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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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そして世界は世界と一つになる。



少年刑務所で看守として働く「私」の前に現れた一人の受刑者。
彼は子供のころ「私」を標的にして執拗に繰り返されたいじめの煽動者だった。
人間の悪の根源に迫り、「ここに文学がある」と絶賛された97年上半期芥川賞受賞作。

***

こういう仲直りの仕方もあるんだなあ。。。
それが、ラストシーンを読んだとき真っ先に思ったこと。
悪を偽善で覆い隠し、揺ぎ無い計算高さで学校という世界のカリスマとなり、それでもなお
主人公に「その顔は嘘だ」と看破されてしまう不完全さをも併せ持った花井という人物には、
太宰治の〝人間失格〟の冒頭とも相通じるものがある。

18年が経ち、刑務官となっていた主人公の下に服役囚として現れた花井。
そんな彼が高い外壁の作り出す日陰に頭部の前半分だけを埋める印象的なあのシーンは、
〝仮面〟を表していたのではと思う。
学校という小世界の王となり、しかし社会という巨大な枠組みの中では
とても同じようにはいかず(彼はヒトラーになり得るほどの器、もしくは思い切りの良さを
持つには至らなかった)、刑務所という枠組みの中に再び君臨することを夢見て
やって来たに違いない花井は、だからこそ最後にあんな行動をとった。
小さな、閉ざされた世界こそが彼にとって安心できる〝日溜まり〟だった。
どんな場所でもいいから頂点に立ちたいという気持ちが九割、けれど残りの一割には、
少なからずこれまでの自分に対する贖罪の気持ちがあったのでは、と
読んでいてそんな風にも感じさせられるところもあったけど。

文章自体は、はっとさせられる表現があったかと思えば陳腐な言い回しも見受けられたりと
少し安定を欠いている気がしないでもなかったけれど、やっぱりうまいよなあと思う。
特に最近の芥川賞受賞作にはタッチの軽いものがやたら多くて少し辟易していたので
(今回の芥川賞受賞者も、私がダントツで推していた田中慎弥氏じゃなかったし。。。
最近女に甘くないか? 芥川賞)
こういう淡々とした、けれどどっしり読ませてくれる物語に出会えたことは嬉しかった。

まあただひとつ難を言うなら、子供時代と比べ大人になった花井の刑務所内での
いじめ煽動描写、頂点に君臨するまでの描写がほとんどなく今ひとつ現在の花井の
キャラが掴みにくかったので、そのあたりをもうちょっと描いてほしかったな、ということ。
大人と子供じゃ周囲の掌握方法も違ってくると思うし。

とにかく花井が〝閉鎖社会への逃避〟を選んでくれてよかったと思う。
もし彼が主人公が一度夢想したような〝二重世界〟を生きる道を選んでいたら、
被害は格段に増えていたろうし。
でも、今の自分ではない自分をどこか別の場所に見出そうとするあたり、
この二人は似ているのかもしれない。だからこそ主人公も花井の本性に気づけた。
そういう解釈もありかもしれない。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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