「僕もだよ」
姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、
デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、
メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、
彼女の妹・桂に交代した。そこには僅かな軋みが存在していた。
姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、
心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。
――事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。
新鋭作家の新たなる代表作。
***
この著者のどんでん返し連発の作風にはいい加減慣れたと思っていたのですが。。。
真相究明にはいたらなかった。まだまだ道尾氏のほうが一枚上手のようです。
どんでん返しはやりすぎると物語のスピードを殺す上に
意味がわかりにくくなるものですが(私的には森博嗣氏の〝そして二人だけになった〟が
その最たるものだと思う)、道尾作品はそれでもすっきりとまとまっているのがすごい。
ただ難を言うなら、今回は事件がシンプルすぎてあまり興味を惹かれなかったこと。
加えて氏の作品にはあまりに性的虐待ネタが多すぎて、いくら私がファンでもちょっと引く。
次はそろそろ違うネタでいってほしい。
あとは著者が作中に掲げたテーマがあまりにくっきり見えすぎて気恥ずかしくもなってしまった。
テーマというのはあえて直接的に書かず物語全体からじんわりと滲み出すようにしておくべきで、
それを読者が汲み取るのがセオリーだと思うので、最初からここまであからさまだと
「こっちにも想像の余地を与えてくれよ」と不満が残る。
登場人物も、道尾作品にしては今回珍しくキャラが弱く、そこも不満要素の一つ。
個性がないだけならまだしも、普通そこでそういう行動はとらないだろ、言わないだろ、的
不自然な描写が多いことも気になったし。
純粋に楽しむぶんには非常によくできた作品でしたが。
オマケ:
本作のテーマソングとも言うべき、Aerosmith〝Walk This Way〟。
ギターリフ部分ぐらいはきっと誰でも聴いたことがあるはず。
PR