赤ん坊が浮かぶ羊水の匂いにとりつかれた写真家が、美しい子持ちの妊婦と出会い、
吸い寄せられるように彼女の「栓男」になり、驚愕の結末を迎えるまで――
「胎内浪漫」他3編から構成された幻想短編集。
★収録作品★
体内浪漫 栓男の懺悔
狂い箱 箱男の狂気
かたわれ心中 待つ女の涙
聖女綺譚 鍵男の純情
***
朱川湊人氏が〝恐怖〟じゃなく〝性〟を描いたらこういう感じになるかも、
というのがまず第一の印象。
独特の一人語り文体も、どこか奇妙なその世界観も、氏の著作とひどく共通している。
桜・向日葵・秋桜・寒牡丹。四季折々の花が咲く季節を舞台に、
物語の語り部たちがそれぞれの体験した異性とのグロテスクとさえいえる〝性〟と
その相手への歪で一途な恋愛感情を訥々と語り続ける描写は、
著者の文章が巧みであるせいか、生々しくも美しい。
けれどそれは蝋人形や造花のように、あくまで表面的な美である気がした。
つまり形ばかりで中身がない、率直な感想を言ってしまえばそうなる。
主人公たちが〝形〟にこだわってばかりなせいかもしれない。
愛している愛しているという割に、俗な形式や相手の外見にばかり固執する。
愛情は深くなればなるほど相手の内面へと意識が向かっていくものだと思うので、
著者が訴えんとする〝狂信的な愛〟も、途端に薄っぺらいものに見えてくる。
性的なシーンもどこか芝居がかっていて(カメラ目線というか、読者の眼差しを意識した動き)、
それが本当に相手を欲するが故の行為に見えない。
同じ理由で、作中の登場人物たちの尋常ならざる言動にも、鬼気迫るものを感じられなかった。
嫌な言い方をすれば、本当に表現すべきことの周りをぐるぐると回る衛星のような物語だった。
〝真理〟という惑星は見えても、遠くにありすぎて手触りも匂いも感じ取れない。
見えているその〝惑星〟は、とても魅力的で心惹かれるものではあるのですが。
どの話も決して嫌いじゃないし、〝かたわれ心中〟の恋愛観は斬新で感動もした。
でもやっぱり私は〝惑星〟にちゃんと着陸したかったな。
できた人も中にはきっといるのでしょうが。
「いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった」
1973年に起こった質屋殺し。
最後に被害者と会った女がガス中毒死して、事件は迷宮入りする。
物語の主人公は、質屋の息子と女の娘。
当時小学生だった二人が成長し、社会で“活躍”するようになるまでを、世相とともに描ききる。
2人の人生は順風満帆ではなく、次々忌まわしい事件が降りかかる……。
***
部屋のロフトを掃除してたら出てきたのでぺらぺらめくっていたらいつの間にか読破してしまった。
東野氏の文章は読みやすいので800P超のボリュームも苦にならずあっという間。
あーそれにしてもほんと憧れるなこの〝負の絆〟。
本作の二人の主人公には、そのへんのクサい純愛小説カップルより
よっぽど強い精神の結びつきを感じる。
こういう異性が一人いてくれれば、自分だったら一生結婚しなくても〝独りきり〟で生きていけるな。
偽物の太陽で十分。
本当の太陽は、照らさなくてもいい汚くて無様な現実まで容赦なく照らし出すから。
〝偽日〟は実はこの世界を一番美しく見せるちょうどいい明るさなんじゃないかと思う。
ラストはドラマ版のほうが好きだったりするんですが。
主人公の一人、亮司に辛うじて救いがあるから。
インパクトでいったら原作に軍配があがるけど。
鋼鉄の鎧を心にまとって生き続けてきた雪穂が
終盤になって周囲にぽろっと本音を零したりするようになるのは、
遠からず自分が〝偽日〟を失うことを本能的に察知していたからかもしれないと考えると
切なくなる。
東野氏は〝容疑者Xの献身〟で直木賞を受賞してるけど、
献身の度合いでいったら本作の主人公のほうがよっぽど上。
相手への思いも〝恋愛感情〟なんて言葉じゃ片付けられないほど強いものだし、
本作はミステリというより究極の恋愛小説といったほうが正しい気がする。
もしくは人魚姫の男版(って書くとなんかあほみたいだけど割と的を射た表現だと思う)。
柴咲コウの歌うドラマ版の主題歌、
歌詞がまさに亮司です。
読み終えたあと思わず熱唱してしまいました。
読書中のBGMにどうぞ。
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四十六番目の密室は葬られた。
45の密室トリックを発表した推理小説の大家、真壁聖一が殺された。
密室と化した地下の書庫の暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿であった。
彼は自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか?
推理作家・有栖川有栖とその友人で犯罪学者・火村英生のコンビが怪事件の謎に迫る!
新本格推理小説。
***
作家アリスシリーズ第一弾。
最近もっぱら小説を書く上での私の指南書と化している有栖川作品。
本作も魅力的なキャラクターとどこまでも読者にフェアなストーリー展開に
安心して最後まで楽しく読み進める(&勉強する)ことができました。
本作は、本格推理というよりはそれ自体を暗にモチーフに据えたメタ本格(密室)小説といった体で、
(有栖川氏も後書きで言及されています)
既存のトリックや本格推理論を作中に散りばめて一枚の絵を浮かび上がらせるような、
ある種パズル的な趣向が凝らされています。
なので普段本格物を読みつけている人ならより一層面白く読むことができる。
そして本作ではたびたび〝天上の(つまりは究極の)推理小説〟というものについての言及があり、
ラストでその片鱗がちらっと出てくるのですが、それはほんの氷山の一角に過ぎなくても
その下には恐ろしいほど巨大な氷山が眠っていそうな、そんな壮大な感覚を
味わわせてくれる描写でかなりドキドキさせられました。
見えないからこそ読む者それぞれの頭の中で膨らむ世界。
「私はこの命題を驚くべき方法で証明できるが、書くスペースがないのでやらない」
と言い残して死んだ17世紀の数学者・フェルマーの〝最終定理〟が
思わず頭に浮かんでしまった。
未解決のこの定理が過去数百年の間いったい何人の数学者を触発し続けたことか。
有栖川氏も(彼の場合は意図的にですが)、本作を発表することによって
後進のミステリ作家たちに発破をかけたのかもしれない。そしてたぶん自分自身にも。
〝フェルマーの最終定理〟は既に解明されてしまいましたが、こちらのほうは
今後どうなるんでしょうか。
(ミステリ作家を志す身でこんな他人事みたいなコメントしてる場合じゃないですが)
〝天上の推理小説〟、あれば読んでみたいような、でも読むのが怖いような、
どうにも複雑な心境だな。
でもトリックなんてそれがどんなに秀逸であっても時代の流れと共に廃れていくものだから、
もし永劫にわたってあらゆる読み手を納得させ続けられるミステリなんてものがあるなら、
それは人間の筆によるものじゃない気もする。
〝天上の〟推理小説、言い得て妙だな。
おまけ:
本作にて事件解決のキーとして使われていたミニマム・ミュージック。
読書中のBGMにどうぞ(落ち着きませんが)。
45の密室トリックを発表した推理小説の大家、真壁聖一が殺された。
密室と化した地下の書庫の暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿であった。
彼は自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか?
推理作家・有栖川有栖とその友人で犯罪学者・火村英生のコンビが怪事件の謎に迫る!
新本格推理小説。
***
作家アリスシリーズ第一弾。
最近もっぱら小説を書く上での私の指南書と化している有栖川作品。
本作も魅力的なキャラクターとどこまでも読者にフェアなストーリー展開に
安心して最後まで楽しく読み進める(&勉強する)ことができました。
本作は、本格推理というよりはそれ自体を暗にモチーフに据えたメタ本格(密室)小説といった体で、
(有栖川氏も後書きで言及されています)
既存のトリックや本格推理論を作中に散りばめて一枚の絵を浮かび上がらせるような、
ある種パズル的な趣向が凝らされています。
なので普段本格物を読みつけている人ならより一層面白く読むことができる。
そして本作ではたびたび〝天上の(つまりは究極の)推理小説〟というものについての言及があり、
ラストでその片鱗がちらっと出てくるのですが、それはほんの氷山の一角に過ぎなくても
その下には恐ろしいほど巨大な氷山が眠っていそうな、そんな壮大な感覚を
味わわせてくれる描写でかなりドキドキさせられました。
見えないからこそ読む者それぞれの頭の中で膨らむ世界。
「私はこの命題を驚くべき方法で証明できるが、書くスペースがないのでやらない」
と言い残して死んだ17世紀の数学者・フェルマーの〝最終定理〟が
思わず頭に浮かんでしまった。
未解決のこの定理が過去数百年の間いったい何人の数学者を触発し続けたことか。
有栖川氏も(彼の場合は意図的にですが)、本作を発表することによって
後進のミステリ作家たちに発破をかけたのかもしれない。そしてたぶん自分自身にも。
〝フェルマーの最終定理〟は既に解明されてしまいましたが、こちらのほうは
今後どうなるんでしょうか。
(ミステリ作家を志す身でこんな他人事みたいなコメントしてる場合じゃないですが)
〝天上の推理小説〟、あれば読んでみたいような、でも読むのが怖いような、
どうにも複雑な心境だな。
でもトリックなんてそれがどんなに秀逸であっても時代の流れと共に廃れていくものだから、
もし永劫にわたってあらゆる読み手を納得させ続けられるミステリなんてものがあるなら、
それは人間の筆によるものじゃない気もする。
〝天上の〟推理小説、言い得て妙だな。
おまけ:
本作にて事件解決のキーとして使われていたミニマム・ミュージック。
読書中のBGMにどうぞ(落ち着きませんが)。
「お前は、ちょっと別格だ」
「それは光栄だ」
孤独で気儘な探偵・頸城悦夫のもとに
元都知事の大物タレントの館にある「芸術品」を取り戻して欲しいという依頼が舞い込む。
若く美しい依頼人。
冴え渡るはずの勘が、瞬く間に鈍っていく…。新感覚ハードボイルド。
***
新感覚ハードボイルド?
ハードボイルドもどきの間違いじゃ?
と、のっけから因縁つけたくなるような小説だった。
少なくとも私にとっては。
本作の印象をひと言で言うなら、〝アマチュア中年詩人のポエム(または日記)〟。
上っ面のかっこつけ台詞を吐くだけで至って魅力に乏しい主人公。
なんの脈絡もなく唐突にそんな彼を「愛している」などとのたまうヒロイン(初めは
利用する気満々だったのに)。
著者に妄想に走るのもたいがいにしてくれと言いたくなるほど現実味に乏しい
主人公の取り巻きの女性たち。(いっそ西之園萌絵並みにあらゆる意味で突き抜けてくれてれば
好きになれたかもしれないけど。
「会いたいよう」「いいよう」等の〝語尾伸ばし喋り〟は鳥肌が立った。森氏はこれに
魅力感じるんだろうか?)
中身のない耳に心地いいだけの単語のみで構成されたひどく薄っぺらな世界観。
ミステリ部分も、あまりに納得いかない部分が多すぎ。
誰とも分からない相手に命を狙われている人がよく知りもしない人間をホイホイ自宅に泊めますか?
どうして法輪が撃たれた部屋だけ都合よく防弾ガラス仕様じゃないんですか?(というか
防弾ガラス仕様じゃなかったら犯人はどうやってアリバイ工作するつもりだったんですか?)
主人公を利用して法輪宅に招かれそこで法輪を殺す計画だったって、もし主人公がその前に
あっさりお宝を取り返して持ってきちゃったらいったいどうする気だったんですか?
森氏が単に趣味で書いたのをそのまま出版してしまったという感じ。
デビュー間もないころの森作品はこんなんじゃなかったのに。
〝スカイ・クロラ〟シリーズも似た感じだし(あちらはまだ好きですが)、
今後はもうずっとこの作風でいくんだろうか。
森氏はかなりの量産作家だけど、そのせいで中身がこうして薄っぺらになっているのなら
寡作になってかまわないからもっとクオリティの高いものを生み出してほしい。
本作は読んだことを時間の無駄としか感じられなかった。
「それは光栄だ」
孤独で気儘な探偵・頸城悦夫のもとに
元都知事の大物タレントの館にある「芸術品」を取り戻して欲しいという依頼が舞い込む。
若く美しい依頼人。
冴え渡るはずの勘が、瞬く間に鈍っていく…。新感覚ハードボイルド。
***
新感覚ハードボイルド?
ハードボイルドもどきの間違いじゃ?
と、のっけから因縁つけたくなるような小説だった。
少なくとも私にとっては。
本作の印象をひと言で言うなら、〝アマチュア中年詩人のポエム(または日記)〟。
上っ面のかっこつけ台詞を吐くだけで至って魅力に乏しい主人公。
なんの脈絡もなく唐突にそんな彼を「愛している」などとのたまうヒロイン(初めは
利用する気満々だったのに)。
著者に妄想に走るのもたいがいにしてくれと言いたくなるほど現実味に乏しい
主人公の取り巻きの女性たち。(いっそ西之園萌絵並みにあらゆる意味で突き抜けてくれてれば
好きになれたかもしれないけど。
「会いたいよう」「いいよう」等の〝語尾伸ばし喋り〟は鳥肌が立った。森氏はこれに
魅力感じるんだろうか?)
中身のない耳に心地いいだけの単語のみで構成されたひどく薄っぺらな世界観。
ミステリ部分も、あまりに納得いかない部分が多すぎ。
誰とも分からない相手に命を狙われている人がよく知りもしない人間をホイホイ自宅に泊めますか?
どうして法輪が撃たれた部屋だけ都合よく防弾ガラス仕様じゃないんですか?(というか
防弾ガラス仕様じゃなかったら犯人はどうやってアリバイ工作するつもりだったんですか?)
主人公を利用して法輪宅に招かれそこで法輪を殺す計画だったって、もし主人公がその前に
あっさりお宝を取り返して持ってきちゃったらいったいどうする気だったんですか?
森氏が単に趣味で書いたのをそのまま出版してしまったという感じ。
デビュー間もないころの森作品はこんなんじゃなかったのに。
〝スカイ・クロラ〟シリーズも似た感じだし(あちらはまだ好きですが)、
今後はもうずっとこの作風でいくんだろうか。
森氏はかなりの量産作家だけど、そのせいで中身がこうして薄っぺらになっているのなら
寡作になってかまわないからもっとクオリティの高いものを生み出してほしい。
本作は読んだことを時間の無駄としか感じられなかった。
『この世界には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています』
禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月。
その友人、迎槻箱彦と琴原りりす。
彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく…。
様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫とともに事件の解決に乗り出すが―?
『メフィスト』に一挙掲載され絶賛を浴びた「体験版」に解決編を加えた「完全版」。
これぞ世界にとり残された「きみとぼく」のための本格ミステリー。
***
西尾維新氏の独特の台詞回しや言葉選びのセンスが好きで、
〝戯言シリーズ〟はすべて読破、でも巻を重ねるにつれて(ご本人も言及されていましたが)
ミステリ部分が徐々に薄まってそのぶんファンタジー色が強くなり、
残念に思っていたところに発刊された〝本格推理〟と銘打つこの一冊。
大喜びで読んだはいいものの。。。
氏の文体と本格推理はあまり相性がよくないな、というのが感想。
(本格推理というよりはメタ本格、って感じだけど)
そもそも本格推理というもの自体がくどくどしいジャンルなのに、
それが西尾氏の悪くいえば冗長な作風と合わさるとさらにくどいことこの上ない。
事件は至ってシンプルでそれに関わる登場人物もそう多くないので(このあたりは西尾氏が
自分の文体とのバランスを図った結果なのでしょうが)読んでいて混乱するなんてことは
ないですが、
クライマックスで探偵役が事の真相を解き明かしていく件なんかねちっこい上に持って回り過ぎて
「いいからもっとシャープにさくさく明かしてくれえー('A`) 」とフラストレーションすら溜まる始末。
おまけに〝著者の意図が透けて見える小説〟というものを主人公が嫌っている割には
本作自体がまさにそれだし。
西尾氏が自作のキャラやシチュエーションに萌えているのが
これでもかと伝わってきて正直つらかった。著者と物語の距離が近すぎるというか。
遥か高みから俯瞰する〝神の視点〟じゃなく、ホームビデオを撮影する父親のような
〝馴れ合い〟の近さ。〝戯言シリーズ〟はギリギリでそういった面は回避できていたのに(西尾氏は
ちゃんとある程度突き放してキャラ&ストーリーを描いていた)、
その後に書かれたこれはなんでまたこんな風になっちゃんたんだろう?
本作の一貫したテーマである〝世界と自分との関係性〟というのも、
妙に青臭いしそれに対して主人公が導き出した解答も青臭いしっていうか凡庸だし、
「あなたならもっと突っ込んだテーマで書けるだろう」と思わず心中で著者に語りかけてしまった。
主人公も劣化版いーちゃん(〝戯言シリーズ〟の主人公の青年)だし。
でもいーちゃんほどの魅力が感じられないぶん、
周囲の女の子たちがどうして彼にそうまで惹かれるのかもいまいちわからず。
トリック部分はオーソドックスながらも正統な本格推理といった感じで○。
まあ犯人のやり方に関しては「もっとうまい方法があるだろ」と思う点がなきにしもあらずですが。
殺人の動機もあまりに弱いし 弱いというか、〝ない〟?(まあこれは
読み手の想像力次第でいくらでもとんでもない動機を後付けすることが可能ですが。氏も
それを狙ってるような気がするし。悪く言えば投げっぱなしだけど)。
著者の作為があまりにあからさま過ぎる小説だったな。
キャラもいかにも作られた感が強くて現実味がなかった(決してライトノベルだからって
理由じゃなく)。
こうなるともう世界に入り込めなくなってしまうので残念。
禁じられた一線を現在進行形で踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月。
その友人、迎槻箱彦と琴原りりす。
彼らの世界は学園内で起こった密室殺人事件によって決定的にひびわれていく…。
様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫とともに事件の解決に乗り出すが―?
『メフィスト』に一挙掲載され絶賛を浴びた「体験版」に解決編を加えた「完全版」。
これぞ世界にとり残された「きみとぼく」のための本格ミステリー。
***
西尾維新氏の独特の台詞回しや言葉選びのセンスが好きで、
〝戯言シリーズ〟はすべて読破、でも巻を重ねるにつれて(ご本人も言及されていましたが)
ミステリ部分が徐々に薄まってそのぶんファンタジー色が強くなり、
残念に思っていたところに発刊された〝本格推理〟と銘打つこの一冊。
大喜びで読んだはいいものの。。。
氏の文体と本格推理はあまり相性がよくないな、というのが感想。
(本格推理というよりはメタ本格、って感じだけど)
そもそも本格推理というもの自体がくどくどしいジャンルなのに、
それが西尾氏の悪くいえば冗長な作風と合わさるとさらにくどいことこの上ない。
事件は至ってシンプルでそれに関わる登場人物もそう多くないので(このあたりは西尾氏が
自分の文体とのバランスを図った結果なのでしょうが)読んでいて混乱するなんてことは
ないですが、
クライマックスで探偵役が事の真相を解き明かしていく件なんかねちっこい上に持って回り過ぎて
「いいからもっとシャープにさくさく明かしてくれえー('A`) 」とフラストレーションすら溜まる始末。
おまけに〝著者の意図が透けて見える小説〟というものを主人公が嫌っている割には
本作自体がまさにそれだし。
西尾氏が自作のキャラやシチュエーションに萌えているのが
これでもかと伝わってきて正直つらかった。著者と物語の距離が近すぎるというか。
遥か高みから俯瞰する〝神の視点〟じゃなく、ホームビデオを撮影する父親のような
〝馴れ合い〟の近さ。〝戯言シリーズ〟はギリギリでそういった面は回避できていたのに(西尾氏は
ちゃんとある程度突き放してキャラ&ストーリーを描いていた)、
その後に書かれたこれはなんでまたこんな風になっちゃんたんだろう?
本作の一貫したテーマである〝世界と自分との関係性〟というのも、
妙に青臭いしそれに対して主人公が導き出した解答も青臭いしっていうか凡庸だし、
「あなたならもっと突っ込んだテーマで書けるだろう」と思わず心中で著者に語りかけてしまった。
主人公も劣化版いーちゃん(〝戯言シリーズ〟の主人公の青年)だし。
でもいーちゃんほどの魅力が感じられないぶん、
周囲の女の子たちがどうして彼にそうまで惹かれるのかもいまいちわからず。
トリック部分はオーソドックスながらも正統な本格推理といった感じで○。
まあ犯人のやり方に関しては「もっとうまい方法があるだろ」と思う点がなきにしもあらずですが。
殺人の動機もあまりに弱いし 弱いというか、〝ない〟?(まあこれは
読み手の想像力次第でいくらでもとんでもない動機を後付けすることが可能ですが。氏も
それを狙ってるような気がするし。悪く言えば投げっぱなしだけど)。
著者の作為があまりにあからさま過ぎる小説だったな。
キャラもいかにも作られた感が強くて現実味がなかった(決してライトノベルだからって
理由じゃなく)。
こうなるともう世界に入り込めなくなってしまうので残念。
いまひと度の銃声。
英都大学推理研初の女性会員マリアと共に南海の孤島へ赴いた江神部長とアリス。
島に点在するモアイ像のパズルを解けば時価数億円のダイヤが手に入るとあって、
早速宝捜しを始める三人。
折悪しく嵐となった夜、滞在客のふたりが凶弾に斃れる。
救援を呼ぼうにも無線機が破壊され、絶海の孤島に取り残されたアリスたちを更なる悲劇が襲う!
***
学生アリスシリーズ第二弾。
自ら推理するでもなくただ物語が流れるに任せて読み進めるだけの私にも珍しく
犯人がわかった小説。
伏線があからさまだとか謎の練り込みが足りないとかそういうわけじゃ決してなく、
ただ有栖川氏の文章がうますぎるが故に。
最後まで犯人がわからない推理小説というのには二種類あって、
一つ目はもちろん作中に仕掛けられたトリックが秀逸であるもの。
二つ目は、人間関係や文章がごちゃごちゃし過ぎていて読者に推理の余地を与えず
煙に巻いてしまうもの。
実は本格推理というジャンルには、得てしてこの後者のパターンが多い。
登場人物をどんどん出して各々を複雑に絡ませ、文や物語の構成も妙にややこしくして
読者の頭がついていけずにぼんやりとなってきたところで探偵役にすべてを語らせる。
自力で真相にたどり着けなかった(というかそこに至る前に
脳を無駄に疲れさせられてしまった)読者は
「なるほどそうだったのか。自分にはとても思いつかない。すごいトリックだ」
などとぼやけた頭のまま勘違いしてしまう。
もちろんこんなの本当のミステリじゃない。
そこへいくと有栖川氏の文章は非常に読みやすい上に一文一文のインパクトも強く、
作中にばらまかれた謎解きのためのキーも一度読んだらまず忘れないし
事件の全体も把握しやすい。更にトリック自体は決して奇抜なものじゃないので、
順を追って考えていけば確実に犯人にたどり着ける。
「こいつが犯人だったのか! わからなかった!」
「なんて奇想天外なトリックなんだ!」
と驚きたい人には向かないけど、
ただ純粋に自分の頭で事件の全貌を解き明かしたいって読者にとっては
これ以上フェアな小説はそうないんじゃないかと思う。
まあただ、銃を林に隠すというのは(ネタバレ気味なので薄字で)どうかとは思ったけど。
だってアリスたちがお宝探しのために島内を散策してる以上それってかなりリスク高い行為だし、
犯人以外の誰でも出来得ることであるぶんその手段は面白み&意外性に欠けるきらいはあった。
犯人がロングスカート履いて内腿にでも銃を縛り付けてくれてたりとかしたら
「ああそれは確かにあの人にしかできないわー」と心底納得いったんだけどな。
あとは犯人が寝つきがいいか悪いか、眠りの深さの度合いも分からない相手と
犯行当夜にあっさりと一緒に寝ようとしたのにも不満。マリアに気づかれたらそこでアウトなのに。
それを逆手にとって己のアリバイにしようとしていたようにも見えないし。
(なんか伏せ字ばかりでうざくなってしまった。ごめんなさい)
なんだかんだでかなり楽しく読むことができましたが。
なんか安心して身を任せられる感じで読んでる間妙に心地よかった
有栖川氏はキャラの造形も文章も自分の小説のお手本にしたいほど好きな作家さんで
今自分の中で再読ブームが到来中なので、今後氏の著作のレビューが増えるかもしれません。
英都大学推理研初の女性会員マリアと共に南海の孤島へ赴いた江神部長とアリス。
島に点在するモアイ像のパズルを解けば時価数億円のダイヤが手に入るとあって、
早速宝捜しを始める三人。
折悪しく嵐となった夜、滞在客のふたりが凶弾に斃れる。
救援を呼ぼうにも無線機が破壊され、絶海の孤島に取り残されたアリスたちを更なる悲劇が襲う!
***
学生アリスシリーズ第二弾。
自ら推理するでもなくただ物語が流れるに任せて読み進めるだけの私にも珍しく
犯人がわかった小説。
伏線があからさまだとか謎の練り込みが足りないとかそういうわけじゃ決してなく、
ただ有栖川氏の文章がうますぎるが故に。
最後まで犯人がわからない推理小説というのには二種類あって、
一つ目はもちろん作中に仕掛けられたトリックが秀逸であるもの。
二つ目は、人間関係や文章がごちゃごちゃし過ぎていて読者に推理の余地を与えず
煙に巻いてしまうもの。
実は本格推理というジャンルには、得てしてこの後者のパターンが多い。
登場人物をどんどん出して各々を複雑に絡ませ、文や物語の構成も妙にややこしくして
読者の頭がついていけずにぼんやりとなってきたところで探偵役にすべてを語らせる。
自力で真相にたどり着けなかった(というかそこに至る前に
脳を無駄に疲れさせられてしまった)読者は
「なるほどそうだったのか。自分にはとても思いつかない。すごいトリックだ」
などとぼやけた頭のまま勘違いしてしまう。
もちろんこんなの本当のミステリじゃない。
そこへいくと有栖川氏の文章は非常に読みやすい上に一文一文のインパクトも強く、
作中にばらまかれた謎解きのためのキーも一度読んだらまず忘れないし
事件の全体も把握しやすい。更にトリック自体は決して奇抜なものじゃないので、
順を追って考えていけば確実に犯人にたどり着ける。
「こいつが犯人だったのか! わからなかった!」
「なんて奇想天外なトリックなんだ!」
と驚きたい人には向かないけど、
ただ純粋に自分の頭で事件の全貌を解き明かしたいって読者にとっては
これ以上フェアな小説はそうないんじゃないかと思う。
まあただ、銃を林に隠すというのは(ネタバレ気味なので薄字で)どうかとは思ったけど。
だってアリスたちがお宝探しのために島内を散策してる以上それってかなりリスク高い行為だし、
犯人以外の誰でも出来得ることであるぶんその手段は面白み&意外性に欠けるきらいはあった。
犯人がロングスカート履いて内腿にでも銃を縛り付けてくれてたりとかしたら
「ああそれは確かにあの人にしかできないわー」と心底納得いったんだけどな。
あとは犯人が寝つきがいいか悪いか、眠りの深さの度合いも分からない相手と
犯行当夜にあっさりと一緒に寝ようとしたのにも不満。マリアに気づかれたらそこでアウトなのに。
それを逆手にとって己のアリバイにしようとしていたようにも見えないし。
(なんか伏せ字ばかりでうざくなってしまった。ごめんなさい)
なんだかんだでかなり楽しく読むことができましたが。
なんか安心して身を任せられる感じで読んでる間妙に心地よかった
有栖川氏はキャラの造形も文章も自分の小説のお手本にしたいほど好きな作家さんで
今自分の中で再読ブームが到来中なので、今後氏の著作のレビューが増えるかもしれません。
「わたしは意味が欲しいよ。なかったら、自分で作る」
「月読」、それは死者の最期の言葉を聴き取る異能の主。
故郷を捨て、月読として生きることを選んだ青年・朔夜と、
婦女暴行魔に従妹を殺され復讐を誓う刑事・河井。
ふたりが出会った時、運命の歯車が音を立てて回り始める…。
***
に掲載されていた、デビュー前の太田氏の掌編〝帰郷〟の、
眼の前に鮮やかに浮かび上がるような景色描写と
〝帰郷〟のタイトルにふさわしい切ない懐かしさを呼び起こす語り口に
非常に魅了されたことを憶えています。
上記作品発表から20年経った今でも氏のどこかファンタジックな世界観は健在で、
本作にも人が死に際にこの世に遺す思念の結晶である〝月導(つきしるべ)〟、
またそれを読み取る能力を持つ〝月読(つくよみ)〟と呼ばれる人間が登場するのですが、
〝本格推理〟というリアリティありきのジャンルにもそれらは見事に溶け込んでいて、
違和感なく読み進めることができました。
ただ、そんな独特かつ魅力的な世界観抜きに敢えて〝ミステリ〟という観点だけで捉えると、
私は本作の出来には首を捻らざるを得ない。
主に気になった点↓
★やたらと事件が発生し、またそれらが錯綜し過ぎていて、読みづらい上に注意も分散。
必然、各エピソードがインパクトに欠け、いつまで経っても物語の主軸が見えて来ないという結果に。
★伏線が弱く仕掛けられるタイミングも遅めなので、真相解明に驚きもカタルシスも感じられない。
★登場人物たちの誰もが物語の進行に必要なことを勝手にペラペラ喋り出す等、
それぞれに人格が感じられず、単なる駒に成り下がってしまっている。
★探偵キャラにとって都合のいい偶然があまりに起こり過ぎる(フィクションにしても
あまりにあんまり)。
★香坂家における殺人事件のトリックが破綻している(これはたとえば
推理小説の新人賞に応募すればまず間違いなく落選するレベルに思える。方法にも動機にも
無理があり過ぎ)。
★主人公が序盤から抱えていた悩みが結局最後まで解決されないまま。
〝未解決〟という解決もなく、ならばなぜわざわざ主人公の悩みを描写したのか
著者の意図が不明なまま。
もしラストシーンでの〝自分の実の母親のことを調べる〟という決意が彼にとっての〝解決〟に
あたるのだとすれば、ちょっと説明不足。でも仮に十分な説明があったとしても正直ベタ。
★最後に、(これにまで突っ込むのは難癖に近い気もするけど)終盤の
主人公とその親友のやり取りがクサ過ぎて赤面。
太田氏の作品は本作が初読なのですが、
過去に何十本もミステリを書いてきた作家さんにしてはあまりに
ミステリ部分がこなれていない印象を受けた。
たまたま本作の出来が芳しくなかっただけなんだろうか。
いつかまた氏の別の著作を読んでみようと思う。
「月読」、それは死者の最期の言葉を聴き取る異能の主。
故郷を捨て、月読として生きることを選んだ青年・朔夜と、
婦女暴行魔に従妹を殺され復讐を誓う刑事・河井。
ふたりが出会った時、運命の歯車が音を立てて回り始める…。
***
に掲載されていた、デビュー前の太田氏の掌編〝帰郷〟の、
眼の前に鮮やかに浮かび上がるような景色描写と
〝帰郷〟のタイトルにふさわしい切ない懐かしさを呼び起こす語り口に
非常に魅了されたことを憶えています。
上記作品発表から20年経った今でも氏のどこかファンタジックな世界観は健在で、
本作にも人が死に際にこの世に遺す思念の結晶である〝月導(つきしるべ)〟、
またそれを読み取る能力を持つ〝月読(つくよみ)〟と呼ばれる人間が登場するのですが、
〝本格推理〟というリアリティありきのジャンルにもそれらは見事に溶け込んでいて、
違和感なく読み進めることができました。
ただ、そんな独特かつ魅力的な世界観抜きに敢えて〝ミステリ〟という観点だけで捉えると、
私は本作の出来には首を捻らざるを得ない。
主に気になった点↓
★やたらと事件が発生し、またそれらが錯綜し過ぎていて、読みづらい上に注意も分散。
必然、各エピソードがインパクトに欠け、いつまで経っても物語の主軸が見えて来ないという結果に。
★伏線が弱く仕掛けられるタイミングも遅めなので、真相解明に驚きもカタルシスも感じられない。
★登場人物たちの誰もが物語の進行に必要なことを勝手にペラペラ喋り出す等、
それぞれに人格が感じられず、単なる駒に成り下がってしまっている。
★探偵キャラにとって都合のいい偶然があまりに起こり過ぎる(フィクションにしても
あまりにあんまり)。
★香坂家における殺人事件のトリックが破綻している(これはたとえば
推理小説の新人賞に応募すればまず間違いなく落選するレベルに思える。方法にも動機にも
無理があり過ぎ)。
★主人公が序盤から抱えていた悩みが結局最後まで解決されないまま。
〝未解決〟という解決もなく、ならばなぜわざわざ主人公の悩みを描写したのか
著者の意図が不明なまま。
もしラストシーンでの〝自分の実の母親のことを調べる〟という決意が彼にとっての〝解決〟に
あたるのだとすれば、ちょっと説明不足。でも仮に十分な説明があったとしても正直ベタ。
★最後に、(これにまで突っ込むのは難癖に近い気もするけど)終盤の
主人公とその親友のやり取りがクサ過ぎて赤面。
太田氏の作品は本作が初読なのですが、
過去に何十本もミステリを書いてきた作家さんにしてはあまりに
ミステリ部分がこなれていない印象を受けた。
たまたま本作の出来が芳しくなかっただけなんだろうか。
いつかまた氏の別の著作を読んでみようと思う。
僕と歌のために僕は歌う。
NY、ソーホー。
この街に降り立った大学生・オサムは、伝説のアーティスト・ネモの
超絶パフォーマンスに心奪われる。
仮面に覆われた倒錯的世界、現実ともつかぬ生活、
未知の魔力がオサムを変容させてゆく。
自分でない、何かへ―。
***
奇抜なファッションや舞台装置や芝居的シナリオを付加することで
歌を単なる歌ではなく、ひとつの〝総合芸術〟に仕立て上げてしまう、
外国には実践しているアーティストも多いこの手法(有名どころではマイケル・ジャクソン、
日本でもEXILEなんかがそれに近いことをしている)、
そこへきてさらに自分自身の〝個性〟や〝人生〟までをも
そのパフォーマンスの中に組み込んでしまった、つまりはアーティストとしての自分を貫くために
永遠に外れない仮面をかぶり続けて生きた、
そんな狂気の人間が、本作に登場するパフォーマー、クラウス・ネモ。
モデルになったのは実在の人物〝クラウス・ノミ〟。↓
歌声に先入観を持ちたくない人は聴かないでね
主人公・シュウは彼(ネモ)の音楽や生き様に魅せられ
次第にのめり込んでいくわけですが。。。
80年代が舞台の本作、キャラの精神年齢も当時に合わせたのかどうか定かではありませんが、
このシュウという青年、異様に幼い。
恋人から恥ずかしげもなく資金援助を受けてネモに会いにNYに出向く。
(私ならその時点で恥ずかしくて尊敬するアーティストに顔向けできない)
行ったら行ったで現地での生活に夢中になってしまいその恋人にろくに連絡もとらない。
自己中心的で何か事に当たるにも常に自分の願望や快楽を優先。
自らの不注意で痛い目に遭っても反省しないどころか人のせいにして相手を罵倒。
「80年代にもこんなのいたのか?」と訝ってしまうほど。
本作は音楽小説であると同時に青春小説でもあるので、
そんな彼の〝青さ〟はまあある意味リアルな人間像だとも言えるのですが。
ただ主人公がそんな風なせいで、
衝撃のラスト(陳腐な表現ですが本当に衝撃です)もあまりすんなり納得できなかった。
あれを主人公の〝成長〟と捉えるのも変だし(むしろ〝状況に流されただけ〟と
言ったほうが近い)。
それに(ネタバレになるので具体的には言えませんが)私だったら絶対に気づく。
「おまえは○○じゃない!」と(主人公にそこまでのカリスマ性ないし)。
とまあ主人公はアレですが(笑)、
この著者は非常に文章がうまく(初めて氏の著作を読んだときはあまりのうまさに呻いた←実話)
ストーリーも突飛な発想とリアリティが絶妙に溶け合っていて
非常にハイレベルなものに仕上がっているので、読んで絶対に損はないです。
権威主義は嫌いだしああいったものは多かれ少なかれ出来レースだとわかってはいても、
なんでこの小説が何らかの賞を受賞してないのか不思議。
古きよき時代のダンス・ミュージックが作中に頻出するので、
トーマス・ドルビーやハービー・ハンコック(昔は私も彼の曲で
ストリートダンス練習し果てたものです)、
YMO好きの人なんかも読んでみると楽しいかも。
伊坂幸太郎氏が以前インタビューで影響を受けた本として紹介していたので、
彼のファンの人も是非読んでみてください(実際作中に漂う空気に相通じるものがあります)。
おまけ:
Youtubeで拾った
ハワード・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、トーマス・ドルビー、スティービー・ワンダー
夢の共演。最高すぎ
演出がまた絶妙。
これもある意味〝総合芸術〟だよな。
NY、ソーホー。
この街に降り立った大学生・オサムは、伝説のアーティスト・ネモの
超絶パフォーマンスに心奪われる。
仮面に覆われた倒錯的世界、現実ともつかぬ生活、
未知の魔力がオサムを変容させてゆく。
自分でない、何かへ―。
***
奇抜なファッションや舞台装置や芝居的シナリオを付加することで
歌を単なる歌ではなく、ひとつの〝総合芸術〟に仕立て上げてしまう、
外国には実践しているアーティストも多いこの手法(有名どころではマイケル・ジャクソン、
日本でもEXILEなんかがそれに近いことをしている)、
そこへきてさらに自分自身の〝個性〟や〝人生〟までをも
そのパフォーマンスの中に組み込んでしまった、つまりはアーティストとしての自分を貫くために
永遠に外れない仮面をかぶり続けて生きた、
そんな狂気の人間が、本作に登場するパフォーマー、クラウス・ネモ。
モデルになったのは実在の人物〝クラウス・ノミ〟。↓
歌声に先入観を持ちたくない人は聴かないでね
主人公・シュウは彼(ネモ)の音楽や生き様に魅せられ
次第にのめり込んでいくわけですが。。。
80年代が舞台の本作、キャラの精神年齢も当時に合わせたのかどうか定かではありませんが、
このシュウという青年、異様に幼い。
恋人から恥ずかしげもなく資金援助を受けてネモに会いにNYに出向く。
(私ならその時点で恥ずかしくて尊敬するアーティストに顔向けできない)
行ったら行ったで現地での生活に夢中になってしまいその恋人にろくに連絡もとらない。
自己中心的で何か事に当たるにも常に自分の願望や快楽を優先。
自らの不注意で痛い目に遭っても反省しないどころか人のせいにして相手を罵倒。
「80年代にもこんなのいたのか?」と訝ってしまうほど。
本作は音楽小説であると同時に青春小説でもあるので、
そんな彼の〝青さ〟はまあある意味リアルな人間像だとも言えるのですが。
ただ主人公がそんな風なせいで、
衝撃のラスト(陳腐な表現ですが本当に衝撃です)もあまりすんなり納得できなかった。
あれを主人公の〝成長〟と捉えるのも変だし(むしろ〝状況に流されただけ〟と
言ったほうが近い)。
それに(ネタバレになるので具体的には言えませんが)私だったら絶対に気づく。
「おまえは○○じゃない!」と(主人公にそこまでのカリスマ性ないし)。
とまあ主人公はアレですが(笑)、
この著者は非常に文章がうまく(初めて氏の著作を読んだときはあまりのうまさに呻いた←実話)
ストーリーも突飛な発想とリアリティが絶妙に溶け合っていて
非常にハイレベルなものに仕上がっているので、読んで絶対に損はないです。
権威主義は嫌いだしああいったものは多かれ少なかれ出来レースだとわかってはいても、
なんでこの小説が何らかの賞を受賞してないのか不思議。
古きよき時代のダンス・ミュージックが作中に頻出するので、
トーマス・ドルビーやハービー・ハンコック(昔は私も彼の曲で
ストリートダンス練習し果てたものです)、
YMO好きの人なんかも読んでみると楽しいかも。
伊坂幸太郎氏が以前インタビューで影響を受けた本として紹介していたので、
彼のファンの人も是非読んでみてください(実際作中に漂う空気に相通じるものがあります)。
おまけ:
Youtubeで拾った
ハワード・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、トーマス・ドルビー、スティービー・ワンダー
夢の共演。最高すぎ
演出がまた絶妙。
これもある意味〝総合芸術〟だよな。
「もう少しなんだ、もう少し……。言葉にならないだけなんだ」
神山高校で噂される怪談話、
放課後の教室に流れてきた奇妙な校内放送、
魔耶花が里志のために作ったチョコの消失事件――
〈省エネ少年〉折木奉太郎たち古典部のメンバーが遭遇する数々の謎。
入部直後から春休みまで、古典部を過ぎゆく一年間を描いた短編集、待望の刊行!
★収録作品★
やるべきことなら手短に
大罪を犯す
正体見たり
心あたりのある者は
あきましておめでとう
手作りチョコレート事件
遠まわりする雛
***
この著者はほんとお嬢様が好きだよなあ。。。
そして脱力系主人公が好きだよなあ。。。
としみじみ独り言言うのはまああとにして(笑)、
〝古典部シリーズ〟、第四弾です。
事件が地味過ぎてたまに読み進めるのがつらくなったり、
登場人物たちのモノローグが軽過ぎて淡々とした地の文からたまに浮いていたり、
なんてことを除けば非常に良質のミステリ。
私が教師ならまず真っ先に学校の図書室に置く本として推します。
いきなり何を言い出すのかとお思いでしょうが、
筆力の確かさ、読むものの想像力を喚起するいい意味で曖昧なストーリーは、
本に興味のない今どきの子供(というか年齢関係なく、ケータイ小説や山田○介を
文学と思い込んでるやばめの人たち)に勧めるにふさわしいといった意味でも良質なのです。
個人的に一番面白かったのは〝心あたりのある者は〟。
タイトルも秀逸、ストーリーも冒頭から金城一紀ばりの個性と軽妙さで読み手を惹き込んでくるし、
最初から最後まで舞台が放課後の教室に固定されているにも関わらず
主人公がヒロインに語り聞かせる謎解きだけでもう十分に面白くまったく飽きない。
本格ミステリの真髄ここにあり、といった感じでかなり楽しませてもらいました。
ただそれ以外の短編はというと、事件の謎そのものよりも
その事件を起こした人間の心理を解き明かすことに主眼が置かれていて、
正当なミステリとはちょっと言い難い。
そもそも〝古典部シリーズ〟未読の人は
それが解き明かされたところでいまいちピンと来ないと思うので、
本作を手に取るのであればシリーズ前作を読んでからにしたほうがいいです。
〝心あたりのある者は〟だけは、これ単品で読んでも面白いけど
神山高校で噂される怪談話、
放課後の教室に流れてきた奇妙な校内放送、
魔耶花が里志のために作ったチョコの消失事件――
〈省エネ少年〉折木奉太郎たち古典部のメンバーが遭遇する数々の謎。
入部直後から春休みまで、古典部を過ぎゆく一年間を描いた短編集、待望の刊行!
★収録作品★
やるべきことなら手短に
大罪を犯す
正体見たり
心あたりのある者は
あきましておめでとう
手作りチョコレート事件
遠まわりする雛
***
この著者はほんとお嬢様が好きだよなあ。。。
そして脱力系主人公が好きだよなあ。。。
としみじみ独り言言うのはまああとにして(笑)、
〝古典部シリーズ〟、第四弾です。
事件が地味過ぎてたまに読み進めるのがつらくなったり、
登場人物たちのモノローグが軽過ぎて淡々とした地の文からたまに浮いていたり、
なんてことを除けば非常に良質のミステリ。
私が教師ならまず真っ先に学校の図書室に置く本として推します。
いきなり何を言い出すのかとお思いでしょうが、
筆力の確かさ、読むものの想像力を喚起するいい意味で曖昧なストーリーは、
本に興味のない今どきの子供(というか年齢関係なく、ケータイ小説や山田○介を
文学と思い込んでるやばめの人たち)に勧めるにふさわしいといった意味でも良質なのです。
個人的に一番面白かったのは〝心あたりのある者は〟。
タイトルも秀逸、ストーリーも冒頭から金城一紀ばりの個性と軽妙さで読み手を惹き込んでくるし、
最初から最後まで舞台が放課後の教室に固定されているにも関わらず
主人公がヒロインに語り聞かせる謎解きだけでもう十分に面白くまったく飽きない。
本格ミステリの真髄ここにあり、といった感じでかなり楽しませてもらいました。
ただそれ以外の短編はというと、事件の謎そのものよりも
その事件を起こした人間の心理を解き明かすことに主眼が置かれていて、
正当なミステリとはちょっと言い難い。
そもそも〝古典部シリーズ〟未読の人は
それが解き明かされたところでいまいちピンと来ないと思うので、
本作を手に取るのであればシリーズ前作を読んでからにしたほうがいいです。
〝心あたりのある者は〟だけは、これ単品で読んでも面白いけど
ずれ、ずれ、ずれ……ずれなのです。
「Coraggio,Maestro,Coraggio」
伝説のピアニスト、バローは生きていたのか?
40余年ぶりの新録音がCD化され、話題を呼んだ。
奇跡の楽壇復帰を仕掛けたのは、スイス在住の島村夕子であった。
しかし、ベストセラーを続けるCDに疑惑の影が。
美に憑かれた女のゆくところ、謎また謎。
最終章に衝撃的ラストが待ちかまえる音楽ミステリー。
***
本書の裏表紙にかの鮎川哲也氏のこんな賛辞が。
作者が第二作を書くかどうかは知らぬけれど、
この一遍だけでも、音楽ミステリーの作者としての氏の名は長く記憶されることだろう。
羨ましい(TT)音楽ミステリ作家を志す身としては
著者の宇山氏は愛媛の宇和島市職員で、
ピアニスト、エリック・ハイドシェック氏↓
の現地での再デビューコンサートに尽力された方とのことで、
本作もおそらくそういった経験を元に生み出されたものなんでしょう。
確かに氏の文章からは、単に資料を紐解いて書かれただけのものとは明らかに違う、
常に音楽を胸に抱いている人間のみが表現し得る匂い立つような旋律を感じ取ることができます。
物語は中盤まで一向に盛り上がりを見せず、
筆致にも独特の癖がありはじめのうちは正直読みづらいのですが、
そこさえ乗り越えてしまえばあとはもうページを繰る手が止まらない。
天才と呼んでも差し支えなく、人間的にも非常に聡明であるヒロインを
終始〝女〟としてしか見ることができず、取り巻きに嫉妬したりその美しさに見とれたりしてばかりの
主人公の男の器の小ささにはかなり苛々させられますが、
ピアノの調べや靴音、そういった数々の〝旋律〟から次々と事件の真相が導き出されていく様は
まさに音楽ミステリの真骨頂といった感じで、非常に楽しく読むことができました。
〝いくら天才とはいえその天才も一人の人間に過ぎない〟
といった一見当たり前のことも、ラストシーンを読んだときにはしみじみと胸に染み入ってきた。
むしろ同じ目線でものを見れる理解者がいないぶん、天才は普通の人間の何倍も孤独なんでしょう。
けれどどんなに孤独でも、心身も衰え惨めであっても、
自分がそれと共に生きていくと決めたものと一生涯かけて向き合い、
死をもっての〝神格化〟に容易に逃げ込んだりしない人間を、本当は天才と言うんだろうな。
人はどうしても後者をより持ち上げがちだけど。
天才ピアニスト・バローは、理解者の代わりに何万もの聴衆の温かな拍手を得て、
それに応える〝神宿る手〟を、ピアノの鍵盤上に滑らせることができた。
そして今後もきっとそうやって生きていく。
支える人なしじゃ生を繋げない。人が人であるが故の宿命だな。
話変わって本作のヒロイン、どうしても西本智実さん↓を彷彿とさせる。
去年サントリーホールに聴きにいった。最高だった。
彼女もまた〝神宿る手〟のもちぬしです。
なので彼女のファンの人も是非読んでみましょう。
まめちしき:
本編に登場するベートーヴェンの思い人〝テレーゼ〟は、
かの名曲〝エリーゼのために〟のエリーゼのこと。
ベートーヴェンがあまりに悪筆だったため、テレーゼがエリーゼと読み間違えられたんだそうです。
伝説のピアニスト、バローは生きていたのか?
40余年ぶりの新録音がCD化され、話題を呼んだ。
奇跡の楽壇復帰を仕掛けたのは、スイス在住の島村夕子であった。
しかし、ベストセラーを続けるCDに疑惑の影が。
美に憑かれた女のゆくところ、謎また謎。
最終章に衝撃的ラストが待ちかまえる音楽ミステリー。
***
本書の裏表紙にかの鮎川哲也氏のこんな賛辞が。
作者が第二作を書くかどうかは知らぬけれど、
この一遍だけでも、音楽ミステリーの作者としての氏の名は長く記憶されることだろう。
羨ましい(TT)音楽ミステリ作家を志す身としては
著者の宇山氏は愛媛の宇和島市職員で、
ピアニスト、エリック・ハイドシェック氏↓
の現地での再デビューコンサートに尽力された方とのことで、
本作もおそらくそういった経験を元に生み出されたものなんでしょう。
確かに氏の文章からは、単に資料を紐解いて書かれただけのものとは明らかに違う、
常に音楽を胸に抱いている人間のみが表現し得る匂い立つような旋律を感じ取ることができます。
物語は中盤まで一向に盛り上がりを見せず、
筆致にも独特の癖がありはじめのうちは正直読みづらいのですが、
そこさえ乗り越えてしまえばあとはもうページを繰る手が止まらない。
天才と呼んでも差し支えなく、人間的にも非常に聡明であるヒロインを
終始〝女〟としてしか見ることができず、取り巻きに嫉妬したりその美しさに見とれたりしてばかりの
主人公の男の器の小ささにはかなり苛々させられますが、
ピアノの調べや靴音、そういった数々の〝旋律〟から次々と事件の真相が導き出されていく様は
まさに音楽ミステリの真骨頂といった感じで、非常に楽しく読むことができました。
〝いくら天才とはいえその天才も一人の人間に過ぎない〟
といった一見当たり前のことも、ラストシーンを読んだときにはしみじみと胸に染み入ってきた。
むしろ同じ目線でものを見れる理解者がいないぶん、天才は普通の人間の何倍も孤独なんでしょう。
けれどどんなに孤独でも、心身も衰え惨めであっても、
自分がそれと共に生きていくと決めたものと一生涯かけて向き合い、
死をもっての〝神格化〟に容易に逃げ込んだりしない人間を、本当は天才と言うんだろうな。
人はどうしても後者をより持ち上げがちだけど。
天才ピアニスト・バローは、理解者の代わりに何万もの聴衆の温かな拍手を得て、
それに応える〝神宿る手〟を、ピアノの鍵盤上に滑らせることができた。
そして今後もきっとそうやって生きていく。
支える人なしじゃ生を繋げない。人が人であるが故の宿命だな。
話変わって本作のヒロイン、どうしても西本智実さん↓を彷彿とさせる。
去年サントリーホールに聴きにいった。最高だった。
彼女もまた〝神宿る手〟のもちぬしです。
なので彼女のファンの人も是非読んでみましょう。
まめちしき:
本編に登場するベートーヴェンの思い人〝テレーゼ〟は、
かの名曲〝エリーゼのために〟のエリーゼのこと。
ベートーヴェンがあまりに悪筆だったため、テレーゼがエリーゼと読み間違えられたんだそうです。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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