忍者ブログ
読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
[299]  [297]  [296]  [288]  [292]  [293]  [290]  [289]  [287]  [285]  [282
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

たとえ狂うことになったとしても。



愛する者を失った「私」は、他人が知れば驚愕するような、ある物を持ち歩いている。
しかし、それは狂気なのか――。
新世代作家の鋭利な意識が陰影濃く描き上げた喪失と愛の物語。芥川賞候補作。

***

虚無・孤独・狂気。
本作の著者の著作には、必ずといっていいほど含まれている三つのモチーフ。
主人公は絶えずそれに怯え、戦い、ときには無意識のうちにその中に取り込まれてしまう。
芥川賞受賞作〝土の中の子供〟の主人公は、敢えて恐怖にぶつかっていくことで
長く抱えていた恐怖に打ち勝つことができた。
けれど、本書の主人公は、恐れていた狂気に自ら身を委ねてしまうことで恐怖から逃れ、
彼と妄想上の〝彼女〟のみが存在する世界での幸福と安楽を手に入れる道を選んでしまう。
視点を変えることによってハッピーエンドにも、バッドエンドにも取れる、
何とも形容しがたい感情を読む者に抱かせる物語だ。

本作は著者がノイローゼになるほどに魂を削って書いた半ば自伝的な物語で、
それを安易にひとつのカテゴリーでくくることははばかられるのですが、それでも
私の中で純文学界における二大傑作ラブストーリーといえば本著と〝火薬と愛の星〟。
男性は女性より単純とよく言われるけれどそのぶん一途で、特にこの二作の主人公は
容易には埋めることのできない深い孤独を抱えているが故に
〝恋愛感情〟とひと言で表すにはあまりに切実すぎる感情を相手に抱いてしまい、
一人の女性に恋をしたときにこうして痛々しいほどの狂気が垣間見えてしまうんだろう。
ある意味羨ましく思える。リスクが高いから少し怖いけど。

たとえ本作の主人公の恋愛感情が真実ではなく彼の脳内で作り上げられた幻想に
過ぎなくても(つまりは主人公が自分の創り上げた恋愛世界に陶酔しているだけで
本当の〝彼女〟のことなど何一つ見えていないのだとしても)、そんな実体のない相手をも
そこまで狂おしく想える、そのぞっとするほどの純粋さにある種の魅力を感じてやまない。

おすすめです。
PR
この記事へのコメント
name
title
color
mail
URL
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret(※チェックを入れると管理者へのみの表示となります。)
この記事へのトラックバック
TrackbackURL:
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アーカイブ
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
Copyright © 【イタクカシカムイ -言霊- 】 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]