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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「いや、もっと深遠な物語だ」



遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。
紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。
祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…。
しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。

***

これは演出の勝利だな~。
8人の人間が主人公の短編集と言ってしまえばそれまでなのだけど、
その全員がゲリラに巻き込まれ人質にとられ、日本から遠く離れた土地で命を落としてしまう、
そんな彼らが死ぬ直前にそれぞれの過去の体験をほかの人質に語って聞かせていた。。。
という設定が否応なしに読み手を物語世界に引き込んでしまう。

8人が語ることはどれも些細なことなのだけど、
その些細な話を見事輝かせてしまうのはさすが小川洋子さんといったところ。
それらが彼らの最後にして唯一の物語だという切なさを差し引いてもぐいぐい読ませてしまう。

そして〝9人目〟の語り部である、唯一人質ではないある人物の語りが、
いいアクセントになって淡々とした人質たちの物語をきゅっと引き締めている。
人質の彼らをハキリアリに例えるのはいかにも「勤勉実直な日本人」って感じがして
「人質たちの崇高な、祈りにも似た行為」である朗読会の比喩としてはどうかともちょっと思ったけど、
まあ悪くもないんじゃないかな。もうちょっと的確な例えが探せばあったようにも思うんだけど。

自分の生を形として遺すことは、たとえその人間が芸術家じゃなくても大切なことなんだと、
改めて思わせてくれた作品。
おすすめです。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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