――何になさいますか?――
2008年に小説誌などに発表された数多くの短篇ミステリーから、
プロが選んだ傑作15本を収録。
ミステリー各賞の歴代リストなども付いた唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
傍聞(かたえぎ)き/長岡弘樹
堂場警部補とこぼれたミルク/蒼井上鷹
退出ゲーム/初野晴
悪い手/逢坂剛
選挙トトカルチョ/佐野洋
薔薇の色/今野敏
初鰹/柴田哲孝
その日まで/新津きよみ
ねずみと探偵―あぽやん―/新野剛志
人事マン/沢村凛
点と円/西村健
辛い飴 永見緋太郎の事件簿/田中啓文
黒い履歴/薬丸岳
はだしの親父/黒田研二
ギリシャ羊の秘密/法月綸太郎
***
作品ごとのレビュー。
◆傍聞き◆
うまいなあー! の一言に尽きる。
人間の心の隙を巧妙についた斬新なトリックに
ちょっと泣けてしまう人情オチ(でもクサくない)。
シンプルなのにインパクトが強く、
物語としてもクオリティが高いのでいつまでも心に残る。
紛れもなく傑作です。さすが賞をとるだけはあるな。
◆堂場警部補とこぼれたミルク◆
まあなかなかに趣向をこらしたミステリではあるんだけど。。。
物語自体にあまり惹かれるものがなかったせいか、トリックがわかったあとも
もう一度読み返してみる気にはならなかった(本当なら再読することで
「あーなるほどそういうことだったのか!」と楽しめる物語なのでしょうが)。
だいたい最初の数字が日付けだってわかりにくいよ(私だけか?)。
◆退出ゲーム◆
こういうライトなノリの話は決して嫌いじゃないんですが、途中まではどうにも
読んでいてだれる感じで「なんでこれがベストミステリーズに収録されてんの?」と
半寝で読み進めていたところ、終盤で怒涛のたたみかけ。
一発で目が覚め一気に読破、見事してやられた爽快感と、物語内にひっそりと隠された
悲しくも深いテーマにすっかり感服。拍手を送りたくなった。
かなりの傑作と思う。好き嫌いは分かれるだろうけど。
◆悪い手◆
大脳生理学や臨床心理学をモチーフにした話を得意とする著者の短編。
カウンセラーとクライアントのやり取りから次第に一つの真実が浮かび上がっていく様は
非常にスリリングで一気に読みきってしまった。
作中の仕掛けはちょっと使い古された感があるけど、こういう何ともいえないオチは
すごく好き。後味が悪いんだけど妙に格好よくてぞくりとくる。
やっぱり狂気のキャラって読み手を惹きつけるものがあるよなー(私だけ?)。
◆選挙トトカルチョ◆
シンプルなんだけどきれいにまとまっていて面白い。
二段オチになっているのもおっと思わせられて著者のサービス精神を感じた。
でも本編のヒロインて、主人公が言うような〝勘のいい〟女性というよりは、
〝小ざかしい〟〝あざとい〟と表現したほうがしっくりくるような。。。
何がどうというわけでもないけどなんか好きになれないヒロインでした。
しかもいくら仕事のためとはいえ、若い女が自分の亭主のところに頻繁に通ってくるのを
何とも思わない(むしろ気に入っている)奥さんにも違和感。こんな心の広い女いないよ。
あと別に文体を手紙形式にしなくても普通に面白かったのでは、と個人的には思う。
◆薔薇の色◆
シンプルで短いながらに面白い。
本編が好きな人はハリイ・ケメルマン〝九マイルは遠すぎる〟も好きだと思う。
ほんのわずかな手がかりから真実を探り出していくパズラー掌編。
オチのマスターの台詞も粋です。
ていうかよくよく考えてみるとこの店の常連みんな名探偵だな。
◆初鰹◆
土地や食べ物の描写が非常にうまく、読んでいて「鰹食いてー」「旅行してー」などと
ついつい思わせられる作品。
ミステリとしてはちょっと地味かな。
あと主人公の奥さんが個人的に好きになれなかった(男性はこういう女に弱いのかも
しれないけど)。ナイショナイショうるさいよあんたと内心で突っ込みまくり。
◆その日まで◆
〝世にも奇妙な物語〟にありそうな話。面白くて一気読み。
ただ、主人公パートが妙に冗長だった気が。すぐに主人公の友人・秀美の描写に
移ったほうが、もっとテンポよく話が進んでまとまりもよかったと思う。
◆ねずみと探偵―あぽやん―◆
ただ長いだけ。ミステリとしてのオチも弱い。のであまり楽しめなかった。
むしろ著者の個性的な経歴と作中の登場人物・古賀恵の〝自分探しトーク〟のほうが
よっぽど興味深く読めた。この著者、女性のことよくわかってます。
あちこちを放浪している時期に知り合った女性にでも聞いたんだろうか。
登場人物たちの心理描写はやたらリアルで「そうだよなあ。。。」と納得させられるものが
あり、ミステリとして読まなければまあまあの秀作なのではと思う。
◆人事マン◆
うーん。。。世知辛いミステリだあ。。。
団塊世代って確かにそういうところあるよなと(自分の父親を見る限り)思うけど。
ストーリーそのものよりも、女々しくて簡単にグチをこぼす男性が増えている昨今、
本編の主人公が今後どういった新システムを開拓していくかのほうが興味深い。
にしても犯人、人生はもうちょっと長い目で見なきゃ駄目だろうと思ったのは私だけ?
◆点と円◆
犯罪プロファイリングは大好きな分野なので楽しく読めた。
時おり挟まれる登場人物たちのコミカルなやり取りもくすりとさせられる。
中盤での主人公のマヌケさに思わず顔をしかめたものの、それが終盤で逆に
事件解決に活きてきたときは「作者、うまい!」と思ってしまった。
でも。。。前半の坂道のプロファイリング正直必要なかったよね。。。(突っ込み)
そして今ならGoogleのストリートビューで簡単に検索できるね。。。(再突っ込み)
どうでもいいけどなんだか読んでいてラーメンが食べたくなる話だった。
◆辛い飴 永見緋太郎の事件簿◆
本編が収録されている本のレビューはこちら。
音楽ミステリの傑作です。音楽の知識が特にない人でも十分に楽しめます。
個人的にはシリーズ第一作〝落下する緑〟のほうが好きなので、こちらをまずは是非
読んでください。
◆黒い履歴◆
文句なし、本短編集の中で一番面白かった!!!
被害者が殺害された理由は比較的簡単にわかったけど、それ以外ははっきり見えてこず、
終始テンション上がりっぱなしのまま一気に読破。
二転三転する展開が、少ないページ数の中で実に無理なくきれいにまとまっていて、
ドラマ部分もミステリ部分も最後の最後で完璧なまでの収束をみせる。そして
読む者の心に強いインパクトを残して終わる。
私なら日本推理作家協会賞は〝傍聞き〟よりも本編に進呈するな、きっと。
◆はだしの親父◆
(本格推理08にも収録されているのでその際のレビューをそのままペーストします)
私はてっきり父親も昔クラウン(道化)をしていて、息子たちの心もそれで開いた、というオチを
想像していたのですが(たとえば長男とケンカしたときは道化のメイクをほどこした貌で息子を
追いかけた、三男の飼っている魚の鉢が割れたときは人間ポンプになって飲み込んで家まで
持ち運んだ、とか)結果はまったくあさっての方向だった。
でも落ち着いて考えたら本当にそんなトリックだったらバカバカしすぎたかも。私は喜びますが笑
家族愛をクサくなく描いた秀作。
小ネタの〝キンギョゥバーチィ〟には笑った。
◆ギリシャ羊の秘密◆
(本格推理08にも収録されているので以下略)
主人公たちの推理の過程&オチに多少強引なところがあったものの楽しく読めた。
それにしても、ギリシャ神話の神々の名前ってほんっと覚えにくいよなあ。。。
ラストのトリックはありがち。
レビューは以上!
2008年に小説誌などに発表された数多くの短篇ミステリーから、
プロが選んだ傑作15本を収録。
ミステリー各賞の歴代リストなども付いた唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
傍聞(かたえぎ)き/長岡弘樹
堂場警部補とこぼれたミルク/蒼井上鷹
退出ゲーム/初野晴
悪い手/逢坂剛
選挙トトカルチョ/佐野洋
薔薇の色/今野敏
初鰹/柴田哲孝
その日まで/新津きよみ
ねずみと探偵―あぽやん―/新野剛志
人事マン/沢村凛
点と円/西村健
辛い飴 永見緋太郎の事件簿/田中啓文
黒い履歴/薬丸岳
はだしの親父/黒田研二
ギリシャ羊の秘密/法月綸太郎
***
作品ごとのレビュー。
◆傍聞き◆
うまいなあー! の一言に尽きる。
人間の心の隙を巧妙についた斬新なトリックに
ちょっと泣けてしまう人情オチ(でもクサくない)。
シンプルなのにインパクトが強く、
物語としてもクオリティが高いのでいつまでも心に残る。
紛れもなく傑作です。さすが賞をとるだけはあるな。
◆堂場警部補とこぼれたミルク◆
まあなかなかに趣向をこらしたミステリではあるんだけど。。。
物語自体にあまり惹かれるものがなかったせいか、トリックがわかったあとも
もう一度読み返してみる気にはならなかった(本当なら再読することで
「あーなるほどそういうことだったのか!」と楽しめる物語なのでしょうが)。
だいたい最初の数字が日付けだってわかりにくいよ(私だけか?)。
◆退出ゲーム◆
こういうライトなノリの話は決して嫌いじゃないんですが、途中まではどうにも
読んでいてだれる感じで「なんでこれがベストミステリーズに収録されてんの?」と
半寝で読み進めていたところ、終盤で怒涛のたたみかけ。
一発で目が覚め一気に読破、見事してやられた爽快感と、物語内にひっそりと隠された
悲しくも深いテーマにすっかり感服。拍手を送りたくなった。
かなりの傑作と思う。好き嫌いは分かれるだろうけど。
◆悪い手◆
大脳生理学や臨床心理学をモチーフにした話を得意とする著者の短編。
カウンセラーとクライアントのやり取りから次第に一つの真実が浮かび上がっていく様は
非常にスリリングで一気に読みきってしまった。
作中の仕掛けはちょっと使い古された感があるけど、こういう何ともいえないオチは
すごく好き。後味が悪いんだけど妙に格好よくてぞくりとくる。
やっぱり狂気のキャラって読み手を惹きつけるものがあるよなー(私だけ?)。
◆選挙トトカルチョ◆
シンプルなんだけどきれいにまとまっていて面白い。
二段オチになっているのもおっと思わせられて著者のサービス精神を感じた。
でも本編のヒロインて、主人公が言うような〝勘のいい〟女性というよりは、
〝小ざかしい〟〝あざとい〟と表現したほうがしっくりくるような。。。
何がどうというわけでもないけどなんか好きになれないヒロインでした。
しかもいくら仕事のためとはいえ、若い女が自分の亭主のところに頻繁に通ってくるのを
何とも思わない(むしろ気に入っている)奥さんにも違和感。こんな心の広い女いないよ。
あと別に文体を手紙形式にしなくても普通に面白かったのでは、と個人的には思う。
◆薔薇の色◆
シンプルで短いながらに面白い。
本編が好きな人はハリイ・ケメルマン〝九マイルは遠すぎる〟も好きだと思う。
ほんのわずかな手がかりから真実を探り出していくパズラー掌編。
オチのマスターの台詞も粋です。
ていうかよくよく考えてみるとこの店の常連みんな名探偵だな。
◆初鰹◆
土地や食べ物の描写が非常にうまく、読んでいて「鰹食いてー」「旅行してー」などと
ついつい思わせられる作品。
ミステリとしてはちょっと地味かな。
あと主人公の奥さんが個人的に好きになれなかった(男性はこういう女に弱いのかも
しれないけど)。ナイショナイショうるさいよあんたと内心で突っ込みまくり。
◆その日まで◆
〝世にも奇妙な物語〟にありそうな話。面白くて一気読み。
ただ、主人公パートが妙に冗長だった気が。すぐに主人公の友人・秀美の描写に
移ったほうが、もっとテンポよく話が進んでまとまりもよかったと思う。
◆ねずみと探偵―あぽやん―◆
ただ長いだけ。ミステリとしてのオチも弱い。のであまり楽しめなかった。
むしろ著者の個性的な経歴と作中の登場人物・古賀恵の〝自分探しトーク〟のほうが
よっぽど興味深く読めた。この著者、女性のことよくわかってます。
あちこちを放浪している時期に知り合った女性にでも聞いたんだろうか。
登場人物たちの心理描写はやたらリアルで「そうだよなあ。。。」と納得させられるものが
あり、ミステリとして読まなければまあまあの秀作なのではと思う。
◆人事マン◆
うーん。。。世知辛いミステリだあ。。。
団塊世代って確かにそういうところあるよなと(自分の父親を見る限り)思うけど。
ストーリーそのものよりも、女々しくて簡単にグチをこぼす男性が増えている昨今、
本編の主人公が今後どういった新システムを開拓していくかのほうが興味深い。
にしても犯人、人生はもうちょっと長い目で見なきゃ駄目だろうと思ったのは私だけ?
◆点と円◆
犯罪プロファイリングは大好きな分野なので楽しく読めた。
時おり挟まれる登場人物たちのコミカルなやり取りもくすりとさせられる。
中盤での主人公のマヌケさに思わず顔をしかめたものの、それが終盤で逆に
事件解決に活きてきたときは「作者、うまい!」と思ってしまった。
でも。。。前半の坂道のプロファイリング正直必要なかったよね。。。(突っ込み)
そして今ならGoogleのストリートビューで簡単に検索できるね。。。(再突っ込み)
どうでもいいけどなんだか読んでいてラーメンが食べたくなる話だった。
◆辛い飴 永見緋太郎の事件簿◆
本編が収録されている本のレビューはこちら。
音楽ミステリの傑作です。音楽の知識が特にない人でも十分に楽しめます。
個人的にはシリーズ第一作〝落下する緑〟のほうが好きなので、こちらをまずは是非
読んでください。
◆黒い履歴◆
文句なし、本短編集の中で一番面白かった!!!
被害者が殺害された理由は比較的簡単にわかったけど、それ以外ははっきり見えてこず、
終始テンション上がりっぱなしのまま一気に読破。
二転三転する展開が、少ないページ数の中で実に無理なくきれいにまとまっていて、
ドラマ部分もミステリ部分も最後の最後で完璧なまでの収束をみせる。そして
読む者の心に強いインパクトを残して終わる。
私なら日本推理作家協会賞は〝傍聞き〟よりも本編に進呈するな、きっと。
◆はだしの親父◆
(本格推理08にも収録されているのでその際のレビューをそのままペーストします)
私はてっきり父親も昔クラウン(道化)をしていて、息子たちの心もそれで開いた、というオチを
想像していたのですが(たとえば長男とケンカしたときは道化のメイクをほどこした貌で息子を
追いかけた、三男の飼っている魚の鉢が割れたときは人間ポンプになって飲み込んで家まで
持ち運んだ、とか)結果はまったくあさっての方向だった。
でも落ち着いて考えたら本当にそんなトリックだったらバカバカしすぎたかも。私は喜びますが笑
家族愛をクサくなく描いた秀作。
小ネタの〝キンギョゥバーチィ〟には笑った。
◆ギリシャ羊の秘密◆
(本格推理08にも収録されているので以下略)
主人公たちの推理の過程&オチに多少強引なところがあったものの楽しく読めた。
それにしても、ギリシャ神話の神々の名前ってほんっと覚えにくいよなあ。。。
ラストのトリックはありがち。
レビューは以上!
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