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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「長い沈黙の終わりだ」



旬なミステリ作家の魅力発見!最新ベスト10を一気読み!!
結末まで読まずにいられない、美しき謎の数々!
本格ミステリ作家クラブが選んだ2007年のベスト本格ミステリ短編&評論のすべて!

★収録作品★

 はだしの親父/黒田研二
 ギリシャ羊の秘密/法月綸太郎
 殺人現場では靴をお脱ぎください/東川篤哉
 ウォール・ウィスパー/柄刀一
 霧の巨塔/霞流一
 奇偶論/北森 鴻
 身内に不幸がありまして/米澤穂信
 四枚のカード/乾くるみ
 見えないダイイングメッセージ/北山猛邦

***

作品ごとのレビュー。

◆はだしの親父◆

私はてっきり親も昔クラウン(道化)をしていて、息子たちの心もそれで開いた、というオチを
想像していたのですが(たとえば長男とケンカしたときは道化のメイクをほどこした貌で息子を
追いかけた
、三男の飼っている魚の鉢が割れたときは人間ポンプになって飲み込んで家まで
持ち運んだ
、とか)結果はまったくあさっての方向だった。
でも落ち着いて考えたら本当にそんなトリックだったらバカバカしすぎたかも。私は喜びますが笑
家族愛をクサくなく描いた秀作。
小ネタの〝キンギョゥバーチィ〟には笑った。

◆ギリシャ羊の秘密◆

主人公たちの推理の過程&オチに多少強引なところがあったものの楽しく読めた。
それにしても、ギリシャ神話の神々の名前ってほんっと覚えにくいよなあ。。。
ラストのトリックはありがち。

◆殺人現場では靴をお脱ぎください◆

主人公が二人とも大金持ちの家系という設定は多少鬱陶しかったものの、
これだけ短い話の中にばらまかれた伏線たちが最後で一気にひとつに収束する様は見事。
作者の力量を感じました(主人公はいったい誰なんだよ? と突っ込みたくなるところは
置いといて)。
ちなみに蛇足ですが、私だったらずかずか平気で歩きます(意味は読めばわかります)。

◆ウォール・ウィスパー◆

長い割りにいまいちパッとせず。。。
犯人の特定方法も、相手が人間という〝動く生き物〟であることと、目撃者が
幼い少女でしかもその目撃記憶自体が数十年前のものであることを踏まえれば
断定にまで踏み切ることは到底無理だし。
全体的にぼんやりとした印象のミステリ。

◆霧の巨塔◆

登場人物全員、知り合いが殺されたっていうのに(いくらミステリにしても)淡白すぎだろ。
でも俳優・真中の見た〝霧の塔〟の正体がわかったときは鳥肌が立ってしまった。
そして泣けた。本当に大きい、大きすぎる塔だよ。。。立派な塔だよ。。。(TT)
でも似たようなトリックがマンガ版〝逆転裁判〟にあったなあ。。。原案の黒田研二氏は
いったいどう思ってるのか。。。(奇遇にも同じこの本に収録されてるし)

◆奇遇論◆

犯人が自分がS駅付近に詳しいことを積極的にアピールするのはアホすぎだと思ったけど
やっぱり連丈那智シリーズは面白い。
初期の那智シリーズより文章から硬さがとれていて読みやすくなっているのもいい感じ。
フィールドワーク(外の世界を歩き回っていろんな事柄について知ること)に興味のある人には
おすすめのシリーズ。
ちなみに蛇足ですが私はいつか廃墟めぐりがしてみたい。

◆身内に不幸がありまして◆

雑誌〝Story Seller〟に収録されていた同氏の著作と空気感が非常によく似た作品。
美しい大家の女性に仕える少女、というのが今の米澤氏のマイブームなのでしょうか。
と、どうでもいいことは置いといて。
まだ若いのに文章うまいよなあと相変わらず驚嘆。
タイトルセンスも相変わらず抜群。
内容も面白くどんどん読めてしまいましたが、犯人が殺人を犯した理由に
かなりの無理があったような。。。だってむしろ毎年同じ日に身内が死んだってほうが
よっぽど周りの不審を買う
だろ←ネタバレにつき薄字で。
オチも、二人が双子というならともかくまったくの他人であそこまでの偶然の一致は
いくらなんでも不自然。小説だからと言われてしまえばそれまでだけど。
でも最後まで結構楽しく読めた。彼の短編なら〝心あたりのある者は〟のほうが
おすすめですが。

◆四枚のカード◆

。。。困ったことに浮かばない、感想らしき感想が。
「へー、そう」としか思えなかった。
序盤の手品のくだりは文章だと把握しづらくてだるいし、
短い話の中に大勢の人間が出てきすぎて、しかも彼らが細かい時間でうろちょろしすぎて
そこのところもだるいし、
犯行動機があまりにバカバカしすぎて(むしろ今の若者はバカで幼稚だとでも風刺してるのか?)
失笑。
しかも語り部はその大バカ極まりない動機を〝犯人の心を蝕む闇〟とか大げさに表現してて
噴飯ものだし(彼は作中で動機を知る術がなかったので仕方ないのかもしれないけど)。
これぐらいのことでいちいち殺人してたら私はいったい何人の人間を殺さなきゃなんないんだよ。
乾くるみ氏は決して嫌いな作家じゃないし、期待していただけに残念。

◆見えないダイイングメッセージ◆

さすが本書のトリを飾るだけあって面白かった!
しかもこの著者、この作家陣の中で最年少なのだからすごい(才能に年齢は関係ないとはいえ、
小説、しかもミステリというジャンルに置いては生きた年数や経験は少なからずそれを左右すると
思うので)。
同じダイイングメッセージネタでも(こう言っちゃ失礼ですが)、乾氏のものとは比較にならない
クオリティの高さ&面白さだった。
突っ込みたい部分はいくつかあったけど。たとえば(ネタバレにつき薄字で)、
ダイイングメッセージを書き残してから死ぬように加減して殴る、なんて都合のいいことが
果たしてできるものなのか? そもそも頭を殴ったりしたら思考が飛んでまともにメッセージを
残すなんて発想も頭から消し飛んでしまうのでは?

被害者はピアニストでもないのに何故朦朧とした意識の中指紋でメッセージを残すことを
思いつけた? 音楽やっている管理人もあんなもん即座には思いつきません。

被害者は息子にやられたことがわかっているのだから、息子が絶対に気づかないやり方で
メッセージを残す可能性もある。そのリスクを息子は考えなかったのか?

。。。まあこれ以上は野暮なのでやめておきます。純粋に楽しまなくちゃね。



レビューは以上!
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覚醒。



三人の人間を殺す。
完璧な準備を整え、自らには一切嫌疑がかからないような殺害計画を整えて……。
そんな決意をした男に降りかかる、思わぬ災厄。ターゲットを殺す前に、
別の人間を殺してしまった……。
人気ミステリー作家石持浅海の新境地。

***

着想はいつも斬新で興味深いものの、いざ読んでみると
登場人物たちの思考の筋道が支離滅裂だったり(「普通そこでそう考える?」
「いや、その考えはおかしいだろう」ということがしばしば)、
とりたてて大したことでもないことがやたら大げさに書かれていたり、
意味もなく美形ばかり登場したり(〝整った顔〟〝美しい顔〟という表現が
作中で連発されるのでだんだん鬱陶しくなってくる)、
と、読むたびに肩透かしばかりくわされている石持作品ではあるのですが、最近はむしろ
そのおかしな部分に突っ込みを入れながら読み進めるのが面白くなってきてしまい、
「それおかしい」「ここ変」等と心の中で言いながら物語を追っています(←嫌な読者)。

本作も。。。
穴だらけの(というか方向性がアサッテすぎる)殺人計画、主人公の独りよがりな憶測、
そういった一連に辟易しながらも敢えてそのアホっぷりを楽しむことで読破(←とことん嫌な読者)。
もちろんそれまでにも数多の突っ込みポイントは登場しましたが。
無意味に多い性描写(しかも表現が稚拙)。
見合いの仲介が趣味のオバサンのようにやたらと周囲の男と女をくっつけたがる
登場人物たち(一応それには理由が設定されているのですが、それにしてもあまりにしつこすぎ)。
ミステリとしても、主人公が〝最後の標的〟と絡み出したときにはもう完全に
オチは読めてしまっていたので、緊迫感も何もなく読み進め、予想通りのことが起きたときには
「ああやっぱりな」。
さらにその後、ある一人の人間の遺体が特殊な方法で処理されるシーンも、それが
最近実際にあった事件で犯人が行った手法とまったく同じだったので
別段驚きもなく新鮮味に欠けた。
挙げ句〝独白〟の終章なんか狙いすぎで興ざめもいいとこだし。

〝覚醒〟といういかにも興味をそそる表現も、結局は〝反社会性人格障害〟もしくは
境界例(ボーダーライン)〟という精神病理を面白おかしく脚色しただけのもので
(ある精神疾患の文献に、一人のカウンセラーが
『治療者がクライアントを心理的に抱きとめ、その結果、面接場面が快適で、
真に安心のできるうつわ(容器)として機能しはじめたとき、往々にして
治療者だけがよきものとなり、他はすべて邪悪であるというように世界を一方的に
分割(分裂機制)してしまうことがある』
と書いてはいますが、いくらフィクションでも〝覚醒〟という設定は極端にすぎる)
それも今のこの世の中では〝覚醒〟した状態と寸分違わない人間なんてそこら中に
ごろごろいるし。それも本作中に登場する〝覚醒者〟たちとは違って、
何の理由もきっかけもなくごく生まれつきにその資質を備えた連中が。
もう一昔前に本作が書かれていたならだいぶ印象は違ったんでしょうが、今この手の物語を
読まされても時代の後追いとしか感じられなかった。

そして本作最大の突っ込みどころはやはり
「あかね、おまえめちゃくちゃやり手の臨床心理士なら
いきなり自分の対立相手を殺そうとしないで
その技術でマインドコントロールでもして相手をうまく懐柔してみせろよ!」

です。それで駄目だったら殺せよ、と。
まあ、だいたい往々にして石持氏の著作は肩書きだけ大層で実力がそれに伴っていない人間が
必ず出てくるので、今さら言ったところでどうしようもないのですが。

と、さんざんボロクソ書きはしましたが、最初に言ったとおり物語自体の発想はいいので
結構面白く読めます。
ただ、あまり真剣に読みすぎると矛盾点にいらんほど気づいてしまってうんざりするので
あくまで娯楽作品として内容を深く追求しないで読むことをおすすめしますが。

alraune_mandrake.jpg











アルラウネ。
誰が誰を捉えたのか。



最愛の息子が失踪した直後、愛人の男が事故で死んだ。もしかして、息子が殺した…?
亡霊のように現れる過去の絆。
第5回ホラーサスペンス大賞受賞作品に加筆して単行本化。

***

数年前に一度読んだものを再読。
やっぱうまいなあ。。。と読後感慨に浸っていました。
自分が歳くったぶん〝母親〟としての年輩(というと失礼ですが)女性の心理が
以前より読み取れるなっていて嬉しい。

著者が割りと(ってこれまた失礼ですが)年齢のいっている人なので
〝新人〟といってもそれなりに小説読み書きの鍛錬は積んでいる方なんでしょうが、
これがデビュー作というのが信じられないほど文章がうまい。そしてミステリとしての
構成力が非常にハイレベル。
最後まで真相が掴めない、勘に頼ろうにもその勘すらうまく働かない、
そんな巧妙な物語世界に最後まで緊張感を保ったまま読み進めることができた。

一人一人のキャラの立ち方もすごいし(ナズナの父ちゃん最高に好きです。この著者は
こういう所帯くさい&人間くさいおっさんの描写がほんとうまいよなー)、
それぞれに魅力があるので誰が登場するシーンも楽しい。それだけじゃなく
誰もがその内に何かしらの狂気を秘めているのでどの人物がどこでどういう行動に出るか
わからない、いい意味でキャラを〝信頼できない〟、その読者と登場人物たちとの間の
距離感も、馴れ合いがなくてすごく心地よかった。

そしてラストで主人公・佐知子が目にする〝気の狂いそうなほど奇妙な光景〟。
私なら本当に気が狂ってしまうかもしれない。
人を本当に狂わせるのは恐怖や孤独じゃなく〝切なさ〟なのかもしれない。
そんな風に思った。

少し難を言うなら主人公が(いくら息子が心配とはいえ)ちょっと自己中心的に過ぎること、
(まあ、だからこそあのラストシーンが光るんでしょうが)
&三人称で書かれた小説とはいえほとんど主人公・佐知子視点の文章なので
佐知子の思考に読み手であるこちらが誘導されてしまいがちなこと(つまり佐知子が
「~に違いない」と断定するように思考するので(しかもそれが地の文で書かれているので)、
読み手は自分で推理するより先にその考えに無意識に従ってしまうこと)。
そしてつまらないケチをつけるなら擬音が全部カタカナなこと。〝メソメソ〟〝ヒタヒタ〟
〝トボトボ〟。。。意外とダサいんですね、小説でこういう表現をすると。

でも相変わらずの傑作でした。
さらに歳とったらまた再読してみるつもりです。
読むたびに新しい発見がある、非常によくできた小説ですこれは。

それにしても佐知子の息子の文彦はかっこいい。。。
これは何歳になって読んでも変わらないだろうなあ。。。(変わらなきゃショタでやばいけど)。

sotoori.jpg







衣通姫。






「今度こそ、終わりにするよ」

 

1000年後の日本。
一見のどかに見える学校で、徹底的に管理されている子供たち。
何も知らずに育った彼らに、悪夢が襲いかかる!
いつわりの共同体が隠しているものとは。
3年半ぶり書下ろし長編小説。

***

貴志祐介氏は唯一私がノンストップでその著作を最後まで読みきってしまうほど
大好きな作家さんで、しかも全作何度も何度も読み返しているので
カバーはよろよろ、文章もところどころ暗記してしまっている始末。
なので本作も予約までして買い、あまりの期待に戦慄さえおぼえながら
読み始めたのですが。。。

今や手元にありません。読後、光速でオークションで売り払ってしまったから。

ひと言で言うなら〝ダークにしたハリー・ポッターの劣化コピー〟。
はっきり言ってまったく面白くない。
「貴志さん、貴志さん。。。!」と心の中ですがるような叫びをあげながら(笑)
読み進めても読み進めても一向に面白くならない。
何だか貴志氏が「どうだ、1000年後の世界をここまで描き出せる俺の想像力は
すごいだろ!」と言いたいがためだけに書かれた、そんな印象を正直受けた。
物語の面白さなんて二の次といったような。

やっぱりベテランの作家さんだけあって、物語世界に独特の雰囲気はあったけど。
でも同じ1000年後の日本を書いた話なら、本作と比べたらぶっちゃけ
リアル鬼ごっこのほうがよっぽどおもしr(以下略)。

何年も待たされた新作だっただけに相当にがっくり来ました。
その後刊行された〝硝子のハンマー〟の続編〝狐火の家〟も全然だったし。

三度目の正直を信じて待ちますよ、貴志さん。
頼むから貴志さんあなたが新世界から帰ってきてくれ。。。
 

本作のテーマ曲、ドヴォルザークの〝家路〟。もし読むのならBGMにどうぞ。
まるで静かな狂気のような。



塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。
塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。
その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。
静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。
あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。
それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた……。
第10回電撃大賞<大賞>受賞作にて有川浩のデビュー作でもある『塩の街』が、
本編大幅改稿、番外編短編四篇を加えた大ボリュームでハードカバー単行本として刊行される。

***

カテゴリーとしてはライトノベルに属する作品なので、漫画的表現&恋愛には
(既に二十代も後半の私としては)読んでいて時おり顔が赤らみますが、
扱われているテーマやストーリー展開、世界観の深みは(決してラノベを馬鹿にして
言うのではなく)一般小説になんら引けをとらない秀作です。

塩と化した世界で二人暮らす秋庭と真奈、そしてそんな彼らとその前を次々に通り過ぎていく
様々な人間たちとの邂逅を描き出した本作、そのひとつひとつのエピソードが
読みやすい筆致と抑えた表現で書かれているにも関わらずものすごいインパクトをもって
胸の深い部分にまでしみ込んでくる。
本作の一番初めに登場する青年のエピソードは、ふだんラブストーリーを「へっ」と
小ばかにしている私が読んでも思わず目が潤んでしまった。
(そもそもがこの著者の〝Story Seller〟というラブストーリーにいたく感動したため
本作を手にとった次第なのですが)

文庫がハードカバーになるにあたって加筆された〝その後〟は正直ないほうがよかった気が
するので(何だか想像の余地が奪われてしまったようでつまらなかった。
マンガ〝ときめきトゥナイト〟〝ぼくの地球を守って〟(知らない人はすいません)も
続編にかなり幻滅させられたので。。。)、私は文庫版を読んだのだということにしておきます。

それにしても、本作で何度も繰り返される〝失った代わりに得られるもの〟、
それがあるから人間は辛うじて生きていられるんだよなあ。。。

因みに以下の作品が好きな人は本作は特におすすめです。

終末のフール/伊坂幸太郎
キノの旅/時雨沢恵一
最終兵器彼女/高橋しん
ドラゴンヘッド/望月峯太郎



蛇足:本編中に出てくる過呼吸発作の止め方は実際にやるとかなり苦しいので
もしなったら紙袋を口にあててゆっくりと呼吸する、というやり方でおさめてください。
実際にその病気持ちである管理人からのおせっかいな忠告です。

『覚えててくれる?』



ある日突然、日本に「自殺自由法」が施行された。
しかし、国民は相変わらずの無関心だった。
それぞれの目的で、公共自殺幇助施設「自逝センター」に向かう人の群れ。
そして、それを取り巻く人間たちの思惑…。
「死ぬ自由」を得た人間たちの姿を、著者独自のビターテイストな文体で描く問題作。

***

ブラックユーモアを受け付けない人、または
自殺をネタにすること自体を笑い飛ばせない性質の人以外は、
まあそれなりに楽しく読める内容になっているのではないかと思います。

ですがいくらジャンルがユーモアでもそれが小説である以上一貫したひとつのテーマが
必要なわけで、でも本作は大勢の自逝者(本作では自殺希望者をそう呼びます)の顛末を
ただ淡々と書き綴っているだけで、本来そこから浮かび上がって見えてくるはずの
著者の言いたいことが見えてこない。〝自殺〟なんて重いものをテーマに書かれた小説である
以上、ただ面白ければいいってものじゃないと思うのですが。
それともあの〝彼女〟の生き様が全体を貫くひとつの教訓になっているのかな。。。

オチは今の日本社会を見事に風刺していて思わず苦笑してしまいましたが。
「ほんと、そんなもんなんだよなあ」と。

笑いネタやグロネタだけじゃなくちょっと真面目な自逝者エピソードでも入れてくれれば
もっと本作はいいものになったんじゃないかと個人的には思うのですが、まあでもそうしたら
ブラックユーモアじゃなくなっちゃうから無理か。

私は今ちょっと精神を病みがちなので、こんなもん読んで大丈夫かと軽く不安に思いながら
本作を手にとったのですが(じゃあわざわざ読むなよって感じですが)、読後逆に
〝自殺〟という行為がバカバカしく思えるようになってしまった。
自らを殺す、という行為にはやはり最低限の自己陶酔と自己憐憫、ドラマ性が必要ですが
これ読んだらそんなもの吹き飛んだもんな。

〝死〟に酔っているような人は読んでみると結構自分を客観視できていいかもしれない。
もちろん個人差はあるだろうから万人にはおすすめしませんが。
誰か、あたしを、罰して――。



お姉ちゃんは殺された、同級生の男子に。
偶然のバイク事故に見せかけて、殺されたんだ。
美しくて、優しくて、心の真っ白な人だった。
お姉ちゃんの死の真相は、あたしがはっきりさせる――。
あとを追うように、姉と同じ都立高校を選んだ結花。
だがそこには、覗いてはならない姉のおぞましい秘密が――。

***

誉田氏の著作を読むのは初めてなので何とも言えませんが少なくとも
本作に関しては。。。

〝駄作〟。少なくとも私のカテゴリーの中では。

まず文章が稚拙。
陳腐な表現、同じ言い回しの使いまわし、挙句
言葉の使い方が間違っているところすらあるし(プロとしてこれはあまりにも。。。)、
正直ストーリーを追う以前に文章を読むのが苦痛だった。
しかもそのストーリー自体もありきたり。でも何より最悪なのは
登場人物たちの心理描写があまりに拙いこと。
説明してくれないとわからないところも説明してくれていなかったりするので(もし著者が
『行間を読め』とでもいうつもりで敢えて描写を省いているなら無理難題にもほどがある)、
なぜ〝姉〟が主人公である妹をそこまで大事に思っていたのかが未だにわからない。
そしてそんな〝姉〟のことを心から大事に思っていたらしき妹が、クライマックスで
〝姉〟にまつわるある残酷な真相を知らされても、
その後大してショックを受けた様子もなく振舞っているその不自然さ。

東京創元社の〝ミステリ・フロンティア〟シリーズは(私から見ると)かなり当たり外れの大きい
シリーズだけど、その〝外れ〟のほうをうかつにも読んでしまったときの脱力感を思わず覚えた。
(ちなみに実際の上記シリーズで私が「ハズした。。。」とうなだれたのは、ほしおさなえの
〝ヘビイチゴ・サナトリウム〟だったりする)

読み終えたあと思わずベートーヴェンの〝月光〟↓を聴いて口直ししてしまった。
本当に、音楽のほうは傑作なのにさあ。。。

もう言わずともおわかりでしょうが、決しておすすめできない作品。
教師と生徒の恋愛モノor拉致監禁陵辱モノが好きな人は読んでみれば? といったところです。

助けて。



臨床心理士・嵯峨敏也はある小学校の女性教諭に注目する。
彼女は独自の音楽療法を用いて不登校の児童たちを立ち直らせ、文部科学省からも
教育者として高い評価を受けていた。
が、彼女の一家を襲った惨劇が、彼女の人生を大きく変えてしまった。
凶悪な犯行に及びながらも決して罰せられることがない犯罪少年に、
彼女は激しく憎悪を燃やす。
やがて復讐の一線を越えたとき、彼女のなかに冷酷な“もうひとりの自分”が宿り始めた…。
「催眠」の本格的サイコミステリーに立ちかえりつつ、より一層のリアリズムに満ちた
精神医学と臨床心理学の世界を背景に、嵯峨の知識と能力の限りを尽くした活躍を描く
新機軸スリラー最高傑作。

***

面白かったー!

と、えらく単純な感想ですが、本当に面白いものを読むと案外
こんな言葉しか出てこなかったりするものです。
〝催眠〟〝後催眠〟に続く臨床心理士・嵯峨敏也シリーズの三作目にあたる本作、
私の中では他二作とは比較にならないほどダントツトップの面白さ。
〝催眠〟のように映画化とまではいかなくても、二時間ドラマぐらいには是非してほしい。
主人公・嵯峨が猟奇殺人犯と化してしまった女性に犯行を自白させるために仕掛けたトラップも、
その中身は多少読めてしまってはいたものの、それでも彼女が見事それにかかるシーンでは
あまりの爽快感(というより快感?)に思わずおお、とうめき声がもれてしまった。
古畑任三郎or杉下右京ばりの犯人への引っ掛けのうまさ。嵯峨かっこいい。
&ここまで良質なエンターテインメントを書き上げた著者の松岡氏、見事です。

まあひとつだけ難を言うなら、冒頭で〝彼〟が自殺してしまったのはちょっと
ご都合主義だったけどね。それ以外は心底楽しませてもらったので目をつぶります。

シリーズものではありますが、これだけ読んでも十分に楽しめます。
非常におすすめの一冊。

ていうかこの小説の表紙。。。ファーゴ?

fargo.jpg












大丈夫、もう僕たちしか残っていない。
楽しもう。




どこまでもはてしなく、リズムとともに続くブルー。
どこまでも細く、蛇のようにうねるスモーク。
これが僕たちの場所。あれが僕たちの墓。
飛ぶために生まれてきた子どもたちの果てしない物語、「スカイ・クロラ」シリーズ完結。

***

。。。わからない。
シリーズ最終巻の本作、全作丹念に読み込んできた私でも理解に難い。
まず語り部が誰かわからない。
巻ごとに語り部が変わる本シリーズ、これまでの語り部は
カンナミ・ユーヒチ、クサナギ・スイト、クリタ・ジンロウの三人のいずれか一人だったのに、
本作ではシーンごとに〝語り部〟の記憶や行動、台詞がその三人にシフトするので(特に
カンナミとクリタにその傾向が顕著)、誰が本作を語っているのか判断できない(皆一人称は
〝僕〟だし)。
敢えてそう描写することで物語とその読み手との間の壁を取り払い、
〝自分が誰かわからない、あいまいな存在の僕〟、つまりは〝僕=読者〟という風に
読み手に思わせたかったのかとも一瞬思ったけど、まさかそんな
ネバーエンディングストーリー的な狙いで著者が本作を書いたとも思えないし。
ラストでソマナカが〝僕〟に言いかけた台詞の続きも情けないことに予測できない。

映画〝スカイ・クロラ〟における解釈を原作である本書にも当てはめれば
何がどうなっているのかを理解することは可能だけど、できれば原作だけで
著者の言わんとすることを悟りたかったな。まだまだ修行が足りないようです。。。

本作を正しく理解できた方は是非ご一報ください。

それにしてもこのシリーズは、最終巻を読んだあと第一作目を読みたくなる小説だよなー。
(時系列的には一作目がエンディングなので、当たり前ではあるんだけど)
読めばこの漠然とした読後感が目からウロコに変わるでしょうか。
もう一度読んでみよっと。

でも、本作のタイトルに〝Cradle(ゆりかご)〟という単語が使われていることを踏まえて考えると、
やはりクリタは全作のラストで死んでいて(どうにも読んでいてそう思えた)、その代わりに
〝製造〟されたクリタの生まれ変わりとしてのカンナミが本作の語り部であり、
時おり記憶がクサナギとリンクするのは〝製造〟の際の些細なミス、もしくは製造者が意図的に
カンナミに織り込んだものであるのかもしれない
、という気がしないでもないけど。。。
「ガキでいいんだよ。いずれ嫌でも大人になる、誰だってな」



1968年12月10日。
東京・府中。
雷雨の朝、白いオートバイ。
18歳の少女。

あの「三億円事件」の秘密の扉が、今静かに開かれる。

***

 登場人物たちがほぼ全員ステロタイプで面白みがない、
岸が強奪事件を計画した理由は自分自身の〝復讐〟のためなのに
自分はあくまで客観に徹し過ぎ・主人公にすべてをまかせすぎ、
全体的な雰囲気は悪くないのに主人公の喋り口調がスケバン調(まあ本作の
時代背景を考えればある意味リアルですが)で興醒め、
といろいろと突っ込みたいポイントはありますが、なかなかの良作なのではと思います。
ただ、〝三億円事件の犯人が実は女子高生だった!〟というあらすじのインパクトが
あまりに強く期待し過ぎたためか、読後「なんだ、こんなもんか」とちょっとがっかり。
強奪事件そのものよりも、終盤で明らかになるある人物二人の隠された人間関係のほうに
よっぽど驚かされました。

まあただ、三億円騒動の顛末には著者の皮肉を感じて苦笑してしまいましたが。
「そんなもんだよな」と少し笑えた。

純文とエンタメとミステリがほどよく混ざった、良質な青春小説だとは思う。
ページ数もそんなにないので三億円事件を知っている人、興味のある人は
一度手にとってみてほしい一冊です。

プロフィール
HN:
kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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