父から「悪の欠片」として育てられることになった僕は、「邪」の家系を絶つため
父の殺害を決意する。それは、すべて屋敷に引き取られた養女・香織のためだった。
十数年後、顔を変え、他人の身分を手に入れた僕は、居場所がわからなくなっていた
香織の調査を探偵に依頼する。
街ではテログループ「JL」が爆発騒ぎを起こし、政治家を狙った連続殺人事件に発展。
僕の周りには刑事がうろつき始める。
しかも、香織には過去の繰り返しのように、巨大な悪の影がつきまとっていた。
それは、絶ったはずの家系の男だった――。
刑事、探偵、テログループ、邪の家系…世界の悪を超えようとする青年の疾走を描く。
芥川賞作家が挑む渾身の書き下ろしサスペンス長編。
新たなる、決定的代表作。
***
展開こそ殺伐としていて全体的に昏い彩りだけれど、
一歩引いて全体を見渡してみれば、本作は主人公からある一人の少女への
壮大なラブレターなのだと思う。
〝白夜行〟(東野圭吾著)に少しテーマが近いけど、
本作のほうは主人公の内面まで描写されているぶん余計に読んでいて苦しく、
また少女への狂的なまでの熱情が伝わってきてぞくりとした。
といってもその狂いっぷりに引いたのではなく、
「自分もこんな風に愛されてみたい」
という背徳的な願望故に。
これまでの中村作品の中では一番、主人公が未来を見据えていると思える物語だった。
主人公・文宏には生きて生きて最後まで生き抜いて、
本当に「自殺しなかったぞざまあみろ」と
神にファックサインでも突きつけながら勝ち誇ったように言ってほしい。
おすすめです。
せっかくの闇を無駄にはしない。
「俺が小説を書こうが書くまいが、他人にとってはどうでもいいんだよ。」
文芸誌の新人賞を貰って四年が経った。結婚もして、本も出た。
しかし小説一本の生活は想像していた以上に厳しかった。
ある日、うつ状態になった幼なじみに会いに行き、
ようやく次の小説のきっかけを掴んだ気がしたのだが――。
★収録作品★
実験
汽笛
週末の葬儀
***
自分の小説のネタにするためにうつ病の人間を追い込んで自殺するように仕向ける、という
とんでもなくも興味深い表題作。
ただいかんせんそのうつ病の青年があまりうつ病に見えないのでラストにも意外性はなく、
「単に軽いうつだったから死ななかっただけだろ」
と思うだけ。
併録の〝汽笛〟が個人的には本作中秀逸。
(ただ、表題作に出てくる〝時計の表現〟にはかなり唸らされたけど。
AM3:05~15とAM3:30の違い。。。うーん)
というか田中氏の小説、
既刊は全部読んでるほどのファンだけど、
心理描写や情景描写には天才的なものを感じるのに
会話に不自然さを感じるのは何故?
(台詞自体は別にいいんだけど、「それをそこで言うか?」ってパターンが多い)
まあ何だかんだ言ってやっぱり今回も楽しませてもらいましたが。
はやく芥川賞獲ってほしいなー。
応援してます。
てゆーか今回、表紙怖いよ。。。
古びたガレージの茶箱の陰に、僕は不可思議な生き物をみつけた。
青蠅の死骸にまみれた彼は誰……それとも、なに?
ありふれた日常が幻想的な翳りをおびる瞬間、驚きと感動が胸をひたす。
英国児童文学の新しい傑作!
***
本作が児童文学だから、という理由じゃなく、あまり響いてこなかった。
ていうかやっぱり翻訳ものって肌に合わないみたいだ。
〝Skellig〟という原題を〝肩甲骨は翼のなごり〟と翻訳する訳者のセンスには舌を巻いたけど、
登場人物舌打ち多すぎ。
主人公の父親息子に対して大雑把すぎ。
ヒロインのミナはカッコカワイくていい感じだけど口癖を異様に連発しすぎ。
まあそういう諸々の点にカルチャーギャップを感じてしまうわけで。。。
天使・スケリグのキャラにももう少し味付けがほしかった。
子供時代に読んでたら評価は変わってたのかなあ。。。
スパイ養成学校""D機関""。
常人離れした12人の精鋭。彼らを率いるカリスマ結城中佐の悪魔的な魅力。
小説の醍醐味を存分に詰め込んだ傑作スパイ・ミステリー。
★収録作品★
ジョーカーゲーム
ロビンソン
幽霊 ゴースト
魔都
***
かなり話題になっていたものをやっと今頃読了。
。。。確かに面白い!
スパイが主人公だけど結構取っ付きやすくてすらすら読める。
(文章が簡潔だからかな。まあそのせいで比喩表現とか描写ががありがちになってはいるけど)
トリックもいい意味でとんでもないのでいちいち驚かされる(〝ロビンソン〟なんか特に。あ、でも
〝XX〟のトリックは「そりゃないだろ」レベルだったけど。そもそも日本語で遺書を書く必要がない)。
スパイたちの漢(おとこ)っぷりも半端じゃなくかっこよく、またそれ以上に厳しく非情で、
スパイに対する憧憬の念を見事に吹き飛ばしてくれます(え? 吹き飛ばしていらない?)。
おすすめ。
ブッシュがイラクに宣告した「タイムアウト」が迫る頃、偶然知り合った男女が、
渋谷のラブホテルであてどない時を過ごす「三月の5日間」。
疲れ切ったフリーター夫婦に忍び寄る崩壊の予兆と無力感を、
横たわる妻の饒舌な内面を通して描く「わたしの場所の複数」。
人気劇団チェルフィッチュを率いる演劇界の新鋭が放つ、真に新しい初めての小説。
第2回大江健三郎賞受賞作。
★収録作品★
三月の5日間
わたしの場所の複数
***
一人称が語り部を変えつつだらだらだらだら続く作風に、
最初は辟易したもののだんだんのめり込んでいき読み終えるころには素直に感動。
こういう、〝そのときその場所そのシチュエーションだからこそ味わえる感覚、見出せる世界〟
っていうのは本当にあって、それをここまで巧みに描き出した著者はすごいと思う。
併録の〝わたしの場所の複数〟は響いてくるものがなかった。
何が言いたいの?と首を捻っているうちに気付いたら読み終えてしまっていた。
あらすじの〝疲れ切ったフリーター夫婦に忍び寄る崩壊の予兆と無力感〟、
え? そんなこと書いてあった?って感じだし。
本作は大江健三郎賞受賞作ですが、
大江氏はどちらの話に賞を与えようと思ったんだろう。。。
〝三月の5日間〟だと思いたい。
バレー部の「頼れるキャプテン」桐島が突然部活をやめた。
それがきっかけで、田舎の県立高校に通う5人の生活に、小さな、しかし確実な波紋が広がっていく。
野球部、バレー部、ブラスバンド部、女子ソフトボール部、映画部。
部活をキーワードに、至るところでリンクする5人の物語。
桐島はどうして部活をやめたのか?
17歳の彼らは何を抱えているのか?
物語をなぞるうち、いつしか「あの頃」の自分が踏み出した「一歩」に思い当たる……。
世代を超えて胸に迫る青春小説の傑作! 第22回小説すばる新人賞受賞作。
***
よくも悪くも(よくも、のほうが比重は大きいですが)若い人の書いた物語だった(著者21歳)。
若い感性が作中に溢れんばかりに散りばめられているのはもちろん、
比喩表現力や描写力もなかなかにある。レベルが高い。内容もハイクオリティで面白い。
高校を卒業してだいぶ経つけど、「あー高校のころってこういうことあったあった」と
めちゃくちゃリアルに当時のことが浮かんで懐かしいを通り越して苦しくなってしまったほど。
特にあの〝学校〟って場所に特有のあのカースト制。。。めっちゃ思い出してしまった。
(まあ、個人的経験からいえば、〝上〟が普通に〝下〟と仲良くしていたり
上や下だからって本作中の人物たちほど自意識過剰になってなかったと思うけど)
登場人物たちは皆17歳だけど、
それぞれの思考回路はすべて明らかにオーバー17のもので、
そこに物語の向こうにいる著者の存在が透けてみえてしまってそれだけがちょっと残念だった。
でも普通に良作でした。
おすすめ。
もう、駄目だと思った。それでも世界は、続いていた—―。
少女は無限の想像力でこの世界を生き延び、少年はたった一つの思い出にしがみつく。
一匹の蝶が見た悲しみの先に広がる光景とは…渾身の連作群像劇。
隠れ鬼
虫送り
冬の蝶
春の蝶
風媒花
遠い光
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雑誌掲載時から読んでたけど
こうして一冊にまとまったものを改めて読むとまた違った面白さが。
読み進めるごとにミステリ→純文学、
といった風に作風がシフトしていきますが、
すべての物語の登場人物がほかの話の誰かしらと繋がっているので
長編の群像劇でも読んでいるかのような気持ちにさせられる。
そして登場人物の彼らをリンクさせることによって、
それぞれの抱える(陳腐な言い方をすれば)〝人として生きる苦しみ〟が
より深く伝わってくる(のでこれはとてもうまい物語構成だと思う)。
誰かと繋がりあうことによって苦しみを抱き、また苦しみから逃れる。
そうして生きていくもんなんだよなあ人は、としみじみ思わされた作品。
おすすめです。
扉は開かれた。
この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師が
憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。
東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、
その夫は密室から失踪したという。
文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。
***
メフィスト系大好き、と豪語する割にずっと読んでなかった本作。
やっと読みました。
冒頭の、主人公二人の会話だけで
読み手を物語の世界観の中にいとも簡単に溶け込ませる筆力、
そして全体を通した構成力はすごいのひと言。
文章も読みやすく内容も面白いので、分厚くても一気に読める。
ただ、おそらく読んだ人のほとんどがそう思うだろうけど、
主人公が何故消失した遺体に気付かなかったかの真相、あれどうなの?
もういっそほんとに
「遺体は腹の中に隠してました」
ってことにしてくれたほうがよっぽどインパクトあるし物語としても面白かったのに。。。
〝蛙の子〟も、すぐその正体に気付いちゃったのでその点も残念だった。
全体を通せば非常におもしろかったですが。
主人公も腹に一物抱えてるヤツが多くて油断ならない、
これもメフィスト系小説の醍醐味で満喫できた。
おすすめです。
今度映画も観てみよ。
デビューと同時に激しめに絶賛された文筆歌手が魅せまくる、かくも鮮やかな言葉の奔流!
リズムの応酬! 問いの炸裂! “わたし”と“私”と“歯”をめぐる疾風怒涛のなんやかや!
とにかく衝撃の、処女作。第137回芥川賞候補作。
***
同じ意味でもニュアンスが違う、
アクセントひとつでもノリが変わってくる、
そういう点を踏まえると関西弁に慣れ親しんでるひとのほうが本作はより楽しめると思う。
この物語は関西弁でラップ、もしくは歌ってるようなものだからなー。
生む有無うーむ、
生む有無womb、
個人的には〝乳と卵〟よりこっちのほうが芥川賞にふさわしいんじゃないかと思う。
(併録の〝感じる専門家~〟はちょっと説明くさくなっちゃっててあれだけど
表題作は文句なしの傑作純文小説と思う)
それにしても、小説って媒体だとここまでの実力を発揮するのに、
どうして川上未映子さんの歌の歌詞はあんなに凡庸なのかな。。。
小説コトバのインパクトで彼女の曲を歌ってみたい。
風営法の改正に合わせ、営業形態を変更させたclub indigo。
カジュアルなカフェ風の二部を設け、若手ホストが接客を担当するようになる。
他者に興味を持たないイマドキな若手ホストはトラブルを運んでくるし、
渋谷警察署の豆柴は殺人事件に巻き込まれるし、
開店以来一度も休んだことのない憂夜が突然休暇を取れば厄介で大きな問題が巻き起こる――。
愛すべきホストクラブに集う、一風変わったホスト探偵団の活躍を描く、シリーズ最高傑作登場。
★収録作品★
7days活劇
サクラサンライズ
一剋
Dカラーバケーション
***
クラブ・インディゴシリーズ第四弾。
ホストクラブ〝indigo〟の面々が最強のチームプレーで問題解決!
というのがインディゴシリーズの持ち味なのに、今回はほとんどそれがなくて残念。
手塚くんがいい味出してたのが唯一いいと言えばよかったけど。
ミステリー度も、新刊が出るほどに下がっていって本作は最早ミステリでも何でもない。
ただ、文章の笑える度がアップしていて最後まで飽きずに読めます。
〝サクラサンライズ〟がベタだけど感動したかな。
ライトな内容に反してかなりの筆力を持つ加藤実秋氏。
いつか是非シリアスものにも挑戦してみてほしい。
そういえば著者は一度もホストクラブに行ったことがないのに
本作を執筆したらしい。
なのに一時期ホストクラブで働いていた私(註:私は女です。シンガー勤務でした)が読んでも
圧倒的なリアリティ。
やっぱプロの作家ってすごい。
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