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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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まだ見えない。



主人公・林ちひろは中学3年生。
出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、
両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、
その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。
第39回 野間文芸新人賞受賞作。

***

200Pちょっとと短い話であることと、
純文学でも読みやすい文体と先が気になる物語展開に
一日で読み終えてしまった。

結局人間というものは不安と自らの人生への覚束なさを抱えているもので、
何かに縋らないと生きていけない。
ラストではそういう、人の「自分自身を頼りないと思う気持ち」が
表現されていて、共感と哀しみを思い起こさせられた。

主人公・ちひろは、きっとこれから大人になるにつれて
自分の両親が傾倒している宗教に疑問を感じ、彼らから離れていくのだろう。
そんな、我が子が自分から遠ざかってしまってしまうだろう予感に、
弱さを抱えた両親がどうしようもない寂しさを感じていることが伝わってきた。
ちひろは恐らくは彼女の両親ほどは弱くない。そのことを両親もわかっている。
とても普通な子であるちひろは、いずれ自分の肉親との決別を決意する。
決して両親のことを嫌っているわけではなくても。

価値観・感情のすれ違いは本当に切ないことだ。
それが身内なら尚更。
その身内が自分に愛情を持ってくれているなら尚更。

久しぶりに純文学でいいと思える作家さんに出会えた。
私はミステリ作家を志しているけれど、元々は純文読みだったので、
他の作品も読みたいと思わせてくれる純文作家さんに出会えたことが嬉しい。

ちなみに余談だけど、私も子供のころエドワード・ファーロングに
ハマったなあ。。。
親に頼んでCDまで買ってもらったりして(ちなみに彼、歌は下手でした)。
今でも口ずさめる。どうでもいいか。

とにかく、おすすめです。
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走れ。



「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、
爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。

こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。

書き下ろし2篇を加えた計5篇。シリーズ初の連作集!

***

決して駄作というわけではないけど、これまでの
伊坂氏の作品から比べたら明らかに陳腐な印象。
Amazonレビューを見たら高評価がやたらと多くて、
何でだろうと思ったのですが、よく見ると恐妻家や子を持つ父親が
共感してるレビューが多くてああそういうことね、と。

第一話で思わせ振りに出てきた美人教師も、
今後話の筋に絡んでくるのかと思いきやあっさり退場。
あとは主人公・兜がハチの巣駆除したりなんだりとつまらない描写が多く、
連作短編というのは、各話のすべてがラストに向けて収束していくものなのに
「連作」と銘打つには失礼なぐらいそれぞれの話にほとんど繋がりがない。
最終話の「罠」も、もしあれ息子が引っかかってたらどうなってたんだよと
微妙な気持ちになった。

最後のエピソードはちょっとよかったけど、
初期のころに感じていた「この作家さんはすごい」感は
微塵も感じられなかった。
というかあれほど好きな作家さんだったのに、
「バイバイ、ブラックバード」以降このひとの作品に納得がいった試しがない。
本作は図書館で借りたのだけど、何度も途中で返そうと思った。

私はおすすめしません。
伊坂さん、頼むからまた以前みたいな素晴らしい物語を書いてください。


犯人を白日のもとにさらすために――防犯探偵・榎本と犯人たちとの頭脳戦。

様々な種類の時計が時を刻む晩餐会。
主催者の女流作家の怪死は、「完璧な事故」で終わるはずだった。
そう、居あわせた榎本径が、異議をとなえなければ……。
表題作ほか、斜め上を行くトリックに彩られた4つの事件。

★収録作品★

 ゆるやかな自殺
 鏡の国の殺人
 ミステリークロック
 コロッサスの鉤爪

***

初期の貴志作品は、一度ページをめくったら止まらず
朝まで徹夜で読んだものだった。
読後の感動といったらなかった。
でも本作は読むのが苦痛で、読み終えるのに多大な時間を要した。
「狐火の家」あたりから「あれ?」とは思っていたけれど、これはひどい。

「ゆるやかな自殺」は、ある程度よくまとまっているとは思うけど
ふーんそうですかの域を出ない。
だいたい、アル中で脳が半分溶けてる人間の証言をそこまで警戒する
必要があるのか。
 
「鏡の国の殺人」は、トリックが小説というメディアと
相性が悪すぎる。これで真相がわかるひとがいたら逆にすごい。
わざとなんだろうけど、犯人も丸わかりだし。
「天使の囀り」に登場する美術館が出てきたのは嬉しかった。でもそれだけ。

「ミステリークロック」も、犯人が丸わかりな上にトリックも
「あー時間いじったのね」というのがすぐにわかる。
けれどその肝心のトリックが細かすぎて悪い意味で予測がつかない。
「悪の教典」をイジったネタが出てきたときは、
著者悪ふざけが過ぎるだろ、と思った。

「コロッサスの鉤爪」も、トリックは解きようもないもの。
謎解きに必要な重要なファクターが後半で取ってつけたように出てきて
「そりゃないだろ」と思った。

あと全体的に、笑いを狙うにしても
主人公のひとり・青砥純子の推理が頭悪すぎ。
探偵ものではお約束のトンチンカン推理を披露するダメダメ刑事でも
こんなアホな推理はしないだろうという推理を自信たっぷりにするので
苛々する。
「硝子のハンマー」のとき、こんなアホなキャラだっけ?
しかもそのアホ推理と榎本の推理の掛け合いが毎回ワンパターンで、
もういいよとなってしまう。

買ったことを後悔しました。
榎本シリーズに拘るのもいい加減もうやめにしてほしい。

「黒い家」「青の炎」「クリムゾンの迷宮」「天使の囀り」
みたいな傑作をもう一度読んでみたいものです。
いくら何でも本作は貴志氏の悪ふざけが過ぎた。


神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、
曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、
剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、
想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。
しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!
奇想と本格ミステリが見事に融合する第27回鮎川哲也賞受賞作!

***

本格ミステリをよくわかってる作者だな、と思う。
その上で、普通なら思い付いても馬鹿らしくて書かないだろう
「●●●」をクローズドサークルを作るため、そしてホワイダニットのために
使うという発想、実行力がすごい。

ちょっとラノベっぽい表現もあったりするし、
探偵役・比留子のキャラが一貫してない(慎み深いと主人公が言う割に
ちゅーだの膝枕だの言ってきたり自分の胸を仕方ないとは言え平気で
男に押し当てたり。あと「はわっ」とか言ってたかと思えば
「君は~~かい?」とか喋り口調が不安定だったり)ところはあったものの、
犯人もオチも読めず、先が気になり一気に読まされてしまった。

重要だと思われたあのキャラが早々に退場したのも、残念な気はするけど、
「ナナシノゲエム」というDSのゲームをやったときに
このひとだけは大丈夫だろうと思ってたひとがやはり異形と化してしまう展開に
「嘘だろ」と思わず叫んでしまったときと同じ、ある種の悲壮な痛快さを味わった。

比留子と主人公でシリーズ化するのかな、それは何かな。。。と思っていたら、
あのラスト。とても綺麗に纏まっていて、納得のいく終わり方だった。

伏線が「これは伏線ですよー」と主張するかのように散りばめられているのが
ちょっと気にはなったけど、何のための伏線なのかまではわからず、
事態が収束したときに「ああなるほど!」と唸らされた。

気になったことといえば、結局マダラメ機関は何がしたかったのかということ。
まあ、あえて詳細を書かないことで逆に存在を大きくしたかったのだとは
思うのですが(漫画「いぬやしき」の宇宙人のように)。

綾辻氏や島田荘司氏のような壮大なスケールの本格物ではないけれど、
これはこれでしっかりと著者特有のジャンルを確立しているな、と思う。

最近ベテラン本格作家さんが不作で本格ミステリに飢えていたので、
こういう新人さんが出てきたことは素直に嬉しい。
また読んでみたい作家さんです。

余談ですが、本作、「キノベス!」の二位に選ばれていて、
私は別の作家さん目当てで授賞式兼サイン会に足を運んだのですが、
ファンに並ばれるベテラン作家さんたちの間に著者の今村氏がぽつんと座り、
スタッフの方が「今村先生のサインご希望の方、いらっしゃいますかー」と
声をあげていたのが記憶に残っている。
あの時点ではまだ本作を読んでいなかったのでそのまま帰ってきてしまったけど、
サインもらっとけばよかったなあと今更ながら思う。
さあ、音楽を始めよう。



私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?
ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った
青春群像小説。
著者渾身、文句なしの最高傑作!

***

本作が直木賞をとってすぐに購入したものの、
今まで読めずにいた。

もったいなさ過ぎて。

あまりに周りにいい小説がなかったため、大事に取っておき過ぎた結果
今の今までほとんど未読のままに至った。

ピアノ演奏の描写は、技術的に言えば中山七里さんのほうがうまい。
けれどより胸に迫ってくるのはどちらかと言われれば、圧倒的にこちら。
ピアノのコンクールでの主人公たちの演奏、ただそれが描かれているだけなのに、
読み手を飽きさせない。「音楽を読む」、そんな経験をさせてもらった。

恩田氏のファンタジーは正直苦手で、けれど本作には
そのファンタジー要素がないということと、「音楽」がテーマになっていたので
迷わず購入。
恩田氏の豊かな表現力に非常に唸らされた。
主人公たちの演奏を「文章」を通して聴き、結果の発表には
まるでその場にいるかのように緊張し。
素晴らしいフレーズを耳にしたときのように、一つひとつの文章に
ぞくりと鳥肌が立ち、感動し、泣かされ。
読み終えるのがもったいないという作品に本当に久々に出会った。

タイトルの「蜜蜂と遠雷」の「遠雷」という単語には、
遠くに聞こえる神がかった偉大なもの、やがてそれが人々の頭上で
神々しく轟きその心を打ち貫くだろう、という意味が含まれているのだろうな。

自分に本気で目指すものがあるということが、とても恐ろしく、けれど
とても誇らしく思えるような物語だった。

非常におすすめです。


“あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん―。
幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。
それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。
一連の事象は亡き祖父が恐れた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか。
愛する家族を守るため、秀樹は比嘉真琴という女性霊能者を頼るが…!?
全選考委員が大絶賛!第22回日本ホラー小説大賞“大賞”受賞作。

***

結局、一番怖いのは「人間」なのだなと。
自分がそこそこ幸せだから他人もそうに違いないと思い込む
人間の図々しさ、傲慢さこそが最も恐れるべきものなのだなと、
そう思わされた本作。

第一部を読んだときはありがちな化け物ホラーとしか
思わず、それでも主人公の男の「イクメンブログ」に気味悪さを感じ、
第二部である真相が明かされたときは「ぼぎわん」という化け物より
人間のほうが怖くなった。
第三部冒頭の、主人公のひとり・野崎の友人たちの
浅はかなノリの軽さにも軽蔑の念を抱かずにいられず。
人間って本当に苦しい何かを抱えてない限り、自分の幸せでいっぱいになって
どうしようもなく無神経になるものなのだな、と戦慄が走った。

私もSNSに「パパやってまーす家族愛してまーす」というノリの
男「友達」がいるけど、そのひとに対するのと同じ不気味さを感じた。
それと、昔二人目を妊娠中の友人を見舞ったとき、
「●●ちゃん(私)も35までには子供生みなよーダウン症の確率
一気に上がるよー」とグラフまで書いて説明されたときに感じた
薄気味悪さも思い出した。

もちろん人間の出来た素晴らしいひともいることは知ってるけど、
本作を読んで、繰り返しになるけど人間の傲慢さを再確認。
私が敬愛するある作家さんの作品で、家族写真付きの年賀状を
送ってくる友人に対して主人公が、
「彼に悪気はない。彼は何も悪くない。ただ、幸福な人間は、
時に暴力的で恐ろしい」と思うシーンがあるのだけど、
まさしくそれだな、と思った。

ホラーとしてはあまり怖くないです。というかありがち。
化け物VS霊媒師、とか正直手垢が付いてると思うし、
読んだのが十代のときだったせいもあると思うけど
「リング」や「パラサイト・イヴ」を読んだときほどの恐怖は
まったくといっていいほど感じなかった。
かといって「黒い家」ほどエンタメに徹しているわけでもなく、
「かにみそ」「夜市」「白い部屋で月の歌を」みたいな独創性・文学性が
あるわけでもない。
著者のあとがきから感じ取れる人間性から察せる限りの、軽いノリのホラー。
余談だけど、この作者、長年プロ作家を目指していたわけでもないのに、
「受賞の知らせをしたら友人が泣いた」と書いていて、
その「友人」にも失礼ながら不気味さを感じてしまった。

基本人間は怖い。
そんな物語でした。

「ぼぎわん」という化け物の正体を知ったときは切なくなったけど。
「普通の人たちって、何事もないんだね」



こんなに叫んでも、
私たちの声は届かないの?

幸せな日常を断ち切られた女子高生たち。
ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。
かけがえのない魂を傷めながらも、
三人の少女はしなやかに酷薄な大人たちの世界を踏み越えていく。

最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を
物語に結実させた著者の新たな代表作。

***

まず、主人公三人の言葉遣いが古い。
仕事上十代の子を教えている身としては、違和感が拭えなかった。
「~じゃんか」とか今どきの子は言いません。
「超」のことを「チョー」と書くのも、荻原浩氏もそうだったけど
年輩の作家さんが無理に若者言葉を使っているのが丸わかりな印象。
昭和のスケバンかと思うような言い回しが随所に見受けられたし。

そして、けっこう散々な目に遭っている少女たち、
その痛みがまったく伝わってこない。
つらいことがあったときの表現が「泣く」ことだけなので、
表現の乏しさを感じた。
レイプされた真由にしても、そうされた苦しみが描写不足。
男が怖くて仕方なくなるだろうに、JKビジネスに手を出そうとしたり、
男の家に転がり込んだり、また別の男にフラフラついていったり。
あんた本当にレイプされたトラウマ抱えてるの?という感じだった。

主人公たちの行動パターンも、フラフラと悪い男に付いていく→
後悔して逃げる、の繰り返しなので、ただの馬鹿にしか感じなかった。
そうせざるを得ない切迫した感じも伝わってこないし。

何より真由の性格が掴めない。
育ちの割といい女の子、という設定なのに、品行方正なキャラかと思えば
いきなり馬鹿なギャルみたいな乱暴な言葉遣いしたりと、最後までキャラが掴めなかった。
もうひとりの主人公・リオナのキャラ設定はしっかりしていたけれど、
繰り返すけど本当に真由のキャラがわからない。
三人組のひとりが痛い目に遭っても、「えーうそーかわいそー」みたいなノリで
アホの子みたいだったし。
ミトが妊娠して流産しても主人公三人たちのノリがアッサリし過ぎていて、
妊娠するってことをナメてんのか?と腹が立った。
ミトのラストも、「やっぱ懲りねえなこいつ」と鼻白んだ。というか
安い漫画のご都合主義みたいな展開で白けた。
三人が転がり込んだ金持ち大学生の家に何で都合よく金属バットが
あったのかも謎だし。セキュリティ完備のマンションに、たとえ防犯目的でも
そんなものあったらおかしいだろうに。

年齢を感じさせない作品を書く作家さんもいることは確かだけど、
桐野氏が齢67にして女子高生を描くことは失敗だったと言わざるを得ない。
これは十代の子供を知る人間が読んだらリアリティのなさに
呆気にとられるのでは。

桐野さんは好きな作家さんだけど、本作は私の中では駄作。
無理に若者を書くのはやめて年相応のものを書けばいいんじゃないかと思う。

おすすめしません。
お願いだから静かに逝かせて――。



田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、
彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。
産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら
彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、
そしてあまりにも哀しい真実。
幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…
筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。
日本推理作家協会賞受賞。

***

あっという間に読み終えた。
ページを繰る手が止まらなかった。
そういう本に出会えたのは本当に久しぶり。
そして読後一日が経過した今でも、胸が痛い。
大袈裟でなく苦しさが治まらない。

ひとは絶望したときに死にたいと思うものだけど、
絶望を伴う希死念慮ではなく、「死」というものを
唯一の希望と捉えるヒロインの姿が苦しくて仕方なかった。

人間はたったひとりにでも必要とされれば生きていける。
でもそういう存在がいても、彼女は駄目だった。
自分を必要としてくれる相手との、哀しい「その先」を見てしまった。
ここまで混じりっけのない、純粋な「絶望」を見たのは初めてだった。

実際に本人に会ったわけでも、話をしてその人となりを知ったわけでもないのに、
与えられた情報だけで相手の人間性を断じてしまう人間の浅はかさにも
哀しみを覚えた。自分にも少なからずそういう部分があるので、
陳腐な言い方だけど本作を読んで反省した。
相手をろくに知らずに糾弾したり「このひとはこういうひとだ」と
決めつけて憤ったり馬鹿にしたりする、そんな自分を恥じた。

年上の知人が、あるとき「人間の愛情というものは必ず冷める」と
言っていて、確かにそのとおりだと思ったものですが、
本作の「幸乃」を必要としてきた人間たちも、結局は彼女を忘れ、
それぞれの人生を生きている。幸乃に感情移入してしまうから
それを薄情だと思ってしまったけれど、人間なんて結局はそういうものだ。
でも、それでもそんな彼らに幻滅を感じずにはいられない。
人間の薄情さを、一度は大切に思った相手を切り捨てて
ひとりで自分の道を行ってしまう傲慢さを、
責めずにはいられなかった。
仕方ないこと、当然のことだとわかってはいても。

幸乃の持病(恐らくナルコレプシー?)は、そんな薄情な人間たちから
眼を背けるための、必死の抵抗だったのではと思う。
神様のように人間の罪を許し、受け容れてきた彼女が持ち得た、
唯一の武器だったのではと。

エピローグの女刑務官の台詞はちょっと腑に落ちませんでしたが。
あれ? 幸乃には「あなたを必要としてるひとがいる」って言ってたのに
恋人には言ってること違くないか?と。
あと幸乃がどうして「彼」を好きだったのか、その描写が弱いなとも。
「ハッキリ」とか「キレイ」とか、カタカナにしなければ
もっと美しい描写になるのに、と思うこともたびたび。
 
でも細かいことは気にしないことにします。
これほど心を引っ掻いてくる作品に出会えたんだから。

ミステリ要素はかなり弱いけど、ある孤独な人間の抱えた、
希望という名の闇、絶望という名の光を描き出すことには見事成功しているので、
非常に読みごたえがあります。

とてもおすすめ。

それにしても、読み終えたあとに表紙を見ると、
何でこういう絵なのかがわかってやっぱりどうしようもなく
胸が痛くなるな。。。


わたしたちは永遠の共犯者。二度と離れることはない―(「Partners in Crime」)。
夏祭りの日、少年は少女と町を出る(「Forever Friends」)。
難病におかされた少年に起こった奇跡(「美しき余命」)。
“交換殺人してみない?”冗談のはずが、事態は思わぬ方向に(「カフカ的」)。
苦境の作家の会心作。だが酷似した作品がインターネット上に―(「代償」)。
五人のミステリ作家が描く、共犯者たち。驚愕のアンソロジー。

***

◆Parters in Crime/秋吉理香子◆

元々B級ミステリを書く作家さんですが、本編もやはりB級。
うまくまとまっているとは思うけど、深みを感じられなかった。
私の中では「それなりに面白い作家さん」の域を出ないまま。
ヒロインの行動も「?」という点が多かった。

◆Forever Friends/友井羊◆

青春譚も交えた素敵な話。
本アンソロジーの中では、淡々としながらもレベルが高い。
痛くて切ないラストが刺さる。

◆美しき余命/似鳥鶏◆

今までこの作家さんは好きではなかったけれど、本編で見直した。
ミステリ要素は弱いですが、昨今の「本当のことをろくに知りもせず
与えられた情報だけで相手を一方的に判断する」
という人間の薄っぺらさ、マスメディアの危うさへの問題提起力がすごい。
深みもある。非常に面白く読めた。

◆カフカ的/乾くるみ◆

好きな作家さんでしたが、本編はクソだった。
滅茶苦茶過ぎて逆にオチが読めないという。。。
メフィスト作家は何故こうも書く作品が玉石混交なのか。
読んだ時間返してほしい。
もうちょっと書き込めばいい作品になったのにと思えるぶん残念。

◆代償/芦沢央◆

速攻オチ読めた。
芦沢氏は好きな作家さんだけど、「獏の耳たぶ」など駄作を書くことも
あったりするので油断が出来ない。本編は駄作とまではいかないけど
期待していたぶんがっかり感が半端なかった。
「許されようとは思いません」とか面白かったのにな。。。



それにしても、五編中三編が不倫ネタというのはちょっとアレでは。
まあまあ楽しめましたが。
心から、そう、望む。



学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、
ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、
城のような不思議な建物。
そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、
驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

***

漫画家・松井優征氏の「暗殺教室」を読んだとき、
ボロ泣きしつつもデビュー作の「魔人探偵脳噛ネウロ」のほうが
個性が爆発していて好きだな、と思い、でも万人受けするのは
暗殺のほうだろうな、そういう風に書かれてるし、と思ったことを思い出した。

本作も、とても読みやすい文体で書かれていて、万人受けする内容だけど、
著者の全盛期を知っている身からすれば、
「このひとはもっと個性的で胸に刺さるものを書けるひとなんだけどな」と
少し物足りなく思った。
特に、この世で一番好きなミステリが、彼女の著書「子どもたちは夜と遊ぶ」
である私としては、どうしてもそっちと比べてしまって
「これぐらいわかりやすく書かないと、今の時代ベストセラーにはならないのかな」と
悲しくも思ったり。

良書ではあると思う。
本作を読んで励まされる十代の子供もきっと少なくないと思う。
けれど大人が読むにはやや幼かった。
本作は雑誌「yom yom」で途中まで読んでいたけれど、いつの間にか
定期購読をやめていたぐらいだし。
クライマックス間近で明かされるある真相も、だいたい読めていたので
驚きはなかった。
ラストは読めず、「ああ、そうだったのか。。。」とはっとさせられたけど。
本作のキーパーソン・喜多嶋先生が、あまり深く描かれていないなと思ったら
そういうことだったのか、と。

私の教え子の中学生にもとても繊細で感じやすい子がいて、
大きな苦しみを抱えていたり、それを募らせて冬のプールに飛び込んでしまうぐらい
あやうい子がいたりするけど、そういう子たちに読ませてあげたいなとは思った。
学校なんて数ある居場所のうちのほんのひとつに過ぎないし、
その場所に息苦しさを感じたからといって決して駄目な子というわけじゃない、
いやなら別の居心地のいい場所を見付ければいい、と常々思っている身としては。
心を通わせられる相手は必ずしも「学校」という場所で見付けなければいけないって
わけじゃないんだよ、と本作を通して教えてあげたくなった。

作中に、
「闘わなくてもいいんだよ」
「逃げないで」
という対比する台詞が出てくるけれど、闘うだけ無益なときと、
どうしても自分に打ち克たなければいけないときとの、その境を
大人が子供に教えてあげなきゃならないんだということなんだなと
本作を読んで胸に刻み付けた。

小学校のとき、途中で不登校になってフリースクールに通うようになった
仲のいい男友達がいたのですが、その子のことを思い出しました。
元気にしているといいなと心から思う。

未来で待っているに違いない、自分を救ってくれる誰かのために、
生きてみよう。そう思わせてくれる物語だった。

ある言動をきっかけに、この著者の人間性が嫌いになり、
以来かなり色眼鏡で彼女の著作を読んでいた私ですが、
本作を読んで久々に「やっぱりいい作家だな」と思った。
前述の「子どもたちは夜と遊ぶ」みたいな物語をまた書いてほしいなとは
相変わらず思うものの。

児童文学として読むぶんにはおすすめです。
余談ですが、カバー下の装丁が子供のころ枕元に置いて眠るぐらい好きだった
ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」と似ていて何だか嬉しかった。
アル・ツァヒール!
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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