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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ずれ、ずれ、ずれ……ずれなのです。



赤ん坊が浮かぶ羊水の匂いにとりつかれた写真家が、美しい子持ちの妊婦と出会い、
吸い寄せられるように彼女の「栓男」になり、驚愕の結末を迎えるまで――
「胎内浪漫」他3編から構成された幻想短編集。

★収録作品★

 体内浪漫 栓男の懺悔
 狂い箱 箱男の狂気
 かたわれ心中 待つ女の涙
 聖女綺譚 鍵男の純情

***

朱川湊人氏が〝恐怖〟じゃなく〝性〟を描いたらこういう感じになるかも、
というのがまず第一の印象。
独特の一人語り文体も、どこか奇妙なその世界観も、氏の著作とひどく共通している。

桜・向日葵・秋桜・寒牡丹。四季折々の花が咲く季節を舞台に、
物語の語り部たちがそれぞれの体験した異性とのグロテスクとさえいえる〝性〟と
その相手への歪で一途な恋愛感情を訥々と語り続ける描写は、
著者の文章が巧みであるせいか、生々しくも美しい。
けれどそれは蝋人形や造花のように、あくまで表面的な美である気がした。
つまり形ばかりで中身がない、率直な感想を言ってしまえばそうなる。

主人公たちが〝形〟にこだわってばかりなせいかもしれない。
愛している愛しているという割に、俗な形式や相手の外見にばかり固執する。
愛情は深くなればなるほど相手の内面へと意識が向かっていくものだと思うので、
著者が訴えんとする〝狂信的な愛〟も、途端に薄っぺらいものに見えてくる。

性的なシーンもどこか芝居がかっていて(カメラ目線というか、読者の眼差しを意識した動き)、
それが本当に相手を欲するが故の行為に見えない。
同じ理由で、作中の登場人物たちの尋常ならざる言動にも、鬼気迫るものを感じられなかった。

嫌な言い方をすれば、本当に表現すべきことの周りをぐるぐると回る衛星のような物語だった。
〝真理〟という惑星は見えても、遠くにありすぎて手触りも匂いも感じ取れない。
見えているその〝惑星〟は、とても魅力的で心惹かれるものではあるのですが。
どの話も決して嫌いじゃないし、〝かたわれ心中〟の恋愛観は斬新で感動もした。

でもやっぱり私は〝惑星〟にちゃんと着陸したかったな。
できた人も中にはきっといるのでしょうが。

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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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