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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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もうすぐ夢が叶うというのに。



愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです――。
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、
それぞれ語らせ真相に迫る。第29回小説推理新人賞受賞作。

★収録作品★

 聖職者
 殉教者
 慈愛者
 求道者
 信奉者
 伝道者

***

去年雑誌に掲載された受賞作〝聖職者〟(本作第一章にあたります)を読んだ際、
「面白!」「レベル高!」
と驚いたことが記憶に鮮明ですが、あっという間の単行本化。
語り部や視点が話ごとに変わっているとはいえ、ひとつの話をここまで膨らませても
読み手を飽きさせることなく最後まで一気に読みきらせてしまう実力は
とても新人とは思えない(プロフィールを見る限り、まったくの新人というわけでも
なさそうですが)。
実際ネット上の各サイトの書評等でも話題になっていて、売れ行きも好調なようです。
女流作家の書く小説は基本的に敬遠している私も、さすがに本作にはうならされました。
文章力や構成力はもちろん、キャラや世界観も非常にしっかりしているし
ミステリ部分も各登場人物の心理描写もリアルで非の打ち所がない。

本作を読み終えてまず思ったのは、人の心というのは他人が思っているよりずっと
複雑なのだな、ということ。
それを互いが読み取れない、もしくは自分勝手に解釈してしまうものだから
そこから次第に齟齬が生じて次々と予測不能の事態を生み出していってしまう。
それがいい方向に向かえばいいのですが、本作ではもう見事なまでにすべてが
マイナスへマイナスへと作用してしまっている(まあ現実もそんなものなのでしょうが)。
相手の真意を理解できない、これは人間の何より悲しい性だなと改めて、切実に思う。
そしてもうひとつ、子供というのはどんなことがあっても母親というものを慕うんだな、と
いうこと。
世の中のクサレ虐待ババアども(失礼)に是非読んでほしい一冊です。

かなりの秀作なので今年度の〝このミス〟でも上位を狙えそうな本作。
ただ、ひとつだけ突っ込みたいのは(ネタバレにつき薄字にしますが)、
森口先生、あんた第一章でHIVウィルスを本当に子供たちに飲ませていたとして、
彼らが感染していたとして、ヤケになった彼らがガンガン何の罪もない人間たちに
HIVをうつしていたらどうなってたかわかってるのかよ、と思ってたら
なーんだ本当は飲ませてないんだ、そりゃそうだよな、先生だってそれぐらいの常識は
あるよないくらなんでも、と安心してたら、今度は大学爆破って。。。
死ぬのが一人ならいいけどそれはまずありえないだろ。あなたも娘の死のせいなのか
元からなのかはわからないけれど少なからず狂ってるよ、あなたの娘を殺した二人と
同類
だよ。
物語のインパクトとしてはこれ以上ないほど強烈なラストだったけど、
あくまで常識にのっとって考えると相当ヤバい終わり方な気が。旦那の説得まるで意味なし。
母親は(いろんな意味で)強し、というところなんでしょうか、やっぱり。。。
まあ、森口先生は多少行き過ぎの感はあるものの、これぐらい子供に対して
強気に出られる大人がいてもいいよな、とは思ったけど(いないから子供にナメられるんだし)。

どの話も面白かったけど、個人的には第一章〝聖職者〟と第二章〝殉教者〟で
終わっていたら神小説になっていたと思う(まあそれじゃ単行本化できないけど)。
この二作の独特の雰囲気はそれ以降の短編たちとは一線を画している気がするので(特に
第五章を読んだときは、第二章の神秘的な雰囲気をぶち壊された気がして若干
鼻白んだので)。

文句なしにおすすめの一冊。
著者にはこのままの実力を保ってガンガン突き進んでいってほしいです。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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