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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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<魂の耳>は、何を聴くだろう。



聖者なのか、偽善者か?
「悼む人」は誰ですか。
七年の歳月を費やした著者の最高倒達点!
善と悪、生と死が交錯する至高の愛の物語。

***

直木賞はその作家のこれまでの功績に与えられるものであって
その受賞作単体に与えられる性質のものではないけど、
この作品では獲ってほしくなかったなあ。。。

雑誌連載時に第一話を読んだときは、お、面白そうと引き込まれたものの、
単行本を読み進めるうちにそのマンネリ進行がだるくなってくる。
静人が見も知らない死者を悼む旅。最初から最後までただそれだけ。
淡々とした物語ではあるけれど、それはそれなりに起伏がもうちょっと欲しかった。
ときどき挿入される静人の母親パートが唯一面白く、記者の蒔野パートもこのおっさんが
好きになれないので身を入れて読む気になれない。
蒔野が静人に心酔するようになるのもあまりに唐突で、
「いや普通こんなおじさんがこんないきなり宗旨替えしないだろ」と思ってしまった。
そのあたりの蒔野の心理描写をもうちょっと丁寧にやってほしかった。

そして読み進めるうちに「まさかラストはこうじゃあるまいな」というあるひとつの予想が
頭をもたげ、それがあまりに陳腐なのでどうかそうならないよう祈っていたのにまさかのビンゴ。
静人と倖世が絶対セックスしそう、で、そのことを自分たちの中で都合よく美化しそう、
そう思ってたらそのとおりなんだもんな。。。

私にはあまり面白いと思えない作品でした。
私だったら見も知らない人に悼んでもらいたくはないし。
もし悼んでくれるならその人には最低限セックスなんて個人的欲望を満たす行為を
してほしくはない。
自分は快楽を得ておきながら悼まれてもね、知り合いならともかく赤の他人に。。。

まあでも天童荒太氏は大好きな作家さんなので、とりあえずは受賞おめでとうございます。
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今何が聞こえる?

 

コインロッカーを胎内としてこの世に生を受けたキクとハシ。
巨大な鰐を飼う美少女アネモネ。謎を求めて舞台は南海の暗い海底に移る。
破壊の意志を持つというダチュラの凶々しき響き。果してダチュラとは何か? そして、
巨大な暗黒のエネルギーがもたらすものは?
現代文学の記念碑的作品の鮮烈な終章。

***

本読みならまず知らない人はいないであろう有名作品。

リズムある独特の文体。
各エピソードの、まるで一編の掌編を読んでいるかのようなクオリティの高さ。
ただ、ひとつの物語としては響いてくるものがなかった。
主人公ふたりの人格にどことなく一貫性がなくて、場面場面での言動が
別人のように感じられることが頻繁だったし、
著者が敢えてそうしているのかもしれないけれど彼らの内面描写がひどくおぼろげで
何を考えているのかいまいちよくわからない、わかったとしてもそれは
「ああきっと彼は今こういう心情なんだろうな」というあくまで他人事的な感覚で、
彼らと気持ちがシンクロするとかこちらの感情が揺さぶられるとかいったようなことがない。
登場人物たちの言動も、どこか芝居がかっているというか大げさで、
どうもリアリティを感じられなかった。〝演じられているもの〟を観ている感じ。
主人公の一人、キクの終盤でのキメ台詞なんか思わず苦笑してしまったし。
でも、もう一方の主人公・ハシの
「広い広い広い広い広い広い広い広いコインロッカーの中に。。。」
という台詞には思い切り胸を衝かれたけれど。これ以上寂しい言葉がこの世にあるだろうか、と。
キクパートよりはハシパートのほうが物語が面白かったな。
終わり方は結構好きです。

ちなみに本作は近々日米合作で映画化されるそうですが、それならハシの役は絶対に
アメリカ人にしてほしい。
日本人歌手にだけは歌わせないでほしい。聴いててキツいしあっちでも公開されると思うと
日本人として恥ずかしい。

datura.jpg









鳥が歌うように。



世界の文化遺産ともいうべき名画に、そっと秘められた犯罪。
傷つき変質した絵を、絵画修復士・御倉瞬介が丁寧に復元していくうちに、哀しい人間の業が
陰画のように浮き彫りにされてくる。
傷つけられた絵にまつわる因縁とは…!? ピカソ、フェルメール、モネ、安井曾太郎、
デューラーなどの肖像画が語りかけてくるものとは…!?
キャンバス地の裏まで見透かすような鑑賞眼と、人間への思慮深い観察が、
確かに思えていた世界を見事に反転させる、本格ミステリー連作短編集。

★収録作品★

 ピカソの空白
 『金蓉』の前の二人
 遺影、『デルフトの眺望』
 モネの赤い睡蓮
 デューラーの瞳
 時を巡る肖像

***

美術ミステリと落語ミステリが最近増えてきたなーと思う今日このごろ。
どちらも自分の携わる世界ではないですが、それでも読んでいて面白いんだよなー、
こういう芸術系のミステリは。

本作の主人公・御倉瞬介が絵画修復士である必然性は正直ないと思うのですが
(というか修復士なら修復士だからこそ解決できる話を一話ぐらい入れてほしかったと
思わないでもないですが)、どれも楽しく読めました。
ちょっと物語の構成に難があって何がどう展開しているのかわからない部分、
加害者の動機が今ひとつ掴めない部分もほんのわずかながらありましたが、
美術を単なる謎解きの道具に使うのではなく、かつての天才画家たちの
絵に対する情熱や執念や葛藤、彼らの人生にまつわるエピソードなんかもふんだんに
盛り込まれていて、読んでいてうならされることしきり。
天才が天才と呼ばれる所以を垣間見た気がした。

おすすめです。



著者、続編にクノップフ出してくれないかなー。
一番好きな画家だし、あの人の絵はミステリの題材にしやすいと思うんだけど。
お願いだから死んでいて。



彼との部屋を出て新しい彼と付き合い始めた私。
彼が女と浮気をしていると知り自殺を考える僕。
彼と共に暮らすことになっても不安なままの私。
彼女が突然去ってしまった部屋で待ち続ける俺。
彼と結婚することになったが、絶望していく私。
夜燃え尽きて朝蘇り、再び夜に燃え尽きる日々。
救いなき道を歩み始めたそれぞれの世界の果て。

★収録作品★

 星へ落ちる
 僕のスープ
 サンドストーム
 左の夢
 虫

***

金原ひとみさんの本はいつもデザインが格好いいよなあ。。。

とかいうのはまあいいとして。
デビュー当時の荒々しさが、新刊が出る度毎に落ち着いてきているのは、
著者が年齢を重ねたためか、あえてそういう方向に作風をシフトしているのかは
定かではありませんが、割りと抑えた筆致で書かれた本作は
個人的には好きだし満足できた。

ただ、主人公が恋焦がれる相手に抱く感情の烈しさは相変わらずで、
「人は人をここまで想えるものだったっけ」とオバンみたいなことを考えてしまう自分が
ちょっと哀しくもある(著者と同世代なのに。。。)。

各話が繋がった物語ですが、私的には表題作〝星へ落ちる〟が
単品として見て最高傑作と思えた。
読み終えた瞬間ぞくりときた。純文学の良さを改めて思い知った次第。

彼女の作品では〝ハイドラ〟が一番好きなのですが、
〝星へ落ちる〟一編だけなら〝ハイドラ〟も超すな、私の中では。

おすすめです。
ちなみに作中に出てきた〝コックローチドリーム〟はこちら
著者、前作ではソリテアにハマってたのに今度はまたエラいマニアックなものに。。。
(ちなみに私は何も考えたくないときにはひたすらネットチェスに興じる。
キングを追い詰めてるとき無意識に浮かべてる薄ら笑いに気づくと
自分で自分が怖くなります=-=;)

それにしても本作のヒロイン、恋敵が死ぬことでその人物が
愛する〝彼〟の中で美化され、永遠の存在となってしまうことは
怖くはなかったのかな。そこだけが疑問。



ていうか余談だけど、正直くだらない携帯小説のブームに乗るみたいにして
蛇にピアス〟が映画化されたのにはかなりムカついた。
同列に扱うなよ。確かに内容の方向性は似てるけど、表現力や内包してるテーマが
全然違うっつーの。
皆さんどうか騙されないでください。
あなたも仲間にしてあげる……。



全寮制の名門女子高を次々と襲う怪事件。
一年生が塔から墜死し、生徒会長は「胎児なき流産」で失血死をとげる。
その正体を追う女探偵「黒猫」と新入生の優子に追る魔手。
背後に暗躍する「ジャック」とは何者なのか?
「イニシエーション・ラブ」の著者が、女性に潜む“闇”を妖しく描く衝撃のデビュー作。

***

。。。。。。。。。
SF系エログロ小説?

前半の理系的雰囲気と全寮制の閉ざされた女子高というミステリアスな空気感が、
後半では一転してヤオイエロ&B級ホラー&スパイアクションもののごった煮とも言うべき
何とも言えない展開に。
〝ジャック〟の正体がわかったときは不覚にも大爆笑してしまいましたよ。。。
まあ、最後の超解釈には、「こじつけだろ」と思いつつもほんのちょっとだけ
「もしかしたら本当にそうかも」とか思う部分もありましたが。

というかほんと、キャラの行動原理&思考回路がまじで意味不明。
何で彼はあんな子供がほしかったの? 子供なら何でもよかったの?
何で彼はいきなり拳銃持って暴れだしたの? ていうかどこで拳銃手に入れたの?
何で彼女は最初と最後であそこまで物語に都合よく性格変わってんの?
もうすべてが謎です。今さら知りたいとも思いませんが。

別の意味で面白い小説でした。
メフィスト賞ってここまでやっても受賞できるのか、と嫌な感じに眼からウロコ落ちた。

ある意味おすすめ、かもしれません。
ただお金出して買うと文句を言われるかもしれないので、くれぐれも図書館で借りるなり
古本屋で安く手に入れるなりして読んでみてください。

ai.jpg





ここにいるよ……。



東京の静かな住宅街で立て続けに起こる、陰惨な一家連続殺人。
現場には裸に剥かれノコギリで体中を抉られた両親、
宗教家のような姿勢で喉を掻き切った少年の姿があった。
自らも家庭に修羅を抱える刑事・馬見原光毅と、第一発見者となった
美術教師・巣藤浚介の人生をも巻き込んで、事件は意外な展開を見せる…。
山本周五郎賞受賞の名作が、ファンの熱い期待に応え
一九九五年当時のオリジナルバージョンで登場。

***

500P超えの長編ですが、内容が面白いのであっという間に読んでしまった。
巷のレビューでさかんに言われている「殺人描写がグロすぎる」というのも、
個人的にはまったくそうは思わなかったし。

デビュー作から思っていたけど、この天童荒太という作家は
少年少女の繊細な心の描写が本当にうまい。
二十代の私ですら十代の学生だったころの感情を忘れかけているというのに、
どうして彼がここまで子供の気持ちをわかるのかと不思議になってしまう。

ミステリとして捉えると犯人は結構早い段階でわかってしまうので
あまり評価はできないけれど、本作の主体はあくまで〝家族〟なので
ミステリ部分はおまけのようなものだと思って読んだほうがいいです>>ミステリ好きの人

それにしても。。。これって14年も前の作品なのに、家庭内で起こっている問題が
今とまったく変わっていないというのがどうにもやるせない。
親の子殺し、子の親殺し、家庭内暴力、虐待etc.。。。そういった諸々は
最近になって顕著になってきたのかとてっきり思っていたけれど、
単に当時は自分が子供でニュースを観なかったから知らなかっただけで、
こういう〝病み(闇)〟は時代から時代へ連綿と受け継がれているんだな。。。

世代が違うとギャグや流行言葉が通じないように、価値観や言いたいことが
相手に通じなくなるから親子というものは理解しあい難い。言葉というものは難しいなあ。。。

ベタ極まりないけど、医者やカウンセラーに任せるよりも、まずは相手を抱きしめること。
これが何より互いを理解する方法だと私は常々思っている。
下手に言葉を連ねるよりも動物の真似が何よりの愛情表現。

最後にグチを少々。
浚介、女に見とれすぎ。そして一見精神的に成長したような風に見えるけど
よくよく考えたら無責任すぎ。なのでこのキャラクターはあまり好きになれなかった。
あと、ある二人のセックスシーン。舞城王太郎の〝阿修羅ガール〟を読んでいた私としては
「酔ってんじゃねえよバカどもが」という感じだった。
本作を読んだあとに読んでみるといいかも。

ラストが単純なホラーオチになっちゃったのはちょっと残念だけど、
なかなかの良作だと思います。
おすすめ。
「ウイアーノーポリス、ノーマフィア。ピース



スタイリッシュで、個性的なホストが集うclub indigoはオープン三年目を迎え、
リニューアルを決定。ある伝手で有名インテリアデザイナーに内装を依頼した。
改装工事の間、店は仮店舗で営業することになる。
そんなバタバタの中、ホスト達はそれぞれトラブルに見舞われて…。
ジョン太、アレックス、犬マンがプライベートで巻き込まれた事件の顛末に加え、
indigoリニューアルに絡む騒動まで勃発。ますます快調なシリーズ第三弾。
ホスト探偵団は、今日も夜の街を駆け抜ける。

★収録作品★

 神山グラフィティ
 ラスカル3
 シン・アイス
 ホワイトクロウ

***

 

に続くシリーズ第三弾。
ストーリーの切れ味と面白さ、ミステリの度合いはやや失速気味ですが(それに
ミステリとしての構成力も。最後の最後になってようやく真相のダイジェスト版を
ぎゅうぎゅう詰めに書いてジ・エンド、という話が多かった)、
そのぶんキャラのはっちゃけぶりとギャグパートが増していて全体に面白く読めた。

今回は、シリーズで特に活躍しているホスト3人をフィーチャーした短編になっているので
前二作の主人公である晶さんが最終話にしか出てこないのが残念ですが(それにやっぱり
このシリーズは、indigoのホストたち勢ぞろい&彼らの連携プレーで謎を解決するのが
読んでいて気持ちいいし)、各ホストの個性が浮き彫りにされたぶん、今後の彼らの活躍が
よりいっそうリアリティ溢れるものになって楽しく読めるだろうからそのへんは楽しみ。

でも、(こんな褒め方は失礼だけど)この年齢で、しかも一度もホストクラブに行ったことが
ないにも関わらず、最近の若者やホストクラブの内部をここまで違和感なくリアルに書ける
加藤氏はすごいと思う(余談ですが、かつてホストクラブでクラブシンガーの仕事をしていた
私から見てもまったく「こんなホストクラブもホストもいねえよ」と突っ込むポイントがない)。

表題作〝ホワイトクロウ〟の謎はコナンにもよく似たものがあったので既視感を感じたけど
まあいいや。
おすすめです。
特にシリーズ全作を通してミステリ初心者の人におすすめ。
この痛みと共生する。



ある日、彼女は秘密を打ちあけた。
「私は、0.0001%の運命を背負って、生きているの」
サヨナラを言えば、2人は幸せになれるかもしれない…それでも、僕の心はこう叫ぶ。
絶対に、彼女じゃなければ、ダメなんだ。
今すぐ大好きな人に会いに行きたくなる、極純のラブストーリー。
第二回新潮エンターテインメント新人賞受賞。

***

プロも応募できる賞の受賞者とはいえ、そこらのプロ作家よりずっと文章がうまい。
内容も、ある二人の恋人のやりとりを特に大げさなエピソードを交えることもなく
淡々と書き連ねているだけなのですが、著者に筆力があるので最後まで一気に読ませる。

ただ、こういった難病ものをテーマにした小説は仕方がないのかもしれませんが、
読み終えたあとは「ああ、やっぱり予想通りのところに落ち着いたか。。。」と
何の感慨も抱けなかったのが残念といえば残念。
特に私は、もし自分が遺伝性疾患を持っていた場合は、絶対に子供はつくらない
決めている人間なので、本作のラストにはいまいち共感しづらかった。

ただ、主人公の青年が、安易に「僕が支えるよ」「僕が一生一緒にいる」等と
ろくに現実を見ようともせずに自己陶酔だけで簡単に口にする男じゃなかったことには
すごく好感が持てた(悲しいことに実際には、そういう自己陶酔野郎のほうが多いし。
自分に酔って安請け合いして、いざ容赦ない現実を目の当たりにすると即逃げ出す。
これなら最初から逃げてくれたほうがまし)。

パートナーが窮地に立たされたとき、長く面倒を看てやるのは決まって女のほうで、
男は絶対的に少ないのはどうしてなのかな。
女は男を人間としても見るけど、男は女を女としてしか見ない人が多いからかな。
だから相手が女としての機能を果たせなくなったら離れていく。

この物語の主人公みたいな人が、男女問わずこの世に増えてくれれば
寂しさや孤独を感じる人間も減るのにな。
「幸せだよ。何にしろ」



「じつはフランス製じゃないんだ、フランス人形は」
「そうなの?」
ある春の日、八駒家に持ち込まれたプラスチックの箱の中身は、
「冬の室内」といった趣の舞台装置と、その右のほうに置かれた椅子に行儀よく腰かけている
少女の人形。子供らしい快活を示すように、ひょいと天を向けた少女の左足のつま先は――
こなごなになっていた。
破損の責任を押しつけられそうな敬典の姿を見て、娘のつばめは憤慨するが、
敬典は不思議と落ち着いていて……。
きっかけは小さな謎でも、それらは八駒家の食卓の上で壮大なペダントリに発展する。
『天才たちの値段』で鮮烈な印象を与えた新鋭が贈る、
あたたかなタッチで描かれた愉しい連作。

★収録作品★

 人形の部屋
 外泊1――銀座のビスマルク
 お花当番
 外泊2――夢みる人の奈良
 お子様ランチで晩酌を

***

唯一面白かったのは第四話〝夢みる人の奈良〟だけ。
あとは提示される謎にも興味をそそられないし謎解きの過程も強引だしで(特に
〝お花当番 〟がひどい。あんなのわかるわけないっつの)あまり楽しめなかった。
〝人形の部屋〟〝お花当番〟は無駄に長くて起伏もない、要するに締まりがないから
物語に集中しづらかったし、門井氏の文章はちょっと独特なので(何と言っても個性的なのが
地の文が読者に話しかけてくる)、その文体が気になってしまうという点でも
作品世界に入り込みづらかった。不要なうんちくがやたら長かったりするし。

駄作というわけではないので最後まで読み通したけど、
たぶん数ヶ月経ったらもう内容忘れてそうだな。

本作なら〝天才たちの値段〟のほうがずっとおすすめ。
ほれ、また光りだした。



愛する人を失った悲しい記憶を胸奥に秘めて、奥能登の板前の後妻として生きる、
成熟した女の情念を描く表題作ほか3編を収める。


★収録作品★

 幻の光
 夜桜 
 こうもり
 寝台車

***

だいぶ前に映画で観て、その出来にはあまり納得がいかなかったものの
映像がとてもきれいだったことだけはずっと心に残っていて、
いつか原作を読みたいなと思い続けようやく手に取った作品。
言うまでもなく、映画と比肩し得る余地のないぐらい素晴らしい小説だった。

〝幻の光〟という、ともすれば陳腐になりかねないタイトルを、
物語内でうまく使うことによって、読み終えたころには
「この作品にはこのタイトル以外ない」
と心底納得させられる。

人(本作の場合は主人公の元夫)の奥底に眠る闇のふとした瞬間の表出を、
あんな形で表現する著者の発想にも驚嘆させられた。
悲しいと泣き喚くより、死んだように虚ろになるより、狂ったように笑い出すよりも、
ずっとずっと元夫の深い虚無と静かな狂気が浮き彫りにされていて、
そのあまりの生々しさに物悲しさよりも恐怖をおぼえた。
迫ってくる何かへの恐怖じゃなく、何か大切なものが吸い取られていくような恐怖。

表題作以外の短編はすべて、もともとテーマをはっきりと提示しない〝純文学〟という
ジャンルの中でも特に著者の主張がぼかされて書かれている本書ですが、
それでも心に染み込むように伝わってくるものは確かにあるし、
宮本氏の作品はその文章が紡ぎ出す情景が幻想的で非常に美しいので(その部分が
唯一映画にも反映されていたのかもしれません)、
そういったワンシーンワンシーンを頭に思い浮かべながら読むのもおつです。

読んでよかった。
おすすめです。



蛇足1:
本作を自宅のリビングで読んでいるとき、タイムリーにもテレビから
「ダバダ~ダ~ダ~ダバダ~ダバダ~♪」とネスカフェのテーマが流れ出し、思わず心で
『宮本輝は、知っている』と呟いてしまった←あほ
蛇足2:
宮本氏は20代のとき、私と同じパニック障害を患っていたそうだ。
こう言っちゃなんだけどなんかちょっと嬉しかった。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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