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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「わたしは意味が欲しいよ。なかったら、自分で作る」



「月読」、それは死者の最期の言葉を聴き取る異能の主。
故郷を捨て、月読として生きることを選んだ青年・朔夜と、
婦女暴行魔に従妹を殺され復讐を誓う刑事・河井。
ふたりが出会った時、運命の歯車が音を立てて回り始める…。 

***



に掲載されていた、デビュー前の太田氏の掌編〝帰郷〟の、
眼の前に鮮やかに浮かび上がるような景色描写と
〝帰郷〟のタイトルにふさわしい切ない懐かしさを呼び起こす語り口に
非常に魅了されたことを憶えています。

上記作品発表から20年経った今でも氏のどこかファンタジックな世界観は健在で、
本作にも人が死に際にこの世に遺す思念の結晶である〝月導(つきしるべ)〟、
またそれを読み取る能力を持つ〝月読(つくよみ)〟と呼ばれる人間が登場するのですが、
〝本格推理〟というリアリティありきのジャンルにもそれらは見事に溶け込んでいて、
違和感なく読み進めることができました。

ただ、そんな独特かつ魅力的な世界観抜きに敢えて〝ミステリ〟という観点だけで捉えると、
私は本作の出来には首を捻らざるを得ない。
主に気になった点↓

★やたらと事件が発生し、またそれらが錯綜し過ぎていて、読みづらい上に注意も分散。
必然、各エピソードがインパクトに欠け、いつまで経っても物語の主軸が見えて来ないという結果に。
★伏線が弱く仕掛けられるタイミングも遅めなので、真相解明に驚きもカタルシスも感じられない。
★登場人物たちの誰もが物語の進行に必要なことを勝手にペラペラ喋り出す等、
それぞれに人格が感じられず、単なる駒に成り下がってしまっている。
★探偵キャラにとって都合のいい偶然があまりに起こり過ぎる(フィクションにしても
あまりにあんまり)。
★香坂家における殺人事件のトリックが破綻している(これはたとえば
推理小説の新人賞に応募すればまず間違いなく落選するレベルに思える。方法にも動機にも
無理があり過ぎ)。
★主人公が序盤から抱えていた悩みが結局最後まで解決されないまま。
〝未解決〟という解決もなく、ならばなぜわざわざ主人公の悩みを描写したのか
著者の意図が不明なまま。
もしラストシーンでの〝自分の実の母親のことを調べる〟という決意が彼にとっての〝解決〟に
あたるのだとすれば、ちょっと説明不足。でも仮に十分な説明があったとしても正直ベタ。
★最後に、(これにまで突っ込むのは難癖に近い気もするけど)終盤の
主人公とその親友のやり取りがクサ過ぎて赤面。

太田氏の作品は本作が初読なのですが、
過去に何十本もミステリを書いてきた作家さんにしてはあまりに
ミステリ部分がこなれていない印象を受けた。
たまたま本作の出来が芳しくなかっただけなんだろうか。
いつかまた氏の別の著作を読んでみようと思う。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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