ハピネス／桐野夏生

「多分、こういうことってみんなの傷になるんだろうね」



結婚は打算から始まり、見栄の衣をまとった。
憧れのタワーマンションに暮らす若い母親。
おしゃれなママたちのグループに入るが、隠していることがいくつもあった。

＊＊＊

貫井徳郎氏の〝愚行録〟では
慶応大学の階級社会がいやらしく描かれていますが、
本作はＢＷＴ（ベイウエストタワー）という金持ちマンションに住むママ友と親しくなった
ＢＥＴ（ベイイーストタワー）を賃貸で借りる主婦・有紗の物語が
実に俗っぽく描かれています。
女同士特有の、家や旦那や子供を使った見栄の張り合い、牽制のし合いの描写は
非常にリアルでまだ独身の私でも覗き見でもしているかのように
臨場感たっぷりに読める。
けれどその実、タイトルの〝ハピネス〟が表わすとおり、
内容は有紗が母として、妻としての本当の幸せを見つけ出すところまでが
描かれています。

「○○ちゃんママ」「じいじ・ばあば」という言い方が大嫌いな私でも、
（この間「○○ちゃんママ」と口にするお母さんを生まれて初めてリアルで見て
「本当にいるんだ」と驚いて思わずまじまじと見つめてしまった）
本作の著者は風刺を込めていっそ揶揄する気持ちでそれを書いているのが
伝わってくるので、性格の悪い言い方にはなりますが小気味よく読めた。

個人的には有紗の夫・俊平の「復讐」にいたく共感してしまいました。
何だかその気持ちわかる。好きな相手と同じ過去を持つことで
関係性もイーブンになった気がしてしまうんだよな。人間って愚かだな。

何はともあれおすすめです。