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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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覚醒。



三人の人間を殺す。
完璧な準備を整え、自らには一切嫌疑がかからないような殺害計画を整えて……。
そんな決意をした男に降りかかる、思わぬ災厄。ターゲットを殺す前に、
別の人間を殺してしまった……。
人気ミステリー作家石持浅海の新境地。

***

着想はいつも斬新で興味深いものの、いざ読んでみると
登場人物たちの思考の筋道が支離滅裂だったり(「普通そこでそう考える?」
「いや、その考えはおかしいだろう」ということがしばしば)、
とりたてて大したことでもないことがやたら大げさに書かれていたり、
意味もなく美形ばかり登場したり(〝整った顔〟〝美しい顔〟という表現が
作中で連発されるのでだんだん鬱陶しくなってくる)、
と、読むたびに肩透かしばかりくわされている石持作品ではあるのですが、最近はむしろ
そのおかしな部分に突っ込みを入れながら読み進めるのが面白くなってきてしまい、
「それおかしい」「ここ変」等と心の中で言いながら物語を追っています(←嫌な読者)。

本作も。。。
穴だらけの(というか方向性がアサッテすぎる)殺人計画、主人公の独りよがりな憶測、
そういった一連に辟易しながらも敢えてそのアホっぷりを楽しむことで読破(←とことん嫌な読者)。
もちろんそれまでにも数多の突っ込みポイントは登場しましたが。
無意味に多い性描写(しかも表現が稚拙)。
見合いの仲介が趣味のオバサンのようにやたらと周囲の男と女をくっつけたがる
登場人物たち(一応それには理由が設定されているのですが、それにしてもあまりにしつこすぎ)。
ミステリとしても、主人公が〝最後の標的〟と絡み出したときにはもう完全に
オチは読めてしまっていたので、緊迫感も何もなく読み進め、予想通りのことが起きたときには
「ああやっぱりな」。
さらにその後、ある一人の人間の遺体が特殊な方法で処理されるシーンも、それが
最近実際にあった事件で犯人が行った手法とまったく同じだったので
別段驚きもなく新鮮味に欠けた。
挙げ句〝独白〟の終章なんか狙いすぎで興ざめもいいとこだし。

〝覚醒〟といういかにも興味をそそる表現も、結局は〝反社会性人格障害〟もしくは
境界例(ボーダーライン)〟という精神病理を面白おかしく脚色しただけのもので
(ある精神疾患の文献に、一人のカウンセラーが
『治療者がクライアントを心理的に抱きとめ、その結果、面接場面が快適で、
真に安心のできるうつわ(容器)として機能しはじめたとき、往々にして
治療者だけがよきものとなり、他はすべて邪悪であるというように世界を一方的に
分割(分裂機制)してしまうことがある』
と書いてはいますが、いくらフィクションでも〝覚醒〟という設定は極端にすぎる)
それも今のこの世の中では〝覚醒〟した状態と寸分違わない人間なんてそこら中に
ごろごろいるし。それも本作中に登場する〝覚醒者〟たちとは違って、
何の理由もきっかけもなくごく生まれつきにその資質を備えた連中が。
もう一昔前に本作が書かれていたならだいぶ印象は違ったんでしょうが、今この手の物語を
読まされても時代の後追いとしか感じられなかった。

そして本作最大の突っ込みどころはやはり
「あかね、おまえめちゃくちゃやり手の臨床心理士なら
いきなり自分の対立相手を殺そうとしないで
その技術でマインドコントロールでもして相手をうまく懐柔してみせろよ!」

です。それで駄目だったら殺せよ、と。
まあ、だいたい往々にして石持氏の著作は肩書きだけ大層で実力がそれに伴っていない人間が
必ず出てくるので、今さら言ったところでどうしようもないのですが。

と、さんざんボロクソ書きはしましたが、最初に言ったとおり物語自体の発想はいいので
結構面白く読めます。
ただ、あまり真剣に読みすぎると矛盾点にいらんほど気づいてしまってうんざりするので
あくまで娯楽作品として内容を深く追求しないで読むことをおすすめしますが。

alraune_mandrake.jpg











アルラウネ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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