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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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何もない世界だ。



「精神鑑定」に真っ向から挑む感動作!
「心神喪失」の通り魔犯に娘を殺された夫婦。
運命を大きく狂わされた二人はついに離婚するが、事件から4年後、
元妻が街ですれ違ったのは〝あの男〟だった……。

***

江戸川乱歩賞出身の作家さんの割りにはライトな文章を書く作家さんなので、
どの世代の人にも読みやすい薬丸作品。
扱うテーマの面白さ、卓越した構成力と、一見ベタでありがちな内容を
魅力溢れる描写で最後まで一気に読ませてしまう表現力は東野圭吾氏に通ずるものがある。
私の中では薬丸氏はポスト東野です(同賞出身者だし。。。)。

〝統合失調症〟という病気についての描写があまりに浅いのと
全体的に少し物語の掘り下げが足りない感があったことは否めませんが、
なかなかの良作だと思います。
ただ、娘を殺された親があまりに社会派すぎるというか、
子供を失った悲しみよりもそれをいかに世の中に訴えるか、ということにばかり向いていた点が
ちょっと感情移入しにくかったかな。
よく我が子を殺された親御さんが「もう二度と新たなる犠牲者を出さないために」と
自費出版等で手記を書いたりしていますが、正直私はあまりああいうのは好きではなく、
そんなものを書くよりも子供の棺にすがりついて号泣している姿のほうが
よほどこちらの心を打つのに、何故文章のプロでもない素人が自分の筆で人の心を
動かそうなどと思うんだろう。。。と(申し訳ないけど)思ってしまう性質なので、
本作でも著者はそういった両親の心情をより細かく描写したほうがもっといいものに
なったのに、とおせっかいにも思ってしまった。
つまりは娘を殺された両親の言動に、書き手の主張が透けてみえてしまってるんだよな。
だから彼らが〝被害者の両親〟ではなく著者の分身――著者の心情を代弁する人形に
見えてしまうこともしばしば。
終盤での母親のある〝決意〟にはちょっと胸をうたれましたが。
でも現実の警察はたぶんそう甘くないと思うからいざあの〝決意〟を実行しようとしても
難しいだろうなあ。。。悲しいことに。

作中に登場するゆきという少女の抱える秘密にはかなり早い段階で気づいてしまったので
オチを読んでも驚けず残念。ただ、その秘密が明かされる際の彼女の台詞には
切なさでちょっと泣きそうになってしまいましたが。
クライマックスで加害者の味方・被害者遺族の味方が
それぞれの大切な相手を守るために同時に「逃げろ」と叫ぶシーンでも。

心の病は目に見えないしいくら言葉を尽くしても相手も同じ経験をしていない限り
その苦しみを理解してもらうことはとても難しい。
この物語の登場人物たちには皆幸せになってもらいたいと切に願う。

統合失調症に限らず、心の病を抱えた人が共通して見ているのは〝虚夢〟、正に
〝虚〟しくて〝虚ろ〟な〝夢〟だ。
想像にすぎないのに、現実の出来事ではないのに、
次々と頭の中から湧き出してはその人間を苦しめる。闇の中に捉えて決して離さない。
そうして苦しむ人たちのすべてが、悪夢――いや、悪夢よりずっと残酷で苦しい、
虚ろで何もない〝虚夢〟の世界から揺り起こして現実に引き戻してくれる存在を
手に入れられることを、心から願ってやまない。
その現実が、たとえ造り上げられた偽物の現実でもいいから。
彼らを揺り起こした人間が優しい嘘で造り上げた、虚飾の楽園でもいいから。
何もない世界よりは、ずっと。



本作に興味を持った人は、同じテーマで書かれたこちら↓もおすすめ。
純文学ですが非常に読みやすく、いろいろと考えさせられます。

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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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