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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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世界の終わりの美しさを知ったら、もう離れられない。



「きみたちは、世界の終わりを見たくはないか――?」 震撼の黙示録!

「世界はこんなに弱くてもろくて、滅ぼすなんて簡単なんだってことを……
ウエダサマが教えてくれたんですよ」

7年前、旭ヶ丘の中学校で起きた、クラスメイト9人の無差別毒殺事件。
結婚を機にその地に越してきた私は、妻の連れ子である14歳の晴彦との距離を
つかみかねていた。
前の学校でひどいいじめに遭っていた晴彦は、毒殺事件の犯人・上田祐太郎と
面影が似ているらしい。
この夏、上田は社会に復帰し、ひそかに噂が流れる――世界の終わりを見せるために、
ウエダサマが降臨した。
やがて旭ヶ丘に相次ぐ、不審者情報、飼い犬の変死、学校への脅迫状。
一方、晴彦は「友だちができたんだ」と笑う。信じたい。けれど、確かめるのが怖い。
そして再び、「事件」は起きた――。

***

重松さんの著作「疾走」が、自分の中の傑作ベスト3に入るほどの
私としては、是非読んでおかなければと手に取った作品。

導入部は非常によかった。
主人公の内省(心理描写じゃなく、あくまで内省)がゴチャゴチャうるさくて
しつこいと感じられた以外は、先が気になって中盤まで一気に読み進めました。
ただ、読みながら一抹の懸念もありました。この作者は家族の絆をテーマに
物語を書くことが多い人なので、「まさか自分が想像しているような陳腐なラストじゃ
ないだろうな。。。」と不安に思いながら読み進め。。。ラスト1ページを読んで、
思ってしまった。「ああ、やっぱり思ったとおりだった」と。
(というかラスト一行を読んだ瞬間、大袈裟じゃなく寒気がした。
「サムい」という感覚はこういうことか、と体感した)
このオチをやりたいんだったら、主人公と義理の息子は、少なくとも数年は
一緒に暮らしていて、それでもどこかしっくり来ない関係、という設定に
しておいたほうが絶対によかったと思う。ラストの晴彦の変貌が、ご都合主義にしか
感じられなかったので。
というか40過ぎてガキの戯言に振り回されている主人公にも違和感を覚えた。
大人になり切れない今どきの大人に対する皮肉か?というほど情けない。
もしどうしても振り回されちゃうおじさんを書きたかったんだとしたら、
振り回すガキに読者も納得するだけのカリスマ性を持たせてほしかった。
 
酒鬼薔薇事件を題材にしたのだろう「ウエダサマ」が登場する中盤以降も、
何か中二病臭いというか、敢えて作者が狙って書いているのだとしても
B級臭を感じてしまった。
主人公の謎のハリウッドもどきアクションがちょくちょく入るのもどうかなあ、と。
そして晴彦の母親、中盤から一切登場しなくなりますが、彼女息子のこと
わかってなさすぎというか。。。のん気にもほどがあるだろと呆れた。
加えて、細かすぎる感想でなんですが、第三者に自分の親のことを話すときに、
42歳にもなって「お母さんが。。。」って。。。「母が」だろ。
前に22歳の男性と飲みにいって、彼が「お父さんが、お母さんが」と言うのにも
引いた私としては、何このおばさん、幼いなという感じだった。
その幼さが息子の内面にも気付けなかったという伏線なのだとしたら
むしろすごい(まずないでしょうが)。
内藤先生も、「私は7年前の事件でトラウマを負いました」って言ってるだけで
その後フェードアウト。いったい何のために出てきたのか。彼女の登場が
何かの伏線だと思っていたので肩透かし。
主人公の同僚のオッサンたちも、主人公に本当の子供がいないのを知ってるくせに
「うちの子は育てるの苦労した」だの「あいつがガキのころはどうのこうの」だの。。。
もう友達やめちまえよ苦笑
  
ちなみに酒鬼薔薇事件があった当初、様々な有識者が酒鬼薔薇が事件を起こした
原因について議論してましたが、私が一番納得がいったのが「性的快楽」説だった。
本作みたいに「ニュータウンに潜む闇」説を唱えていた人もいたけれど、
それは何か違うんじゃないかなと子供ながらに思っていた。
なので本作の「ニュータウンが悪いんだ」説はどうにも入り込みづらかった。
作者は酒鬼薔薇事件の際も「ニュータウンの闇」説を推していたんでしょうか。

途中までは面白かったぶん、パターンにはまったオチのつけ方が
非常に残念でした。重松さんにはもっとダークな作風に開眼してほしい。
今のままだともう先の展開読めちゃうので。

あと、余談ですが、表紙の絵の題名が「karaoke」なのは何でなのか。
ちょっと笑ってしまった。

本作の登場人物「上田」と「高木」にはちょっと惹かれましたが、
彼らみたいな人間に魅力を感じなくなったら、よくも悪くも
自分は完全に大人になったんだな、ということだと思う。
本作を読ませれば、読ませた相手の精神年齢測れそうです。
本作を絶賛したり「共感した」とか言う人とは、安心して距離を置けそう。
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For you.



たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった――

天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。
四十代という〝人生の暗い森〟を前に出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に
芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死など、現代的テーマが重層的に描かれる。
最終ページを閉じるのが惜しい、至高の読書体験。
第2回渡辺淳一文学賞受賞作。

***

昔平野さんのデビュー作「日蝕」を読んで挫折して(今読んだら少しは
理解出来るのかな)、それ以降の作品は理解出来るのでちょこちょこ読んで
いたのですが、純文学ということもあり一般受けはしない作家さんだろうと
思っていたら本作がベストセラーになったということを今更知って読んでみた次第。

。。。悪い意味でわかりました、ベストセラーになった理由が。

主人公の男女がすれ違った理由が昼ドラ並みに超ショボい。
まさか平野さんがこんなベタな展開を書くとは思わなくてこれまた悪い意味で
度肝を抜かれた。
最大の見せ場だろうラストのライブシーンもありがちでクサい。
福山雅治と石田ゆり子主演で映画化だそうですが、彼らをそのシーンに当てはめて
想像してみたらクサさが増して彼らのファンの人には申し訳ないけど
失笑してしまった。
この作品が多くの人に手に取られた理由は、韓流の恋愛ドラマみたいに
「わかりやすい」からなんだろうな、と察した(褒めてません)。
こういう「わかりやすい」小説しか売れなくなってる今の日本は今更だけど
もう本当にまずいと思う。
平野さんの近著「ある男」は随分前に購入して以来積ん読になってますが、
本作を読んだら何だか読むのが怖くなってきた。またこんなんだったらどうしよう。
あなたはもっともっと深いものを書ける人だと思うからどうか帰ってきてください、
平野さん。
――いつになったら、幸せになれるのだろう。



夫婦にも親子にも恋人にも「裏」がある。女性4人が繰り広げる極限のサスペンス!
千夏子…ブログに虚偽の「幸せな育児生活」を書くことが止められない主婦。
結子…年下の夫とのセックスレスに悩む、アパレル店の店長。
春花…ストレスで過食に走り、恋人との結婚だけに救いを求める保育士。
柚季…優しい夫と娘に恵まれ、円満な家庭を築いているように見える主婦。
それぞれの思惑が意外な形でリンクする時、絶望と希望の天秤が激しく揺れる。

***

メフィスト賞受賞作らしくない作品でした。
「一作家一ジャンル」と言われるほど個性を必要とする賞なのに、
結婚・出産した女性作家がこぞって書くような「母と子、夫婦とは」という
さんざん使い古されたテーマの内容。
ミステリとしても弱く、文章も一見上手いようで時折稚拙さが覗き、
ほかの賞でも受賞が難しそうなのによくメフィスト獲ったな、という感じ。

まあただ、20代半ば~40代ぐらいの女性が読めば、
女のいやらしさ、あざとさ、計算高さ、そういうものがこれでもかと
書かれている本作に「あーこういう女いるわ」「女同士の付き合いってこんなだわ」
みたいな共感を覚えるのは確実かと。
かく言う私も先日職場のサバサバ上司(♀)と「女ほんとやだ女ほんと嫌い」と
盛り上がったばかりだったので、めちゃくちゃ共感しながら読んだ。
たぶん本作の著者と知り合ったら、ものすごく気が合うか大嫌いになるか
どちらかだと思う。それほどこの著者は女のいやな部分を知っているし、
ご本人もそういう部分を持っている人のような気がする。

ラストは綺麗にまとまり過ぎかな。
特に4人の主人公のひとり、千夏子があまりにもあっさり改心し過ぎ。
というか母性が欠落している彼女が今後また歪まずに子育て出来る気がしない。
そして蛇足ですが彼女のブログのタイトルダサ過ぎ。
柚季はいい人かつ魅力的な女性過ぎて、何だか現実味がなかった。

そして内容はもちろん、文体も気になる私としては、
著者が登場人物の台詞を1行ごとに改行するのにどうにも慣れなかった。
台詞をこんないちいち改行する人初めて見たよ。何でそうしようと思うんだろう。
そして台詞の語尾を伸ばすとき「-」ではなく「~~」なのも鬱陶しかった。

それなりに楽しめましたが、特に心に残るものはなく。
この著者の著作はもう読まないかな。
きつい書評になりますが、メフィスト賞受賞作好きとしては本作がメフィスト賞を
獲ったことが残念。
まるで滅びのための進化のような。



ある日突然発症し、一夜のうちに人間を異形の姿へと変貌させる病
異形性変異症候群」。政府はこの病に罹患した者を法的に死亡したものとして扱い、
人権の一切を適用外とすることを決めた。
十代から二十代の若者、なかでも社会的に弱い立場の人たちばかりに発症する病が
蔓延する日本で、異形の「虫」に変わり果てた息子を持つ一人の母親がいた。
あなたの子どもが虫になったら。それでも子どもを愛せますか? 
メフィスト賞受賞作!

***
 
プロローグを読んだ人は誰もがカフカの「変身」が頭に浮かぶと思う。
でもまったくそういう話ではなく、強いて言うなら、
もしもカフカのあの小説に続きがあったなら、という想像を膨らませて
書かれたものなのかも知れない。

これがデビュー作とは思えないほどこなれた文章、扱っているテーマ、
年輩の女のリアリティのある描写に、
著者はある程度年齢を重ねた女性なのではないかと思った。

SF的ホラー的な設定は本作のテーマをより強調して書くための舞台装置に過ぎず、
書かれているのはあくまで「家族とはどうあるべきか」ということ。
先が気になってひと晩で読破してしまったけれど、
読み進めていくに従って著者が本作を通して言いたいことが理解出来てきて、
ミステリではないので別にいいのだけどラストがある程度予測出来てしまったのが
残念といえば残念かな。

序盤でクソ野郎として描かれている主人公の夫も実は「本当にほしかったもの」に
飢えていたんだな、とわかるラストには、陳腐な言い方だけど
人間という生き物の抱える宿命というか悲哀のようなものを感じた。
ラストといえば、本作に出てくる病気「異形性変異症候群」のことを、
「神が人間に与えた試練」とわざわざ文章で書いてしまったのは蛇足だったと思う。
読者はそんなこと書かれなくても物語の内容からそのことは読み取れると思うから。

「一作家一ジャンル」と言われているメフィスト賞受賞作ですが、
本作には目新しいものは感じなかったのも残念な点のひとつ。
だってこれ、映画なら「美女と野獣」、漫画なら「フルーツバスケット」と
テーマもオチもまったく同じだから。
要するに、「醜い外見に惑わされずに相手のことを想えますか?」ということ。
もうちょっと深みと斬新さが欲しかったというのが正直なところ。

というか飼ってる犬捨てられたら自分ならその時点でその旦那とは離婚するわ。


大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋。
彼にとって唯一の居場所はバイト先のコンビニだった。
そこに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲。
強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女……。
店内でひとたび事件が起これば、
深咲は「せんぱい、このコンビニにまた新しいお客さん(ミステリー)が
お越しになりましたねっ!」と目を輝かせて、どんどん首を突っ込んでいく。
彼女の暴走に翻弄されながら、謎を解く教育係の白秋。
二人の究明は店の誰もが口を閉ざす過去の盗難事件へ。
元店員が残した一枚のプリントが導く衝撃の真実とは?

***

メフィスト賞を受賞してデビューした作家さん、
所謂「メフィスト作家」が大好きな私ですが、
ここ数年受賞作をチェックしていなかったなと思い、去年の受賞作である
本作を読んでみました。

全7章から成る本作、第1章を読んだときは、
「何だこれ。。。事件も、それに対する登場人物(コンビニのクルー)の
リアクションも、真相もショボ過ぎだろ」
と思った。
ああ少し前からよくあるラノベっぽいキャラに文体の日常系ミステリね、と。

でもメフィスト賞受賞作がそんな平凡なものであるはずがないと信じて
読み進めていくうちに、ちょっとしたどんでん返しが待ち構えていて
ああなるほどとそれなりに楽しく読了することが出来た。

ただ。。。連作ミステリとしては一つひとつの章の謎とその真相が
やっぱりショボ過ぎるんだよな。。。
オチありきで話を作っているので、一章一章の不自然さが際立つというか。
これは作者が受賞時24歳という若さだったから許容されたことで、
ベテランがやったら酷評されるストーリー運びだと思う。

あと、ヒロインがどうしても好きになれなかった。
主人公の袖を摘んで上目遣い、頬を膨らませる、出会って間もないのに
べったりくっつく、接客の最中なのに主人公の手を握る。。。
明らかに自分の容姿に自信がある女しかやらない過剰なスキンシップや
言動の数々に、あざといなこいつと不快感を覚えることがしばしば。
中でもフィクションだということを忘れて殺意さえ覚えたのが、
何か知らないけどこのヒロインやたらくるくる回るんですよね。
おまえは独楽かってぐらい。
しかも謎が解けたときとかに回る、とか決めポーズ的なものならまだしも、
意味もなくくるくるくるくる。。。
作者、それが可愛いとでも思ってるんでしょうか。だとしてもしつこい。
たぶん本作中で二十回近くは回ってるんじゃないかと思う。

そして季節の設定からしてラストシーンは読めたので、
予想通りのシーンが来たときは性格悪いですが鼻で笑ってしまった。
ただ予想通りだというだけじゃなく、平成初期の恋愛ドラマでも観ているようで。
挙げ句ラスト一行に何か既視感があると思ったら、
吉田修一さんの「さよなら渓谷」とそっくり。まあ劣化版ですが。
まさかパクったわけじゃないよな。。。と失礼ながら疑ってしまった。

ただ、私が作者と同い年のときはここまでのものは確実に書けなかったので
(今も書けるかわからないけど)、先が楽しみな作家さんではあります。
日常系ミステリはあまり好きじゃないし、こういうラノベ的作風でいくつもりなら
新作が出ても読まないけど。

行きつけのコンビニに最近ものすごく感じのいい店員さんが入って、
その人のレジに当たると嬉しいし癒されるので、
確かにコンビニは色んな意味で大事な場所だなというのは主人公に共感します。
あと私も今の自分の仕事にやりがいを感じていて大事な居場所になっているので、
その点でも共感。
居心地のいい居場所があるっていうのは大事なことですね。


騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。
『向日葵の咲かない夏』の原点に回帰しつつ、驚愕度・完成度を大幅更新する
衝撃のミステリー!
第1章「弓投げの崖を見てはいけない」 自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、
殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」 友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か?
偽物か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」 宗教団体の幹部女性が死体で発見された。
先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!
ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、
これまでの物語すべてがが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが待ち受ける。
「ここ分かった!?」と読み終えたら感想戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。

***

著者の近著「スケルトン・キー」が非常によかったので、
期待して本作も購入。
結論から言うと、微妙でした。
第一章を読み始め、「相変わらず道尾さんの書く主人公は独り言が多いなー。
クセなんだろうな」とどうでもいいことを思いながらそれなりに集中して
読破したのですが、本作のウリになっているラスト1ページの絵を見ても
真相がわからず、考察サイトを見て「あ、そういうことだったのか」と納得するという
自分の読解力のなさにへこんだ。
というか言い訳ですが、自分が地理が苦手でそういう描写は身を入れて読まないと
いうこともあったのでしょうが。というか普通なら何となく読み流すぐらいの
文章の中に真相が隠されているので、もうちょっと普通の集中力でも理解出来る程度の
ミステリのほうが自分的には好みだった。
それに、いくら何でもそれで殺人は無理だろ、という突っ込みをどうしても
入れたくなった。

あとの三章は深く読み込まなくてもラストの写真で「そうだったのか!」と
理解出来ますが、本作、全体的にミステリ小説というかクイズとか思考パズルといった
ほうが正しいような印象を受けた。
各章の内容もそこまで興味を惹かれないし、読み終えたあとに心に何かが残ることもない。
正に「クイズ」という感じ。
物語を読んだという感じがあまりしなかった。

そして、ラスト1ページのイラストで事件の真相がわかる、という手法、
だいぶ前に蘇部健一さんが「動かぬ証拠」という小説で既にやっているので
目新しさも感じず。私としては「動かぬ証拠」のほうがずっと楽しめました。

次回作に期待。


突然幽霊が見えるようになり日常を失った夫婦、
首を失いながらも生き続ける奇妙な鶏、
記憶を失くすことで未来予知をするカップル、
書きたいものを失くしてしまった小説家、
娘に対する愛情を失った母親、
家族との思い出を失うことを恐れる男、
元夫によって目の前で愛娘を亡くした女、
そして事故で自らの命を失ってしまった少女。
暗闇のなかにそっと灯りがともるような、おそろしくもうつくしい
八つの“喪失”の物語。

***

乙一(と敢えて呼ばせてもらいます)さん、変わっちゃったなー。。。
というのが最大の感想。
「山白朝子」でも「中田永一」でもなく「乙一」だったころは、いい意味で
「この人どういう頭してたらこんな話が書けるんだろう」と
驚かされたものですが、本作にはその驚きがない。
ありがちな話に毛がはえたぐらいの短編が八つ。
題名とあらすじに惹かれて読みましたが、完全に肩透かしでした。
どこが「喪失」をテーマにした「切ない」物語なのか。
そもそも物語がどうこう以前に、作中で一回説明したことを間を置かずまた
説明したりと、文章力にも首を捻らざるを得ないものがあった。
大震災で妻子を失った主人公がよくわからん女とすぐに再婚するとか、
「乙一」だったら絶対書かないだろうに。。。と何だか悲しくなってしまった。
「親と子」を扱った話が多いのも、恐らくは著者が父親になったからでしょうが、
辻村深月然り、金原ひとみ然り、本谷有希子然り、結婚して子供が出来たら
その手のネタばっかり書くようになった作家たちと同じ感じがして
「いいから昔のあなたに戻ってあのころみたいな傑作を書いてくれよ」と
思ってしまった。家庭を持って孤独から逃れると途端に才能が劣化するのは
女性作家によく見られる傾向だけど、まさか「乙一」さんもそうだとは。
「子どもを沈める」という話は、一見いい話風にまとめているけど
主人公とそのかつての友人たちがゴミすぎるので、何でこんなゴミたちが
その最低な過去を含めて夫に受け入れられてるんだよ、と胸糞悪くなった。

大丈夫かこの人、と心配になるほどに孤独ばかりをテーマに物語を書いていたころの
この著者のほうが圧倒的に才能があった。
あのころの乙一さんを返してほしい。
「GOTH」「ZOO」「失はれる物語」のころの乙一さんをもう一度。。。って
無理だろうなあ。。。


「継母が父を殺した」
再婚してわずか二年。父の死後、遺産とビジネスを継ぎ活躍する継母の姿に、
女子高生の瑠璃はそう確信した。
彼女は自らの死で罪を告発するため山奥で首を吊ろうと決意するが、
訪れた自殺の名所で“幽霊"の裕章と出会った。
彼は継母の罪の証拠を見つけようと提案する。
期限以内に見つからなければその時死ねばいいと。
今日から六日後――それが瑠璃の自殺予定日となった。
すべての予想を裏切る、一気読み必至の傑作ミステリ!

***

まあ何というか。。。良くも悪くも秋吉理香子さんでした。
謎の提示は魅力的だけど、内容がだいたい読めてしまうという。
そしていかにも悪役な感じの登場人物が実はいい人だったという
オチまで同じ。文体が異様に軽いのも、読みやすいは読みやすいけど
心に響くものがない。

継母に「友人の家に一週間ほど泊まる」と言いながら家を出る主人公ですが、
一旦継母の不在を狙って宿泊先から自宅に忍び込みます。
「家に帰った痕跡を残さないように」必死で頑張る主人公ですが、
自室のノートパソコンを持ち出すという間抜けぶり。
部屋からノートパソコンがなくなってたらさすがに継母も気付くだろうに。
でもその点については作中で何のフォローもなし。
終盤で明かされる、「幽霊」裕章のある秘密についても、いくら何でも
無理がありすぎ。いい大人がこんなことに協力しないでしょ。というか
皆役者でも何でもない素人なんだから速攻嘘がばれるでしょ。
色々と詰めが甘いと思った。

ガラス越しのキスとかもシティーハンター(古いですね、すいません)かよって
感じだし、ラストの裕章や主人公の女友達の台詞も悪い意味で少女漫画みたいで
読んでてこっちが恥ずかしくなってしまった。
いっそすがすがしいほどの徹底したハッピーエンドっぷりも少女漫画的。
まあ、「自殺を決意した主人公」が最後に本当に死ぬなんてないっていうのは
だいたいの人が予想がつくことだろうけど、それにしても何もかもが
都合よく解決し過ぎ。
そもそもが好感を抱ける主人公じゃないし、思い込みが強くて勝手に
人を恨んで暴走してるだけなので、幸せになったところで
「よかったね」と喜ぶ気になれなかった。
というか主人公が裕章を好きになった理由はわかるんだけど、何で裕章が
主人公を好きになったのかがわからない。それが本作最大の謎。

色々と薄っぺらい物語でした。
十代ぐらいの子だったら面白く読めるのかな。
しかしそれは、わたし自身には触れることも登ることもできないガラスの塔なのだ。



20年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。
警察に「殺した」と通報したのは、その通り魔に愛する両親を殺された柏原麻由子。
だが、麻由子は当時現場から逃げる途中で交通事故に遭い、脳に障害を負っていた。
警察の調べに対し、麻由子による通り魔殺害の記憶は定かでない。
はたして復讐は成し遂げられたのか――?

***

ちょっとライトな感はあるけど、いいものを持っているなあと思い、
前から注目している作家さんの作品。

登場人物が少ないので真相はすぐに読めますが、ホワイダニットが
どんどん移り変わっていくのが面白く、あっという間に読めた。

高次機能障害で記憶を長時間保っていられない麻由子と
事件の真相を追う女刑事の視点が交互に入れ替わって話が進みますが、
障害を持つ麻由子と認知症の母親を持つ女刑事の共通項が
徐々に見えてくるなどテーマがはっきりしていてとても読みやすい。
麻由子パートでは、麻由子が仕方ないとはいえ起きたことをぽんぽん
忘れるので文章の繰り返しが多く若干イラつきますが、
そのぶん本人やその介護者の気持ちがわかる。
女刑事の母親の描写も、生々しいほどで認知症の家族を持つ人間の心情が
リアルに伝わってくる。まあ、刑事なんて職に就いてる人が母親をひとりで
介護した経験があるって設定にかなり無理があるとは思うけど。

クライマックスの格闘シーンは90年代のB級サスペンスみたいだし、
作中にクサい台詞が出てきたりもするけど、決して駄作ではありません。
この著者に対していつも思うことだけど、もうひと捻りすれば傑作になるのにと
思うような作品だった。楽しませてはもらったけど。

ラストは切ないです。切ない系が好きな人は是非。
本作はミステリですが、ある意味真実の「恋愛」が描かれています。
ここにいたって、どこにも行けない。



植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、
注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、
目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。

今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。

***

朝井氏は割と好きな作家さんですが、最近著作を読んでおらず、
けれど題名とあらすじに惹かれて手に取った本作。
読み進めていくにつれて、著者が物語に込めた「テーマ」が見えてくる。
作中に出てくる「帝国のルール」「海山伝説」にあまり魅力を感じなかったので
そこまでのめり込めはしなかったけれど、それなりに面白く読めた。

ただ。。。朝井氏ってこんな文章下手だったっけ?と。
中高生でも読めるシンプルな文章で書かれているにも拘らず、
言葉足らずでちょっと考えないと意味がわからない微妙な文章が頻発。
「これはどういうことだ?」と思った表現の説明が10行後とか、
ひどいときには数ページ後に出てきたりといったことが多く、
読んでいて軽くストレスが溜まった。
あと、登場人物の女の喋り方がほぼバカっぽいのも気になった。
私は仕事の関係上、小学生から大学院生まで若者と呼ばれる世代の
すべてと関わっているけど、こんな「いかにもイマドキの喋り方してますよー」
みたいな子はまずいない。
「~なんですけどマジで」みたいな台詞が連発したときは正直イラっとした。
内容のテーマからいっても、これはいい大人が読むものじゃないよなあと
思ってしまった。明らかに中高生向け。
「ジンパ」って言葉が出てきたときも三秒ぐらい「ジンパって何だ?」と
考えてしまったし、「バズる」も意味がわからなくてググってしまった。
500P近くかけて書くようなことか?というのも感じてしまったし。
ラストで「雄介が親友の見舞いに来てるのは実はこういう理由なんですよ」と
明かされたときも、いやそれもう半分ちょっと読んだあたりから
気付いてました、といった感じで驚きはなかった(本作はミステリじゃないけど)。

やりたいことが見付からなくて、でも自分を「ただの人」にはしたくなくて、
無理やり生きがいを作ってそれにしがみつく。
私は幸か不幸か「これがやりたい」というものを常に持って生きてこられたから
雄介の気持ちはわからないけど、今の若者ってそういう風に悩んでる子が
多いんだろうか。
雄介の「世の中には三種類の人間がいる」という言葉には「その通りだな」と
強く共感したけど。
その言葉以外にも、「ああ自分もこういうときあったな」「こういう考え方したな」と
頷ける部分が作中にいくつか出てきたのは嬉しかった。自分以外の人間も
こういう考え方してるんだなと思って。

ただ、初期の朝井氏はもっと感性が鋭くて胸に直接突き刺さるような表現を
書けていたように思うから、その当時の彼に本作を書いてほしかった気もする。
でも矛盾するようだけど、著者も今年で30代になるのだから、もうちょっと
幼い文章を大人向けにしてもいい気がする。

自分がこれから何を目標にして生きていけばいいかわからないっていう
10代の子にはオススメかな。
プロフィール
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kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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