川本麻由はかつての恋人によるDVで心に傷を負い、生きることに臆病になっていた。
ある日通院先で植村蛍に出会い、次第に惹かれてゆくが…。
どこまでも不器用で痛く、眼が眩むほどスイートな恋愛小説!!
***
終わり方がぼやっとしていて、だからといって読者の想像に委ねているわけでもなく、
ちょっと物足りないラストだった。というより作品だった。
元恋人の暴力で心に傷を抱えた主人公の描写にはけれどリアリティがあって、
一緒に苦しくなったりもした。
〝だめんず・うぉ~か~〟とかには、彼氏に暴力を受けても平然としている子が
何人も出てくるけれど(実際私の友人にもそういう子がいるのだけれど)、
こうして病んでしまうまでにいたる女の子も確かに存在するんだな、と思うと
何だかやるせない気持ちになった。
終盤の「私を頑丈にしてくれてありがとう」という台詞には、だから染み入るものがあった。
主人公へ差し伸べる救いの手が多すぎることがフィクションくささに磨きを掛けてしまっている
ところもあったけど。
(あと主人公に手を差し伸べる人物の一人であるさとる君が魅力ありすぎて蛍を食ってしまってる)
まあ、おすすめです。
こんな恋でも恋は恋。
フェチ教授と女子大生の崇高な関係。「かげろう稲妻水の月」、
ネット美女に恋をしたオタク青年の純情。「チャット・ガール」、
独身主義が一転、彼女に子供が欲しいと言われ。「素っ裸の王様」、
彼氏が突然お腹のなかに寄生虫を飼いだした。「虫のいどころ」。
オール讀物新人賞受賞。
★収録作品★
かげろう稲妻水の月
チャット・ガール
素っ裸の王様
虫のいどころ
***
笑った。切なくなった。怖気がした。ほかにもいろいろ。
そんな、いろんな感情を味わえる小説だった。
本短編集の中で一番好きなのは〝チャット・ガール〟。
「お前も誰だよ」には爆笑したし、妙な物語なのにラストで苦笑混じりの物寂しさ(しかしそれでいて
スカっと爽快)を感じたりして、そんな気分になったのは初めてだったのでその感情の余韻に
しばし浸ってみたりもした。
最近読んだ小説の中では最も個性的な作品なのではと思う。
読むと普通の恋愛していることがバカらしくなります。それだけのインパクトを持った本です。
おすすめ。
止められない。
恋人・降一を事故で亡くした志保。彼の母親が営む店を手伝う彼女の前に現れたのは、
その事故の原因をつくった五十嵐だった。彼の存在を受け入れられない志保だったが、
同じ悲しみを抱える者同士、少しずつ二人の距離が近づいていく。。。
★収録作品★
君が降る日
冬の動物園
野ばら
***
今までの島本理生作品の中で一番好きかも知れない。
どの物語も終わりかたが秀逸で読み終わるたびに唸った。そのたび背中がぞっとした。
特に〝野ばら〟は著者自身も気に入っているという発言のとおり傑作。
今すぐ頭をハンマーで殴り付けて記憶を失ってからまっさらな状態でまた読みたい。
もちろん少し時間を置いて再読するつもりだけれど。
おすすめです。
おまけ:
谷川俊太郎の〝あなたはそこに〟。
必ず本作を読了後お読みください。
『あなたはそこに』
あなたはそこにいた
退屈そうに 右手に煙草 左手に白ワインのグラス
部屋には三百人もの人がいたというのに
地球には五十億もの人がいるというのに
そこにあなたがいた
ただひとり
その日その瞬間 私の目の前に
あなたの名前を知り
あなたの仕事を知り
やがて
ふろふき大根が好きなことを知り
二次方程式が解けないことを知り
私はあなたに恋し
あなたはそれを笑いとばし
いっしょにカラオケを歌いにいき
そうして私たちは友達になった
あなたは私に愚痴をこぼしてくれた
私の自慢話を聞いてくれた
日々は過ぎ
あなたは私の娘の誕生日にオルゴールを送ってくれ
私はあなたの夫のキープしたウィスキーを飲み
私の妻はいつもあなたにやきもちをやき
私たちは友達だった
ほんとうに出会った者に別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ くり返し私に語りかける
あなたとの思い出が私を生かす
早すぎたあなたの死すら私を生かす
初めてあなたを見た日から こんなに時が過ぎた今も
失った恋と、再生。そして少女時代の終わり失恋で心に深い傷を負った「わたし」。
なかなか消えないその痛みを癒してくれたのは、陽気な友人一家との交流だった。
そしてゆるやかに少女は大人へと脱皮する。
***
子供をおろしたばかりの女性を抱こうとする青年が現れたり(それもちゃんと相手を好きなのに)と
登場人物にフィクションくささを感じずにいられなかった本作だけど、まあ面白かった。
劣化版〝ナラタージュ〟という感じ。
タイトルに内容が追いついていないようなアバウトさを感じはしたものの
「相手が多すぎて誰の子なのかわからない」
という衝撃的な主人公の告白で幕が開く冒頭部分はうまい。一気に惹き込まれる。
まあそんな主人公を、話が進むごとに理解して好きになっていけるかやはり許せないままかは
読み手に委ねられるのだけど。
(ちなみに私は中間だった)
まあおすすめ。
ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。
家族は、母、小学校二年生の異父妹の女三人。
習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、二番目の父――。
「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、
第二十五回野間文芸新人賞受賞作。
***
さして奇抜でも特殊でもない主人公の日常がただ淡々と描かれている。
地味だけれど表現の一つひとつが光っているような文章力はさすが。
よしもとばなな好きのひとは読めばハマるかも知れない。
ただ、個人的にはもうちょっと読み手を楽しませる展開があってもよかったんじゃないかと思った。
まあそれが純文学、と言ってしまえばそれまでなのだけど。
(いや、でも純文学でも探してみれば派手なものはいくらでもあるけど)
あと少しキャラを掘り下げて書いてほしかったな、というのが正直な感想。
でも、ハラハラドキドキするのではなく、
心拍を一定に保ったまま読みきれる本作のような作品も今の世の中には大事なんだろう。
まあおすすめ、かな。
1958年の夏。当時、12歳のわたし(デイヴィッド)は、隣の家に引っ越して来た
美しい少女メグと出会い、一瞬にして、心を奪われる。
メグと妹のスーザンは両親を交通事故で亡くし、隣のルース・チャンドラーに
引き取られて来たのだった。
隣家の少女に心躍らせるわたしはある日、ルースが姉妹を折檻している場面に出会い
ショックを受けるが、ただ傍観しているだけだった。
ルースの虐待は日に日にひどくなり、やがてメグは地下室に監禁されさらに残酷な暴行を――。
キングが絶賛する伝説の名作。
***
ほぼすべての登場人物の心情が丁寧に、圧倒的リアリティをもって描写されているので、
悪役にすらともすれば感情移入してしまいそうになる。
それほど圧巻の物語だった。
虐待を通り越してもはや虐殺に近い暴行の連続。
なのに読んでいるうちに胸に迫ってくるのは痛々しさよりも切なさ、物悲しさなんだよな。。。
何だか不思議な物語だった。
おすすめ、という言い方が本作の場合ふさわしいかどうかわからないけど、
万人に是非読んでほしい作品だと思った。
映画版はこちら↓
心理カウンセラー我妻は、「顔が凶悪すぎる児童カウンセラー」として、子どもたちの間で評判。
アシスタントの隼人は、流行りのオレオレ詐欺をやってみたけど頭が悪すぎて
即逮捕された過去を持つおバカキャラ(だけど子どもにはなぜか大人気)。
シツケとの境目が難しく法的手段ではどうにもならない児童虐待を前に、
ダメダメコンビは非合法な手段も厭わず対抗する――。ノンストップ世直しノベル。
***
つまらなかった。
文章が~した、~したばかりで単調すぎだし。まるで児童文学だった(決して児童文学を
馬鹿にするわけじゃないけど。でも子供が読めば楽しめるのかも知れない)。
何の前触れもなく(ほんとに、何の前フリもなく突然)登場人物同士がくっついたりするし。
タイトルの割にお助けパンダ全然活躍しないし。
〝守護天使〟の面白さはいったいどこへ?
おすすめしません。
壊れるまでに張りつめた気持ち。そらすこともできない――二十歳の恋。
大学二年の春、片思いし続けていた葉山先生から電話がかかってくる。
泉はときめくと同時に、卒業前に打ち明けられた先生の過去の秘密を思い出す。
今、最も注目を集めている野間文芸新人賞作家・初の書き下ろし長編。
***
評判がよく期待しすぎていたせいかそこまでいいとは思えず。
一つひとつのシチュエーションはすごくいいんだけど全体的な内容は
想像の範囲内、いやむしろ期待値以下だった印象。
個人的な話になるけど、私が今置かれているのと同じ状況で主人公は恋をしているのに
(むしろそれがあったから読もうと思ったのに)あまり共感できなかったのも残念だった。
たとえるならポエムを読んでいるような、表現は鮮烈なんだけどどこか現実離れしていて
入り込めない感じ。
でも決して楽しめなかったわけじゃない。読み始めると止まらずに一気に読んでしまいました。
まあおすすめかな。
馳星周版『フランダースの犬』!
おぞましい出来事、忌まわしい現実、世界を呪いながら、それでもぼくは幸せだった。
有紀の写真を撮っている限り……。
函館・大沼で出会った青年と美少女。強く惹かれあいながら、過酷な運命に追い詰められる――。
馳ノワールの新境地がここに結実した!
***
ダークな〝フランダースの犬〟という感じ。
けどこれまでの馳星周作品の中では文体も展開もフランクで非常に読みやすかった。一気読み。
主人公も、冒頭だけ読むとそうでもないけど読み進めるうちに実はかなりの食わせ者だってことが
わかってきてなかなかに面白い。
ヒロインの有紀は完全に世の男性が好む理想の女像って感じだったけど
同性の私から見ても魅力的で(何で彼女が主人公をああも気に入ったのかは未だもって謎だけど)
見守る感じでストーリーを追えた。
クライマックスからラストへの展開は簡単に予想できてしまうのでそこまでの感動、感銘と
いったものはなかったけど、これだけの長編の割にはきれいに収まるところに収まっていたと思う。
まあおすすめです。
15年前のサマーキャンプに参加した27歳の男女5人が、
キャンプ主催者の遺言執行者と名乗る女性弁護士に突然集められた。
この中の1人が遺産31億円の相続資格者だと言うのだ。
「“或る事”をした者」という以外故人が明確にしなかった該当者確定のために、
5人はキャンプの詳細をレポートにするよう求められる。
事実を捻じ曲げて独り占めしようとする者、分割して相続することを望む者、
少額でも掠め取ろうと謀略を練る者、端から関心がない者…。
莫大な遺産への欲望に差はあるものの、5人は遠い夏の記憶を手繰り寄せる。
***
著者初の本格ミステリ!などと銘打ってはいますが本作は本格ミステリどころか
そもそもミステリですらない。
ミステリに失礼。
第一部最後で明かされる真相にあ然として第二部に進める手が止まったし。
ラストのご都合主義丸出し感は言葉も失くすほどだったし(何じゃこの二人?と呆気にとられた)。
だいたいがこの著者の著作は台詞がほとんどなくて地の文がみっちりで
読みづらいから(文章はうまいけど)敬遠していたのに、
ついあらすじに惹かれて手にとってしまったのが運の尽き。
タイトルの〝偽憶〟ってそういう意味?とも脱力しながら思いましたよ。。。
おすすめしません。
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |