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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ずっと昔に放たれた光を。



妻に内緒で、兄の彼女と旅に出た。その行き着くところは…。
現代人に特有の「自転からはぐれたみたいな」孤独を描き出す。
表題作のほか「木曜日に産まれた」を収録。
『群像』『文学界』掲載作品をまとめ書籍化。
第138回芥川賞候補作。

★収録作品★
 
 空で歌う
 木曜日に産まれた

***

二日連続中山氏の著作のレビュー。あー、すっかりほれ込んでしまいました。

表題作〝空で歌う〟を読んで思うのは、
光(記憶)というものは強ければ強いほど真っ直ぐにどこまでも突き進んでいって、
敢えて振り返らなくても眼の前に幸せな、もしくは悲しい過去を
まざまざと浮かび上がらせるのだということ。
空にある星の光はずっと昔に放たれたものであるという事実に
人間の過去を重ね合わせる描写はうまい! と唸らせられた。
主人公が故人である兄の元恋人に執拗に性的な関係を迫るのは、
眼の前に浮かぶ〝兄の死〟という過去が怖くて母性としての女性に縋りつきたかったのか、
彼女と交わることで自分の知らない兄の片鱗が掴めると思ったのか、
女である私には把握しづらかったけれど、個人的には前者が強い両方だったのでは、と
解釈しています。

「月が地球のまわりをまわってるように、地球が太陽のまわりをまわってるように、
そのあいだには力が働いてる。空っぽに見えるところにも作用してる。
関係があるんだ。ぜんぶがつながってる。どれかひとつ欠けても
全体が変わってしまうぐらい。
だからそんなふうに、自分から切り捨てる必要はないと思うんだ。
誰もいなくてもいい、というふうに」
この言葉もありふれてはいるけど、こういうことを周りの人が言ってくれなくなっている昨今、
堂々と口にしてくれるのは〝物語〟だけだと思うので、読んでいて励まされた。
中村文則氏の〝何もかも憂鬱な夜に〟の台詞、
「アメーバとお前と繋ぐ何億年の線、その間には、無数の生き物と人間がいる。
どこかでその線が途切れていたら、何かでその連続が途切れていたら、今のお前はいない。
いいか、よく聞け。現在というのは、どんな過去にも勝る。そのアメーバとお前を繋ぐ
無数の生き物の連続は、その何億年の線という、途方もない奇跡の連続は、
いいか? 全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい」
と共通するものを感じた。
妙に凝った言葉よりも、ありふれたひと言のほうが人を救うことはある。
それに小説の場合、こういう台詞はどんなシチュエーションで使うかによってだいぶ印象が違うから、
その点この二人の作家は、一番いい場面にこの台詞を持ってきたんじゃないかと思う。

〝木曜日に生まれた〟はタイトルも含め表題作より好きな作品。
男の人が、女性の妊娠について、こんなにもリアルで、普通の女性よりもずっと複雑な感情を
抱けるということに驚かされた。
驚くといえば、中盤のトイレのシーンは当分忘れられないだろうと思う(行為よりも、主人公が
そこまで思いつめているということにインパクトを受けた)。
最後はベタながらもちょっと泣けてしまった。
この物語の主人公みたいな人と結婚できれば、万が一にこの物語のような不幸があっても、
奥さんはきっと幸せだろうと思う。
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離れていく曖昧な輪郭。

  

「いまどき、まっとうな青春小説」がミリオンセラーになってゆく夏、
結婚を控えた29歳の「僕」は、「青春の終焉記念」一泊合コンに出かける。
怪しげな新ビジネスを立ち上げる奴の行く末、昔の友人の転落と自殺。
「こういうのがお望みなんだろ?」とシニカルにうそぶくほろ苦い日々を描くデビュー作。

★収録作品★

 さりぎわの歩き方
 長い名前

***

読みやすいのに単語の選びかた一つ一つが新鮮で
ほんの些細な日常の物語もひどく印象深いものとして読み手に刻み付けてくる、
そんな確かな力を持った作家さんだと思う。

私は個人的には、読み終えたあとに自分でもどう表現したらいいかわからない感情が
こみ上げてくるものが本物の小説だと思っているのですが(「面白かった」「悲しかった」
「切なかった」等とひと言で表せないもの)、本作の表題作が久々に〝それ〟だった。
苦笑いしながらも心のどこかがやるせないような。
腹も立つけどこの世の無常さに脱力して泣きたくなるような。
とにかく読後、脳の奥がぞっと痺れた感じになるような物語だった。
最近の〝文學界新人賞〟の受賞作の中では一番肌に合っていて好きだ。

〝長い名前〟は、主人公の恋人への接し方、愛し方が
とても温かく、拙いながらも人間味に溢れているので、ヒロインが羨ましくなってしまった。
終わり方もすごく好き。
こちらの言葉を「要するに~ってことだろ」みたく勝手に省略したり決め付けたりせず、
その全部を〝長い名前〟として心の中に持っていてくれる、
恋人・友人問わず、そういう人に私も会いたい。

いい作家さんに出会えた。
今後中山氏の作品はしっかりチェックしなきゃな。



おまけ:
〝パップラドンカルメ〟。初めて知った笑
「やれやれ、あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」



鑑識不在の状況下、警備会社社長と真っ向勝負(「マックス号事件」)、
売れっ子脚本家の自作自演を阻む決め手は(「失われた灯」)、
斜陽の漫才コンビ解消、片翼飛行計画に待ったをかける(「相棒」)、
フィギュアに絡む虚虚実実の駆け引き(「プロジェクトブルー」)――
好評『福家警部補の挨拶』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第二集。

★収録作品★

 マックス号事件
 失われた灯 
 相棒
 プロジェクトブルー

***

たとえば新幹線とか飛行機とか、長時間拘束されるときに読むミステリとしては最適だと思う。
よくも悪くもドラマっぽい内容なので。
ほどよく面白い、でも後をひくものがない。
シリーズ一作目は実際にドラマ化してますが、それを観た母も
「つまんないってことはないけどさして面白くもなかった」と言ってたし。
(自分も、〝オッカムの剃刀〟(原作のほう)はあまり面白いと思わなかった)

犯人が予め分かっている倒叙ものは、探偵役のキャラクターの面白さが最大の魅力だと
思うんだけど、福家警部補にはコロンボや古畑みたいな個性がないから
どうにも心から楽しめないんだよな。
あと、雑誌に連載されていたものを一気に読むから尚更気になるんだろうけど、
聞き込みの相手が福家を刑事と思わない→福家が警察バッヂを出す→驚きつつも信じてもらえる
ってパターンにもいい加減飽きたし(でもだからこそ最終話はちょっと驚きましたが)。

そして著者の大倉氏は落語小説も書いていてそっち方面には造詣が深いようなので、
〝相棒〟の漫才のシーンも自分で考えて書いてみてほしかった。興味あったのに。。。
(まあ落語と漫才は別物ですが)

彼の小説では〝聖域〟がいつものおとぼけ風味の小説と違ってスケールが大きそうなので、
次はそれを読んでみようと思う。

余韻がほとんど残らない物語っていうのはあまり好きになれないので。。。
そう思っているし、思いたい。



ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。
ある日、学校で起きた陰惨な事件。
ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。
彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。
チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。

***

名前探しの放課後〟の前身、
子どもたちは夜と遊ぶ〟の後日談とも言える本作。
前者を未読の方はすべからく本作を先に読むことをおすすめします。
(自分は逆の順序で読んでしまったので、「こっちを先に読んでおけば〝名前探し~〟の
印象もだいぶ(いい方に)違ったのに。。。!」と臍を噛む思いでいます。。。)
もちろん本作を単体で読んでもストーリーはわかるようになっているのでご安心。

基本的に本作は少年と大学教授のカウンセリング的トークに終始しており、
そこで話される内容は面白いは面白いのですが既知のうんちくもかなり多く、
そればかりがずっと続くのでやや単調さを感じてしまった。
二人が意見を戦わせるという内容上、否応なく読者であるこちらもそれに参加してしまい、
それぞれの持論に納得いかない部分もあって「異議あり!」と胸中で突っ込むこともしばしばで(でも
当然向こうには届かないので)ひとりで勝手にストレス溜めたり。

ステロタイプじゃない人間の魅力を描ける著者の手腕には相変わらず感心してしまいましたが。

んー、やっぱり〝子供たちは~〟を読んでから読んだほうが面白いかも。
(ただ、物語の〝その後〟を自分で想像するほうが楽しいという人は読まないほうが吉)

ちなみに本作が気に入った人は、乙一氏作〝ZOO〟収録の〝神の言葉〟もおすすめ。



余談:
本作を読んで著者が2chやってることが発覚。親近感(笑
俺から逃げられると思うな。



これが格差社会の末路なのか!? 貧困大国となった日本の、恐るべき高齢者排除計画。
それぞれの理由を抱え、もがく人々に救いはあるのか。
鮮やかに世界を反転させ、人を狂気へと誘う3つの物語を収録。

★収録作品★

 熱帯夜 
 あげくの果て 
 最後の言い訳

***

曽根圭介さんにまず謝りたい。
たった一作読んだだけで評価したことも馬鹿だったけど、氏のデビュー作〝沈底魚〟で
この人の小説は自分に合わない、そう思ったことを詫びたい。
氏への印象が180度変わってしまった。
それほどに本作は面白かった。

◆熱帯夜◆

短編推理小説アンソロジーに載せてほしいぐらいの傑作。
著者の構成力に脱帽。
無茶苦茶面白くて寝る前にちょっとだけ読むつもりが一気読み。
ただひとつ引っかかるのが、〝ワタシ〟は自分が轢いた死体のザリガニ臭
気づかなかったのか? ということ。平常心を失っていたせいともとれるけど、
それにしては最初のほうかなり冷静に行動してるし。
まあ面白かったからいっか。

◆あげくの果て◆

空回り、空回り、空回りの連続で読んでいてイライラするほど(もちろんいい意味で←というのも
変な表現ですが)。
〝難局二号〟には笑った。これ以外にも、曽根氏は造語のセンスありすぎで
本作は読んでいて何度も笑わされた。
「いくらフィクションでもこんな制度あるか」と思っていたらあのオチが待っていたので
ちょっと切なくなった。

◆最後の言い訳◆

終盤にまさかのどんでん返し。これにはやられた。かなり驚いた。
作中に時事ネタがたくさん盛り込まれていて(食品偽造、ダメ総理、パンダ問題、etc.。。。)
不謹慎だけど吹き出すことしばしば。
時事ネタといえばヒロインの愛のキャラが見事なツンデレで女の私もときめいてしまった。
というかすごく格好いいんだよな彼女は。こういう風になりたいと思わせられる子だった。
オチは残念ながら読めてしまった。
でも面白かったからいk(以下略)。



ギーガーの表紙もかなりいい味出してます。
非常~におすすめ。
最近暑くてジメジメしてますが、それも本作を読めば恐怖と笑いで吹き飛びます。

見ているか?



道州制による分権のもと、監視カメラのネットワークによって国民に絶えず順位を付ける制度
(RANK)が施行される近未来の日本・関東州。
(RANK)低位者の拘束を業とする公務員「執行官」の中には、任務に疑問を抱く春日と、
歪んだ正義感のもと暴走していく佐伯がいた。
抑圧された人々の蠢きによって、自らに危機が迫っていることも知らず…。
第三回ポプラ社小説大賞特別賞受賞作。

***

あらすじ&ポプラ社大賞入賞作という肩書きからエンタメ色の強い小説と思いがちですが、
どちらかというと本作は今の世の中に対する風刺・啓蒙的な物語なので
単に面白さを求めるだけなら読まないほうが吉です。
文章も最近の娯楽小説にしては難しめ。

というかこの著者、あまり長編には向いてない気がする。
筆致が独特なので読んでて疲れるんだよな。
たまに古川日出男氏や舞城王太郎氏にそっくりな文体とか出てきて「パクリ?」とちょっと
イラっともするし。
内容は何だか〝デスノート〟+〝イキガミ〟+〝20世紀少年〟+〝ゴールデン・スランバー〟
って感じだし。
ものすごく実力のある新人作家さんだとは思うけど、〝地図男〟の際も言及したように
どうも新鮮味に欠ける。
ほんともったいないと思うので、今後真藤氏には独自の文体を創り上げていってほしい。

それにしても〝<眼>は視ている〟という文章のこれでもかとばかりの連発が
読み進めるごとにこちらの身体に、精神にじわじわと浸潤してきて
次第に嫌な気分にさせてくる手腕はすごいなと思った。
まさにこの世界の人間たちと同じ感覚を味わわせてもらった。

ただ、黒幕の人物が突飛すぎてあまり驚けなかったことと、
終盤が突如SF化していたこと、
電気系統が麻痺したときに備えて〝眼〟には病院並みの予備電池とかつけるのが普通なのに
何であれぐらいで一斉OFFになってんの? という突っ込みどころはありましたが。

個人的にはこういう話好きです。
作中の登場人物・佐伯にはいたく共感してしまったし。

でも本当にこんなシステムが日本にあったら、突出した才能はまず生まれないだろうなあ。
ダメダメ人生を数十年送り続けてある日突然返り咲く、みたいな人のほうが
才能ある人には多いのに、そうなる前に排除されてしまう。
画一的な人間ばかりがぞろぞろと量産されていく。

。。。あ、それも著者の風刺か。

この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから。



天涯孤独な少年・勇介は、急逝した大伯父・如月教授が遺してくれた博物館で
秘密裏に行われているあるプロジェクトの存在を知る。
それは――脳死患者と時間旅行を研究する極秘実験。
過去を彷徨う魂を救うため、勇介は学芸員・枇杷とともに、過酷な時の旅へと出発する!
注目の著者が放つ新感覚タイムトラベル・ミステリ。

***

退出ゲーム〟が面白かっただけに(そして巷でもこれのお陰で著者の名が知れてきただけに)
その次に出版されたのが本作であることに若干もったいなさを覚える。
こういうファンタジー&シリアス路線じゃなく、コメディ路線のミステリのほうが
この作家さんには向いてると思うんだけどなあ。。。
いや、でも氏のデビュー作〝水の時計〟は前者路線なのに面白かったから、
やっぱり本作の出来が微妙なんだろうか。

まず主人公二人のキャラの創り込みが曖昧。
それぞれのどういう面を強調したいのか、著者が絞りきれていない感じで(特に男の子のほう)、
結局彼らがどういう性格なのかいまいち掴みきれなかった。
そして物語の趣旨が〝一人の少女を救う〟なのに、二人が他人まで救おうとするものだから
読んでいて視点がブレてしまい「この二人は結局何がしたいんだ?」という感覚が終始抜けず。
長編なのにトリックは地味だし(いや、個人的には本作のトリックは好きなのですが、
ストーリーかトリックのどちらかに華がないとやっぱり長編ミステリは読んでいてキツい。
ていうかヒロインが仕掛けたトリックがどういうことなのか読み終えた未だ曖昧なまま。
何? 〝言葉の誘導〟って。
というか「過去をいじっちゃいけない」とかさんざん言ってる割りには
現代ならではの智慧をこれでもかと披露してるよなー主人公二人は)。
〝ずっと手を繋いでないといけない〟っていう設定は〝ICO〟や〝ダブルアーツ〟を
髣髴とさせて新鮮味ないし(〝ICO〟のキャッチコピーなんてまんま本作に当てはまるし。なので
この記事の最上段のコピーにも本作の文章じゃなくそっちを使わせてもらいました。
ね、まんまでしょ?)。

駄作ではないんだけど読んでしばらくしたら忘れてしまう、そんな感じの物語だった。
でも初野氏は好きな作家なので次に期待。
お願い、こないで。



私は、自分が生き残るために両親と姉を殺しました。
構想五年、執筆三年、今世紀最大の犯罪と言われる連続監禁殺人事件をモチーフにした、
「新堂冬樹史上最悪の問題本」のベールが、ついにはがされる。

***

実際に起きたこの事件を元に書かれた半ばノンフィクションである本作。
文章が読みやすいので二日で読破してしまったけれど、
内容は首を捻らざるを得ないものだった。

まず、展開があまりに単調。
主犯の男・富永が人質に婉曲に虐待または殺人を命令、
それに従う人質たち、
それを見て「ああ何てことを」と罪逃れのために嘆く振りをする富永、
全体を通してこれの繰り返し。
同じ台詞や文章表現がこれでもかと出てきたりもするし、
著者のプロとしての文章力にかなり疑問をおぼえた。

あとは拉致された(といっても逃げようと思えばいつでも逃げられる)人間たちが
ことごとく富永に簡単に洗脳されすぎ。
そりゃ何年もかければ精神的に束縛されて相手に逆らえなくなるだろうけど、
捕まって数日であっという間に相手の言いなり。
それ以外にもあまりに富永にとって都合のいい展開が続くし(女たちが揃いも揃って
富永の性奴隷になるし、もっと富永と渡り合えるはずの男性陣があっという間に心折れちゃうし)。
あまりにリアリティがなさすぎ。本作が実際の事件を元にして書かれたものなら尚更。

富永と最初に出会う貴子は単にストックホルム症候群に陥ったのか
それとも厳格な父親の元で縛り付けられるように育ったせいで
誰かに束縛されていなければ人生をわたっていけなかったのか、
どちらにせよいい歳して情けなさ過ぎると思う。
これは相手に虐げられる恐怖で正常な判断力を失っていたのではなく、
単に強烈な依存心からこの凄惨な事態を打開できなかっただけだとそう思う。
(まあだからこそあのラストなのでしょうが)

新堂氏はそろそろノンフィクションを元にフィクションを書くのはやめて
新境地を開拓すべきだと思う。
あっという間に読めたのはある意味それだけ内容が薄っぺらだったということでもあるし。

あまりおすすめしません。
だから、それまで。



那由多小学校児童毒殺事件――男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。
加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに
事件は幕を閉じた。
そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。
ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。
やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、
驚愕の真実が明かされていく。
『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。

***

湊かなえさんの〝告白〟に似ていると巷では言われていますが、
共通のキーワードといえば〝小学校での殺人〟〝牛乳(笑)〟ぐらいで、
そこまで「似てる!」という印象は受けなかった。
どちらかといえば貫井徳郎氏の〝愚行録 〟のほうが近い。
個人的には愚行録よりはエンタメしていて、告白ほどトンデモじゃなくて、
こういうモノローグものの小説の中では一番バランスがいいと思った。

ただ難を言うなら、真相がすぐに読めちゃうことかな。
真相が悟りやすいというのはそれだけ作者の文章が読みやすく丁寧であるということだと
私としては思うのですが(単に伏線を張るのがヘタでバレバレな作家もたまにはいるけど)、
もうちょっとミスリードがあったほうが読み応えはあったと思う。
でもこの塔山氏は文章も複線の張り方も登場人物の心理描写(これがとにかくすごい)も
これがデビュー作とは思えないほど抜群にうまく、
今から次の作品を楽しみにしている自分がいたりする。

ただ腑に落ちない点もいくつかあり、
たとえば
★夏実、子供が欲しいだけなら結婚まですることないじゃん。
お嬢様だから私生児なんてあり得ないとでも思ってるのかと思ったけど、
簡単に離婚しようとしてるしじゃあそうでもないんだろうし。
★クーさん、そんなに弟に(子供が同じ顔になるほど)そっくりなら、
いくら廃工場で本名名乗らなくても絶対誰かが気づいたはずだろ。
それにやたら羽振りがいいって子供らの誰かが証言すれば
すぐ金持ちの彼に行き着くだろ。
★砒素ってちょこちょこ飲ませた場合と一気にがばっと飲ませた場合で
検死のとき差異が出るんじゃないの?
証拠隠滅のためにあとから大量に飲ませても無意味じゃ?
それとも三十年前の医学じゃそこまで調べられなかったとでも?

★誤植多すぎ。三箇所見つけた。
これは作者には関係ないので、担当編集さんと校正の人に文句を言いたい。
〝一挙手一足〟ってオイ。

でもまあ、作りが既存の小説と似ているよりも
文体・台詞回し・設定・登場人物の性格、そのすべてが伊坂幸太郎氏の完パクである
屋上ミサイル〟を大賞にしといてこっちを優秀賞にする道理はないよな。
これ&同じ大賞受賞作の〝臨床真理〟よりも本作のほうがずっとレベル高いし面白いのに。

この賞出身の作家の本は本当の実力に裏打ちされて書かれたものよりも
くだらないけどエンタメに徹しているもののほうが売れる傾向にあるので(あんまり知り合いじゃ
ない人をけなしたくないけど、たとえば海堂尊氏とか)、
今後はどうなるか予測できませんが、
この作家さんにはこれからもどんどんこういう良質のミステリを発表し続けていってほしい。

おすすめです。
塔山さん、応援してます。
皆が私の名を呼ぶかぎり。



「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」
いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が
衆人環視のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。
これは匠幻最後の脱出か?
幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟が解明する。

***

トリックは及第点(よりちょっと下かも)、
犯人は「わかるわけねーだろ!」レベル、
犀川はいつにも増して理屈っぽすぎ(というかもう屁理屈の域)、
萌絵は女刑事の振りをして皆を先導するシーン等は格好いいものの
人死にが出ている犯罪をゲーム感覚で捉えてへらへら楽しんじゃっていて
(しかも超絶モラリストの私にとって許しがたい〝携帯かけながら運転〟までかますし。
あんた本当にお嬢様?)
せっかく初期の「この女うざいな」感が消えかけていたところにまた火がつく始末。

でも犯人の〝動機〟、これはシリーズ中で一番よかった。琴線に触れた。泣けた。
特に何かひとつのことに心血を注いでいる人が読めば犯人にいたく共感できると思う。
人間はひとりでも自分の名前を呼んでくれる人が存在すれば生きていける、
そういうことは浦沢直樹氏のマンガ〝MONSTER〟でも書かれていたな、そういえば。。。

萌絵の友人がどうなったのかだけが未だ気になっているところ。
次回作で描かれるのかな?
犀川と萌絵を真剣に嫌いになる前にシリーズ読破を達成しなきゃ。。。
プロフィール
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kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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