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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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バット、ノー、ウェイ。



高校時代にいじめられていた亮太は大学入学を機に変わろうと「正義の味方研究部」に入部する。
正義の名のもとに学内のトラブルを解決し、自分の変化を実感するようになるが、
次第に本当の正義とは何なのかを考え始める。
書き下ろし長編青春小説。

***

本多孝好氏といえば〝静謐な恋愛ミステリ〟というイメージですが、
本作は一転コミカルな青春ストーリー。

舞台は大学、
そこに通う自己模索中の平凡な主人公、
そんな彼のちょっと変わった仲間たちとの友情&ぎこちない恋愛、
やがてめぐり合うささやかな出来事&驚愕の大事件。
こういった描写や全体に漂う雰囲気は伊坂幸太郎氏の〝砂漠〟に近い。
(伊坂氏本人も、以前本多氏の著作をして「僕とよく似ている」と評していたし)

ただ。。。あくまで〝近い〟、というだけで、
作品のクオリティ的には並べちゃいけないものだと思う。
本作の内容は私的には受け付けるものじゃなかった。

物語序盤、主人公が入部した〝正義の味方研究部〟の部員たちが
過去に部の先輩が成した〝偉大な業績〟について語るシーンがあるのですが、
まずその時点でしっくりこない。
「それってそんなに偉大なことかー?」と、まるで何かの新興宗教に傾倒してる相手から
教祖さまの素晴らしさについて熱く語られているときのような腑に落ちなさを感じてしまう。
しかしこちらがそうして訝っている間にも主人公は
「すげえ。かっこいい」と一人でテンション加速し出すので
しょっぱなから置いてきぼりをくってしまう。

悪行を働いた人間を成敗するのがモットーの部なのに
レイプまでやらかした男に与える罰が「もうやりません」という誓約書を書かせることだけ。
いくら相手の女の子がほとんど精神的ダメージを受けてないとはいえ
そんなハンパなことするぐらいなら最初から何もしなくていいじゃん、と思ってしまう。
何より読んでいて物語としての爽快感がない。
(ゲーム〝逆転裁判〟、マンガ〝クロサギ〟〝恨み屋本舗〟、
こういったものがなぜ人気を得ているのかといえば、
やっぱり悪党をこてんぱんにする痛快さがあるから。だけどこの小説にはそれがない)

それでも初めのうちは
「勧善懲悪なんて薄っぺらなテーマを著者は書きたいわけじゃないんだろう」
と思いそれ以外の要素に眼を向けて読み進めていましたが、
結局ラストまで何が言いたかったのか、テーマが何なのかあやふやなまま。
唯一読み取れるのは
〝周りに流されてばかりだった頼りない主人公が自分の意思で物事を決められるようになった〟
ということですが、400P以上の長編を読破して得られるものがたったこれだけじゃ
正直不満が残ります。

主人公を含めた登場人物たちそれぞれの価値観も、
どれもこれもどこかピントがずれているというか不快で、
しかもそんなつまらない尺度の中で一人もがいて勝手に苦しんでいるのだから
(容易に抜け出せないほど重い価値観というわけでもないのに)
あまり応援する気にもなれない。
あげく周囲への逆恨みで「世の中は不公平だ」とのたまう主人公に至っては
応援以前にむしろ失笑。
誰一人として共感できる思考の持ち主がいない小説というのは久しぶりかもしれない。
本多氏のこれまでの著作は好きなだけに釈然としませんが。

ただ、氏の小説にはデビュー時からやけに〝学歴〟へのこだわりが見受けられたので
(主人公がほぼ高学歴だったり、エリート的な人物が頻繁に登場したり)
まさにその価値観が押し出され気味の本作に嫌悪を感じてしまったのもあるかも。
(もちろん〝高学歴バンザイ!〟なんてことは書かれていませんが、かといって否定するでもなく、
どちらかといえば〝肯定〟にベクトルが向いていた気がした)
&これは低レベルないちゃもんですが
慶応卒の著者が「慶応は名門」を作中で連発していると、
他意がなかろうが何だか鼻白んでしまうので控えたほうがいい気が。←せめて慶応を早稲田に変えるとか


それぞれのキャラに付加された個性もほとんど見せ場のないまま終わりを迎えてしまうし、
作中で展開されたエピソードも後の展開に絡んでこないままほぼ未消化(たとえば○○さんが
過去にいじめの加害者だったこと等)。
いろいろな方向にテーマが乱反射して、物語の芯を貫く太い一本の光がない。
(青春小説にそれがなきゃヤバい)
結果、上述のとおり著者が何を言いたいのかわからない小説になってしまっている気がした。

文章や構成の安定感は抜群なので、そういった面では著者の物書きとしての才能は
未だ健在だなと改めて感心してしまいましたが。
でもできればこれまでの恋愛ミステリに戻ってほしいと思う。

〝小説すばる新人賞〟の受賞作にありそうな文体&テーマ&雰囲気の小説なので、
ああいった系統が好きな人にはいいかも。

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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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