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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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これが最後の理性の声だ。

 

信者が三十人いれば、食っていける。五百人いれば、ベンツに乗れる――
作家になる夢破れ家族と職を失った正彦と、不倫の果てに相手に去られ
ホームレス同然となった矢口は、9.11で、実業の象徴、ワールドトレードセンターが、
宗教という虚業によって破壊されるのを目撃する。
長引く不況の下で、大人は漠然とした不安と閉塞感に捕らえられ、若者は退屈しきっている。
宗教ほど時代のニーズに合った事業はない。
古いマンションの一室。借り物の教義と手作りの仏像で教団を立ち上げた
二人の前に現れたのは…。
二十一世紀の黙示録的長篇サスペンス。

***

同系統の(宗教)ストーリーなら、天童荒太氏の〝悼む人〟よりも
本作のほうがよほど直木賞にふさわしい(篠田節子さんは既に受賞されていますが)。
久しぶりに喝采を送りたくなる物語に出会った。
私は女流作家は基本的にあまり好きではないので、篠田さんの〝神鳥(イビス)〟の
大ファンでなければ本作は手にとっていなかった。神鳥を知っていて本当によかった。

主人公がやや愚鈍で、安易に危ない橋を渡ったり読めるはずの先を読めないことが多い点には
いくら物語を動かすためとはいえ少し首を捻ったけれど(普段は賢明なキャラであるだけに尚更)、
それ以外は総じて文句なし、ほぼ完璧といっていい出来。
物語としても面白く、その中に押し付けがましくない深い含蓄もあり、上下巻組にも関わらず
あっという間に読めてしまう(むしろ残りページがだんだん少なくなっていくのが悲しかったほど)。
登場人物全員のキャラが立っていて魅力があり、だからこそ彼らが少しずつ狂っていく様子が
怖いまでに読み手に迫ってくる。特に終盤の信者たちの狂気の生々しさには鬼気迫るものがあり、
ホラー作品を多く発表してきた著者の神髄を目の当たりにした気がした。

人間にとっての神は彼らに都合よく創り上げられた虚像に過ぎず、
あらゆる宗教における神の教えも総じて人間に具合のいい言い訳に過ぎないけれど、
そういったものにすがらないと生きていけない人間の病みというものは哀しい。
その病みを、偽りの神を通して他人にまで押し付けようとする傲慢さも見ていて痛々しい。
死に至るまでの〝生〟の時間が長すぎて苦しすぎて、そこから逃れようと無理に、そして無意識に
ポジティブになった結果生まれたもの。それが宗教なのではないかと思う。
それが自分を破壊していくとも知らずに。

神は自分の内にだけあればいいと私個人としては思っているんだけど。
形や組織や教義がないと実感できない神様なんて神様とは思えないけど。

何にせよ〝人間〟というものが残酷なまでにリアルに詰まった、
(敢えてキリスト教でたとえれば)バイブルを客観的に捉えるためのバイブル、といった物語だった。

一読の価値あり。是非読んでみてください。

tomyo.jpg






因みに本作を面白く読めた人は、下記の作品もおすすめ(逆もまた然り)。

ガダラの豚
カルト
天使の囀り
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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