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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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僕は生きている。



未発表作含む鮮烈な小説集。
04年7月、52歳で急逝。
原作映画もヒット、没して猶存在感が増す中島らも氏の未発表2作を含む、小説集。
幻想、愛、恐怖、笑い、毒…。不世出の異才の多面的な作風と魅力の全てがこの本にある!

★収録作品★

 山紫館の怪
 君はフィクション
 コルトナの亡霊
 DECO-CHIN
 水妖はん
 東住吉のぶっこわし屋
 結婚しようよ
 ねたのよい―山口冨士夫さまへ―
 狂言「地籍の神」
 バッド・チューニング

***

某ミステリアンソロジーで読んだ〝DECO-CHIN〟にむちゃくちゃハマり
それが収録されている本短編集を手に取った次第。
でこちんはやっぱり何度読んでも斬新で面白かった。
でこちんはらもさんが事故に遭う日の三日前に脱稿した作品で、事実上の遺作にあたる。
こんなんが遺作って。。。ほんと、らもさんらしいよなあ笑

〝コルトナの亡霊〟も、リーダビリティでいったら相当なもの。どうなるのかどうなるのかと
先が気になってページを繰る手が止まらない、久しぶりにそんな感覚を味わった(ラストを
もうちょっと書き込んでくれたらもっとよかったんだけどな。あまりにあっさり終わりすぎ)。

その他収録作もホラーあり、コメディあり、純文学あり、更にはらもさんの私小説要素ありの
もりだくさんな内容になっています。
なので逆にらもさん初心者の人にはお勧めしづらいかな。
中島らもという作家の人となりをある程度知ってから読んだほうが
楽しく、親しみを込めて読めると思う。

とりあえずお勧めしたいのは〝ガダラの豚〟〝人体模型の夜〟、
エッセイなら〝心が雨漏りする日には〟かな。
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生き延びる――。



サラリーマン西谷久太郎を突如襲った大地震。震源は東京湾北部、マグニチュード7.3。
高層ビルのエレベーターからようやく脱出した西谷が目にしたものは…。
リアルなデータと情報を満載した実用的シミュレーション小説。

***

主人公&その相棒? の名前(災厄太郎&解説男)、そしてタイトルから察せるとおり、
この本を〝福井晴敏の書いた小説〟として読むと肩透かしくいます。
あくまで〝関東を大地震が襲ったらどのように対処すべきか〟を小説風にアレンジした
対地震災害ハウツー本。
ストーリーもオマケのようなものなので期待しないほうがいいです。

福井氏大ファンの私でも、
「これを読むぐらいなら〝ドラゴンヘッド〟のほうが物語としてもよっぽど面白いしリアルだし
災害にどう対処すべきかも学べるよなあ。。。」
と思ってしまった。

それにしても中表紙のイラストの男性が劇団ひとりに見えるのは私だけ?
神よ。私は幸せです。



あたしは必ず、脱出してみせる――。ノンストップ最新長篇!

32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。
いつまで待っても、無人島に助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。
果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか――。
欲を剥き出しに生に縋りつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、
読む者の手を止めさせない傑作長篇誕生!

***

偏見で申し訳ないですが、女性の書く小説というのはとかく小ぢんまりとまとまって
しまいがちな印象があるので、いくら直木賞受賞作家といえどこの手の壮大な物語を
描ききれるものかとあまり期待せずに読み進めていったのですが。。。
その読みは間違っていなかったようです。

何より中途半端極まりないラストに脱力。
童話やジュブナイルならこれでも許されるかもしれませんが、
大人向けに書かれた物語でこのオチはいくらなんでもひどい。
清子が最後、突然高名な占い師になっているのも脈絡がなさ過ぎてあっけにとられたし、
物語全体があまりにもご都合主義に展開するのでスリルも何もあったもんじゃない。
それに(たとえ著者があえて狙ってそうしているのだとしても)、清子の性格が
生理的に受け付けなくて、でも彼女主体で物語が進行するので苦痛で仕方なかった。
登場人物たちが無人島で暮らしていくうちに来たす精神的変化も、
ほとんど描写されていないので何で突然そのキャラがそういう考えに至ったのか、
そういう行動に走ったのか、というのがいちいち掴みにくく、かと思えば
今どきマンガでもお眼にかからないようなありきたりな理由で人格が変わる人間も
出てくる始末で、ページを繰るごとに本作に興味をなくしていく自分を感じた。

そして女性特有の〝所帯くさい〟描写。
無人島に流れ着いた人が都会に帰ったら食べたいものを夢想するのは当然ですが、
いちいちその食べ物にメーカー名を入れないでほしい。正直ダサい。
男性作家ならまずやらないでしょう。

同じサバイバルものなら、こちらは無人島じゃないですが貴志祐介氏の



のほうが遥かにおすすめ。
本作は可もなし不可もなし、それ以外の感想は特にないです。
勇気はあるか?



岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」
五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」
渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」
大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」
井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」
渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」
永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」

検索から、監視が始まる。
漫画週刊誌「モーニング」で連載された伊坂作品、最長1200枚。

***

いきなり註:
本作は↓の続編なので、こちらを先に読んでから読むことを推奨します。



。。。
あれだけ好きな作家だったのに、ここ最近の伊坂作品には
読むたびごとに幻滅を感じさせられている。

理由としては、これまでの伊坂作品はあくまで伊坂氏の想像力をメインに
描かれていたのに対して、ここのところは何か別の媒体(映画や本)からの引用、
政治絡みのエピソードが非常に多くなってしまって、物語というよりはもはや
エッセイに近くなってしまっている、ということ。
本作でも、ここ最近の時事問題を詰め込んでそれに対する意見を
登場人物の口を借りて語らせているだけ、という印象を受けた。
本作には自分の思っていることを他人に言わせることが出来る、人間腹話術師の
能力を持った人物が登場するけど、まさにこの小説自体が伊坂氏の言いたいことを
そのまま口にしているだけの腹話術本といった感じだった。
(たとえるならNHK教育で人間とぬいぐるみが会話しながら社会や理科とかについて
「そうかあ! そういうことだったんだねお兄さん!」「そうなんだよ○○くん」
とやっている白々しさに似ている。製作者の思惟が透けて見えてしまって
最早物語として受け止められないあの感じ)
その割りに、作中における名台詞は全部どこかからの引用で
伊坂氏自身の言葉じゃないし。。。
昔はちゃんと伊坂氏自身の考えた言葉が、登場人物たちの口から飛び出して
忘れられない記憶になって読み手の心に残ったのに。

そして内容。前著〝ゴールデン・スランバー〟とほとんど同じ。。。と思っていたら
伊坂氏本人にもその自覚はあるようで、あとがきでそのことについて言及していましたが、
「本作と〝ゴールデン・スランバー〟は二卵性の兄弟のようなもの」
って。。。だったらいっそその卵をひとつにまとめて一冊にして出してほしかったよ。
ほとんど同じ内容の小説を、しかもこんなにぶっとい本を、二回続けて読まされる
こっちの身にもなってほしい。
どんな駄作でもそれと気づかず読めるほどの盲目的伊坂信者(もしくは
そこまで身を入れて本を読まない性質で読んだ端から内容を忘れるようなタイプ)じゃない限り
二冊とも楽しめた、なんて人はいないと思う。
そして〝魔王〟が大好きな私としては、あれだけ壮大な凄みを感じさせる終わり方だった前著が
こんなつまらない続編として発表されたことにも嘆かざるを得ない。
自分が「きっとこうなるんだろうな」と勝手に夢想していた内容のほうがよっぽどいい。
なので本作は自分の中ではなかったことになっている(FFⅩ-2と同じように。。。って
わからない人はごめんなさい)。

一番はじめに、〝魔王〟を読んでから本作を読むよう打診しましたが、
〝魔王〟で感動した人は正直こっちは読まないほうがいいです。
自分の中の何かが壊れるから。

〝魔王〟のあのクソ野郎の敵討ちが続編である本作で成されていたのだけはすっきりした
けど、それもあんな第三者じゃなくて〝彼〟にやってほしかったなあ。。。
あーほんと読むんじゃなかった。

あとこれは完全に私事ですが、今年某ミステリ新人賞に出そうとして書いた短編と
同じトリックが本作にも使われていることに驚愕。
私がこの短編を書いたのは相当前なのでネタを思いついたのはこっちが先なのに
結局はアマチュア対売れっ子プロ作家。。。これが原因で落ちたらまじ恨む←逆恨み

いろんな意味でいただけない小説でした。
前から思ってたけど伊坂氏、〝火の鳥〟と〝浦澤直樹〟に影響受けすぎだし。



どうでもいいけど伊坂さん、〝下唇をぬるっと突き出す〟って表現と、
老婆を蠱惑的に描写するのはいい加減やめてほしいんですが。。。
〝老いてなお魅力的〟っていうのを書きたいのはわかるんですが、
どうやっても女を捨てきれないでしがみついている、大人になり切れない無様な女、
にしか見えないですから、あなたの書く老婆は。。。
自分が何物でもない可能性など、あり得ない。



「あたしは絶対、人とは違う。特別な人間なのだ」――。
女優になるために上京していた姉・澄伽が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。
その日から澄伽による、妹・清深への復讐が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を
晴らすために…。
小説と演劇、二つの世界で活躍する著者が放つ、魂を震わす物語。

***

映画版を先に観てしまったのですが、原作のほうが数十倍、いやもっと面白かった。
若い女性著者ならではの細密な、そして(いい意味で)あざとい描写に脱帽しつつ、
一気に読みきってしまった。
映画はちょっとわかりにくい部分が多かったのですが(たとえば
なぜあの人物は自殺したのか、とか←自殺したようにしか見えなかった
なぜあの人物は超能力?をいきなり使えるようになったのか、とか)、
原作を読んですべて解消。

根拠もなく自信満々の姉にいかにして現実を教えるか、という妹の苦心に、
マンガ〝行け!稲中卓球部〟にあった
主人公たち三人が勘違いブスにいかにして己を悟らせるか、という話が重なって
思わず吹き出した。
まあ、稲中のほうが完全にギャグであるのに対して、本作は結構辛辣で
読んでいて痛かったですが。。。

それにしても、ここまでジャンルで括れない物語も珍しいな。
笑えるけど単なるコメディとも言いがたいし、ホラーや官能のようでもあるし、
純文学的味付けがされているかと思いきや突如としてエンタメに様変わり。
千変万化。不思議な小説だ。

登場人物たちもそれぞれに魅力とリアリティがありすぎて鳥肌が立つ。
むちゃくちゃおすすめの一作です。
証明のための物語をさし出そう。



謎の語り手“あたし”がまことしやかに語るのは、百年/七大陸に及ぶ
「ロックンロールの流転」。
「ロックなるもの」に邂逅した人間たちが織りなす、パワフルでポップな20世紀神話。

***

大っ好き。なのでまた読んでしまった。
音楽、特にロック好きの人は必読、と言いたいところなのですが、
本作、基本的に時代や国を流転(ロール)する物語で、ロック部分はあんまりない(最終話に
登場する、語り部の母親だけかも。しっかりロックしてたのは。同じく最終話に出てくる少年も
惜しいところなんですが、彼の場合はもうロック通り越してパンクになっちゃってるからな)。
どの短編も流転、流転、ただひたすら流転の繰り返し(ループ)。
なので〝Rock'n'Roll〟というよりは〝Loop'n'Roll〟と言ったほうがいいんだけど、
でも面白い。文体も物語も独特の味とリズムがあってすごく楽しい。
ていうかこれ、七編のうちどれでもいいから、大学生が改編して卒論として提出してみて
ほしい。絶対普通に通る気がする(しかも高評価で)。

まさに音楽を読んでいるような小説。
非常におすすめ、というか個人的に大好きな作品です。
BGMは当然これ↓(意味は読めばわかります)。

それは、記憶の連鎖。



暴力と幻想。絡み合う二つの世界の謎に迫る本格ミステリ!
武闘派暴力団をターゲットにする謎の連続殺人犯『ガネーシャ』。
一方、歓楽街の暗渠に住み着く七人の浮浪者たち。
ある日怪我をした『わたし』は、『王子』と名乗る浮浪児に助けられ、
暗渠へと踏み込んでゆくが・・・。

***

懲りすぎて逆に面白くなくなっている小説の典型、という印象を受けた。
初野作品(といっても彼の著作はまだ三冊しか刊行されていませんが)の中では
異例とも言うべき凡作。

やたら設定に懲りすぎて気が散ってしまい結局どれも印象に残らないまま
終わってしまう(の割りにひねるべきところはそのまんま)、という欠点のほかにも、
伏線があまりに土中深くに埋め込まれすぎていて気づきづらいのも
読んでいてストレスが溜まった。
吃音の暴力団幹部も、その残虐性・頭脳の明晰さとのギャップを狙って
そんな設定にしたんだろうけど、まったく功を奏していない。
これだけ大勢の人間が登場する物語で、魅力を感じるのが水樹という男ただ一人、
というのも正直何だかなあという感じ。
そもそも初野氏のデビュー作〝水の時計〟と違って、
本作はファンタジー部分と現実部分があまりうまく溶け合っていない気がした。
まったく違う小説を読んでいるような。片方の世界にハマりかけたころになると
章が変わって別世界のほうに舞台が移るので、いまいちのめり込みづらかった。

唯一おおっと思ったのは、暴力団員たちの不審死の原因と、そのやり方が判明した瞬間。
そこだけはしっかりミステリしていました。
落ち着いて考えればわかりそうな単純なトリックなのに気づけなかった悔しさ、それは
東野圭吾氏の〝容疑者Xの献身〟を読んだとき以来の感覚だったな。

それにしても初野氏、


時計
眠り

というファクターが好きだよなあ。いや別にいいんだけど。



black_prince.jpg





 




 

自分の手で、しっかりと。



高齢者の家を狙った空き巣が頻発。
犯行のあった時間帯、目の下に大きな傷のある男が目撃されていたことを知った刑事・啓子は、
かつて自分が手錠をかけた男を思い出すが…。
表題作を含む全4話を収録した短編集。

★収録作品★

 迷い箱
 899
 傍聞き(かたえぎき)
 迷走

***

某アンソロジーで読んだ表題作〝傍聞き〟が非常に面白かったので
手にとってみたのですが。。。
残りの三作は正直及第点のレベルを超えるものではなかった気がする。

〝迷い箱〟なんてオチも微妙ならそもそもミステリですらないし。
〝899〟も、かつて子供を亡くした経験を持つ人間ならあんなこと絶対しないと思うし。
〝迷走〟に至っては「はいはい、室伏さん男らしい男らしい」としか思わなかったし(だいたい
あんなゴミを助けるためにフラフラ走り回ってる間にほかの急患があったら
どうする気だったんだろう? むしろそっちを優先して助けてほしいぐらいなのに
ああやってぶらぶらしていたらそっちを処置する時間がどんどん遅れるのでは?
だし、あんな方法で患者を見つけ出すぐらいなら、とっとと警察に連絡して
GPSで居場所を掴む
、もしくは患者の勤め先か家に電話して目ぼしい場所をあたってもらう
そのほうがずっと効率がいいはず。室伏のあのやり方は要領悪すぎとしか思えなかった)。

暇つぶしに読むには丁度いいのでは、それが個人的感想です。
魂が、戻って来ている――。



亡き妻に謝罪したい――引退した不動産業者・方城兵馬の願いを叶えるため、
長男の直嗣が連れてきたのは霊媒だった。
インチキを暴こうとする超常現象の研究者までが方城家を訪れ騒然とするなか、
密室状況下で兵馬が撲殺される。
霊媒は悪霊の仕業と主張、かくて行なわれた調伏のための降霊会で第二の惨劇が起こる。
名探偵・猫丸先輩登場!

***

いわく本格推理小説というジャンルにおいて、読者は事件が展開していく間中ずっと
「早く出てこい、早く出てこい」と名探偵の登場を心待ちにし、いざ現れようものなら
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!」
と大歓喜するものですが、私の中でその興奮が一番強いのが本作の探偵・
猫丸先輩(本名不明)。
奇人で弁が立つ、というところは既存の名探偵と同じなのですが、
妙な愛嬌やマヌケな一面もあるところが一味違ってかなり魅力的。
短編でももちろんその魅力は健在なのですが、シリーズ初長編である本作は
そんな彼の魅力が数割増しで読み応え十分の一作に仕上がっています。

実はこの作品を読むのはこれで二度目なのですが、
やっぱり本当に面白いものは何度読んでも面白い。
一人ひとりのキャラ立ちが非常にしっかりしていて臨場感があり、
トリックや犯人も見破りづらい。
良質のマジックでも見せられているかのような高揚を、
読んでいる間ずっと感じていました。

ただ、首にナイフを突き立てられて死んだ某登場人物のあの死に様。。。
もしあの状態で首にナイフが刺さったのなら、テーブルの上に仰向けにひっくり返った状態で
死んでいると思うのですが。。。それだけがどうにも腑に落ちず。
それと、眼の見えない左枝子の勘違いを正すのも気の毒だからと黙っていた
大学院助手コンビ。。。親切なつもりかもしれないけど、バレるのは時間の問題なんだし
後になって真相に気づいたほうが左枝子もショックが大きいと思うんだけど。
トリックのために不可欠だったとはいえ、これが小説であることを無視して言わせてもらえば
〝小さな親切大きなお世話〟の王道だよなあ、この要らない気遣いは。。。
まあ、左枝子の一人称パートでの語りがポエム過ぎてサムいので(&多少イラっとくるので)
こいつなら別にいっか、と邪悪なことを考えてしまいましたが。
左枝子といえば、人間いくら眼が見える人と見えない人で相手に抱く印象に差があるとはいえ
左枝子の感じる助手コンビへの印象のほかの皆との正反対っぷりはあまりにアンフェア
だよなー。本作においてこれだけは悪い意味で「騙された!」と思った。

でも非常におすすめの一冊です。
そして世界は世界と一つになる。



少年刑務所で看守として働く「私」の前に現れた一人の受刑者。
彼は子供のころ「私」を標的にして執拗に繰り返されたいじめの煽動者だった。
人間の悪の根源に迫り、「ここに文学がある」と絶賛された97年上半期芥川賞受賞作。

***

こういう仲直りの仕方もあるんだなあ。。。
それが、ラストシーンを読んだとき真っ先に思ったこと。
悪を偽善で覆い隠し、揺ぎ無い計算高さで学校という世界のカリスマとなり、それでもなお
主人公に「その顔は嘘だ」と看破されてしまう不完全さをも併せ持った花井という人物には、
太宰治の〝人間失格〟の冒頭とも相通じるものがある。

18年が経ち、刑務官となっていた主人公の下に服役囚として現れた花井。
そんな彼が高い外壁の作り出す日陰に頭部の前半分だけを埋める印象的なあのシーンは、
〝仮面〟を表していたのではと思う。
学校という小世界の王となり、しかし社会という巨大な枠組みの中では
とても同じようにはいかず(彼はヒトラーになり得るほどの器、もしくは思い切りの良さを
持つには至らなかった)、刑務所という枠組みの中に再び君臨することを夢見て
やって来たに違いない花井は、だからこそ最後にあんな行動をとった。
小さな、閉ざされた世界こそが彼にとって安心できる〝日溜まり〟だった。
どんな場所でもいいから頂点に立ちたいという気持ちが九割、けれど残りの一割には、
少なからずこれまでの自分に対する贖罪の気持ちがあったのでは、と
読んでいてそんな風にも感じさせられるところもあったけど。

文章自体は、はっとさせられる表現があったかと思えば陳腐な言い回しも見受けられたりと
少し安定を欠いている気がしないでもなかったけれど、やっぱりうまいよなあと思う。
特に最近の芥川賞受賞作にはタッチの軽いものがやたら多くて少し辟易していたので
(今回の芥川賞受賞者も、私がダントツで推していた田中慎弥氏じゃなかったし。。。
最近女に甘くないか? 芥川賞)
こういう淡々とした、けれどどっしり読ませてくれる物語に出会えたことは嬉しかった。

まあただひとつ難を言うなら、子供時代と比べ大人になった花井の刑務所内での
いじめ煽動描写、頂点に君臨するまでの描写がほとんどなく今ひとつ現在の花井の
キャラが掴みにくかったので、そのあたりをもうちょっと描いてほしかったな、ということ。
大人と子供じゃ周囲の掌握方法も違ってくると思うし。

とにかく花井が〝閉鎖社会への逃避〟を選んでくれてよかったと思う。
もし彼が主人公が一度夢想したような〝二重世界〟を生きる道を選んでいたら、
被害は格段に増えていたろうし。
でも、今の自分ではない自分をどこか別の場所に見出そうとするあたり、
この二人は似ているのかもしれない。だからこそ主人公も花井の本性に気づけた。
そういう解釈もありかもしれない。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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