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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「……一人で狂うのは、嫌だろう?」



浮浪者たちに輪姦されている精神薄弱の女・やっちりを目撃した私と友人・冴木。
夜の工場跡地で体験した、暴力の光景。後日、やっちりは死体となって発見される。
少年時代に体験したひとつの死。
二人の生き方は、成長するにつれだんだんと社会から逸れていってしまう。
ある日、大人になった私のもとに冴木から電話がかかり、二人は再会する。
数日後、私が自宅に帰宅すると自分の部屋の中で、ひとりの女が死んでいた。
それは、よく指名するデリヘルのエリコだった……。
心の闇、欲望、暴力とセックス、そして人間とは何か。
暴力と人間をテーマに描く芥川賞作家が全精力を傾け、
ミステリアスな物語とスピード感あふれる文章で描き出した傑作長篇小説。 

***

もともと純文作家にしては著作にミステリ的色合いの強い中村氏、
今回は特にその傾向が顕著なので
ミステリ書きの私にはより楽しめる作品でした。

本作で描かれているテーマは、
人間の〝本能〟と〝理性〟の葛藤。

たとえば人間という生き物の中にも、動物と同じように
その種の平均より性欲の過剰な個体はいるわけですが、
人間の場合その〝異性と交わりたい〟という単純な欲望に
想像力によって様々な歪んだオプションが付加されてしまう。
メガネじゃなきゃ反応しない。
ナース服じゃなきゃ反応しない。
同性じゃなきゃ、犯罪者じゃなきゃ、赤ん坊じゃなきゃ、
レイプじゃなきゃ、屍姦じゃなきゃ、動物じゃなきゃ、etc.etc.。。。

知能があるが故の複雑な性欲。
「もう自分はこうなんだから仕方ない」
と割り切って生きていければいいのでしょうが、
これもまた人間ならではの〝理性〟を持って生まれてしまったがために
そんな偏った自分に嫌悪感を抱いてしまう。

病気なら治療の余地もある。
だけどもしそれが〝本能〟だったら?
たとえば自分の精神が普通じゃないことを自覚して病院に行き、精神科医に
「あなたのそれは病気じゃなく〝性格〟なので治しようがありません」
と言われてしまったら?

本作では、
自分の中の歪んだ性癖をいなすように生きる青年と
それとまともに向き合って生きる青年の二人が描かれている。
選んだ道なりのメリットもデメリットもあるけれど、
やはりどちらも幸せであるとは言いがたい。
けれどそれでも今後も生き続けようと思うなら、
克服しようのない自分の〝本能〟を一生ひきずっていくしかない。

物語の終盤で、
片方は〝妥協〟
片方は〝終息〟
をそれぞれ選んだ。
自分なら選ぶのは後者かもしれない。
まさに〝終息〟を選んだ彼のように、最後に一つだけ誰かのためになることを遺して終わる。
時おり暴れだしそうになる〝本能〟をなだめてくれる、もしくはこの物語の主人公のように
「自分も一緒に狂う」と言ってくれる第三者がそばにいればどうかわからないけど。
でもそれは私が女だから。
男ならためらいなく〝CONTIINUE〟ではなく〝GAME OVER〟を選択する。
 
 
誰にも理解されない、その人間だけの持つ〝本能〟。
何だか富樫義博氏の著作〝レベルE〟(死ぬっほどオススメマンガ。
ミステリ好きの人はぜひ)のエイリアンを思い出した。
知能を持って生まれたが故に己の本能に苦悶する。
切ない話だな。

伊坂幸太郎氏の著作〝重力ピエロ〟の登場人物
〝春〟も、おそらく本作の冴木とよく似た葛藤を抱えて生きている。

己の性的本能に対する葛藤を描いた本作、
女性より男性のほうがより理解できるでしょう。
私は女なので主人公たちの男の生理が理解し切れずちょっと残念。
性欲以外なら未だ戦い続けている〝本能〟はあるけど。
それは世の中のほとんどの人間と同じように。


追記:
本作中にて、主人公が
外国のビッグアーティストにジャンキー(ヤク中)が多い理由を
〝ライブでの高揚を日常にも求めてしまうからだ〟
というように推測していましたが、それは違うような気がする。
彼らはライブを重ねていくうちにその瞬間の高揚に〝慣れて〟しまい、
次第に昂ぶりを感じなくなり焦ってドラッグでその感覚を取り戻そうと
するんだと思う。
歌をやってる私なりの見解ですが。

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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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