それは、記憶の連鎖。
暴力と幻想。絡み合う二つの世界の謎に迫る本格ミステリ!
武闘派暴力団をターゲットにする謎の連続殺人犯『ガネーシャ』。
一方、歓楽街の暗渠に住み着く七人の浮浪者たち。
ある日怪我をした『わたし』は、『王子』と名乗る浮浪児に助けられ、
暗渠へと踏み込んでゆくが・・・。
***
懲りすぎて逆に面白くなくなっている小説の典型、という印象を受けた。
初野作品(といっても彼の著作はまだ三冊しか刊行されていませんが)の中では
異例とも言うべき凡作。
やたら設定に懲りすぎて気が散ってしまい結局どれも印象に残らないまま
終わってしまう(の割りにひねるべきところはそのまんま)、という欠点のほかにも、
伏線があまりに土中深くに埋め込まれすぎていて気づきづらいのも
読んでいてストレスが溜まった。
吃音の暴力団幹部も、その残虐性・頭脳の明晰さとのギャップを狙って
そんな設定にしたんだろうけど、まったく功を奏していない。
これだけ大勢の人間が登場する物語で、魅力を感じるのが水樹という男ただ一人、
というのも正直何だかなあという感じ。
そもそも初野氏のデビュー作〝水の時計〟と違って、
本作はファンタジー部分と現実部分があまりうまく溶け合っていない気がした。
まったく違う小説を読んでいるような。片方の世界にハマりかけたころになると
章が変わって別世界のほうに舞台が移るので、いまいちのめり込みづらかった。
唯一おおっと思ったのは、暴力団員たちの不審死の原因と、そのやり方が判明した瞬間。
そこだけはしっかりミステリしていました。
落ち着いて考えればわかりそうな単純なトリックなのに気づけなかった悔しさ、それは
東野圭吾氏の〝容疑者Xの献身〟を読んだとき以来の感覚だったな。
それにしても初野氏、
水
時計
眠り
というファクターが好きだよなあ。いや別にいいんだけど。
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