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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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自分だけしかいない。



マクドナルドで隣り合わせた男の携帯電話を手に入れてしまった俺は、
なりゆきでオレオレ詐欺をしてしまった。そして俺は、気付いたら別の俺になっていた。
上司も俺だし母親も俺、俺でない俺、俺ではない俺、俺たち俺俺。
俺でありすぎてもう何が何だかわからない。電源オフだ、オフ。壊ちまうす。
増殖していく俺に耐えきれず右往左往する俺同士はやがて――。
孤独と絶望に満ちたこの時代に、人間が信頼し合うとはどういうことか、
読む者に問いかける問題作。
第5回(2011年) 大江健三郎賞受賞作。

***

本作を読んでいる間中ずっと精神が不安定だったのは、
この物語が〝人間の心〟をこの上なくリアルに書いたものだから。
他人の言動を自分がしたもののように感じたり、逆に
自分の言動・思考なのにそれを自分のものじゃないように感じたり、
そんな人間の不安定さを描き出したのが本作で、
まるで自分がこれまで見ないようにしてきた内面を
これでもかと突き付けられているかのように感じて不安になったのだと思う。
「これがおまえだ。自分自身からは逃げられない」とばかりに
頭を掴んで無理やりに見たくないものに視線を合わされる、その感覚が恐怖でもあった。

でもそれにしても、〝俺俺詐欺〟という言葉から想像を膨らませて
こんな物語を書きあげてしまった著者の想像力にはただただ感嘆するばかりだった。

人間は、たくさんの他人という名の自分に囲まれて日々を生きている。
他人の浅はかで俗な思考が透けてみえてしまうとき、
何故かこちらが恥ずかしくなってしまうことは往々にしてあることだけれど、
それは相手の中に自分を見るから。相手に負の共感を覚えてしまうから。
そして同時に、自分の思考なのに受け入れられなくて拒絶してしまったり戸惑ったりするのは、
自分の中に他人を感じるから。相容れない存在を感じてしまうから。
人間は本当に複雑な生き物だ、と常々ペットのオウムを見ながら思っていたのですが、
本作を読んで改めてそのことを思い知った。
賢すぎるが故に自分と他人の境界が曖昧になる。それは何より恐ろしいことだ。
でもだからこそ、孤独を感じずに済む場合もあるのだけど。

精神が不安定じゃないひとにはおすすめです。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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