過剰な人間にしか理解できない、
非常に読み手を選ぶ小説であると思う。
ただ、うまく〝叔父〟にシンクロできた読者は、自分の中のもやもやをはっきりと文章に
してもらえたようで安堵を感じることは間違いない(私がそうだった)。
敢えてドキュメンタリータッチで書かれた本作、ノンフィクションとしての体を貫くならば
〝あの日~〟といったいかにも小説的(作中の言葉を借りていうならば〝作為的〟)な表現も
省いたほうがよかったのではと思うけれど、
やはり本質はあくまで小説である以上、そのあたりはしょうがないのかな。
純文学は客観的な感想が難しいですが、私にとっては良作でした。
上記の私の経験談を読んで引かなかった人、むしろほんの少しでも共感してくれた人には
おすすめします。
俺の過去はどこにある?
その水を飲むと過去を忘れてしまう忘却の川・レテ。
怜治はS大医学部で脳を研究している友人山村が記憶を消去する装置を開発中だと知り、
自分の記憶を消す決意をする。それは一世を風靡したバンド「レテ」のボーカルとして活躍した
栄光の二年間の記憶だった。
だが、過去と決別した怜治に連鎖するように、次々と奇妙な出来事が起きる!
前代未聞のアイデアと圧倒的なストーリーテリングで読者を魅了する驚愕の記憶ホラー。
第十一回日本ホラー小説大賞長編賞佳作。
***
出だしを読んだときはかなり期待したのですが。。。
421Pを読み切ったという無意味な達成感しか結局は残らなかったというのが正直なところです。
淡々と整いすぎていてまるで資料集を読んでいるようだった同著者の乱歩賞受賞作
よりもエンターテインメント性が強く、単純な面白さだけでいえば
本作のほうが上なのですが、
なにぶんデビュー前の著作であるためか筆遣いや展開にかなり瑕疵が多い。
山田〇介並に拙い文章が頻出するし
(ほかにも〝~が鍵となる〟という表現や、
忘却の川をテーマにした話であるためか〝川〟に例えた比喩表現が多過ぎだったり)
登場人物の心理や物語の流れがぎこちなくて不自然だし
(例えば中盤では主人公が知らないはずだったことが終盤では前から知っていたかのように
描写されていたり、
新しいエピソードや人間がすべて唐突に出てくるので全体の統合性が無茶苦茶だったり)
キャラがあまりに主人公に都合よく動き過ぎていてまるでマネキンのようだし。
(主人公にホレている二人の女性があんなにあっさり仲良くなってしまうのは
いくらなんでも不自然過ぎるのでは)
瀬名秀明氏や鈴木光司氏のようなサイエンスホラー的展開も、
著者の独特な世界設定は確かに斬新で面白くは読めるものの
よくよく考えるとかなり矛盾点が多く、
またその世界観を説明するシーンにしても、やはり理系作家に比べると
筆が拙い印象は否めなかった。
(読みながら「著者の早瀬氏はたぶん文系の人だな」と感じてあとで見てみたら
やはり文系だった)
同じ日本ホラー小説大賞の佳作受賞作ならば、
こちらのほうがずっと面白かった。
あと、最低限量子力学の知識がないと本作はすんなり読めないです。
これから手にとるつもりの人は、せめて〝シュレーディンガーの猫〟ぐらいは
知っておくと吉。
アジアの西の果て、白い荒野に立つ矩形の建物。
いったん中に入ると、戻ってこない人間が数多くいると伝えられている。
その「人間消失のルール」とは?謎を解き明かすためにやってきた4人の男たちは、
果たして真相を掴むことができるのか?
異国の迷宮を舞台に描かれる、幻想的な長編ミステリー。
***
アジア西の果て、それでイラクとの国境線に近いっていったら
おそらく舞台はイランでしょうか(作中では明確にされていませんが)。
まあとにかくそんな場所に建つ、豆腐そっくりの怪しげな建物。
←こんなん
ここ300年の間、その中に足を踏み入れた人間が忽然と姿を消してしまう事件が続発。
呪い? それとも人為的な力?
消失する人間としない人間の違い、そして神隠し現象発動の法則は?
それらの謎を解き明かすために、
オカマイケメン、小太りインテリ(いずれも日本人)、米国軍人、インテリ現地人の4人が
議論を戦わせMAZE(迷宮)の探索を重ねていきます。
仕掛けのある建造物を舞台に展開する本格ミステリ(綾辻行人氏の館シリーズや、
島田荘司氏の後期御手洗シリーズのような)かと思いきや、
物語中盤で探偵役の満が展開するのは超自然的なトンデモ推理。
しかし妙にリアリティがあり、読み手の恐怖を煽りながらも否応なしに作中に引き込んできます。
だからこそラストをああいったSFオチにしないでほしかったと個人的には思うのですが
(現実と非現実の間でいい感じに振れていた針が一気に非現実に傾いてしまい少し興醒め)
著者の恩田さんの作品には〝途中までミステリ、オチはSF〟といった体のものが
かなり多いので、それを念頭に置いて読むべきだった。
そうすればラストシーンは印象的かつ感動的なものとして受け止められてただろうにな。
本格推理だと思って読んだのが間違いでした。
ダ・ヴィンチ・コード的なエンディングを本作に期待しては駄目です。
それと細かい部分なのですが、破綻箇所がいくつかあったのも気になってしまった。
例を挙げると(ネタバレにつき薄字で)
★人間消失トリックに関する満の推理
…〝侵入してきた男が最後のオスだと困るから、一人で入ってきた場合は殺さない〟
ならどうしてロバートは消えたのか? 彼が最後のオスだった場合、MAZEが彼を
取り込んだ時点でオスは全滅してしまうことになる。
★幻覚について
…同じ麻薬を同時に服用したからといって見る幻覚まで同じということはない。
なのになぜ満と恵弥はまったく同じ幻覚を見たのか?
(それともこの不自然さも後のSF的展開に説得力を持たせるための伏線なのかな。
現実にありえない空間なら現実にありえない植物が生えていても不思議じゃないし)
モチーフは面白く物語の緩急のリズムが絶妙なのであっという間に読み終えましたが、
〝佳作〟の範疇は出ないかな、というのが率直な感想です。
でも文章からにじみ出す独特かつ壮大な世界観は読んでいてとても心地よかった。
何だかPS2のゲーム〝ICO〟を連想したな。
1993年、夏。カンボジア。
NGOのスタッフたちが地雷除去を続ける中、突然の地雷の爆発音が轟いた。
これは、純然たる事故なのか?
表題作を含め、「対人地雷」をテーマにしたミステリー6編と、処女作短編を収録。
★収録作品★
地雷原突破
利口な地雷
顔のない敵
トラバサミ
銃声でなく、音楽を
未来へ踏み出す足
暗い箱の中で
***
率直に言って石持浅海氏は、
大好きであり同時に大嫌いでもある作家さんです。
この複雑な愛憎模様(笑)の理由は、氏の著作には
大いに惹かれる部分と腹立たしいほど気に入らない部分の両方が揃っているから。
まず後者の具体例を挙げると、
石持作品は
★登場人物がやけに持ち上げられて描かれる
…その言動から十分に魅力は読み取れるのに、
「彼は天才だ」「ただ者ではない」
等と過剰に地の文で説明する。
&カリスマ設定のキャラが全然そう見えないことも多い。
★議論があさっての方向にいく
…事件の真相について登場人物たちが推理する際、
その議論がまったく見当違いの方向へ発展することが多々ある。
(ズブの素人でも決して迷い込まないだろう方向へ)
これさえなければ大好きなのに
ちなみに↑の2つ目は本作収録〝銃声でなく、音楽を〟に顕著。
「そんなまわりくどい議論しなくてもとっとと○○○○を○○れば(ネタバレにつき伏せ字で)
1分で解決するんじゃ。。。」
「たったそれだけの材料からどうしてそんな超推理が。。。」
と心中でツッコミ入れながら読んでしまった。
(というかこの短編はそれ以外にも何かとおかしい。
文章が雑だったり、〝美談〟として書かれている話が別に美談でも何でもなかったりetc.)
でも全体で見れば良作です。
「対人地雷廃絶!」という著者の主張がちょっと前に出すぎていて
〝物語〟でなくなってしまっている部分もあるにはあるけど、
その主張にうまくミステリを絡めることで
〝地雷〟という兵器の残酷性を読む者に伝え、興味を持たせ、真剣に考えさせる、
そんな力を秘めた小説であることは確かだと思う。
(〝利口な地雷〟読了後、私もしばらく対人地雷というものについて考え込んでしまったし)
石持氏が物語に織り込むテーマやそのテーマの下で行動し思考するキャラたちは
毎回魅力があって大好きなので(それが私がぶちぶち文句言いつつも氏の新作が出るたび
手にとってしまう理由でもある)、その点は本作も非常に楽しませてもらいました。
ちなみに
〝地雷原突破〟
〝利口な地雷〟
〝暗い箱の中で〟
の3作は氏のデビュー前の著作。
そうとは思えないほど文章がしっかりしてる。尊敬するなー
ちなみに(again)
私的に一番おすすめの石持作品はやっぱりこれ↓
大好き通り越して崇拝さえしています。
(どうやらカリスマらしい男性が全然カリスマに見えない点をのぞいて)
石持作品といわずこれまで読んだミステリ小説の中でも1、2を争うほどに好きな作品。
蛇足ですが表紙は文庫版より新書版↑のほうがきれいです。
そうでなきゃな……そういうとこ、なきゃな……」
凄惨な連続殺人が発生した。
独り暮らしの女性達が監禁され、全身を刺されているがレイプの痕はない。
被害者の一人が通っていたコンビニでの強盗事件を担当した女性刑事は、
現場に居合わせた不審な男を追うが、突然彼女の友人が行方不明に…。
孤独を抱える男と女の、せつない愛と暴力が渦巻く戦慄のサイコホラー。
日本推理サスペンス大賞優秀作を新たな構想のもとに、全面改稿。
***
〝サスペンス〟と銘打ってはいますが、
事件そのものよりもその事件を取り巻く人間たちの内面に主眼を置いたストーリーは
ある種〝純文学〟に近い。
(巻末の選考委員選評にも
〝登場人物がすぐ内省に入ってしまうので物語がなかなか展開しない〟
的なことを書かれていた気がするし←読んだのがだいぶ前なのでうろ覚えですが)
13年前の作品なので登場人物のルックス等に多少古めかしい点はあるものの
(主人公の青年が長髪をうしろで一つくくりにしていたりとか)
人の心に巣食う闇や孤独や汚さといった本質的な部分はそうそう変わるはずもなく、
そういったものを抱えるキャラたちのリアルな感情の動きに
十分共感しながら読み進めることができます。
〝サイコホラー〟の割に猟奇殺人犯の猟奇っぷりがあまり大したことがないので、
(単にサイコ・ミステリを楽しみたいのなら以下の二つを読んだほうがいい)
本作は〝人が人であるが故の葛藤&そこからの脱却〟を描いた作品として読むのが吉。
自分の汚さや過去に犯した罪に苦しんでいる人は、読むとほんの少し救われます。
注:
上記レビューは単行本のものです。
文庫版は多少内容が食い違っている可能性があるのであしからず。
(著者の天童荒太氏は著作が文庫化する際に大幅な加筆・修正を行う人として有名です)
おまけ:
今月11日WOWOWでドラマ版が放映されるようなので興味のある人はぜひ。
私も観てみようかなあ。
私は最上俊平、私立探偵である。ペット専門の探偵ではないのだ。
ある日、若く美しい女性が事務所を訪れてきた。
ペット捜しなら、もう――「うちの猫を捜してほしいんです」
はい喜んで。一ヶ月ぶりの仕事ではないか。
しかもそうこうするうち、「ブロンドで青い目の若い」秘書まで雇えることに。
え、な、なんだこいつは!?
おまけに猫捜しも、ただの猫捜しではなくなっていくのだった……
あの名作『ハードボイルド・エッグ』続編!
***
前作〝ハードボイルド・エッグ〟の帯に
「感涙必至! 決して電車の中で読まないように」的な注意書きがあり、
ひねくれものの私は「そんないかにもお涙頂戴な小説で泣くものか」と
憎たらしく鼻で笑い飛ばしながら読み始めたのですが、終盤で
まんまと号泣。
一ページ目から爆笑シーンてんこもりなせいで、
よけいこのシリーズは泣かせどころが涙腺に来るのです。
(塩をふりかけたスイカのごとく)
そう、この〝エッグシリーズ〟、基本的には〝コメディ〟ミステリ。
今回も冒頭からハラが痛くなるほど笑わせてもらいました。
小説で爆笑するなんて夏目漱石の〝坊ちゃん〟以来。
〝明日の記憶〟等シリアスな著作も多々ある荻原氏ですが、
やっぱりこの人といえばユーモアだよなあ、と本作を読んで改めて実感。
何というかもう〝物語〟以前に〝文章〟が面白いのです。
これって実はすごいことだと思う。氏の才能のほどが伺えます。
どうしようもなくカッコつけてるけどどうしようもなくお人好し、
とぼけた性格をしてはいるけど
卵みたいに他人を拒絶する殻もかぶっていれば
悲しい過去を白身が黄身を包み込むように隠してもいる。
それでもぺしゃんと潰れてしまわず
ペット捜しにコロコロとあっちこっち転がりまわる柔軟でしぶとい固ゆでたまご。
そんな探偵・最上俊平のキャラも、男女問わず好きにならずにいられない。
前作の彼の相棒は80過ぎのおばあちゃんでしたが、
今回は十代のギャル・茜。
前作と同じくやはり一筋縄ではいかない相手ですが、
このでこぼこコンビのやり取りは微笑ましくユーモアもあって絶妙。
ただちょっと彼女の出番が少なかったことと、
彼女の喋りが80年代のスケバンぽくて違和感があったのがアレでしたが、
それでも十分に魅力的で愛せるキャラです。
というかこの物語の登場人物はみんながみんな愛すべきキャラすぎる。
どうしようもなく。
前作で最上俊平には孤独から脱して幸せになってほしいと思っていたので、
今作の希望を予感させるラストには満足しました。
サニーサイドアップ。
彼はようやく卵の固い殻をやぶって目玉焼きに昇格できたのかもしれないな。
私は素晴らしい小説に出会うと
読み終えたあとに(スタンディングオベーションのごとく)拍手をしてしまうという
妙な性癖があるのですが、
本作にも惜しみない拍手を送ってしまいました。
久しぶりにそうしたいと思える物語にめぐり合えた。
ものすごくおすすめです。
一作目を読んだことない人は是非! こっちも一緒に読んでね。
友情、片思い、ときどき死――。
さっきまで元気だった陽介が目の前で死んだ。
愛犬はなぜ暴走したのか?
飄然たるユーモアと痛切なアイロニー。
青春ミステリー傑作。
***
大好きな作家さんです。
今回の話もとても面白く一気読み。
ただ、これまでのすべての道尾作品に共通する
意外性&ダークな迫力が本作には感じられず、
その点は少し物足りなかった。
敢えてそういう部分を抑えて書いたのかもしれないけど、
短編〝流れ星のつくり方〟なんかは
淡々としたストーリー運びながらもものすごいインパクトとやられた感があっただけに。
作中に伏線を配置するバランス感覚とそれを明かすタイミングも、
相変わらず天才的ではあるものの
肝心のトリックに「そりゃないだろ」と言いたくなるラインギリギリのものが
多かったことにも不満が残った。
(誰かが誰かを大切に思うが故に起きてしまった悲劇、
というコンセプト(動機)も、今となっては使い古された感があるし)
前作〝片眼の猿〟に比べ文章が拙くなっているのも(まあこれは自分が
小説を書いているからなのでしょうが)気になったし。
でもやっぱり、キャラを個性的&魅力的に描写する手腕にかけては
この著者本当に素晴らしい。
男性作家の書く女性は概してステロタイプになりがち(というか
〝女〟としての面しか描写されない印象)だけど、
道尾氏は女性を〝女性〟としてだけじゃなく〝人間〟としても書ける人なので、
同性の私から見ても魅力を感じる。
男性にも〝異性〟としてだけじゃなく、人間的に惹きつけられる部分があるし。
そして何より〝おっちゃん〟。
どうして道尾氏の描く中年男性は毎回ああもいきいきしてるんだろう?^^;
個性的すぎリアルすぎユーモラスすぎ。身近にモデルでもいるんだろうか?
本作に登場するエキセントリックな大学教授・間宮も、
相変わらず道尾節炸裂でかなり笑わせてもらいました(そして惚れた)。
たぶんこの著者は人間が好きなんだろうな。
人物描写に温かみがある。
どんないけ好かないキャラに対しても肯定の眼差しを感じる。
彼の著作に、それがどんなにドロドロのストーリーであっても
不思議と心地いい温度が漂っているのはだからでしょう。
ラストシーンはとても好きです。
本作は犬の動物的本能をトリックに用いたミステリですが、
ここでは人間のあるちょっとした〝本能〟が描写されていて、
それが読み手を「ああなるほどねえ」とニヤリとさせる。
〝人間の本能〟なんていうと浅ましく醜いものばかり思い浮かべがちですが、
このシーンで描かれているそれは微笑ましく、何だか感動もしてしまった。
トリックだけではなくストーリーも、「たぶんこう来るだろうな」というこちらの読みを
すがすがしいまでにことごとく外してくる道尾秀介氏の著作。
マイナス点のほうが多いかのようなレビューをしてしまいましたが、
あくまでこれまでの作品と比べての感想で、本作も傑作とまでは言えないものの
個性的で完成度の高い物語です。
おすすめ。
ゴシック様式の尖塔が天空を貫き屹立する、流氷館。
いわくつきのこの館を学生サークル『あかずの扉』研究会のメンバー6人が訪れたとき、
満天驚異の現象と共に悲劇は発動した!
第12回メフィスト賞受賞。
***
冒頭にかの島田荘司氏の著作〝斜め屋敷の犯罪〟の一文が掲げられているのを
不思議に思っていたのですが、著者の霧舎氏は彼のお弟子さんらしいですね。
理想の人間が御手洗潔の私としては羨ましい限り。
という戯言はまあいいとして。。。
小説家の〝弟子〟というのが具体的にどういうものなのかは知りませんが、
著者のデビュー作である本作、読んでいて〝島田荘司〟を彷彿とさせる箇所は少しもなかった。
それは素直にすごいと思う。
文体や作風が〝似てしまう〟という弊害を避けて
一人の作家から小説の書き方を学ぶのはかなり難しいことだと思うし。
ただ、かといって本作に特にオリジナリティ溢れる部分があるかといえばそうでもなく、
メフィスト賞受賞作にしてはむしろ地味なほど。
筆致・構成・キャラクター・ストーリー、そのすべてにおいてとりたてて真新しい部分もなく、
もうほんと典型的〝本格推理小説〟といった感じでした。
そして肝心の内容ですが。。。
正直私には楽しめなかった。
まず導入部分の〝謎の提起〟がひどく漠然としているので
(富豪の老人がミステリツアーを企画した理由が本当に復讐のためなのかどうかが曖昧、等)
ストーリーの主軸が見えず話に入っていきづらかったし、
全体的にあまりに突っ込みポイントが多いのも読んでいて少しつらかった。
(いや普通そこでそんな行動とらないでしょ、
それだけの手がかりからそこまで推理するのは無理でしょ、
そんなことに気づかない人間まずいないでしょ、
等理不尽な点が登場人物のほとんど(故人含む)に見受けられる)
建物を用いたトリックにしても、文章で読むには仕掛けが入り組みすぎていて
把握に時間がかかるせいで
「うわあそうだったのかあ!」
とすぐに驚けないし。
〝斜め屋敷の犯罪〟で使用されていたトリックは、同じ建物トリックでも
ひどくシンプルで分かりやすかった(かつ壮大だった)ため、
明かされたときには大声で叫んだものですが、本作にはその爽快感がない。
作中にばらまかれた謎に関しても、それぞれが妙にこんがらがっている上に
あまり興味を惹くものがないので、クライマックスで探偵役がそれら一つ一つを解き明かす
段になってもあまりテンションが上がらずぼんやりと読み飛ばすように読んでしまった。
そして何より一番きつかったのは、物語の端々で著者の〝顔〟が見えてしまうこと。
例を挙げていえば本作にはユイという女子高生が登場するのですが、
著者が彼女に萌えまくっているのがこれでもかとばかりに伝わってくる。
彼女の描写にやたら気合が入っていることからもそれが窺えるし、
主人公の青年と彼女のやり取りなんか、(やったことないですが)ギャルゲーのようで
読んでいて恥ずかしくなってしまった。
それ以外にも、探偵役がキメすぎだったり出てくる台詞がクサすぎだったり、
著者の意図(ああここで泣かせたいんだろうな、ここで(嫌な言い方ですが)
格好つけたいんだろうな、といった狙い)が過剰なまでに丸分かりなので、
小説じゃなく著者の日記を盗み見てしまっているような気分になることもしばしば。
某有名ブログにて、管理人さんがある小説をして
著者の「どうだ!」といった内面が全く現れていない。
それはすごい才能だと思われる。
と感想を述べていましたが、それでいったら本作は正反対。
なのでどうにも読みづらかった。
(有栖川有栖氏の著作も恋愛描写がすごいクサいけど、
書き手のあからさまな思惟みたいなものは感じたことがないなそういえば。
この違いは何なんだろう)
書けない作家さんでは絶対にないとは思いますが、
たぶんしばらくは彼の著作は手にとらないかな。。。
これが茶番でなくて、なんだ。
本年度、江戸川乱歩賞受賞作!
眠れるスパイ「沈底魚」が動き出した。正体は大物政治家か、それとも中国の偽装工作か。
真相究明に暗闘する刑事たちの姿をリアルに描いた、本格公安ミステリー!
***
ミステリ系文学新人賞最高峰の賞である〝江戸川乱歩賞〟。
とはいえ本格推理の賞ではないので
「これのどこがミステリ?」と首を傾げたくなる受賞作があることには今さら
突っ込んだりしません。
問題なのは〝ミステリ性〟ではなく、近年の受賞作に
〝エンターテインメント性〟が欠けてきていることだと思う。
文章も構成も飛びぬけて秀逸。
でも、読後抱く感想はといえば
「達者だなあ。。。」
「巧いなあ。。。」
であって、決して
「面白かったなあ。。。」
じゃない。
作文技術の素晴らしさににため息は出ても、
それはあくまで著者自身に対する評価で、物語への賛辞じゃない。
〝東京ダモイ〟しかり〝三年坂 火の夢〟しかり、最近の乱歩賞は、読んでいても
〝小説〟じゃなく、〝脚本〟とか〝資料集〟と向き合っている気がしてしまうのです。
同じ乱歩賞受賞作である
といった一連の作品がベストセラーになったのは、
若い年齢層や普段本を読みつけない人にも手に取りやすい文章の読みやすさや
物語の分かりやすさがあったことはもちろんですが、
何より読んでいて手放しで「面白い」と思えるエンターテインメント性があったから。
魅力溢れる登場人物たち、
次第に盛り上がりを見せる展開、
それらに魅せられのめり込んでしまいページを繰る手が止まらない。。。
そうなってしまうのは、その小説が〝物語〟だから。
でも〝脚本〟や〝資料集〟を読んでそんな風になる人はいない。
なぜならそこには〝物語〟という魂が込められていないから。
なんて書くと近年の乱歩賞受賞者に対して失礼であるのは承知ですが
(著者が自身の作品に魂を込めて書いていることもよく分かっているつもりですが)
本作〝沈底魚〟にも、私はやはり〝物語〟を見出すことはできなかった。
個性はあっても魅力に乏しいキャラクター、
あまりに淡々と、淡々と進むストーリー。
作中の要である〝芥川〟や〝若林〟という人物にしても、あまりに描写が浅く
彼らに関するある真相が解明されたところで何ら特別な感情が湧かない。
彼らがあまりに自分の中で〝他人〟すぎて、「ああそうだったんですか」としか思えない。
それは本作のほとんどのキャラ、ほとんどのエピソードについて同じことが言えた。
あともうちょっと掘り下げて書いてくれさえすれば一気に輝き&インパクトを増す要素で
構成された小説であるだけに、すごくもったいないなと思う。
〝起承転結〟もないに等しいので、読む側のテンションも終始平坦なまま。
ゲーム〝テトリス〟で例えるなら、
ある一つのピース(手がかり)をきっかけに何重にも積みあがったブロック(謎)が
連鎖・連鎖・連鎖でどんどん消えていって最後に何もなくなる(=真相解明)のが
醍醐味なのに、本作の場合は最後まで
〝一つのピースが一つのブロック列を消す〟の単調な繰り返し、といったような。
そしてゲーム内にはプレイヤーの士気を煽るBGMが一切流れておらず無音。
そんな印象だった。
敢えて〝物語〟として捉えても、
以前どこかで読んだことのあるようなシーンが多く、
登場人物たちも主人公に都合よく動きすぎている気がした。
ラストも、小気味よく爽快で私的には好きな終わり方ではあるけれど、
よくよく考えるとご都合主義だし。
主人公が能力・性格共にごく平凡な人間であるにも関わらず
ある大人物にやけに買われていたり
人嫌いの部下に慕われていたりすることについても
最後まで納得のいく描写がなく違和感が残った。
エスピオナージというジャンルは大好きで読むのを楽しみにしていただけに残念。
決してつまらないとは思わないし非常に実力ある作家さんだとも思いますが、
やっぱり私は〝物語〟を読みたかった。
むしろ、個性溢れる人生を送っているらしき著者の自伝のほうが面白そうだな
などとも思ってしまった。
〝日本ホラー小説大賞〟も、乱歩賞と同じで最近エンタメ性が薄れてきてるよなあと
ここのところ思っていたのですが、本作著者の曽根氏、あちらでも受賞されてるんですね。
どちらの賞も、〝エンタメ性〟〝物語性〟はもう求めていないということなのかな。
何だか少し寂しい気がする。
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |