郊外の倉庫管理部門に左遷された独身女性・イリエ(28歳)は
日々のやりきれなさから逃れるため、同僚の独身男性・森川を好きになったと
仮想してみることに…。
第138回芥川賞候補作。
★収録作品★
カソウスキの行方
Everyday I Write A Book
花婿のハムラビ法典
***
最近この作家にハマって彼女の本ばかり読んでいる。
そしてふと気づいたのは、彼女の書く物語のテーマというか、雰囲気というか、
話のリズムというかそういった諸々がどこかよしもとばななさんに似ているということ。
ばななさんの著作のようにファンタジーやオカルトの要素はないけど、
どことなく現実離れしているのにどうしようもなく現実的なところとかとてもよく似ている。
女の友人にありがちな〝幸せなときは自分しか見えないモード〟に対して
主人公がえらく寛容なところも(私ならもっとふて腐れる)。
なので片方が好きな人はもう片方にもハマるのではないかと思う(ばななさんのほうが
若干アクは強いけど)。
いやーそれにしても。。。津村さんは本当に、二十代後半の女性心理を書くのがうまい。
著者自身も同年代なんだから当たり前だろという人もいるかもしれないけど、
年齢が同じだからって同世代に共感を呼び起こすものを書けるかどうかというのは
全然別の才能なので(たとえば料理の達人が料理の描写をしたからといって
必ずしも美味しそうに書けるわけではないように)、いつ読んでも改めてすごいなあと思う。
OLさんとか普通に会社勤めしている女性が読めばもっと入り込めるんだろうな(私は
そういった経験がないので。。。)。
ただ惜しむらくは、〝仮想好き〟と銘打っているにも関わらず、
主人公がほとんどそれを実行に移さないこと。
津村さんの著書はそういえばタイトルと内容が一致していないことが多いけど、
〝人生に潤いを与えるために何とも思っていない男を敢えて好きになったと仮定してみる〟
というテーマに魅力を感じて手にとった作品だっただけにちょっと残念。
ただ、後半の追いかけっこのシーンは爆笑しましたが。可愛いなあこの人、と普通に思った。
津村さんの作品の登場人物は友人にしたい人ばかり出てくるからいい。
〝カソウスキ〟という言葉も花の名前みたいで好きです(同時にロシアっぽくもありますが)。
そういえば昔中山美穂が自分のアルバムを解説しているのを雑誌か何かで読んだのですが、
アルバムの中に〝ライカスタ〟という曲があって、
「〝Like A Star〟を花っぽく省略してみたんですよ」というひと言に感心した記憶があるな。
さすが芥川賞作家の奥さん(て関係ないか)。
こういう、新しい言葉を自分の中で生み出せる才能を持った人というのは魅力的だなと思う。
日ごろのちょっとした悲しみ、悔しさ、イラつき、そういうものをキュっと拭い取ってくれる短編集。
おすすめです。
どこまでも、堕ちてゆくような気がした。
違う方向に曲がってみた通学路。いつもと反対方向の電車。
東京駅。
新幹線の乗車口。
見慣れないプラットホーム。
発車のアナウンスと警笛。
駅員さんの白い制服。11号車の待機線。
地面におろしたバッグ……。
「生きてるってどういうこと?」
ナオミ14歳。手を伸ばす旅が、今、はじまる。
彼女の見つけた「永遠」とは……
***
〝火薬と愛の星〟が(大げさでなく)震えが来るほどよかったので
手にとった森氏の最新作。
基本がジャーナリストで小説はあんまり書いてくれないので
一作一作が非常に貴重な作家さんなのですが。。。
内容だけみれば凡庸だった。
ものすごーーーーく上手く書いた携帯小説(恋空とか)、という感じの展開。
ただ、森氏の文章は表現や使う単語のひとつひとつが非常に斬新で
既存の小説家にはない圧倒的な魅力を持っているので、それにいちいちゾクゾクしながら
読み進めることができた。
本当に、この人の紡ぎ出す言葉はすごい。脳や精神が普通とは違うんだろうな。
私には最早崇拝の域です。
惜しむらくは、登場人物たちの個性が一見あるようであまりなく(というか人間味が感じ取り難い)、
感情移入がしづらいということ。
おそらくは著者が敢えて、感情の半ば麻痺したヒロインのフィルターを通した人々、というふうに
彼女の心象を表しているのだとは思いますが。
それでも、
〝自分の本音と建前の境が曖昧でよくわからない〟、
〝わかってはいるけれどそれをうまくコントロールできない〟
〝コントロールできたとしてもそれをうまくこなしている自分に嫌悪が湧く〟
という、誰もが経験したことがあるであろうあの気持ち悪く苛立つような感情を
ここまでリアルかつ緻密に描くことができるのはこの著者ならでは。
そして男性であるにも関わらず、女の〝雌〟の本能を巧みに描写している点も。
(〝雌〟の本能の描写は最近読んだ〝あなたの呼吸が止まるまで〟にもありましたが、
著者の島本理生さんは女性だしな。それと比べても遜色がないというのがすごい)
ラストはベタですが、主人公が言いかけて途中で止めた台詞を想像したとき
かなり切なくなってしまった。
これで主人公と主人公が最後に語りかける相手にもうちょっと絡みがあればもっとよかったのにな。
まあそれも、主人公は本物の〝その人〟ではなく、半分は自分の頭の中で想像し美化した
〝その人〟に語っているのだと捉えれば辻褄は合うのですが。
ヒロインがその相手を本当にはよく知らないということは物語の端々に書かれていたわけだし。
〝火薬と愛の星〟ほどではないですがおすすめです。
あー森氏、専業作家になってくれないかなー。
もっとこの人の著作が読みたい。
迷子捜し専門のアメリカ人探偵ディスコ・ウェンズデイの目の前で六歳の梢に十七歳の梢が侵入。
真相の探究は全てを破滅へと誘う。
謎の渦巻く円い館と名探偵の連続死。
魂を奪われた少女たちと梢を苛む闇の男。
真実なんて天井にぶら下がったミラーボール。
眩い光にダンスを止めるな。踊り続けろ水曜日。
「新潮」掲載に1050枚の書き下ろしを加えた、渾身の長篇小説。
***
もんのすごかったなー。色んな意味で。
地元の図書館で本作を借りようと思ってネット検索かけたら上巻が既に借りられていて、
「あー上下まとめて借りて一気に読もうと思ったのにこれじゃ当分。。。」と思っていたら
上巻が返却されたあとも下巻が貸し出し中になってなくて
「あ、挫折したんだ笑」と思いながら手にとった次第なのですが。。。
これは本当に読む人を選ぶ。
少なくと読む前に
★舞城作品を最低三冊は読むこと(〝九十九十九〟〝世界は密室でできている〟
〝阿修羅ガール〟あたりは必須。〝土か煙か食い物〟も読んでるとなお楽しめる)
★四次元という概念について最低限勉強しておくこと
★宇宙について最低限の知識を得ておくこと
が必要とされます。でないとほんと、確実に挫折します。
舞城作品読みまくっていて、
過去に四次元をネタにした小説を書こうとして四次元について書かれた文献を読み漁り、
宇宙オタクで宇宙ネタの番組等があると録画までして観ている私ですら
読んでいて頭が爆発しそうになったので。
半分小説、半分論文みたいな心構えで読んだほうがいいかも。
あと結構グロい描写が多いのであまり女性にはおすすめしないかな。。。
ちょっといろんなモチーフを詰め込みすぎな感はあったけど、
(小難しい理論の部分はさておき)割りとスムーズに読み進められて楽しめた。
延命システムのくだりは「いや、皆が皆虐待されたからって多重人格になるわけじゃないだろう」と
思いましたが、ある意味何でもありの本作においてそんなとこに突っ込みいれるだけ野暮なので
やめておきます。
ちなみに本作で一番好きな台詞は
「恐怖に脅えて立ちすくむ贅沢なんておまえにはない」。
で、一番気に入らなかったのは
主人公が愛しい娘分が犯されそうになっていることを
〝ポルノフィーチャリング梢〟とかのん気な表現しやがった点。フィーチャリングじゃねえよと。
万人にというわけにはいきませんがなかなかおすすめです。
まあ正直、私にも未だに理解しきれなかったところとかあるけど。
理系の人が読んだらわかるのかもなー。
文系よりは理系の人におすすめ。
十二歳の野宮朔は、舞踏家の父と二人暮らし。夢は、物語を書く人になること。
一風変わった父の仲間たちとふれ合い、けっこう面倒な学校生活を切り抜けながら、
一歩一歩、大人に近づいていく。
そんな彼女を襲った、突然の暴力。そして少女が最後に選んだ、
たった一つの復讐のかたち――。
『ナラタージュ』から二年、新たな物語の扉が開く。
***
文章がですますで書かれているせいもあり、序盤の時点で
物語がどう展開するか、オチはどうくるかは
ある程度予測できてしまったのですが、それでも登場人物たちの造形がリアルで
すんなり世界に入り込むことができた。
〝100%ではない微妙な狂人〟というものをここまでさり気なく、それでいて
説得力を持ったインパクトの強さで描ききれる筆力もすごいと思う。
主人公の少女の、12歳ならではの繊細さと鈍感さを表現する手腕も。
そしてラストシーン。色々な意味でゾクリとはするものの、
その光景を想像してみればどこか切なくてきれいで、やたら印象に残った。好きです。
読前と読後でタイトルの印象が見事に変わったことにも驚かされました。
敢えて難(というほどの難でもないけど)を言うなら、ごくたまに
こなれていないイモくさい文章表現があること、あと(これは難というより不満だけど)
主人公の友人の鹿山さんの描写がもっとほしかったということ。
(まあでもこれは、彼女を描きすぎることで主人公の存在が希薄になる、そして
物語の方向性も変わってきちゃうってことを著者が危惧したためかもしれませんが)
おすすめです。
そして蛇足ですが、
(初版だけかもしれませんが)本作一番最後の新刊紹介のページ、
一番右の作家名と一番左の作家名を見て
「狙っただろ、新潮社」とほくそ笑んだのは絶対私だけじゃないはず
東京創元社から依頼された長編のため、三津田信三は核シェルターの取材に赴く。
奇矯な富豪が自邸の庭に造り上げた生垣迷路、その下にシェルターの入口は用意されていた。
迷路を抜け、他のシェルター見学者たちと入口の前に立った途端、空に巨大な閃光が。
慌てて中に逃げ込んだ見学者たち。外の様子はまったく分からない。
果たしてあの巨大な光は核爆発だったのか。
滅亡の予感に怯える彼らを更に連続密室殺人が襲う。
何の動機も発生するはずのない初対面の人間同士のなかで、いったいなぜ殺人は続くのか――。
極限状況下での圧倒的な恐怖と謎解きを描いた、鬼才による終末のミステリ。
***
。。。そりゃないだろ、というのが読後の率直な感想。
そもそも出だしから「なんかこれ小説っていうより三津田信三氏のエッセイだよな。。。」と
嫌な予感はしていたのですが(文章も〝~の如き~もの〟シリーズに比べてあまりに
やっつけっぽいし)、設定に興味を惹かれそのまま読破。
結果→後悔。
伏線があまりにアンフェア過ぎてオチには呆然、というよりあ然。
あの伏線でこのオチが読める人がいたら正直お目にかかりたい。
ある意味夢オチよりひどい。〝実は主人公はパラノイアでした〟って。。。読者をなめてるとしか
思えない。
三津田氏の趣味志向とこれまでに出した本の宣伝小説でした。
というかこの小説の存在そのものが終末だろ。
東京創元社の人はこの原稿を渡されたとき「あ、うちの出版社なめられてる。。。」とは
思わなかったんだろうか。是非訊きたい。
言うまでもないですがおすすめしません。
悪い意味で興味を惹かれた方はどうぞ。
お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。
契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ
世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。
第140回芥川賞受賞作。
★収録作品★
ポトスライムの舟
十二月の窓辺
***
主人公が(著者も)同世代なので、〝この年代ならではの心の機微〟が
地味ながらも細やかに描かれているのには感心(しかも同じ鬱なので
「寝て起きたときにやる気がなくなってたらどうしよう」というヒロインの不安にはかなり共感できた)。
ただ、どうせ芥川賞を獲るなら〝ミュージック・ブレス・ユー!!〟で獲ってほしかったなー。
あっちはラストのゾクゾク感がハンパじゃなかった。純文バンザイと叫びたくさえなった、
個人的には津村さんの最高傑作だと思うのですが。
本作はあまりに地味で終わり方もベタで、これなら田中慎弥氏の
〝神様のいない日本シリーズ〟のほうがよっぽど受賞に値するものだったと思う。
受賞作の〝ポトスライムの舟〟、同時収録の〝十二月の窓辺〟、共に
中身とタイトルが合っていないことにも違和感をおぼえた。
会社勤めとか結婚に疑問を持っている女性なんかにおすすめの小説です。
あと、二十代後半という、友人関係が微妙になってくる年代にも。
〝ポトスライム~〟は終わり方がさわやかなのでこれからの季節にはよく合う物語だと思う。
時間感覚、現実感覚、美的感覚…。
様々な「感覚」を喪失し、暴走する現代人たち。
巧緻なトリックと目眩く謎が感覚を惑わせる、先端科学ミステリーの旗手による傑作7編を収録。
★収録作品★
風の誘い
幻の男
蜜の味
侵入者
僕はモモイロインコ
告白シミュレーション
完璧な塑像
***
信用できる登場人物がいない、そこからくるスリルを十分に堪能できた短編集。
たとえば普通の小説なら、語り部的存在が必ず一人はおり、彼(もしくは彼女)は
決して読者を裏切る言動をしないので、その人物をパートナーに周囲を見渡し、
誰が犯人か、何が起こっているのかを冷静に観察することができますが、
作中の誰もが怪しいとなるとそうすることもままならない。
たとえば道を歩いていたらうしろから血まみれの男とそれを追うナイフを持った男が
走ってきて、血まみれのほうが「助けてくれ」と言ってきたとして、けれどナイフ男は
「あなた、危ないからどいててください。そいつはさっき街中で暴れ回り何人もの人を
殺傷した凶悪犯なんです。その血もその被害者たちの血です」と主張する。
すると血まみれが「その凶悪犯てのはあいつ自身のことだ。あんたも逃げろ。
殺されるぞ」と応酬する。
いったいどちらを信じたらいいのか。運命の分かれ道は猛スピードで迫ってくる。。。
そんなスリルを味わわせてくれる。
まあ、多少展開に無理のある話もあったけど。
〝世にも奇妙な物語〟でドラマ化とかしたら絶対に面白そう。
おすすめです。
ちなみにモモイロインコというのはこういう鳥です↓
我が家の愛鳥ルイカ。蛇足までに。
大統領がテロ組織に拉致監禁されるという大事件がアメリカで発生していたものの――
日本の高校生たちにとって、それは遠い国の出来事だった。
それよりも、もっと重要なことがある。例えば、校舎の屋上でスケッチをすることだとか。
美術の課題のため、屋上にのぼった高校二年生の辻尾アカネ。そこで、
リーゼント頭の不良・国重嘉人や、願掛けのため言葉を封印した沢木淳之介、
自殺願望を持つ平原啓太と知り合う。
屋上への愛情が共通しているということから、国重の強引な提案で
“屋上部”を結成することになった四人。
屋上の平和を守るため、通行人を襲う罰神様騒動、陸上部のマドンナ・ストーカー事件、
殺し屋との遭遇などに巻き込まれることになる。
それらはすべて、ひとつの事件に繋がっていた!
『このミステリーがすごい!』大賞2009年第7回大賞受賞作。
***
この山下貴光という人はものすごい才能の持ち主だと思う。
トレース(パクリ)の。
絵で言うなら贋作を描く能力。
物語のモチーフや展開、
使う単語や文章表現、
台詞回しに句読点の打ち方、
まんま伊坂幸太郎。
これを賞に出して恥ずかしくはなかったんですか? と問いたい。
私なら遊び半分で出してしまったとしても受賞が決まったら即辞退する。
この人は伊坂氏の作品しか読んだことがないんだろうか?
伊坂幸太郎という作家の創り上げたテンプレートを元に執筆をして
自分で自分に疑問を抱くことはなかったんだろうか?
この人に己を作家と名乗る資格は断じてない。
伊坂氏の作品を読んで初めてミステリ作家を目指そうと思った私が許さない。
『捻る』
『~のようでもある』
『顎を突き出す』
「~だってば」
「~だっつうの」
伊坂氏がよく使う単語の、花火のような連発、連発(ほかにもいろいろ)。
中には真似を通り越して、伊坂作品に出てくるフレーズをそのままパクっている箇所も
あった。
挙げ句、伊坂氏の特徴である〝最後の一行を現在進行形で終わらせる〟まで一緒だったし。
この賞は応募作の文学的クオリティよりも〝売れるかどうか〟を頭に持ってくる傾向が
あるので、二番煎じでも売れればいいや、という結果の受賞なのだとおそらくは思う。
私はそういう出版社のスタンスも軽蔑する。
私も最初は個性の強い伊坂氏の文体に引きずられがちで
文章が似てしまうのを、時間をかけて必死で矯正したというのに。
山下貴光さん、そんなに伊坂氏が好きなら、
彼が雑誌のインタビューで言っていたひと言を送ります。
『僕はあまりほかの作家さんの作品は読まないですね。
だって人の書くものに影響されるのって悔しいじゃないですか』
大好きな作家さんの、作品より先にこの志を学べば?
もし伊坂氏を顔を合わすことがあって、堂々と胸を張って彼と挨拶ができますか?
ああ、あと金城一紀氏にも。彼の作風も多少取り入れているようなので。
おすすめしません。
この作品には一片も読む価値なし。
幻の夜を行く男と女。息もつかせぬ傑作長編!
阪神淡路大震災の直後に、出会った男と女。男が犯した殺人を知る女は、彼を徹底的に利用し、
野心を実現していく。だが彼女にも恐るべき秘密が・。
名作『白夜行』の興奮が再び!
***
本作を〝白夜行〟の続編ととるか否かは読者の手に委ねられるところですが、
私は素直に続編と捉えます。
でもそうすると、いやでも前作と本作を比べて読んでしまうわけで、
その上で評価を下すと本作は〝白夜行〟には遠く及ばない。
主人公もただヒロイン(あれをヒロインと称していいのかどうかはさておき)に流されているだけで
独自のポリシーを持たず魅力に欠けるし、
前作の亮司と雪穂にあった絆がない(まああの二人には共有する暗くて重い過去があったから
比べるだけ野暮なんだけど)。
ストーリーの進行スタイルもまんま〝白夜行〟の踏襲で、読んでいて飽きがくることもしばしば。
いや、踏襲というか、最初に謎を提起しといてあとになって思い出したように
〝実はあのときのあれはこういうわけだったんですよ〟と突然説明しだす展開の多さは
むしろ劣化ともとれる。
(劣化といえば、「何があっても彼女を守る」とどんな目に遭いながらも言っていた主人公が
突如考えを変えたり、←まあさすがにあそこまで徹底的に裏切られれば宗旨替えもやむないか?
「これからは男も自分を磨いて美しくする時代」と言っていたヒロインが
途中から「男が求める美は美しい女だけ」と全然違うことを言い出す等、
矛盾が多い点も気になった)
ラストも、主人公がなぜそこまでヒロインに入れ込むのかがわからず納得のいかないまま
読み終えてしまった(ヒロインの魔性がそうさせる、といってしまえばそれまでなんだけど)。
あと、ヒロインが雪穂かどうかをわからないままにしておくという著者の意図上
仕方ないことなのかもしれないけど、彼女が亮司のことをカケラも匂わせないのは
正直悲しかった。あれだけの絆で結ばれていた二人なだけに。。。
一応〝白夜〟の意味を持つ店を構えてはいるけどそれもだいぶ昔のことだし。
太陽を失くしても生き抜いている彼女の心に今も亮司は息づいているんだろうか。
彼の死を無駄にせず〝生きている〟そのこと自体が、まだ彼女が彼を忘れてはいない
何よりの証拠なんだろうか。
もし本当にヒロイン=雪穂なのだとして、もう既に40手前。
美を一番の武器にしている彼女も、次第に整形では追いつかないほど容貌が衰えてくる。
そう考えると〝幻夜〟というのは、主人公だけじゃなく彼女自身をも表す
タイトルなのかもしれない。
美しさが幻のように消えてなくなり本性が晒されたとき、彼女のたどる道は
よりいっそう険しいものになる。自らを支える男もおらず、生きる糧になるものもない。
どうしても憎めない彼女のそんな行く末を想像すると戦慄すら覚えてしまう。
けれど同時に、そんな局面さえも切り抜けていきそうな彼女の能力への期待も高まってしまう
わけだけど。
東野氏はもうさすがに続編は書かないだろうから、これこそ読者の想像に委ねられている部分
なんでしょう。
偽りの太陽も幻も消え、真の闇に対峙したとき、彼女は一体どうするのか、が。
アザミよ、ヘッドホン1個耳に引っ掛けてどこへ行く――。
オケタニアザミは「音楽について考えることは、将来について考えることよりずっと大事」な
高校3年生。
髪は赤く染め、目にはメガネ、歯にはカラフルな矯正器。
数学が苦手で追試や補習の連続、進路は何一つ決まらない「ぐだぐだ」の日常を支えるのは、
パンクロックだった!
超低空飛行でとにかくイケてない、でも振り返ってみればいとおしい日々…。
***
「主人公は音楽が好き」。
このたったひとつのことを、地球規模で見れば非常に瑣末なこのたったひとつのことだけを、
著者はただ淡々と書いているだけなのにどうしてこんなに心動かされるんだろう。
いや、本作に限らず、それは純文学というジャンルすべてに共通して感じることだけど。
大きなものから小さなものまで
それがどんなテーマであっても、
そのテーマ自体は終始裏側に隠したままで決して表に出すことはなくても、
読み手に共感を抱かせ、動かす力を持っている。それはあたかもヤンマーディーゼ(rya←ごめんなさい
本作の主人公ほど魅力的なKY見たことない。
実際顔を突き合わせてたらきっとイラつくことも多いんだろうけどかなり友達になりたい。
(音楽好き&ヘッドフォンと同化している&たまに言っちゃいけないこと言って相手をキレさせる&
数学の成績がひどすぎて高3進級時は仮進級で補講受けさせられてたとこまで同じだし
気はかなり合うはず)
というか本作に登場する女の子たちはみんな魅力的。
主人公・アザミの友人のチユキも大好き。私がこうありたいと思う女性像そのまんま。
そうまで思わせるほど素敵な子なのに、ホレる相手はどうしようもないクソ男ってところも
リアルでいい(いい子ほどそういう傾向が強いんだよなあ、ほんと。。。)。
私は〝聴く人(リスナー)〟ではなく〝演る人(プレイヤー)〟なので
アザミほどCDを買い漁ったり音楽を聴きまくることにそこまで喜びは見出せないけど(それより
断然歌ってるほうが多いし)、ここまで音楽を聴くことを愛せる人は正直格好いいと思う。
恋愛や友情や家族等の人間関係以外に愛しいものがある人は幸せだ。
私は歌も小説も金稼ぎの手段、というか将来の目標になってしまっているから
ただ純粋に慈しめて愛しいと思える何かがないからな。。。
アザミ、頼むからあんた音楽評論家になれ。
あなたの記事なら読んでみたい。
そして。。。たまたま最近通販で買って食ってたところだったので
作中にロイズのチョコポテチが出てきたときは笑った。
まじうまいんです。皆さん、是非私の故郷の銘菓をよろしく。
それにしても、ラストのアザミみたいな体験、私は一度しかしたことがないから
正直彼女が羨ましくてならない。
追記:
ほんとにあんだねカラー矯正器。
おもろい
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |