そう思いたい、切実に。
28歳のフリーライター、佐倉明日香は、ある朝目覚めると見知らぬ白い部屋にいた。
そこは「クワイエットルーム」と呼ばれる、女子専用の精神病院の閉鎖病棟。
明日香はそこに来た理由を思い出せずにいたが、個性的な患者達と接し、
次第に馴染み始める。
***
悔しいことに最近読んでいて胸を衝かれ触発される小説というのが
私が専門としているミステリではなく純文学のほうに多い。
本作もまさにそれ。してやられました。
精神を病んだ面々が実にコミカルかつシュールに描かれている本作、
もう一年近く心療内科のお世話になっている私が読んでも不快感を感じない。
実際には見るに耐えないはずであるシーンも、著者独特の言い回し&表現で
さらりと読める。時には吹き出してしまうこともしばしば。
それは、この物語を覆う空気感が単にチャラけているだけじゃなく、その根底に
碇のように根を下ろした〝重さ〟がちゃんと感じ取れるからでしょう。
それは深いところに沈んでいて読み手には見えないけどちゃんと感じる。
ラスト一ページは、清々しさと切なさがないまぜになった何とも言えない感覚に
思わず「うおー」とか声をあげてしまいました。最高。鳥肌立った。
タイトルの割りにクワイエットルームがほとんど出てこないのは若干気になるところですが。
単に著者が〝クワイエットルーム〟という単語をタイトルに使いたかっただけなのか、
それとも(ありきたりな表現をすれば)誰もが発狂しそうな静寂の部屋を胸の内に抱えている、
という意味合いでもあるのか。作中に
〝たまたま運悪く高価な壺を割って多額の借金をしてしまう人がいるように、
わたしもたまたま正気を踏み外した場所に精神病院があって、
身動きが取れなくなっているだけなのだ〟
という記述があるように、たまたまクワイエットルームへの扉を開けてしまう人がこの世には
少なからずいる、そういうことなんだろうか。
著者に訊いてみたいところです。
何はともあれ久しぶりに出会えた傑作。
おすすめです(あまりに繊細な人はやめといたほうがいいかもしれないけど)。
映画化もされてます。近いうち観てみる予定。
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