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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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得意にはしてないって。



密室専門(?)の天然系女性刑事弁護士・青砥純子と、
本職は泥棒(?)のナゾの防犯ショップ店長・榎本径。
ちょっぴりファニーなコンビが4つの密室に挑む傑作ミステリ。
「硝子のハンマー」シリーズ第2弾。 

★収録作品★

 狐火の家
 黒い牙 
 盤端の迷宮 
 犬のみぞ知る

***

私は貴志祐介氏の小説がもう十代のころから好きで好きで仕方なく、
全作丸一日で読破し、その後も数十度読み返してきたほどのフリークなのですが。。。

最新長編〝新世界より〟で(個人的には)まんまと裏切られ、それでも
たった一作で大好きな作家を見限るようなマネはしたくなく、
〝硝子のハンマー〟の続編短編集である本作を手にとった次第ですが。。。

そろそろ見限ってしまいそうですよ、貴志祐介さん。。。

収録作すべてがメリハリがなく薄味で、密室ミステリと銘打っているにも関わらず
密室ならではの面白みもトリックの新鮮味もまったくなく、
蜘蛛や囲碁等、貴志氏が興味があるもの(氏の既刊を読んだことのある人は知ってるでしょう)を
適当に題材にして趣味で書きました、といった印象。
あれほどエンターテインメントに天賦の才を発揮していた人がどうしてこうなっちゃったんだ? と
普通に驚いてしまった。
というかつい先日読み終わったばかりなのに既にほとんど内容憶えてないし。

前作であれほど魅力溢れる人物に描かれていた防犯コンサルタント(兼・泥棒)の榎本径も、
とりあえず出しておかないと続編としてまずいしな、程度の扱いで別にいなくても困らないし、
その言動の特異性・魅力共にかなりパワーダウンしてしまっている。
〝硝子のハンマー〟の榎本は一体どこへ?、と半ば本気で泣き入ってしまいました。

あのときの榎本を返せ。
そして貴志祐介さん昔に還ってくれ。

。。。三度目の正直に賭けることにします。
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「物語じゃない人生なんて。」



97本の短編が収録された「N・P」。著者・高瀬皿男はアメリカに暮らし、48歳で自殺を遂げている。
彼には2人の遺児がいた。咲、乙彦の二卵性双生児の姉弟。
風美は、高校生のときに恋人の庄司と、狂気の光を目にたたえる彼らとパーティで出会っていた。
そののち、「N・P」未収録の98話目を訳していた庄司もまた自ら命を絶った。その翻訳に関わった
3人目の死者だった。5年後、風美は乙彦と再会し、狂信的な「N・P」マニアの存在を知り、
いずれ風美の前に姿をあらわすだろうと告げられる。それは、
苛烈な炎が風美をつつんだ瞬間でもあった。
激しい愛が生んだ奇跡を描く、吉本ばななの傑作長編。 

***

身体が弱く独特の魅力を持った少女・つぐみとその唯一の理解者・まりあのひと夏の体験を描いた
〝TUGUMI〟。
本作はそれと対を成す物語だと思う。
精神を病み、けれどそれ故の魅力を持つ少女・翠(すい)とその唯一の理解者・風美の、これもまた
ひと夏の物語なので。

『呪いとは自分自身にかけた自己暗示』、
この一文は、(私的ネタですが)正にその呪いに苦しめられている今の私には
痛切なひと言ですが、
きっとたぶんこの世の誰もが、大なり小なりそういった呪い、自分自身に課した枷に
足を引っ張られながら、それでもどうにか生きているんでしょう。
けれど、童話で言うなら〝王子のキス〟的呪いを解く要素はきっとどこかに存在するはずで、
それは誰かのさり気ないひと言だったりふと眼に入った景色だったり
家族や恋人や趣味や才能といった生きがいだったりするんでしょう。
でも何もせずに放っておいても自然と解ける場合もあるから不思議ですが(まあたぶんそれは
いわゆる〝忘却〟で、解決してくれたのは時間なのでしょうが)。

なかなかの傑作でした。
ラストの恋愛オチがちょっと中身を薄っぺらくしてしまっていたことを除けば。

ちなみに本作のタイトルにもなっている〝N.P(North Point)〟という曲、たぶんこれだと思う。

BGMにどうぞ

蛇足ですが、以前著者がエッセイで
「スピッツの〝ヒバリのこころ〟を聴いて、『草野マサムネくんはきっと
この小説を好きになってくれる!』となぜか思った」的なことが書かれていましたが、
実際のところどうなんでしょう?^^

「僕もだよ」



姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、
デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、
メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、
彼女の妹・桂に交代した。そこには僅かな軋みが存在していた。
姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、
心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。
――事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。
新鋭作家の新たなる代表作。

***

この著者のどんでん返し連発の作風にはいい加減慣れたと思っていたのですが。。。
真相究明にはいたらなかった。まだまだ道尾氏のほうが一枚上手のようです。
どんでん返しはやりすぎると物語のスピードを殺す上に
意味がわかりにくくなるものですが(私的には森博嗣氏の〝そして二人だけになった〟が
その最たるものだと思う)、道尾作品はそれでもすっきりとまとまっているのがすごい。
ただ難を言うなら、今回は事件がシンプルすぎてあまり興味を惹かれなかったこと。
加えて氏の作品にはあまりに性的虐待ネタが多すぎて、いくら私がファンでもちょっと引く。
次はそろそろ違うネタでいってほしい。
あとは著者が作中に掲げたテーマがあまりにくっきり見えすぎて気恥ずかしくもなってしまった。
テーマというのはあえて直接的に書かず物語全体からじんわりと滲み出すようにしておくべきで、
それを読者が汲み取るのがセオリーだと思うので、最初からここまであからさまだと
「こっちにも想像の余地を与えてくれよ」と不満が残る。
登場人物も、道尾作品にしては今回珍しくキャラが弱く、そこも不満要素の一つ。
個性がないだけならまだしも、普通そこでそういう行動はとらないだろ、言わないだろ、的
不自然な描写が多いことも気になったし。
純粋に楽しむぶんには非常によくできた作品でしたが。



オマケ:
本作のテーマソングとも言うべき、Aerosmith〝Walk This Way〟。
ギターリフ部分ぐらいはきっと誰でも聴いたことがあるはず。

「人間なんて、何を理由に歌い、何を理由に人を殺すか、わからないものだよ」



密室に残されていたのは斬首死体と伝説のロシア人形。
物理トリックの名手・北山猛邦が放つ本格ミステリ!
人形塚に残されていた「Help」という文字を書く書記人形と女性写真。
この謎に迫るため探偵の幕辺(まくべ)と学生の頼科(よりしな)は人形の出所『ギロチン城』へ。
密室で起きた城主斬首殺人事件という過去、外界を拒絶した構造、多くの処刑具、
過剰なセキュリティが存在するこの異様な館で2人を待ち受けていたのは新たな密室殺人!
物理トリックの名手・北山猛邦の<城>シリーズ第4弾!! 

***

大好きな作家さんです。
理系バリバリの物理トリックは文系の自分にはとうてい書けないので憧れる。

ただ、今回はトリックが少々ややこしく読んでいてすぐに反応することができなかった。
「うぉ~そうだったのかあ!」と驚くまでにタイムラグが発生してしまい前著に比べ爽快感がなかった。
いや、トリック自体はいたってシンプルなのですが、それを〝文章〟という、
受け手が自分で想像するしかない手段で表現しているものだから把握しがたい。
要するに今回は、トリックと〝小説〟という表現手段の相性が悪い。
これが映画や漫画だったらそりゃもうダイナミックかつわかりやすかっただろうになー。
(蛇足ですが本作は島田荘司氏ファンの人と相性がいいんじゃないかと思う。
物語の雰囲気や組み立て方が後期御手洗シリーズとちょっと似てるし)

登場人物の個性はシリーズ中一番弱め。なので感情移入も難しく事件そのものも地味で
あまり入り込めなかった(やはり私の中のNo.1は〝『瑠璃城』殺人事件〟です。あれは別格)。
ただ、凛としつつもどこか悲しさの漂う幻想的なラストシーンは、
非常に美しく思わず「見入って」しまいましたが。
メインキャラ二人の片方の過去がさらりと明かされるというサプライズもいい感じ。

『ギロチン~』というタイトルだけ見るとどうにもとんでもない印象ですが、
北山氏の作風はかなりロマンチックだったりするので(読んでて恥かしくなるような〝〟が
本作にも随所に見られます@)、女性にも割とおすすめ。

『Help』(助けて)
『Promise』(必ず)
いいやり取りだ~。。。 ・:*:・(*´∀`*)ウットリ←恋愛小説嫌いの私も若干ヤラれ気味
大体女がなんだっつの。
女なんかただの女だっつの。




娘の緑子を連れて豊胸手術のために大阪から上京してきた姉の巻子を迎えるわたし。
その三日間に痛快に展開される身体と言葉の交錯!

★収録作品★

 乳と卵
 あなたたちの恋愛は瀕死

***

4月といえばイースター(復活祭)の季節ですねえ。。。
となんだかたまご繋がりでふと思い出してみたり。

慢性的なストレスだの鬱屈だのをどうにか取り払いたいといった願望は、
人間の複雑な脳を経由すると妙におかしな方向にねじまがって表に顕れてしまうもので、
主人公の姉・巻子の場合それは〝豊胸手術〟だったんでしょう。
別に胸がでかくなったから女としての自信が取り戻せるとか幸せになれるとか
そういう具体的なことを考えてるわけじゃまったくなく、
「これさえやったら何かを乗り越えられる」
的な根拠のない希望、言い換えれば人生の目標や指針だとかいった、
そういうものが欲しかっただけだったんでしょう。
まあ一種の自己暗示・おまじないのような感じで。
それは巻子に限らずこの世のすべての人間がそうであるように。

巻子の娘・緑子(この名前は樋口一葉を敬愛する川上未映子さんの、
〝たけくらべ〟の主人公・美登利へのオマージュなのかな?)が筆談でしか人と会話しない、という
設定は本作中で唯一リアルさを欠いていて浮いている感じがしたし、
途中で出てくる冷蔵庫内の大量の卵がラストへの伏線であること、そしてそれがどう使われるかにも
すぐに思い至ってしまったので、
その点では物語が薄く感じられ、この著者やっぱりまだ若いなあ、と思ってしまったりもしたけど、
地の文までが関西弁の独特なリズムを持った文体は読んでいてかなり楽しかったし(私の親が
大阪出身なせいもあるけど)、
使う単語の選び方も(だいたい純文学の人はみんなそうなんだけど特に)絶妙で感心&感動しきり。
著者本人もこんな風にコメントしてます。



女なんか魂の上に身体をかぶって、その上にさらに服や化粧をかぶって生きてる、
ほんと〝卵〟みたいな構造の生き物なんだよな。

精神面とか生き方とかじゃなく、あくまで〝生き物〟としての女を描ききっているところに
この小説の真価がある。これは芥川賞に値する。
読んでよかった。

PS:
同時収録作〝あなたたちの恋愛は瀕死〟は。。。
「そのまんま」。これ以外の感想が思い浮かばない。
そのまんまのことをそのまんま描写できる彼女の手腕が怖い。
「Fuck it(くそくらえ)だな」



作詞家が中毒死。彼の紅茶から青酸カリが検出された。どうしてカップに毒が?
表題作「ロシア紅茶の謎」を含む粒ぞろいの本格ミステリ6篇。
エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第一作品集。
奇怪な暗号、消えた殺人犯人に
犯罪臨床学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の絶妙コンビが挑む。 

★収録作品★

 動物園の暗号
 屋根裏の散歩者
 赤い稲妻
 ルーンの導き
 ロシア紅茶の謎
 八角形の罠

***

文章表現も全体の構成もベテラン作家さんだけあって見事のひと言なのですが、
短編のほとんどが暗号ネタなのはちょっと食傷気味だった気が。
かといって暗号の登場しない表題作〝ロシア紅茶の謎〟も、
殺人トリックにどうもリアリティを感じられなくて面白いと思えなかったし(そこまで
手の込んだことしなくてももっと簡単で確実な殺害方法があるのでは?と)。

個人的に一番面白く読めたのは〝屋根裏の散歩者〟。
〝動物園の暗号〟も謎解きパートは非常にスピード感があって読んでいて楽しかったのですが、
あのトリックはその道のマニアじゃなきゃとてもじゃないけどわからないだろ(マニアでも
この短編が発表された当時と今じゃ状況が大きく変わっているので難易度高いんじゃないかと思う)。

有栖川氏の短編を読んだのはこれが初めてなのですが、
やっぱりこの人は長編向きの作家さんな気がする。
文章がうますぎるが故に落ち着きすぎていて、短編ならではのキレがあまり感じられないんだよな。
ってたった一作で決め付けるのもなんだし火村助教授は大好きなので後続シリーズも読みますが。

佳作ではあるので、暗号好きの人にはおすすめです。
日本人って、やっぱり変わってる――。



留学生リリー・メイスは、日本で不思議な風習を目にした。
建築物を造る際、安全を祈念して人間を生きたまま閉じ込めるというのだ。
彼ら「人柱」は、工事が終わるまで中でじっと過ごし、終われば出てきてまた別の場所に籠る。
ところが、工事が終わって中に入ってみると、そこには知らない人間のミイラが横たわっていた――。

★収録作品★

 人柱はミイラと出会う
 黒衣は議場から消える
 お歯黒は独身に似合わない
 厄年は怪我に注意
 鷹は大空に舞う
 ミョウガは心に効くクスリ
 参勤交代は知事の務め

***

まず言っておきたいこと。
この物語の舞台は、現実とは似て非なる、謂わばパラレルワールドの日本。
まずそれをしっかりわかった上で読んでください。
本作に出てくる数々の〝風習〟が本当に日本にあったら、リリーじゃなくても眼を剥いて驚きます。
しかしバカな私は一話目の時点で「へ~! そんなこと実際にあんのか~!」と本気で信じ込み
一人勝手に恥をかきました(まあ私みたいなのはあまりいないでしょうが。。。)。

登場人物の価値観がズレてて読んでいてなんか違和感がある、
大したことない人物が過剰に持ち上げて描かれていて妙にイラつく、
真相にたどり着くまでの過程が不自然で思わず異議を申し立てたくなる、
石持浅海氏の小説は読むたびにそういったもろもろがハナについて仕方ないのですが、
設定が面白いし時に傑作が混じっていたりするのでついつい手にとってしまう。
でも本作は私的にはハズレだったな。。。あまりに突っ込みどころが多すぎた。

たとえば自宅に送られてきた爆弾かもしれない宅配便に対する探偵役の台詞、
「トラックに揺られても受け取ったあと一度ドサっと下に置いても爆発しなかったから大丈夫」
ってオイそんなわけねーだろそもそもその程度で爆発してたら標的の手元に届かないだろうがと。

〝人柱〟という職務を放棄して逃げた同僚に
「金を盗み出すためにいったん職場から逃げ出したのはいい、でもなんですぐ戻ってこなかった。
俺にはそれが許せない」
金盗んでとんずらするような不貞の輩に神聖な〝人柱〟をやらせることに対してはお咎めなしかと。
どの道神罰が下ってたんじゃないんかいと。

ある老人の登場シーンなんか、
老人――そういっていい外見だ。(って表現するってことはせいぜい六十過ぎぐらいかな?)
それも相当の高齢。(え? それって〝いっていい〟どころじゃないし。じゃあ八十半ばとか?)
すでに七十を過ぎているように見えた。(別に相当の高齢じゃねえー!)

もう突っ込みオンパレード。。。

しかも一つ一つの短編のトリックと真相もかなりこじつけ入ってて不自然で、これもまた
突っ込みどころ満載。
とってつけたラブストーリーも違和感ありありで正直ムダな要素。
著者が主人公の青年を描写するのに〝透明〟という単語を使いすぎなのも鬱陶しいし。

石持作品にここまでケチをつけたくなったのは
〝BG、あるいは死せるカイニス〟を読んだとき以来だな。

ほんと、着眼点はいいのになあこの作家さんは。。。
(そのあたりある意味山田○介と近いかも? ってさすがにあれと一緒にしちゃ失礼か。。。)

おすすめしません。
でも読み捨ては悔しいのでこうやってレビュー。
「でもそれよりなにより、この世のどっかに、
自分の行けん場所があるなんて、俺、嫌やでなあ」




猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。
おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者は
ゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。
ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。
舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。 

★収録作品★

 熊の場所 
 バット男
 ピコーン!

***

明らかに普通とはズレた世界観、登場人物、なのに共感してしまう。
それが読むたびに不思議で、舞城氏と乙一氏の著作は新刊が出るたびに気になって
手にとってしまう。
両者とも本当に特異な才能の持ち主だと思う。

特に舞城氏の小説は文体から内容からすべてにおいてアクが強く、
初めて読む人は面食らうか「ふざけんな」と途中で本を投げ出してしまいかねない。
けれどそれぞれの話の全体を貫く芯(テーマ)はとても深くしっかりしたもので、
読み終えたあとには必ず読み手の心のどこかにずっしりと、またはひっそりと
しぶとく居座り続ける。
そして時おり作中の台詞や言い回しの断片がフラッシュバックのように脳裏に瞬く。
それがずきりと胸を刺したり「あああれはそういう意味だったのか」と新たな発見を生んだり、
時には自分を救ってくれたりする。
ここしばらくちょっと精神的に参っていてそんな中ふと表題作〝熊の場所〟を思い出し、
再読して心が少し軽くなったのは喜ばしい体験だった

舞城王太郎の入門書的位置づけの短編集だと思うので、
氏の作品が気になる人は本作から読んでみるのがいいかも。
舞城氏の作風はひと言で(言うのは難しいけど敢えて)言うなら
ちょっぴりライトな純文学といった感じなのですが、
〝ピコーン!〟は〝ザ・ベスト・ミステリーズ〟という、その年の傑作ミステリを集めた
オムニバスにも収録されている作品なので、
ミステリ好きも純文好きもエンタメ好きも、老いも若きも男も女も誰もが楽しめる一冊です。

solve.png







〝ピコーン!〟に登場する悪魔。
あのスペルミスはわざとだったんだろうか。。。
わざとだろうな。犯人バカそうだったし。



「完璧な状態でのこすために大事に抱えこんでいたら、
大勢の人に見てもらえないわ」




精神科医の榊は、病院の問題児である少女・亜左美を担当するが、
前任者の下した診断に疑問を抱きはじめる。
彼は臨床心理士の由起と力を合わせ、亜左美の病根をつきとめようとするが…。

***

少し昔、〝統合失調症〟がまだ〝精神分裂病〟と呼ばれていた時代の話なので
医療方針や医師の精神病への見解等に若干古くさい部分はありますが、
著者の本作を著するにあたっての徹底的な取材ぶりは圧巻のひと言。
これは本職の人(精神科医)でも違和感なく読めるんじゃないでしょうか。

ただ惜しむらくは、あまりに真に迫りすぎていてどこかドキュメンタリーチックというか、
ドラマ性がちょっと少なめ。まあ悪くいえば〝地味〟な話。
某美術館所蔵の狛犬の像の真贋問題を絡めることで話を盛り上げようとしているのは
わかるんですが、正直むしろその部分が蛇足になってしまっている。
話がつまらないので真贋の真相がわかったところで「ふーん」としか思えず、
挙げ句ラストには一切出てこず。要するに尻切れトンボ。結局あれは何だったんだ? という感じ。
美術館パート抜きで精神病棟パートのみのほうが普通に面白かったと思う。

&ミステリをよく読む人なら、あまりに主人公の榊医師に都合よく動きすぎな登場人物たちと
簡単に先の読めてしまうストーリー展開にあっけにとられること必至なので(←言い過ぎだけど
事実)、
あくまで普通のエンターテインメントとして読むことをおすすめします。

ラストは。。。結局榊医師が患者を救ったのは
〝医師として〟なのか〝男として〟なのかが曖昧なまま終わってしまったのが個人的には不服。
前者なら傑作、後者なら陳腐な駄作、と完全に読後の感想が変わってくるので。
〝医師として救った〟のだと読者にはっきりとわからせるためには、〝彼女〟じゃなく
もう一人の患者を榊の相手役として持ってくるべきだったと思う。

とかいろいろごちゃごちゃ書きましたが、文章は非常にうまく
精神疾患についてもかなり緻密かつ正確に描写してあるので、
精神医学に興味がある人はもちろん、〝精神病〟というものをよく知らず
偏見を持っているような人にも是非読んでほしい物語です。
偏見持つような人はそもそも自分のそれが偏見だなんて気づかないだろうけど

(そういえば蛇足ですが、
昔私がちょっと塞ぎこんでいたときにそれを過剰に心配したうちの母が
勝手に市役所かどこかのカウンセラーに私のことを相談しにいって、そのカウンセラーに
「娘さんは統合失調症の可能性があります」
と言われたのは今となっては懐かしい話。
ていうかいい加減過ぎだろそのカウンセラー。。。
誤診は怖いですよ(本作にもそう書いてあります)。
みなさん心の病になったら最低三つは病院をハシゴしてくださいね。というお話でした)
「あたしは、ずっと黙ってる。
あたしは、もう一度、忘れる」



人間は、死んだらどうなるの?
――いなくなるのよ――
いなくなって、どうなるの?
――いなくなって、それだけなの――。
その会話から3年後、凰介の母はこの世を去った。
父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。
夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。
そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。
父とのささやかな幸せを願う小学5年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?

***

どんでんに次ぐどんでんに次ぐどんでん返し。
って感じのミステリは往々にして登場人物や物語が複雑に入り組みすぎていて
(しかもそういうのに限って、文章もやたらと衒学的&小難しくて読みづらかったりする)
終盤にたどり着くころには「もういいよξ」と投げ出してしまいたくなったりするものが多いですが、
本作は内容も面白く一人一人のキャラの個性がたっていてそれでいて文体&全体の構成が
シンプルなので、余計なストレスを感じることなく最後まで一気に読み進めることができます。
しかも本当の意味で信用できる登場人物が一人もいないので
(「オイ誰が真の〝黒幕(シャドウ)〟なんだよ(@Д@;)」といった感じ)
事件の犯人どころか物語そのものの行き着く先が読めない面白さもある。

主人公の少年少女がちょっと大人びすぎ&賢すぎなのが違和感ありますが、
心理学・精神医学に興味のある人なら相当に楽しめる作品です。
(ただし本格的なその手のものを求めてる人には少し幼く感じるかも。
著者がまだ若い故か、精神病に関する描写にやや拙いところがあるので。
リアリティを求める人には多島斗志之氏の〝症例A〟のほうが○。
こちらは逆にエンタメ性は若干低めですが)。

本作は、トリックや事件に重きを置いて登場人物が皆記号化してしまっているなどといった
本格ミステリにありがちなこともなく、
道尾秀介氏ならではの深く暖かい人間ドラマがクサくなく盛り込まれているので、
真相に驚いてはいおしまい、なんてことにはならず、読後もじんわりと心に残り続ける。
おすすめです。

これから読むつもりの人は、その前に宮沢賢治の〝よだかの星〟を
青空文庫あたりで読んでおくとより一層内容に深みが増します。
プロフィール
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kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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