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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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これからも、ずっと。



健太郎の家の近くの海に、ずっと前から不気味な塔が建っている。
地図にもインターネットにも載っていない、謎の建物。
夏休みの最初の午後、憂鬱な気持ちで海岸にいた健太郎は、
気が付くとその塔に「さらわれ」ていた。
そこには感情がなくなった人々の群、閉じ込められた十数人の大人たち、
そして昏い目をした少年、貴希がいた。
健太郎と貴希は次第に心を通わせ、塔を出るための「出城料」を共に探し始める…。
少年たちのある夏、切なすぎる冒険譚。

***

この夏休み、読書感想文を書くのに四苦八苦している小中学生たちに
片っ端から勧めてまわりたい。
切なくも感動的な物語だった。
ただ、一度囚われてしまった城から逃げ出すための〝出城料〟が何か、ということに
早い段階で気付いてしまったため、後の展開も見えてちょっと退屈してしまったのが残念。

ただ、全体に暗くなってしまいそうなモチーフの物語を、
関という陽気なキャラを出すことによって打ち破っているのがバランスよくていい感じだった。

本作を通して著者が言いたいのは、
ピーターパンのネバーランドと同じ、子供のような純粋な気持ちを抱えたまま
ずっと城に留まり続けるか、それを失くすことを覚悟で外へ飛び出していくか、
あなたならどっちがいいか?――そういうことだと思う。
陳腐な表現で言えば、「あなたは大人になりたいですか、それとも子供のままがいいですか」
ということ。
個人的な話をすると私は過去をとても大事に思っているので
それを捨ててまで四龍海城を出ようとは思わず城に留まってしまうかも知れない。
。。。いや、でも、城を出たあとでも、ふたたび大切なものを見つけることはできるかも知れない。
それに賭けるかも。
少なくとも本作の主人公ふたりはそうであるよう祈りたい。

ちなみに、本作とかなりよく似た内容でとてもいい作品があるので紹介しておきます。
恒川光太郎〝夜市〟。これは友情じゃなく兄弟愛の物語だけど。
どちらもおすすめです。



おまけ:
作中に登場する曲、Friday Night Fantasy。
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喉の奥から突き上げる叫びを。



古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、
過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶる。
そして妻は幽閉同然の美少女。
ここにうさんくさい客たちが集まった時点から、惨劇の幕が開く。
密室から男が消失したことと、1年前の奇怪な殺人とは、どう関連するか?
驚異の仕掛けをひそませた野心作。

***

本格ミステリ小説としては非常によくまとまっている。
でも、綾辻氏の本領である大どんでん返しがあまり発揮されていないように思えて
それだけがちょっと残念。
オチも途中で読めちゃうし。
(でも、ほぼ20年前の本作発表時はかなり革新的だったんだろうと思うけど)
十角館〟や〝時計館〟のトリックが素晴らしかっただけに尚更そう思えて
しまうのでしょうが。。。

というか登場人物の一人である美少女があんなにも尻軽なのは一体何故?
長年閉鎖的な生活を送ってきたストレスの顕れ?
それだけがどうにも腑に落ちなかった。綾辻氏に説明してもらいたい。
(まあ、答えなんてなくて「あくまでそういうキャラなのだ」と思った上で楽しむのが
流儀なのかも知れないけれど)

と、いろいろ書きましたが、
本作は傑作とまではいかないにしても良質なミステリでおすすめです。
是非一読を。



余談:
〝水車館の殺人〟というぐらいだから、
犯人が水車に掴まって移動する、とかいうトリックが出てきたらどうしようなどと
しょぼい心配をしていましたが、そんなシーンが出てくることもなくほっとした。
ていうかバカだな私。。。
これは幸福な旅立ちなのだ。



「亜紀ちゃんの話を、聞かせてください」
10年前に起きた、少女をめぐる忌わしい事件。
児童相談所の元所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言を集める男の正体とは…。
哀しくも恐ろしい結末が待ち受ける!
2011年『このミス』大賞優秀賞受賞作。

***

うまい。新人とは思えない。
面白くて一気読みしてしまった。
いろいろな人物から話を聞いていく、というスタイルの小説は巷にあふれ返ってるけど
(恩田陸〝Q&A〟然り、貫井徳郎〝愚行録〟然り。。。)
この形式の小説を書けるひとは総じて執筆レベルが高い。
本作はその中でも特に筆力・ストーリーテリング力に秀でていて、
すぐに引き込まれてぐいぐい読める。
ラストはちょっと陳腐な気がしなくもないけど、
著者の佐藤氏は幼児虐待について非常に勉強しているひとで本作にもそれが滲み出ているので
安心して(時に感心して)最後まで読み切ることができた。

おすすめです。
私は生きようとしているだけだ。



ある夜とつぜん電話をかけてきた、同級生と称する男。
嘘つきで誠意のかけらもない男だと知りながら、私はその嘘に魅了され、
彼に認められることだけを夢見る――。

***

いい感じの出だしにわくわくしながら読み進めたものの。。。
本谷作品のほぼすべての作品に太鼓判を押してきた私の、唯一納得いかない小説に
本作はなってしまった。要するにつまらない。ラストは好きだけどそれ以外はどうにも
受け付けなかった。

まず人物の描写が浅い。
主人公・熊田が惚れる男・向伊の人間的いやらしさ、あざとさみたいなものが描き切れていなく
キャラが立っていないように感じた。だから向伊の、本来なら多分に魅力的であろう
一挙手一投足が心まで響いてこない。
熊田の両親も、見も知らない男が自分の娘の実家に転がり込んできたのを黙認しておきながら
熊田曰く「私の親は厳しい」って、何だそりゃ?と思ったし、
ほかにも不自然に感じる展開がいくつかあって「これはフィクションだ」という考えが
頭から抜けず物語の世界観に入り込めなかった。
著者・本谷さんの十八番である独特の比喩表現も今回はあまり
「おおっ」と膝を打つようなものもなく、鳴りを潜めていた感じ。
全体に大人しい小説のように感じた。

唯一熊田の恋人・原の描写はすごくよかったけど。
この小説で楽しんで読めるところといったら原の出てくるシーンだけだな。

タイトルも本谷さんにしてはどこか陳腐で何となく嫌な予感はしてたんだけど、
当たってしまった。

次回作に期待。
君は一人ぼっちじゃない。



夏休みを伯母一家が経営する旅館で過ごすことになった少年・恭平。
仕事で訪れた湯川も、その宿に滞在することを決めた。
翌朝、もう一人の宿泊客が変死体で見つかった。
その男は定年退職した元警視庁の刑事だという。
彼はなぜ、この美しい海を誇る町にやって来たのか…。
これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは――。

***

犯人に対する制裁がまったくない小説で、そこはちょっと納得いかなかった。
湯川ってこんなに情を悪い意味で重んじる人間だったっけ?と思ってしまった。
(かつて親友すらをも告発したことのある男がこれでは何だか納得がいかない。。。)
物語も、最後のどんでん返しがなければただの二時間ドラマ的な内容だし
あまり満足のいくものではなかった。
とはいっても著者が東野圭吾氏だから要求クオリティが高くなってしまうだけで、
誰が書いたかを意識せずに読めばなかなかに楽しめるミステリ小説だとは思うけど。

子供と仲良くする珍しい湯川の姿が見れたのはよかった。

余談ですが、すべての謎が解けたあと本書の表紙を見ると「ああ、だからこの表紙か」と
納得がいきます。

まあおすすめかな。
約束を果たすまで。



地球に生命が誕生して数十億年、原初の生命の記憶とともに旅する美少女エマノン。
地球の意思に導かれ、その使命を果たすべく…。
「生命の進化を見守る少女」の軌跡を描く傑作ファンタジー。

★収録作品★

 おもいでレガシー
 ぬばたまガーディアン
 いにしえウィアム
 あさやけエクソダス

***

どれもそれなりに面白いのだけど、最初の一作(〝おもいでエマノン〟)を読んだときほどの感動は
やはり得られない。さすがにワンパターン化している。
何だか読んでいて「あーもうエマノンがすごいのはわかったから」と言いたくなるシーンも
しばしば。
今回はどの短編も内容が若干かぶり気味で読んでいて多少退屈も感じた。
〝いにしえウィアム〟なんか、著者の梶尾氏が韓国へ行ったついでに書いた、
みたいな感じがひしひしと伝わってくるし。物語の向こうに著者の存在が透けてみえては
駄目だろうと思う。

駄作というわけじゃないんだけど、凡作。
9年ぶりの最新刊で期待していただけに残念だった。
大きな恐れが、そこにもまたある。



「J・Mを殺したのは誰か?」――巨大な才能と劣等感を抱えたマッドサイエンティストは、
五人の子供に人体改造術を施し、“怪物”と呼んで責め苛む。
ある日、惨殺死体となって発見されたJ・Mは、いったいどの子供に殺されたのか?
小説家の「私」と探偵の「彼」が謎に挑めば、そこに異界への扉が開く!
本格ミステリとホラー、そして異形への真摯な愛が生みだした、歪み真珠のような三つの物語。

***

精神病院を舞台にした中篇の物語が三つ。
これは確かに精神病院という設定がなくちゃ書けないものでしょう。
非常に楽しく読めた。
ただし最後の一話は、精神病云々についてはほとんど触れられておらず
ごくまっとうな本格ミステリでしたが。

というか、読んでいくうちにオチが見えてきちゃうんだよな。
舞台設定のインパクトが強いと、斬新に感じるぶんパターン化もしてしまう。
諸刃の剣といったところでしょうか。

それでも飽きることなく最後まで読めましたが。
おすすめです。

ちなみに本作を読んで面白かったひとは
映画〝シャッター・アイランド〟もおすすめ。
それがぼくの唯一の夢。



1991年、宮崎県の慈育病院で発足した嬰児のためのレスキュー制度
「コウノトリ・ポスト」の第1号として、一人の男の赤子が預けられた。
彼は全身を切り刻まれる虐待を受けていたが、手厚い看護によって一命を取り留め、
飯塚慈男と名づけられた。
頭脳明晰な優等生に成長した慈男は、日本中を恐怖に陥れる犯罪者へと変貌していく…。

***

序盤と終盤の展開の派手さは福井晴敏氏の著作に通じるものがある。
中盤が同じ展開の繰り返しでちょっと中だるみだったけど、
面白かった。ラストはだいたい読めてしまうけどそれでも切ない気持ちになった。
本作を読んで面白かったひとは、浦沢直樹の〝モンスター〟なんかおすすめ。
天才的な悪が悪の素顔を隠して自分に心酔する人間を操り世界を闇に陥れていく、
どっちもそんなモチーフでちょっと似てるので。

〝ミスターM〟とか〝世紀のスーパー・アイドル〟とか〝2チャンネル(本当は〝ちゃんねる)〟
とか言葉使いがちょっと古臭くて、若者言葉も無理して使ってる感があったけど、
著者は50を過ぎた方だそうでそれも納得。まあ気にしなければ気になりません。
警察が出てくるシーンで、皆がいちいち(再登場時も)階級で呼ばれるので文字がごちゃごちゃして
読みづらかったことも、〝未曾有〟って単語が出まくりだったことも、
気にしなければ気に(以下略

ただ思うのは、あのラストにするならもうちょっと〝あのふたり〟の絆を掘り下げて
書いてほしかったなということ。
でないと慈男の最後の行動に説得力が伴わないので。まあ脳内補完しましたが。

何だかんだ言っておすすめです。
生きている。



これって性欲? でも、それだけじゃないはず。
高校一年、斉藤卓巳。ずっと好きだったクラスメートに告白されても、頭の中は
コミケで出会った主婦、あんずのことでいっぱい。
団地で暮らす同級生、助産院をいとなむお母さん…16歳のやりきれない思いは
周りの人たちに波紋を広げ、彼らの生きかたまでも変えていく。
第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、
嫉妬、感傷、愛着、僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだすデビュー作。

★収録作品★
 
 ミクマリ
 世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
 2035年のオーガズム
 セイタカアワダチソウの空
 花粉・受粉

***

むっちゃくちゃ面白かった。

前から評判になってるのは知ってたし、
著者のデビュー作である〝ミクマリ〟を読んだ選考委員に
「ここまで書けるひとがいるのなら自分が書く必要なんかない」
とまで言わしめた作品だというから一体どんなもんなんだろうと思っていたら。

ポルノ小説が嫌いな私でもどんどん先が気になってすいすい読める。
連作集になっている各話の主人公たちの心理描写が、淡々とした筆致ながらも
おそるべきリアリティをもって迫ってくる。
特に全編を通した主人公である斉藤くんの描写が秀逸。
高校生ってこんな感じだよなー、まだ危うくて勝手に突っ走って
失敗して号泣して不貞寝したりそれでもやっぱり前に進んだり。
読んでいて圧倒される反面微笑ましくも思った。

アダルト小説に対する偏見を、本作は見事に払拭してくれた。
彼女の次回作が楽しみです。
ファンだ。
明日は晴れる。



人生賭けたい夢がある。でも、内定は欲しい。
かつて、高校生でギタリストデビューを果たした山木太郎。しかし栄光も束の間、バンドは解散。
すっかり燻り、大学三年の秋を迎えた太郎の周囲は「シューカツ」に向けて慌しく動き出していた。
その“一発逆転システム”に魅せられ、就活戦線に身を投じる決意をする太郎。
「元有名人」枠で楽々内定を勝ち取れると思っていたのだが――。
就職氷河期「以下」の今に問いかける、書き下ろし最新長篇。

***

面接しては落ち、面接しては落ち、の合間に
ちょこちょこと差し挟まれるちょっとしたエピソード。
その繰り返しで、既視感のある文章表現も多く、シューカツの話にしては
長すぎるなと思ったというのが本音。

でも文章はかなりうまい。
人物描写も巧み(地方への就職が決まりそうになっても
危機感をまったく抱かない主人公カップルにはちょっと違和感を感じはしたものの)。
なのでそれなりに楽しく読めた。

私はシューカツというものをしたことがないので
主人公たちシューカツ生の苦しみはリアルにはわからないけれど、
同世代の友人がかつてシューカツにかなり苦労して
ストレスで太ったりノイローゼ気味になっていたことは記憶しているので
やっぱり大変なんだなあ。。。と改めて思った。

シューカツに四苦八苦してもバンドという夢を諦めない主人公は
私的にはアリだけど、はたしてリアルなのかどうか。
当時苦しんでいた友人たちに訊いてみたい。

まあおすすめです。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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