大体女がなんだっつの。
女なんかただの女だっつの。
娘の緑子を連れて豊胸手術のために大阪から上京してきた姉の巻子を迎えるわたし。
その三日間に痛快に展開される身体と言葉の交錯!
★収録作品★
乳と卵
あなたたちの恋愛は瀕死
***
4月といえばイースター(復活祭)の季節ですねえ。。。
となんだかたまご繋がりでふと思い出してみたり。
慢性的なストレスだの鬱屈だのをどうにか取り払いたいといった願望は、
人間の複雑な脳を経由すると妙におかしな方向にねじまがって表に顕れてしまうもので、
主人公の姉・巻子の場合それは〝豊胸手術〟だったんでしょう。
別に胸がでかくなったから女としての自信が取り戻せるとか幸せになれるとか
そういう具体的なことを考えてるわけじゃまったくなく、
「これさえやったら何かを乗り越えられる」
的な根拠のない希望、言い換えれば人生の目標や指針だとかいった、
そういうものが欲しかっただけだったんでしょう。
まあ一種の自己暗示・おまじないのような感じで。
それは巻子に限らずこの世のすべての人間がそうであるように。
巻子の娘・緑子(この名前は樋口一葉を敬愛する川上未映子さんの、
〝たけくらべ〟の主人公・美登利へのオマージュなのかな?)が筆談でしか人と会話しない、という
設定は本作中で唯一リアルさを欠いていて浮いている感じがしたし、
途中で出てくる冷蔵庫内の大量の卵がラストへの伏線であること、そしてそれがどう使われるかにも
すぐに思い至ってしまったので、
その点では物語が薄く感じられ、この著者やっぱりまだ若いなあ、と思ってしまったりもしたけど、
地の文までが関西弁の独特なリズムを持った文体は読んでいてかなり楽しかったし(私の親が
大阪出身なせいもあるけど)、
使う単語の選び方も(だいたい純文学の人はみんなそうなんだけど特に)絶妙で感心&感動しきり。
著者本人もこんな風にコメントしてます。
女なんか魂の上に身体をかぶって、その上にさらに服や化粧をかぶって生きてる、
ほんと〝卵〟みたいな構造の生き物なんだよな。
精神面とか生き方とかじゃなく、あくまで〝生き物〟としての女を描ききっているところに
この小説の真価がある。これは芥川賞に値する。
読んでよかった。
PS:
同時収録作〝あなたたちの恋愛は瀕死〟は。。。
「そのまんま」。これ以外の感想が思い浮かばない。
そのまんまのことをそのまんま描写できる彼女の手腕が怖い。
女なんかただの女だっつの。
娘の緑子を連れて豊胸手術のために大阪から上京してきた姉の巻子を迎えるわたし。
その三日間に痛快に展開される身体と言葉の交錯!
★収録作品★
乳と卵
あなたたちの恋愛は瀕死
***
4月といえばイースター(復活祭)の季節ですねえ。。。
となんだかたまご繋がりでふと思い出してみたり。
慢性的なストレスだの鬱屈だのをどうにか取り払いたいといった願望は、
人間の複雑な脳を経由すると妙におかしな方向にねじまがって表に顕れてしまうもので、
主人公の姉・巻子の場合それは〝豊胸手術〟だったんでしょう。
別に胸がでかくなったから女としての自信が取り戻せるとか幸せになれるとか
そういう具体的なことを考えてるわけじゃまったくなく、
「これさえやったら何かを乗り越えられる」
的な根拠のない希望、言い換えれば人生の目標や指針だとかいった、
そういうものが欲しかっただけだったんでしょう。
まあ一種の自己暗示・おまじないのような感じで。
それは巻子に限らずこの世のすべての人間がそうであるように。
巻子の娘・緑子(この名前は樋口一葉を敬愛する川上未映子さんの、
〝たけくらべ〟の主人公・美登利へのオマージュなのかな?)が筆談でしか人と会話しない、という
設定は本作中で唯一リアルさを欠いていて浮いている感じがしたし、
途中で出てくる冷蔵庫内の大量の卵がラストへの伏線であること、そしてそれがどう使われるかにも
すぐに思い至ってしまったので、
その点では物語が薄く感じられ、この著者やっぱりまだ若いなあ、と思ってしまったりもしたけど、
地の文までが関西弁の独特なリズムを持った文体は読んでいてかなり楽しかったし(私の親が
大阪出身なせいもあるけど)、
使う単語の選び方も(だいたい純文学の人はみんなそうなんだけど特に)絶妙で感心&感動しきり。
著者本人もこんな風にコメントしてます。
女なんか魂の上に身体をかぶって、その上にさらに服や化粧をかぶって生きてる、
ほんと〝卵〟みたいな構造の生き物なんだよな。
精神面とか生き方とかじゃなく、あくまで〝生き物〟としての女を描ききっているところに
この小説の真価がある。これは芥川賞に値する。
読んでよかった。
PS:
同時収録作〝あなたたちの恋愛は瀕死〟は。。。
「そのまんま」。これ以外の感想が思い浮かばない。
そのまんまのことをそのまんま描写できる彼女の手腕が怖い。
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「Fuck it(くそくらえ)だな」
作詞家が中毒死。彼の紅茶から青酸カリが検出された。どうしてカップに毒が?
表題作「ロシア紅茶の謎」を含む粒ぞろいの本格ミステリ6篇。
エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第一作品集。
奇怪な暗号、消えた殺人犯人に
犯罪臨床学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の絶妙コンビが挑む。
★収録作品★
動物園の暗号
屋根裏の散歩者
赤い稲妻
ルーンの導き
ロシア紅茶の謎
八角形の罠
***
文章表現も全体の構成もベテラン作家さんだけあって見事のひと言なのですが、
短編のほとんどが暗号ネタなのはちょっと食傷気味だった気が。
かといって暗号の登場しない表題作〝ロシア紅茶の謎〟も、
殺人トリックにどうもリアリティを感じられなくて面白いと思えなかったし(そこまで
手の込んだことしなくてももっと簡単で確実な殺害方法があるのでは?と)。
個人的に一番面白く読めたのは〝屋根裏の散歩者〟。
〝動物園の暗号〟も謎解きパートは非常にスピード感があって読んでいて楽しかったのですが、
あのトリックはその道のマニアじゃなきゃとてもじゃないけどわからないだろ(マニアでも
この短編が発表された当時と今じゃ状況が大きく変わっているので難易度高いんじゃないかと思う)。
有栖川氏の短編を読んだのはこれが初めてなのですが、
やっぱりこの人は長編向きの作家さんな気がする。
文章がうますぎるが故に落ち着きすぎていて、短編ならではのキレがあまり感じられないんだよな。
ってたった一作で決め付けるのもなんだし火村助教授は大好きなので後続シリーズも読みますが。
佳作ではあるので、暗号好きの人にはおすすめです。
作詞家が中毒死。彼の紅茶から青酸カリが検出された。どうしてカップに毒が?
表題作「ロシア紅茶の謎」を含む粒ぞろいの本格ミステリ6篇。
エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第一作品集。
奇怪な暗号、消えた殺人犯人に
犯罪臨床学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の絶妙コンビが挑む。
★収録作品★
動物園の暗号
屋根裏の散歩者
赤い稲妻
ルーンの導き
ロシア紅茶の謎
八角形の罠
***
文章表現も全体の構成もベテラン作家さんだけあって見事のひと言なのですが、
短編のほとんどが暗号ネタなのはちょっと食傷気味だった気が。
かといって暗号の登場しない表題作〝ロシア紅茶の謎〟も、
殺人トリックにどうもリアリティを感じられなくて面白いと思えなかったし(そこまで
手の込んだことしなくてももっと簡単で確実な殺害方法があるのでは?と)。
個人的に一番面白く読めたのは〝屋根裏の散歩者〟。
〝動物園の暗号〟も謎解きパートは非常にスピード感があって読んでいて楽しかったのですが、
あのトリックはその道のマニアじゃなきゃとてもじゃないけどわからないだろ(マニアでも
この短編が発表された当時と今じゃ状況が大きく変わっているので難易度高いんじゃないかと思う)。
有栖川氏の短編を読んだのはこれが初めてなのですが、
やっぱりこの人は長編向きの作家さんな気がする。
文章がうますぎるが故に落ち着きすぎていて、短編ならではのキレがあまり感じられないんだよな。
ってたった一作で決め付けるのもなんだし火村助教授は大好きなので後続シリーズも読みますが。
佳作ではあるので、暗号好きの人にはおすすめです。
日本人って、やっぱり変わってる――。
留学生リリー・メイスは、日本で不思議な風習を目にした。
建築物を造る際、安全を祈念して人間を生きたまま閉じ込めるというのだ。
彼ら「人柱」は、工事が終わるまで中でじっと過ごし、終われば出てきてまた別の場所に籠る。
ところが、工事が終わって中に入ってみると、そこには知らない人間のミイラが横たわっていた――。
★収録作品★
人柱はミイラと出会う
黒衣は議場から消える
お歯黒は独身に似合わない
厄年は怪我に注意
鷹は大空に舞う
ミョウガは心に効くクスリ
参勤交代は知事の務め
***
まず言っておきたいこと。
この物語の舞台は、現実とは似て非なる、謂わばパラレルワールドの日本。
まずそれをしっかりわかった上で読んでください。
本作に出てくる数々の〝風習〟が本当に日本にあったら、リリーじゃなくても眼を剥いて驚きます。
しかしバカな私は一話目の時点で「へ~! そんなこと実際にあんのか~!」と本気で信じ込み
一人勝手に恥をかきました(まあ私みたいなのはあまりいないでしょうが。。。)。
登場人物の価値観がズレてて読んでいてなんか違和感がある、
大したことない人物が過剰に持ち上げて描かれていて妙にイラつく、
真相にたどり着くまでの過程が不自然で思わず異議を申し立てたくなる、
石持浅海氏の小説は読むたびにそういったもろもろがハナについて仕方ないのですが、
設定が面白いし時に傑作が混じっていたりするのでついつい手にとってしまう。
でも本作は私的にはハズレだったな。。。あまりに突っ込みどころが多すぎた。
たとえば自宅に送られてきた爆弾かもしれない宅配便に対する探偵役の台詞、
「トラックに揺られても受け取ったあと一度ドサっと下に置いても爆発しなかったから大丈夫」
ってオイそんなわけねーだろそもそもその程度で爆発してたら標的の手元に届かないだろうがと。
〝人柱〟という職務を放棄して逃げた同僚に
「金を盗み出すためにいったん職場から逃げ出したのはいい、でもなんですぐ戻ってこなかった。
俺にはそれが許せない」
金盗んでとんずらするような不貞の輩に神聖な〝人柱〟をやらせることに対してはお咎めなしかと。
どの道神罰が下ってたんじゃないんかいと。
ある老人の登場シーンなんか、
老人――そういっていい外見だ。(って表現するってことはせいぜい六十過ぎぐらいかな?)
それも相当の高齢。(え? それって〝いっていい〟どころじゃないし。じゃあ八十半ばとか?)
すでに七十を過ぎているように見えた。(別に相当の高齢じゃねえー!)
もう突っ込みオンパレード。。。
しかも一つ一つの短編のトリックと真相もかなりこじつけ入ってて不自然で、これもまた
突っ込みどころ満載。
とってつけたラブストーリーも違和感ありありで正直ムダな要素。
著者が主人公の青年を描写するのに〝透明〟という単語を使いすぎなのも鬱陶しいし。
石持作品にここまでケチをつけたくなったのは
〝BG、あるいは死せるカイニス〟を読んだとき以来だな。
ほんと、着眼点はいいのになあこの作家さんは。。。
(そのあたりある意味山田○介と近いかも? ってさすがにあれと一緒にしちゃ失礼か。。。)
おすすめしません。
でも読み捨ては悔しいのでこうやってレビュー。
留学生リリー・メイスは、日本で不思議な風習を目にした。
建築物を造る際、安全を祈念して人間を生きたまま閉じ込めるというのだ。
彼ら「人柱」は、工事が終わるまで中でじっと過ごし、終われば出てきてまた別の場所に籠る。
ところが、工事が終わって中に入ってみると、そこには知らない人間のミイラが横たわっていた――。
★収録作品★
人柱はミイラと出会う
黒衣は議場から消える
お歯黒は独身に似合わない
厄年は怪我に注意
鷹は大空に舞う
ミョウガは心に効くクスリ
参勤交代は知事の務め
***
まず言っておきたいこと。
この物語の舞台は、現実とは似て非なる、謂わばパラレルワールドの日本。
まずそれをしっかりわかった上で読んでください。
本作に出てくる数々の〝風習〟が本当に日本にあったら、リリーじゃなくても眼を剥いて驚きます。
しかしバカな私は一話目の時点で「へ~! そんなこと実際にあんのか~!」と本気で信じ込み
一人勝手に恥をかきました(まあ私みたいなのはあまりいないでしょうが。。。)。
登場人物の価値観がズレてて読んでいてなんか違和感がある、
大したことない人物が過剰に持ち上げて描かれていて妙にイラつく、
真相にたどり着くまでの過程が不自然で思わず異議を申し立てたくなる、
石持浅海氏の小説は読むたびにそういったもろもろがハナについて仕方ないのですが、
設定が面白いし時に傑作が混じっていたりするのでついつい手にとってしまう。
でも本作は私的にはハズレだったな。。。あまりに突っ込みどころが多すぎた。
たとえば自宅に送られてきた爆弾かもしれない宅配便に対する探偵役の台詞、
「トラックに揺られても受け取ったあと一度ドサっと下に置いても爆発しなかったから大丈夫」
ってオイそんなわけねーだろそもそもその程度で爆発してたら標的の手元に届かないだろうがと。
〝人柱〟という職務を放棄して逃げた同僚に
「金を盗み出すためにいったん職場から逃げ出したのはいい、でもなんですぐ戻ってこなかった。
俺にはそれが許せない」
金盗んでとんずらするような不貞の輩に神聖な〝人柱〟をやらせることに対してはお咎めなしかと。
どの道神罰が下ってたんじゃないんかいと。
ある老人の登場シーンなんか、
老人――そういっていい外見だ。(って表現するってことはせいぜい六十過ぎぐらいかな?)
それも相当の高齢。(え? それって〝いっていい〟どころじゃないし。じゃあ八十半ばとか?)
すでに七十を過ぎているように見えた。(別に相当の高齢じゃねえー!)
もう突っ込みオンパレード。。。
しかも一つ一つの短編のトリックと真相もかなりこじつけ入ってて不自然で、これもまた
突っ込みどころ満載。
とってつけたラブストーリーも違和感ありありで正直ムダな要素。
著者が主人公の青年を描写するのに〝透明〟という単語を使いすぎなのも鬱陶しいし。
石持作品にここまでケチをつけたくなったのは
〝BG、あるいは死せるカイニス〟を読んだとき以来だな。
ほんと、着眼点はいいのになあこの作家さんは。。。
(そのあたりある意味山田○介と近いかも? ってさすがにあれと一緒にしちゃ失礼か。。。)
おすすめしません。
でも読み捨ては悔しいのでこうやってレビュー。
「でもそれよりなにより、この世のどっかに、
自分の行けん場所があるなんて、俺、嫌やでなあ」
猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。
おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者は
ゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。
ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。
舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。
★収録作品★
熊の場所
バット男
ピコーン!
***
明らかに普通とはズレた世界観、登場人物、なのに共感してしまう。
それが読むたびに不思議で、舞城氏と乙一氏の著作は新刊が出るたびに気になって
手にとってしまう。
両者とも本当に特異な才能の持ち主だと思う。
特に舞城氏の小説は文体から内容からすべてにおいてアクが強く、
初めて読む人は面食らうか「ふざけんな」と途中で本を投げ出してしまいかねない。
けれどそれぞれの話の全体を貫く芯(テーマ)はとても深くしっかりしたもので、
読み終えたあとには必ず読み手の心のどこかにずっしりと、またはひっそりと
しぶとく居座り続ける。
そして時おり作中の台詞や言い回しの断片がフラッシュバックのように脳裏に瞬く。
それがずきりと胸を刺したり「あああれはそういう意味だったのか」と新たな発見を生んだり、
時には自分を救ってくれたりする。
ここしばらくちょっと精神的に参っていてそんな中ふと表題作〝熊の場所〟を思い出し、
再読して心が少し軽くなったのは喜ばしい体験だった
舞城王太郎の入門書的位置づけの短編集だと思うので、
氏の作品が気になる人は本作から読んでみるのがいいかも。
舞城氏の作風はひと言で(言うのは難しいけど敢えて)言うなら
ちょっぴりライトな純文学といった感じなのですが、
〝ピコーン!〟は〝ザ・ベスト・ミステリーズ〟という、その年の傑作ミステリを集めた
オムニバスにも収録されている作品なので、
ミステリ好きも純文好きもエンタメ好きも、老いも若きも男も女も誰もが楽しめる一冊です。
〝ピコーン!〟に登場する悪魔。
あのスペルミスはわざとだったんだろうか。。。
わざとだろうな。犯人バカそうだったし。
自分の行けん場所があるなんて、俺、嫌やでなあ」
猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。
おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者は
ゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。
ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。
舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。
★収録作品★
熊の場所
バット男
ピコーン!
***
明らかに普通とはズレた世界観、登場人物、なのに共感してしまう。
それが読むたびに不思議で、舞城氏と乙一氏の著作は新刊が出るたびに気になって
手にとってしまう。
両者とも本当に特異な才能の持ち主だと思う。
特に舞城氏の小説は文体から内容からすべてにおいてアクが強く、
初めて読む人は面食らうか「ふざけんな」と途中で本を投げ出してしまいかねない。
けれどそれぞれの話の全体を貫く芯(テーマ)はとても深くしっかりしたもので、
読み終えたあとには必ず読み手の心のどこかにずっしりと、またはひっそりと
しぶとく居座り続ける。
そして時おり作中の台詞や言い回しの断片がフラッシュバックのように脳裏に瞬く。
それがずきりと胸を刺したり「あああれはそういう意味だったのか」と新たな発見を生んだり、
時には自分を救ってくれたりする。
ここしばらくちょっと精神的に参っていてそんな中ふと表題作〝熊の場所〟を思い出し、
再読して心が少し軽くなったのは喜ばしい体験だった
舞城王太郎の入門書的位置づけの短編集だと思うので、
氏の作品が気になる人は本作から読んでみるのがいいかも。
舞城氏の作風はひと言で(言うのは難しいけど敢えて)言うなら
ちょっぴりライトな純文学といった感じなのですが、
〝ピコーン!〟は〝ザ・ベスト・ミステリーズ〟という、その年の傑作ミステリを集めた
オムニバスにも収録されている作品なので、
ミステリ好きも純文好きもエンタメ好きも、老いも若きも男も女も誰もが楽しめる一冊です。
〝ピコーン!〟に登場する悪魔。
あのスペルミスはわざとだったんだろうか。。。
わざとだろうな。犯人バカそうだったし。
「完璧な状態でのこすために大事に抱えこんでいたら、
大勢の人に見てもらえないわ」
精神科医の榊は、病院の問題児である少女・亜左美を担当するが、
前任者の下した診断に疑問を抱きはじめる。
彼は臨床心理士の由起と力を合わせ、亜左美の病根をつきとめようとするが…。
***
少し昔、〝統合失調症〟がまだ〝精神分裂病〟と呼ばれていた時代の話なので
医療方針や医師の精神病への見解等に若干古くさい部分はありますが、
著者の本作を著するにあたっての徹底的な取材ぶりは圧巻のひと言。
これは本職の人(精神科医)でも違和感なく読めるんじゃないでしょうか。
ただ惜しむらくは、あまりに真に迫りすぎていてどこかドキュメンタリーチックというか、
ドラマ性がちょっと少なめ。まあ悪くいえば〝地味〟な話。
某美術館所蔵の狛犬の像の真贋問題を絡めることで話を盛り上げようとしているのは
わかるんですが、正直むしろその部分が蛇足になってしまっている。
話がつまらないので真贋の真相がわかったところで「ふーん」としか思えず、
挙げ句ラストには一切出てこず。要するに尻切れトンボ。結局あれは何だったんだ? という感じ。
美術館パート抜きで精神病棟パートのみのほうが普通に面白かったと思う。
&ミステリをよく読む人なら、あまりに主人公の榊医師に都合よく動きすぎな登場人物たちと
簡単に先の読めてしまうストーリー展開にあっけにとられること必至なので(←言い過ぎだけど
事実)、
あくまで普通のエンターテインメントとして読むことをおすすめします。
ラストは。。。結局榊医師が患者を救ったのは
〝医師として〟なのか〝男として〟なのかが曖昧なまま終わってしまったのが個人的には不服。
前者なら傑作、後者なら陳腐な駄作、と完全に読後の感想が変わってくるので。
〝医師として救った〟のだと読者にはっきりとわからせるためには、〝彼女〟じゃなく
もう一人の患者を榊の相手役として持ってくるべきだったと思う。
とかいろいろごちゃごちゃ書きましたが、文章は非常にうまく
精神疾患についてもかなり緻密かつ正確に描写してあるので、
精神医学に興味がある人はもちろん、〝精神病〟というものをよく知らず
偏見を持っているような人にも是非読んでほしい物語です。
偏見持つような人はそもそも自分のそれが偏見だなんて気づかないだろうけど
(そういえば蛇足ですが、
昔私がちょっと塞ぎこんでいたときにそれを過剰に心配したうちの母が
勝手に市役所かどこかのカウンセラーに私のことを相談しにいって、そのカウンセラーに
「娘さんは統合失調症の可能性があります」
と言われたのは今となっては懐かしい話。
ていうかいい加減過ぎだろそのカウンセラー。。。
誤診は怖いですよ(本作にもそう書いてあります)。
みなさん心の病になったら最低三つは病院をハシゴしてくださいね。というお話でした)
大勢の人に見てもらえないわ」
精神科医の榊は、病院の問題児である少女・亜左美を担当するが、
前任者の下した診断に疑問を抱きはじめる。
彼は臨床心理士の由起と力を合わせ、亜左美の病根をつきとめようとするが…。
***
少し昔、〝統合失調症〟がまだ〝精神分裂病〟と呼ばれていた時代の話なので
医療方針や医師の精神病への見解等に若干古くさい部分はありますが、
著者の本作を著するにあたっての徹底的な取材ぶりは圧巻のひと言。
これは本職の人(精神科医)でも違和感なく読めるんじゃないでしょうか。
ただ惜しむらくは、あまりに真に迫りすぎていてどこかドキュメンタリーチックというか、
ドラマ性がちょっと少なめ。まあ悪くいえば〝地味〟な話。
某美術館所蔵の狛犬の像の真贋問題を絡めることで話を盛り上げようとしているのは
わかるんですが、正直むしろその部分が蛇足になってしまっている。
話がつまらないので真贋の真相がわかったところで「ふーん」としか思えず、
挙げ句ラストには一切出てこず。要するに尻切れトンボ。結局あれは何だったんだ? という感じ。
美術館パート抜きで精神病棟パートのみのほうが普通に面白かったと思う。
&ミステリをよく読む人なら、あまりに主人公の榊医師に都合よく動きすぎな登場人物たちと
簡単に先の読めてしまうストーリー展開にあっけにとられること必至なので(←言い過ぎだけど
事実)、
あくまで普通のエンターテインメントとして読むことをおすすめします。
ラストは。。。結局榊医師が患者を救ったのは
〝医師として〟なのか〝男として〟なのかが曖昧なまま終わってしまったのが個人的には不服。
前者なら傑作、後者なら陳腐な駄作、と完全に読後の感想が変わってくるので。
〝医師として救った〟のだと読者にはっきりとわからせるためには、〝彼女〟じゃなく
もう一人の患者を榊の相手役として持ってくるべきだったと思う。
とかいろいろごちゃごちゃ書きましたが、文章は非常にうまく
精神疾患についてもかなり緻密かつ正確に描写してあるので、
精神医学に興味がある人はもちろん、〝精神病〟というものをよく知らず
偏見を持っているような人にも是非読んでほしい物語です。
偏見持つような人はそもそも自分のそれが偏見だなんて気づかないだろうけど
(そういえば蛇足ですが、
昔私がちょっと塞ぎこんでいたときにそれを過剰に心配したうちの母が
勝手に市役所かどこかのカウンセラーに私のことを相談しにいって、そのカウンセラーに
「娘さんは統合失調症の可能性があります」
と言われたのは今となっては懐かしい話。
ていうかいい加減過ぎだろそのカウンセラー。。。
誤診は怖いですよ(本作にもそう書いてあります)。
みなさん心の病になったら最低三つは病院をハシゴしてくださいね。というお話でした)
「あたしは、ずっと黙ってる。
あたしは、もう一度、忘れる」
人間は、死んだらどうなるの?
――いなくなるのよ――
いなくなって、どうなるの?
――いなくなって、それだけなの――。
その会話から3年後、凰介の母はこの世を去った。
父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。
夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。
そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。
父とのささやかな幸せを願う小学5年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?
***
どんでんに次ぐどんでんに次ぐどんでん返し。
って感じのミステリは往々にして登場人物や物語が複雑に入り組みすぎていて
(しかもそういうのに限って、文章もやたらと衒学的&小難しくて読みづらかったりする)
終盤にたどり着くころには「もういいよξ」と投げ出してしまいたくなったりするものが多いですが、
本作は内容も面白く一人一人のキャラの個性がたっていてそれでいて文体&全体の構成が
シンプルなので、余計なストレスを感じることなく最後まで一気に読み進めることができます。
しかも本当の意味で信用できる登場人物が一人もいないので
(「オイ誰が真の〝黒幕(シャドウ)〟なんだよ(@Д@;)」といった感じ)
事件の犯人どころか物語そのものの行き着く先が読めない面白さもある。
主人公の少年少女がちょっと大人びすぎ&賢すぎなのが違和感ありますが、
心理学・精神医学に興味のある人なら相当に楽しめる作品です。
(ただし本格的なその手のものを求めてる人には少し幼く感じるかも。
著者がまだ若い故か、精神病に関する描写にやや拙いところがあるので。
リアリティを求める人には多島斗志之氏の〝症例A〟のほうが○。
こちらは逆にエンタメ性は若干低めですが)。
本作は、トリックや事件に重きを置いて登場人物が皆記号化してしまっているなどといった
本格ミステリにありがちなこともなく、
道尾秀介氏ならではの深く暖かい人間ドラマがクサくなく盛り込まれているので、
真相に驚いてはいおしまい、なんてことにはならず、読後もじんわりと心に残り続ける。
おすすめです。
これから読むつもりの人は、その前に宮沢賢治の〝よだかの星〟を
青空文庫あたりで読んでおくとより一層内容に深みが増します。
あたしは、もう一度、忘れる」
人間は、死んだらどうなるの?
――いなくなるのよ――
いなくなって、どうなるの?
――いなくなって、それだけなの――。
その会話から3年後、凰介の母はこの世を去った。
父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。
夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。
そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。
父とのささやかな幸せを願う小学5年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?
***
どんでんに次ぐどんでんに次ぐどんでん返し。
って感じのミステリは往々にして登場人物や物語が複雑に入り組みすぎていて
(しかもそういうのに限って、文章もやたらと衒学的&小難しくて読みづらかったりする)
終盤にたどり着くころには「もういいよξ」と投げ出してしまいたくなったりするものが多いですが、
本作は内容も面白く一人一人のキャラの個性がたっていてそれでいて文体&全体の構成が
シンプルなので、余計なストレスを感じることなく最後まで一気に読み進めることができます。
しかも本当の意味で信用できる登場人物が一人もいないので
(「オイ誰が真の〝黒幕(シャドウ)〟なんだよ(@Д@;)」といった感じ)
事件の犯人どころか物語そのものの行き着く先が読めない面白さもある。
主人公の少年少女がちょっと大人びすぎ&賢すぎなのが違和感ありますが、
心理学・精神医学に興味のある人なら相当に楽しめる作品です。
(ただし本格的なその手のものを求めてる人には少し幼く感じるかも。
著者がまだ若い故か、精神病に関する描写にやや拙いところがあるので。
リアリティを求める人には多島斗志之氏の〝症例A〟のほうが○。
こちらは逆にエンタメ性は若干低めですが)。
本作は、トリックや事件に重きを置いて登場人物が皆記号化してしまっているなどといった
本格ミステリにありがちなこともなく、
道尾秀介氏ならではの深く暖かい人間ドラマがクサくなく盛り込まれているので、
真相に驚いてはいおしまい、なんてことにはならず、読後もじんわりと心に残り続ける。
おすすめです。
これから読むつもりの人は、その前に宮沢賢治の〝よだかの星〟を
青空文庫あたりで読んでおくとより一層内容に深みが増します。
「いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった」
1973年に起こった質屋殺し。
最後に被害者と会った女がガス中毒死して、事件は迷宮入りする。
物語の主人公は、質屋の息子と女の娘。
当時小学生だった二人が成長し、社会で“活躍”するようになるまでを、世相とともに描ききる。
2人の人生は順風満帆ではなく、次々忌まわしい事件が降りかかる……。
***
部屋のロフトを掃除してたら出てきたのでぺらぺらめくっていたらいつの間にか読破してしまった。
東野氏の文章は読みやすいので800P超のボリュームも苦にならずあっという間。
あーそれにしてもほんと憧れるなこの〝負の絆〟。
本作の二人の主人公には、そのへんのクサい純愛小説カップルより
よっぽど強い精神の結びつきを感じる。
こういう異性が一人いてくれれば、自分だったら一生結婚しなくても〝独りきり〟で生きていけるな。
偽物の太陽で十分。
本当の太陽は、照らさなくてもいい汚くて無様な現実まで容赦なく照らし出すから。
〝偽日〟は実はこの世界を一番美しく見せるちょうどいい明るさなんじゃないかと思う。
ラストはドラマ版のほうが好きだったりするんですが。
主人公の一人、亮司に辛うじて救いがあるから。
インパクトでいったら原作に軍配があがるけど。
鋼鉄の鎧を心にまとって生き続けてきた雪穂が
終盤になって周囲にぽろっと本音を零したりするようになるのは、
遠からず自分が〝偽日〟を失うことを本能的に察知していたからかもしれないと考えると
切なくなる。
東野氏は〝容疑者Xの献身〟で直木賞を受賞してるけど、
献身の度合いでいったら本作の主人公のほうがよっぽど上。
相手への思いも〝恋愛感情〟なんて言葉じゃ片付けられないほど強いものだし、
本作はミステリというより究極の恋愛小説といったほうが正しい気がする。
もしくは人魚姫の男版(って書くとなんかあほみたいだけど割と的を射た表現だと思う)。
柴咲コウの歌うドラマ版の主題歌、
歌詞がまさに亮司です。
読み終えたあと思わず熱唱してしまいました。
読書中のBGMにどうぞ。
四十六番目の密室は葬られた。
45の密室トリックを発表した推理小説の大家、真壁聖一が殺された。
密室と化した地下の書庫の暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿であった。
彼は自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか?
推理作家・有栖川有栖とその友人で犯罪学者・火村英生のコンビが怪事件の謎に迫る!
新本格推理小説。
***
作家アリスシリーズ第一弾。
最近もっぱら小説を書く上での私の指南書と化している有栖川作品。
本作も魅力的なキャラクターとどこまでも読者にフェアなストーリー展開に
安心して最後まで楽しく読み進める(&勉強する)ことができました。
本作は、本格推理というよりはそれ自体を暗にモチーフに据えたメタ本格(密室)小説といった体で、
(有栖川氏も後書きで言及されています)
既存のトリックや本格推理論を作中に散りばめて一枚の絵を浮かび上がらせるような、
ある種パズル的な趣向が凝らされています。
なので普段本格物を読みつけている人ならより一層面白く読むことができる。
そして本作ではたびたび〝天上の(つまりは究極の)推理小説〟というものについての言及があり、
ラストでその片鱗がちらっと出てくるのですが、それはほんの氷山の一角に過ぎなくても
その下には恐ろしいほど巨大な氷山が眠っていそうな、そんな壮大な感覚を
味わわせてくれる描写でかなりドキドキさせられました。
見えないからこそ読む者それぞれの頭の中で膨らむ世界。
「私はこの命題を驚くべき方法で証明できるが、書くスペースがないのでやらない」
と言い残して死んだ17世紀の数学者・フェルマーの〝最終定理〟が
思わず頭に浮かんでしまった。
未解決のこの定理が過去数百年の間いったい何人の数学者を触発し続けたことか。
有栖川氏も(彼の場合は意図的にですが)、本作を発表することによって
後進のミステリ作家たちに発破をかけたのかもしれない。そしてたぶん自分自身にも。
〝フェルマーの最終定理〟は既に解明されてしまいましたが、こちらのほうは
今後どうなるんでしょうか。
(ミステリ作家を志す身でこんな他人事みたいなコメントしてる場合じゃないですが)
〝天上の推理小説〟、あれば読んでみたいような、でも読むのが怖いような、
どうにも複雑な心境だな。
でもトリックなんてそれがどんなに秀逸であっても時代の流れと共に廃れていくものだから、
もし永劫にわたってあらゆる読み手を納得させ続けられるミステリなんてものがあるなら、
それは人間の筆によるものじゃない気もする。
〝天上の〟推理小説、言い得て妙だな。
おまけ:
本作にて事件解決のキーとして使われていたミニマム・ミュージック。
読書中のBGMにどうぞ(落ち着きませんが)。
45の密室トリックを発表した推理小説の大家、真壁聖一が殺された。
密室と化した地下の書庫の暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿であった。
彼は自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか?
推理作家・有栖川有栖とその友人で犯罪学者・火村英生のコンビが怪事件の謎に迫る!
新本格推理小説。
***
作家アリスシリーズ第一弾。
最近もっぱら小説を書く上での私の指南書と化している有栖川作品。
本作も魅力的なキャラクターとどこまでも読者にフェアなストーリー展開に
安心して最後まで楽しく読み進める(&勉強する)ことができました。
本作は、本格推理というよりはそれ自体を暗にモチーフに据えたメタ本格(密室)小説といった体で、
(有栖川氏も後書きで言及されています)
既存のトリックや本格推理論を作中に散りばめて一枚の絵を浮かび上がらせるような、
ある種パズル的な趣向が凝らされています。
なので普段本格物を読みつけている人ならより一層面白く読むことができる。
そして本作ではたびたび〝天上の(つまりは究極の)推理小説〟というものについての言及があり、
ラストでその片鱗がちらっと出てくるのですが、それはほんの氷山の一角に過ぎなくても
その下には恐ろしいほど巨大な氷山が眠っていそうな、そんな壮大な感覚を
味わわせてくれる描写でかなりドキドキさせられました。
見えないからこそ読む者それぞれの頭の中で膨らむ世界。
「私はこの命題を驚くべき方法で証明できるが、書くスペースがないのでやらない」
と言い残して死んだ17世紀の数学者・フェルマーの〝最終定理〟が
思わず頭に浮かんでしまった。
未解決のこの定理が過去数百年の間いったい何人の数学者を触発し続けたことか。
有栖川氏も(彼の場合は意図的にですが)、本作を発表することによって
後進のミステリ作家たちに発破をかけたのかもしれない。そしてたぶん自分自身にも。
〝フェルマーの最終定理〟は既に解明されてしまいましたが、こちらのほうは
今後どうなるんでしょうか。
(ミステリ作家を志す身でこんな他人事みたいなコメントしてる場合じゃないですが)
〝天上の推理小説〟、あれば読んでみたいような、でも読むのが怖いような、
どうにも複雑な心境だな。
でもトリックなんてそれがどんなに秀逸であっても時代の流れと共に廃れていくものだから、
もし永劫にわたってあらゆる読み手を納得させ続けられるミステリなんてものがあるなら、
それは人間の筆によるものじゃない気もする。
〝天上の〟推理小説、言い得て妙だな。
おまけ:
本作にて事件解決のキーとして使われていたミニマム・ミュージック。
読書中のBGMにどうぞ(落ち着きませんが)。
「お前は、ちょっと別格だ」
「それは光栄だ」
孤独で気儘な探偵・頸城悦夫のもとに
元都知事の大物タレントの館にある「芸術品」を取り戻して欲しいという依頼が舞い込む。
若く美しい依頼人。
冴え渡るはずの勘が、瞬く間に鈍っていく…。新感覚ハードボイルド。
***
新感覚ハードボイルド?
ハードボイルドもどきの間違いじゃ?
と、のっけから因縁つけたくなるような小説だった。
少なくとも私にとっては。
本作の印象をひと言で言うなら、〝アマチュア中年詩人のポエム(または日記)〟。
上っ面のかっこつけ台詞を吐くだけで至って魅力に乏しい主人公。
なんの脈絡もなく唐突にそんな彼を「愛している」などとのたまうヒロイン(初めは
利用する気満々だったのに)。
著者に妄想に走るのもたいがいにしてくれと言いたくなるほど現実味に乏しい
主人公の取り巻きの女性たち。(いっそ西之園萌絵並みにあらゆる意味で突き抜けてくれてれば
好きになれたかもしれないけど。
「会いたいよう」「いいよう」等の〝語尾伸ばし喋り〟は鳥肌が立った。森氏はこれに
魅力感じるんだろうか?)
中身のない耳に心地いいだけの単語のみで構成されたひどく薄っぺらな世界観。
ミステリ部分も、あまりに納得いかない部分が多すぎ。
誰とも分からない相手に命を狙われている人がよく知りもしない人間をホイホイ自宅に泊めますか?
どうして法輪が撃たれた部屋だけ都合よく防弾ガラス仕様じゃないんですか?(というか
防弾ガラス仕様じゃなかったら犯人はどうやってアリバイ工作するつもりだったんですか?)
主人公を利用して法輪宅に招かれそこで法輪を殺す計画だったって、もし主人公がその前に
あっさりお宝を取り返して持ってきちゃったらいったいどうする気だったんですか?
森氏が単に趣味で書いたのをそのまま出版してしまったという感じ。
デビュー間もないころの森作品はこんなんじゃなかったのに。
〝スカイ・クロラ〟シリーズも似た感じだし(あちらはまだ好きですが)、
今後はもうずっとこの作風でいくんだろうか。
森氏はかなりの量産作家だけど、そのせいで中身がこうして薄っぺらになっているのなら
寡作になってかまわないからもっとクオリティの高いものを生み出してほしい。
本作は読んだことを時間の無駄としか感じられなかった。
「それは光栄だ」
孤独で気儘な探偵・頸城悦夫のもとに
元都知事の大物タレントの館にある「芸術品」を取り戻して欲しいという依頼が舞い込む。
若く美しい依頼人。
冴え渡るはずの勘が、瞬く間に鈍っていく…。新感覚ハードボイルド。
***
新感覚ハードボイルド?
ハードボイルドもどきの間違いじゃ?
と、のっけから因縁つけたくなるような小説だった。
少なくとも私にとっては。
本作の印象をひと言で言うなら、〝アマチュア中年詩人のポエム(または日記)〟。
上っ面のかっこつけ台詞を吐くだけで至って魅力に乏しい主人公。
なんの脈絡もなく唐突にそんな彼を「愛している」などとのたまうヒロイン(初めは
利用する気満々だったのに)。
著者に妄想に走るのもたいがいにしてくれと言いたくなるほど現実味に乏しい
主人公の取り巻きの女性たち。(いっそ西之園萌絵並みにあらゆる意味で突き抜けてくれてれば
好きになれたかもしれないけど。
「会いたいよう」「いいよう」等の〝語尾伸ばし喋り〟は鳥肌が立った。森氏はこれに
魅力感じるんだろうか?)
中身のない耳に心地いいだけの単語のみで構成されたひどく薄っぺらな世界観。
ミステリ部分も、あまりに納得いかない部分が多すぎ。
誰とも分からない相手に命を狙われている人がよく知りもしない人間をホイホイ自宅に泊めますか?
どうして法輪が撃たれた部屋だけ都合よく防弾ガラス仕様じゃないんですか?(というか
防弾ガラス仕様じゃなかったら犯人はどうやってアリバイ工作するつもりだったんですか?)
主人公を利用して法輪宅に招かれそこで法輪を殺す計画だったって、もし主人公がその前に
あっさりお宝を取り返して持ってきちゃったらいったいどうする気だったんですか?
森氏が単に趣味で書いたのをそのまま出版してしまったという感じ。
デビュー間もないころの森作品はこんなんじゃなかったのに。
〝スカイ・クロラ〟シリーズも似た感じだし(あちらはまだ好きですが)、
今後はもうずっとこの作風でいくんだろうか。
森氏はかなりの量産作家だけど、そのせいで中身がこうして薄っぺらになっているのなら
寡作になってかまわないからもっとクオリティの高いものを生み出してほしい。
本作は読んだことを時間の無駄としか感じられなかった。
『この世界には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています』
禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月。
その友人、迎槻箱彦と琴原りりす。
彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく…。
様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫とともに事件の解決に乗り出すが―?
『メフィスト』に一挙掲載され絶賛を浴びた「体験版」に解決編を加えた「完全版」。
これぞ世界にとり残された「きみとぼく」のための本格ミステリー。
***
西尾維新氏の独特の台詞回しや言葉選びのセンスが好きで、
〝戯言シリーズ〟はすべて読破、でも巻を重ねるにつれて(ご本人も言及されていましたが)
ミステリ部分が徐々に薄まってそのぶんファンタジー色が強くなり、
残念に思っていたところに発刊された〝本格推理〟と銘打つこの一冊。
大喜びで読んだはいいものの。。。
氏の文体と本格推理はあまり相性がよくないな、というのが感想。
(本格推理というよりはメタ本格、って感じだけど)
そもそも本格推理というもの自体がくどくどしいジャンルなのに、
それが西尾氏の悪くいえば冗長な作風と合わさるとさらにくどいことこの上ない。
事件は至ってシンプルでそれに関わる登場人物もそう多くないので(このあたりは西尾氏が
自分の文体とのバランスを図った結果なのでしょうが)読んでいて混乱するなんてことは
ないですが、
クライマックスで探偵役が事の真相を解き明かしていく件なんかねちっこい上に持って回り過ぎて
「いいからもっとシャープにさくさく明かしてくれえー('A`) 」とフラストレーションすら溜まる始末。
おまけに〝著者の意図が透けて見える小説〟というものを主人公が嫌っている割には
本作自体がまさにそれだし。
西尾氏が自作のキャラやシチュエーションに萌えているのが
これでもかと伝わってきて正直つらかった。著者と物語の距離が近すぎるというか。
遥か高みから俯瞰する〝神の視点〟じゃなく、ホームビデオを撮影する父親のような
〝馴れ合い〟の近さ。〝戯言シリーズ〟はギリギリでそういった面は回避できていたのに(西尾氏は
ちゃんとある程度突き放してキャラ&ストーリーを描いていた)、
その後に書かれたこれはなんでまたこんな風になっちゃんたんだろう?
本作の一貫したテーマである〝世界と自分との関係性〟というのも、
妙に青臭いしそれに対して主人公が導き出した解答も青臭いしっていうか凡庸だし、
「あなたならもっと突っ込んだテーマで書けるだろう」と思わず心中で著者に語りかけてしまった。
主人公も劣化版いーちゃん(〝戯言シリーズ〟の主人公の青年)だし。
でもいーちゃんほどの魅力が感じられないぶん、
周囲の女の子たちがどうして彼にそうまで惹かれるのかもいまいちわからず。
トリック部分はオーソドックスながらも正統な本格推理といった感じで○。
まあ犯人のやり方に関しては「もっとうまい方法があるだろ」と思う点がなきにしもあらずですが。
殺人の動機もあまりに弱いし 弱いというか、〝ない〟?(まあこれは
読み手の想像力次第でいくらでもとんでもない動機を後付けすることが可能ですが。氏も
それを狙ってるような気がするし。悪く言えば投げっぱなしだけど)。
著者の作為があまりにあからさま過ぎる小説だったな。
キャラもいかにも作られた感が強くて現実味がなかった(決してライトノベルだからって
理由じゃなく)。
こうなるともう世界に入り込めなくなってしまうので残念。
禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月。
その友人、迎槻箱彦と琴原りりす。
彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく…。
様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫とともに事件の解決に乗り出すが―?
『メフィスト』に一挙掲載され絶賛を浴びた「体験版」に解決編を加えた「完全版」。
これぞ世界にとり残された「きみとぼく」のための本格ミステリー。
***
西尾維新氏の独特の台詞回しや言葉選びのセンスが好きで、
〝戯言シリーズ〟はすべて読破、でも巻を重ねるにつれて(ご本人も言及されていましたが)
ミステリ部分が徐々に薄まってそのぶんファンタジー色が強くなり、
残念に思っていたところに発刊された〝本格推理〟と銘打つこの一冊。
大喜びで読んだはいいものの。。。
氏の文体と本格推理はあまり相性がよくないな、というのが感想。
(本格推理というよりはメタ本格、って感じだけど)
そもそも本格推理というもの自体がくどくどしいジャンルなのに、
それが西尾氏の悪くいえば冗長な作風と合わさるとさらにくどいことこの上ない。
事件は至ってシンプルでそれに関わる登場人物もそう多くないので(このあたりは西尾氏が
自分の文体とのバランスを図った結果なのでしょうが)読んでいて混乱するなんてことは
ないですが、
クライマックスで探偵役が事の真相を解き明かしていく件なんかねちっこい上に持って回り過ぎて
「いいからもっとシャープにさくさく明かしてくれえー('A`) 」とフラストレーションすら溜まる始末。
おまけに〝著者の意図が透けて見える小説〟というものを主人公が嫌っている割には
本作自体がまさにそれだし。
西尾氏が自作のキャラやシチュエーションに萌えているのが
これでもかと伝わってきて正直つらかった。著者と物語の距離が近すぎるというか。
遥か高みから俯瞰する〝神の視点〟じゃなく、ホームビデオを撮影する父親のような
〝馴れ合い〟の近さ。〝戯言シリーズ〟はギリギリでそういった面は回避できていたのに(西尾氏は
ちゃんとある程度突き放してキャラ&ストーリーを描いていた)、
その後に書かれたこれはなんでまたこんな風になっちゃんたんだろう?
本作の一貫したテーマである〝世界と自分との関係性〟というのも、
妙に青臭いしそれに対して主人公が導き出した解答も青臭いしっていうか凡庸だし、
「あなたならもっと突っ込んだテーマで書けるだろう」と思わず心中で著者に語りかけてしまった。
主人公も劣化版いーちゃん(〝戯言シリーズ〟の主人公の青年)だし。
でもいーちゃんほどの魅力が感じられないぶん、
周囲の女の子たちがどうして彼にそうまで惹かれるのかもいまいちわからず。
トリック部分はオーソドックスながらも正統な本格推理といった感じで○。
まあ犯人のやり方に関しては「もっとうまい方法があるだろ」と思う点がなきにしもあらずですが。
殺人の動機もあまりに弱いし 弱いというか、〝ない〟?(まあこれは
読み手の想像力次第でいくらでもとんでもない動機を後付けすることが可能ですが。氏も
それを狙ってるような気がするし。悪く言えば投げっぱなしだけど)。
著者の作為があまりにあからさま過ぎる小説だったな。
キャラもいかにも作られた感が強くて現実味がなかった(決してライトノベルだからって
理由じゃなく)。
こうなるともう世界に入り込めなくなってしまうので残念。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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