昔の話をいたしましょう。
『花まんま』で直木賞を受賞し、ノスタルジックホラーの旗手として
多くのファンを魅了する朱川湊人氏が、ほぼ一年ぶりに刊行する待望の短編集。
いっぺんしか願いを叶えない神様を探しに友人と山に向った少年は
神様を見つけることができるのか、そして、その後友人に起きた悲しい出来事に対してとった
少年の行動とは……。感動の作品「いっぺんさん」はじめ、
鳥のおみくじの手伝いをする少年と鳥使いの老人、
ヤマガラのチュンスケとの交流を描く「小さなふしぎ」、
田舎に帰った作家が海岸で出会った女の因縁話「磯幽霊」など、
ノスタルジーと恐怖が融和した朱川ワールド八編。
★収録作品★
いっぺんさん
コドモノクニ
小さなふしぎ
逆井水
蛇霊憑き
山から来るもの
磯幽霊
八十八姫
***
大好きな作家さん。。。でした。
好きな作家さんがたとえ「。。。え?」と思うような本を書いても、
人間いつも好調なはずがないし、三作目までは続けて新作を読んでみて
それからその著者の真価を問う、それが私的なモットーでした。
これで四作目です。
見限ります。
ワンパターン化したストーリーにオチ、
それどころかヘタをするとオチすらなく「え? で結局何が言いたかったの?」という話も
中にはあるし、
文章力は生来のクオリティを保ってはいるものの以前のように琴線に触れてくるような
斬新な表現もなく、読んだ端から忘れてしまうような内容ばかり。
〝都市伝説セピア〟や〝かたみ歌〟に収録されていた話なんて
読んで数年経った今でも鮮明に憶えているのに(〝白い部屋で月の歌を〟なんて、
最後の文章までそらんじられるほど)。
けれど〝わくらば日記〟あたりからあれ?と違和感を抱くようになり、
〝赤赤煉恋〟で「なんか朱川さん質落ちてきたな。。。」とはっきりと確信し、
〝水銀虫〟では苦笑い→無表情、
〝スメラギの国〟はわずか十数ページでリタイア。
本作収録の〝小さなふしぎ〟なんて乙一氏の〝失はれる物語〟に収録されてる
某短編とかぶりまくってるし(あっちのほうが遥かにいいですが。知人のプロ作家さんも
心を動かされた、と言っていたぐらいだし)。
駄作ではないし作品の質を保ち続けるのがいかに難しいかもわかってはいますが、
それでも過去のあの傑作たちを知っている身としては本作は読んでいて哀しかった。
あんなにいい作家だったのにな、と朱川氏には失礼ですが思わずにいられなかった。
。。。白い石探しに行ってこようかな。
いっぺんさん、いっぺんさん、朱川湊人氏をデビュー当時の彼に戻してください。
『花まんま』で直木賞を受賞し、ノスタルジックホラーの旗手として
多くのファンを魅了する朱川湊人氏が、ほぼ一年ぶりに刊行する待望の短編集。
いっぺんしか願いを叶えない神様を探しに友人と山に向った少年は
神様を見つけることができるのか、そして、その後友人に起きた悲しい出来事に対してとった
少年の行動とは……。感動の作品「いっぺんさん」はじめ、
鳥のおみくじの手伝いをする少年と鳥使いの老人、
ヤマガラのチュンスケとの交流を描く「小さなふしぎ」、
田舎に帰った作家が海岸で出会った女の因縁話「磯幽霊」など、
ノスタルジーと恐怖が融和した朱川ワールド八編。
★収録作品★
いっぺんさん
コドモノクニ
小さなふしぎ
逆井水
蛇霊憑き
山から来るもの
磯幽霊
八十八姫
***
大好きな作家さん。。。でした。
好きな作家さんがたとえ「。。。え?」と思うような本を書いても、
人間いつも好調なはずがないし、三作目までは続けて新作を読んでみて
それからその著者の真価を問う、それが私的なモットーでした。
これで四作目です。
見限ります。
ワンパターン化したストーリーにオチ、
それどころかヘタをするとオチすらなく「え? で結局何が言いたかったの?」という話も
中にはあるし、
文章力は生来のクオリティを保ってはいるものの以前のように琴線に触れてくるような
斬新な表現もなく、読んだ端から忘れてしまうような内容ばかり。
〝都市伝説セピア〟や〝かたみ歌〟に収録されていた話なんて
読んで数年経った今でも鮮明に憶えているのに(〝白い部屋で月の歌を〟なんて、
最後の文章までそらんじられるほど)。
けれど〝わくらば日記〟あたりからあれ?と違和感を抱くようになり、
〝赤赤煉恋〟で「なんか朱川さん質落ちてきたな。。。」とはっきりと確信し、
〝水銀虫〟では苦笑い→無表情、
〝スメラギの国〟はわずか十数ページでリタイア。
本作収録の〝小さなふしぎ〟なんて乙一氏の〝失はれる物語〟に収録されてる
某短編とかぶりまくってるし(あっちのほうが遥かにいいですが。知人のプロ作家さんも
心を動かされた、と言っていたぐらいだし)。
駄作ではないし作品の質を保ち続けるのがいかに難しいかもわかってはいますが、
それでも過去のあの傑作たちを知っている身としては本作は読んでいて哀しかった。
あんなにいい作家だったのにな、と朱川氏には失礼ですが思わずにいられなかった。
。。。白い石探しに行ってこようかな。
いっぺんさん、いっぺんさん、朱川湊人氏をデビュー当時の彼に戻してください。
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帰りなさい、あなたの世界へ――。
造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、
香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、
それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、
二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、
幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。
高橋は開き直ったような落ち着いた声で、
「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。
それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった――。
***
。。。。。。
どうしよう、何もコメントできない。
ものすごい駄作なら欠点をあげつらうこともできるしその逆もまた然りなのですが、
なんていうかこう、音痴なんだけど笑えるほどじゃないからネタにしづらい微妙な音痴、的
中途半端な〝ダメだこりゃミステリ〟なので感想を述べるのが難しい。。。
ただひとつ言えるのは、駄作なら壁に本をぶん投げるところですが、
本作は読んでいる最中、投げるほどにはむかつかないものの
何度も閉じてしまいそうになった。ページと目蓋を。
要するにつまらない。
ストーリー展開もどこかで読んだようなものなら文章表現もひどく陳腐。
これがあの〝戻り川心中〟を書いた連城三紀彦? と途中で表紙の著者名を
確認してしまったほど(実話)。
登場人物たちの挙動や心理描写もむちゃくちゃだし(たとえば
★自分の店に来てくれたら自分を本当に信頼してくれた証拠、って偽水絵は言ってたけど
店にいるのは単なる水絵のそっくりさんだと思っている川田がそこに来たからって
信頼した証拠にはならないだろ。
★愛人のそっくりさんを水商売の店で指名する男なんてあんまりいないと思うんだけど。
★で、結局、序盤で紙で作った蜂つきの造花が出てきたのと
香奈子が実の子じゃない圭太にあそこまで執着した理由はいったい何だったんだ?
まだまだまだまだありますがこれ以上突っ込んでもきりがないので
このへんにしておきますが。
ラスト間際で「片方の肩を持てばもう片方を裏切ることになる」と悩む少女の葛藤を
納得のいく形で見事に収束させてみせる手腕には唯一おっと思わせられましたが。
あまりおすすめできないです。
本作が初連城三紀彦という人は、必ず〝戻り川心中〟読んでください。お願いですから。
蛇足:
私なら最終章のあれを〝和洋混乱〟じゃなく〝和洋混沌〟って表現するけどな。
そのほうが字面も語呂も何となくいい気が。
造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、
香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、
それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、
二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、
幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。
高橋は開き直ったような落ち着いた声で、
「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。
それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった――。
***
。。。。。。
どうしよう、何もコメントできない。
ものすごい駄作なら欠点をあげつらうこともできるしその逆もまた然りなのですが、
なんていうかこう、音痴なんだけど笑えるほどじゃないからネタにしづらい微妙な音痴、的
中途半端な〝ダメだこりゃミステリ〟なので感想を述べるのが難しい。。。
ただひとつ言えるのは、駄作なら壁に本をぶん投げるところですが、
本作は読んでいる最中、投げるほどにはむかつかないものの
何度も閉じてしまいそうになった。ページと目蓋を。
要するにつまらない。
ストーリー展開もどこかで読んだようなものなら文章表現もひどく陳腐。
これがあの〝戻り川心中〟を書いた連城三紀彦? と途中で表紙の著者名を
確認してしまったほど(実話)。
登場人物たちの挙動や心理描写もむちゃくちゃだし(たとえば
★自分の店に来てくれたら自分を本当に信頼してくれた証拠、って偽水絵は言ってたけど
店にいるのは単なる水絵のそっくりさんだと思っている川田がそこに来たからって
信頼した証拠にはならないだろ。
★愛人のそっくりさんを水商売の店で指名する男なんてあんまりいないと思うんだけど。
★で、結局、序盤で紙で作った蜂つきの造花が出てきたのと
香奈子が実の子じゃない圭太にあそこまで執着した理由はいったい何だったんだ?
まだまだまだまだありますがこれ以上突っ込んでもきりがないので
このへんにしておきますが。
ラスト間際で「片方の肩を持てばもう片方を裏切ることになる」と悩む少女の葛藤を
納得のいく形で見事に収束させてみせる手腕には唯一おっと思わせられましたが。
あまりおすすめできないです。
本作が初連城三紀彦という人は、必ず〝戻り川心中〟読んでください。お願いですから。
蛇足:
私なら最終章のあれを〝和洋混乱〟じゃなく〝和洋混沌〟って表現するけどな。
そのほうが字面も語呂も何となくいい気が。
「これが神様に見放される、ということよ……」
人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。
猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。
増えつづける死者は、未知の病によるものか、それとも、
ある一家が越してきたからなのか…。
***
上下二段組&トータル1271Pを読破する余裕と情熱と根性がある方には
ぜひおすすめしたい一作。
化け物vs人間、というとどうも子供っぽく稚拙に感じてしまうものですが、
本作にはそういった印象はまったく受けず。これもひとえに著者の圧倒的なまでの
筆力があってこそ。
人が化け物に変異していく過程を医学的見地から描いているのも功を奏しているし、
人間一人ひとりの心理描写が非常に巧みで、一歩間違えば子供騙し的になりかねない物語に
実際にあったことを目の当たりにするようなリアリティを与えている。
ただしその〝キャラ立ち〟があまりに素晴らし過ぎるせいで、誰がどう動くか
多少読めてしまう部分もあるにはあるのですが。
あ、でもそれとは反対に、「この人は終盤で絶対に活躍するな」と確信していた人が
いつの間にかフェードアウトしていて「あれ? 結局最後まで出てこなかった。。。」と
拍子抜けするという逆現象もありましたが(まあ、でも絶対起き上がると思っていた
夏野が起き上がらなかったのは、一番正しい〝人としての生〟を全うしたのだ、と
今となっては思っていますが)。
改めて、戦っているのは正義と悪、なんて単純な図式はこの世にないよな。
終盤に差し掛かるころにはもう、自分が誰を憎んでいるのか、誰の死を悲しんでいるのか、
自分自身わからなくなってきていたし。
まあ、本作が屍鬼という存在を通して人間の〝習性〟〝性(さが)〟といったものを
巧妙に描き出し皮肉ってみせていることは確かです。
怖さと切なさが同時に漂ってくるようなラストはすごく好き。
複雑な精神の持ち主は、自分を一番理解してくれる、そして自分と一番近い人間と
共鳴してしまうものなんだな、やっぱり。。。
映画化してほしいな。変にCGとか使わず、それぞれのキャラの内面を深く掘り下げる形で。
ちなみに本作を読んだ人には、新井素子さんの著作〝グリーン・レクイエム〟に
収録されている〝週に一度のお食事を〟もぜひ読んでほしいところ。
蛇足:
それにしてもこれだけ長い物語を読んでいると、その作家のよく使う単語がわかってくる。
本作は
〝瞬く〟
〝呻く〟
〝摂理〟
だった。
人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。
猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。
増えつづける死者は、未知の病によるものか、それとも、
ある一家が越してきたからなのか…。
***
上下二段組&トータル1271Pを読破する余裕と情熱と根性がある方には
ぜひおすすめしたい一作。
化け物vs人間、というとどうも子供っぽく稚拙に感じてしまうものですが、
本作にはそういった印象はまったく受けず。これもひとえに著者の圧倒的なまでの
筆力があってこそ。
人が化け物に変異していく過程を医学的見地から描いているのも功を奏しているし、
人間一人ひとりの心理描写が非常に巧みで、一歩間違えば子供騙し的になりかねない物語に
実際にあったことを目の当たりにするようなリアリティを与えている。
ただしその〝キャラ立ち〟があまりに素晴らし過ぎるせいで、誰がどう動くか
多少読めてしまう部分もあるにはあるのですが。
あ、でもそれとは反対に、「この人は終盤で絶対に活躍するな」と確信していた人が
いつの間にかフェードアウトしていて「あれ? 結局最後まで出てこなかった。。。」と
拍子抜けするという逆現象もありましたが(まあ、でも絶対起き上がると思っていた
夏野が起き上がらなかったのは、一番正しい〝人としての生〟を全うしたのだ、と
今となっては思っていますが)。
改めて、戦っているのは正義と悪、なんて単純な図式はこの世にないよな。
終盤に差し掛かるころにはもう、自分が誰を憎んでいるのか、誰の死を悲しんでいるのか、
自分自身わからなくなってきていたし。
まあ、本作が屍鬼という存在を通して人間の〝習性〟〝性(さが)〟といったものを
巧妙に描き出し皮肉ってみせていることは確かです。
怖さと切なさが同時に漂ってくるようなラストはすごく好き。
複雑な精神の持ち主は、自分を一番理解してくれる、そして自分と一番近い人間と
共鳴してしまうものなんだな、やっぱり。。。
映画化してほしいな。変にCGとか使わず、それぞれのキャラの内面を深く掘り下げる形で。
ちなみに本作を読んだ人には、新井素子さんの著作〝グリーン・レクイエム〟に
収録されている〝週に一度のお食事を〟もぜひ読んでほしいところ。
蛇足:
それにしてもこれだけ長い物語を読んでいると、その作家のよく使う単語がわかってくる。
本作は
〝瞬く〟
〝呻く〟
〝摂理〟
だった。
私の声が聞こえますか?
大型スーパー“デイリータウン”のマネージャー袖山剛史は、
クレーマー・岬圭祐、万引き常習犯・マンビーという二人の“悪魔”に悩まされていた。
ある日岬が、クマ型ペットロボット“テディ・バディ”のケンタを診てほしいと現れた。
治療法を教えて切り抜けたのも束の間、マンビーにデスクトップパソコンを盗まれる。
そして岬が再びやって来た、「電子レンジでケンタを温めたら死んだ」と――。
岬の嫌がらせはエスカレートする一方。
袖山の心の支えは恋人・美乃の存在だったが…。
***
オチはかなり予測不可能で物語にどう決着がつくのかわからず、
意表をつきまくりのラストにはいたく驚かされましたが。。。
冷静になって振り返ってみると、そのオチに至るまでの経緯が支離滅裂すぎ。
逆に本作のオチを読めた人がいたらお眼にかかりたいぐらい、
全体にこじつけ感や矛盾が多かった。
たとえば、
なぜ主人公は岬のぬいぐるみはあくまでぬいぐるみとしてしか見ていないのに
自分はあそこまで偏執的になっているのか、という人格面での非統一性。
そしてどうしてわざわざぬいぐるみのために部屋を借りてやらねばならないのか。
普通に同棲すればいいのでは?
主人公の好きな女性を岬がストーキングしてたっていうのも偶然にしても
ちょっとご都合主義すぎるのでは。
極めつけ、警察が杜撰すぎ。
主人公と美乃がただの友人じゃないなんて美乃の両親にちょっと聞き込みすれば
簡単にわかることだし、人を殺した現場にいた人間が単なる目撃者か殺人犯かなんて
わからないはずがない。岬が主人公の犯罪をチクらないのもおかしいし(しかも
自分に嫌疑がかかってるのに)。
って伏字だらけで全然感想にならないよこれじゃ。
主人公が接客するいろいろなタイプのクレーマーたちはリアルで面白かったですが。
(著者は以前主人公と同じ業種で働いていたらしいのでそのせいでしょうが)
そういえば蛇足ですが、私がバイト時代一番難儀したクレーマーは
数分待たせたことを根に持って「私をバカにしてるんですか。私はヒマじゃないんです」
と延々二時間ねちねち語っていったおっさん。
忙しいなら早く帰ろうよ。
ちなみにクレーマーネタでは荻原浩氏〝神様からひと言〟がダントツに面白いです。
冒頭の会議のシーンは少々だるいですが、あとはひたすら笑いの連続。おすすめです。
。。。少なくとも本作よりは。
大型スーパー“デイリータウン”のマネージャー袖山剛史は、
クレーマー・岬圭祐、万引き常習犯・マンビーという二人の“悪魔”に悩まされていた。
ある日岬が、クマ型ペットロボット“テディ・バディ”のケンタを診てほしいと現れた。
治療法を教えて切り抜けたのも束の間、マンビーにデスクトップパソコンを盗まれる。
そして岬が再びやって来た、「電子レンジでケンタを温めたら死んだ」と――。
岬の嫌がらせはエスカレートする一方。
袖山の心の支えは恋人・美乃の存在だったが…。
***
オチはかなり予測不可能で物語にどう決着がつくのかわからず、
意表をつきまくりのラストにはいたく驚かされましたが。。。
冷静になって振り返ってみると、そのオチに至るまでの経緯が支離滅裂すぎ。
逆に本作のオチを読めた人がいたらお眼にかかりたいぐらい、
全体にこじつけ感や矛盾が多かった。
たとえば、
なぜ主人公は岬のぬいぐるみはあくまでぬいぐるみとしてしか見ていないのに
自分はあそこまで偏執的になっているのか、という人格面での非統一性。
そしてどうしてわざわざぬいぐるみのために部屋を借りてやらねばならないのか。
普通に同棲すればいいのでは?
主人公の好きな女性を岬がストーキングしてたっていうのも偶然にしても
ちょっとご都合主義すぎるのでは。
極めつけ、警察が杜撰すぎ。
主人公と美乃がただの友人じゃないなんて美乃の両親にちょっと聞き込みすれば
簡単にわかることだし、人を殺した現場にいた人間が単なる目撃者か殺人犯かなんて
わからないはずがない。岬が主人公の犯罪をチクらないのもおかしいし(しかも
自分に嫌疑がかかってるのに)。
って伏字だらけで全然感想にならないよこれじゃ。
主人公が接客するいろいろなタイプのクレーマーたちはリアルで面白かったですが。
(著者は以前主人公と同じ業種で働いていたらしいのでそのせいでしょうが)
そういえば蛇足ですが、私がバイト時代一番難儀したクレーマーは
数分待たせたことを根に持って「私をバカにしてるんですか。私はヒマじゃないんです」
と延々二時間ねちねち語っていったおっさん。
忙しいなら早く帰ろうよ。
ちなみにクレーマーネタでは荻原浩氏〝神様からひと言〟がダントツに面白いです。
冒頭の会議のシーンは少々だるいですが、あとはひたすら笑いの連続。おすすめです。
。。。少なくとも本作よりは。
「名探偵は『正しい』?」
推理作家の白瀬は、とっても気弱な友人・音野順が秘める謎解きの才能を見込んで、
仕事場の一角に探偵事務所を開いた。今日も白瀬は泣き言をいう音野をなだめつつ、
お弁当のおにぎりを持った名探偵を事件現場へ連れてゆく。
殺人現場に撒かれた大量のトランプと、凶器が貫くジョーカーが構成する驚愕の密室トリック、
令嬢の婿取りゆきだるまコンテストで起きた、雪の豪邸の不可能殺人など
五つの難事件を収録。
★収録作品★
踊るジョーカー
時間泥棒
見えないダイイング・メッセージ
毒入りバレンタイン・チョコ
雪だるまが殺しにやってくる
***
理系ミステリの名手である北山氏の連作短編集ですが、
ほんとこの人の考え出すトリックを見ていると
「でん○ろう先生もその気になれば完全犯罪やれるんじゃ」と思ってしまう(先生すいません)。
不謹慎な言い方だけど、〝やってみよう! 楽しくできるみんなの殺人〟的な、
遊び心溢れるミステリなんだよなー、この作家さんの書くものは。。。
こう言っちゃなんだけどそこが面白いのですが。
そして名探偵=変人で傲岸不遜で自信家、というお約束を(もちろん著者狙ってるでしょうが)
裏切る探偵・音野順の情けないキャラも可愛くていい感じ。
随所に盛り込まれた小ネタ(〝知的敗者〟発言、探偵が腰掛ける机の前の座布団に座る依頼人、
森博嗣やジェイムス・ティプトリー・ジュニア等の著書のタイトルの一部パクリ、)も楽しい。
非常におすすめの一冊なのですが、個人的に納得がいかなかった部分は、
◆毒入りバレンタイン・チョコ◆
普通、手作りチョコって市販の鋳型の紙に溶かしたチョコを流し込んで作るから
あんな外の紙とチョコが分離した状態のものを作るのは不自然だと思う。
しかもチョコを持ち歩いているときに振動で毒が付着してしまう危険性も大いにあるはず。
それに毒を付着させるのに協力磁石を使っているなら、机の下を音もなく、速やかに
動かすのは相当難しいのでは?
そして警察の机なんかスチール製が多そうだから誰も仕込まれた磁石に気づかないなんて
ありえないし(そもそも科捜研がすみずみまで調べるはず。。。って言ったら野暮?)、
ちょっとトリックに無理がある気がした。そういう点に眼をつぶれば面白かったけど。
◆雪だるまが殺しにやってくる◆
〝雪の結晶はあちこち尖ったミクロの刃〟って著者本人が書いているように、
雪だるまを風船で代用なんかしたりしたら吹雪&寒さによるゴムの劣化で
あっという間に割れるはず。このトリックは本作中一番実行不能な気がした。
しかも犯人、もし風船がさして遠くにいかないうちに割れてすぐそばに落ちたりしたら
どうやって誤魔化す気だったのか?
そして他の短編に比べてどうも間延びした感じがするのでどうしてだろうと思っていたら
本編だけ書き下ろしなんですね。やっぱり雑誌掲載のために書かれた原稿のほうが
ほどよく締まるものなのかも(ほかの作家さんの短編集にもそういうことが多いので)。
北山氏の著作は結構世紀末的な雰囲気の漂うものが多かったけど、
こういうのほほんとしたミステリもうまいんだな、と新境地を見せられた気分でした。
推理作家の白瀬は、とっても気弱な友人・音野順が秘める謎解きの才能を見込んで、
仕事場の一角に探偵事務所を開いた。今日も白瀬は泣き言をいう音野をなだめつつ、
お弁当のおにぎりを持った名探偵を事件現場へ連れてゆく。
殺人現場に撒かれた大量のトランプと、凶器が貫くジョーカーが構成する驚愕の密室トリック、
令嬢の婿取りゆきだるまコンテストで起きた、雪の豪邸の不可能殺人など
五つの難事件を収録。
★収録作品★
踊るジョーカー
時間泥棒
見えないダイイング・メッセージ
毒入りバレンタイン・チョコ
雪だるまが殺しにやってくる
***
理系ミステリの名手である北山氏の連作短編集ですが、
ほんとこの人の考え出すトリックを見ていると
「でん○ろう先生もその気になれば完全犯罪やれるんじゃ」と思ってしまう(先生すいません)。
不謹慎な言い方だけど、〝やってみよう! 楽しくできるみんなの殺人〟的な、
遊び心溢れるミステリなんだよなー、この作家さんの書くものは。。。
こう言っちゃなんだけどそこが面白いのですが。
そして名探偵=変人で傲岸不遜で自信家、というお約束を(もちろん著者狙ってるでしょうが)
裏切る探偵・音野順の情けないキャラも可愛くていい感じ。
随所に盛り込まれた小ネタ(〝知的敗者〟発言、探偵が腰掛ける机の前の座布団に座る依頼人、
森博嗣やジェイムス・ティプトリー・ジュニア等の著書のタイトルの一部パクリ、)も楽しい。
非常におすすめの一冊なのですが、個人的に納得がいかなかった部分は、
◆毒入りバレンタイン・チョコ◆
普通、手作りチョコって市販の鋳型の紙に溶かしたチョコを流し込んで作るから
あんな外の紙とチョコが分離した状態のものを作るのは不自然だと思う。
しかもチョコを持ち歩いているときに振動で毒が付着してしまう危険性も大いにあるはず。
それに毒を付着させるのに協力磁石を使っているなら、机の下を音もなく、速やかに
動かすのは相当難しいのでは?
そして警察の机なんかスチール製が多そうだから誰も仕込まれた磁石に気づかないなんて
ありえないし(そもそも科捜研がすみずみまで調べるはず。。。って言ったら野暮?)、
ちょっとトリックに無理がある気がした。そういう点に眼をつぶれば面白かったけど。
◆雪だるまが殺しにやってくる◆
〝雪の結晶はあちこち尖ったミクロの刃〟って著者本人が書いているように、
雪だるまを風船で代用なんかしたりしたら吹雪&寒さによるゴムの劣化で
あっという間に割れるはず。このトリックは本作中一番実行不能な気がした。
しかも犯人、もし風船がさして遠くにいかないうちに割れてすぐそばに落ちたりしたら
どうやって誤魔化す気だったのか?
そして他の短編に比べてどうも間延びした感じがするのでどうしてだろうと思っていたら
本編だけ書き下ろしなんですね。やっぱり雑誌掲載のために書かれた原稿のほうが
ほどよく締まるものなのかも(ほかの作家さんの短編集にもそういうことが多いので)。
北山氏の著作は結構世紀末的な雰囲気の漂うものが多かったけど、
こういうのほほんとしたミステリもうまいんだな、と新境地を見せられた気分でした。
いつかは、とどく。
神父や修導士の厳しい監督のもと、社会から完全に隔離した集団生活――
修道院とは名ばかりの教護施設で、混血児イグナシオは友人を事故に見せかけ殺害した。
修道女・文子は偶然現場を目撃するが、沈黙することをイグナシオと約束する。
“人を裁けるのは、神だけです。”
静謐に言い放つ文子にイグナシオは強く女性を意識し、施設を脱走する最後の晩、
初めて文子と結ばれる。
そして、己の居場所を探して彷徨い新宿歌舞伎町に辿り着いたイグナシオは、
新たな生活を始めるが…。
芥川賞受賞作と対なす記念碑的名作、待望の文庫化。
***
私のバイブルであり、小説を書く上で一番影響を受けているであろう
花村萬月氏の著作〝王国記〟シリーズの原点ともいうべき作品。
確かに上記の一連のシリーズのプロトタイプであることを感じさせる内容でした。
ただ、萬月氏の初期の作品であるためか、シリーズに比べると多少
ストーリー展開や登場人物たちの挙動がオーバーで鼻白む部分もあったり。
それとは逆に、荒削りなぶんシリーズよりずっと生々しい表現が随所に見られて
何度もどきりとさせられるのですが。
本作で頻繁に言及される〝そうである人間と、そうでない人間〟、
これは〝そうである人間〟には読み終えたときに深い共感を覚えさせ、対して
〝そうでない人間〟には、賢すぎるが故に不器用で、一片の曇りもない愚かさを持った
イグナシオという一人の少年の哀しい物語、としか感じられないだろうと思う。
私は〝そうである人間〟なので、この物語の言わんとしていることが読み取れてしまった。
本当は読み取れないほうが幸せなことであるはずなんだけど。
読後「結局著者は何が言いたかったんだろう? イグナシオは何がしたかったんだろう?」
そう思って首をひねることができる人間でいたかった。
それにしても。。。
相手の哀しみを絶妙のタイミングで癒す能力、
危険の只中にあってもぴくりとも揺らぐことのない精神力、
イグナシオはやっぱり神だったのだな、と思う。
本当の神は彼のように、どこか突き抜けた存在ながらも
欠点も弱さも卑怯さも人間と同じように併せ持っているものだと思うから。
ちなみに本作は重松清氏の〝疾走〟と非常によく似ています。
なので片方が肌に合った人はもう片方もどうぞ。
聖イグナシオ教会。
神父や修導士の厳しい監督のもと、社会から完全に隔離した集団生活――
修道院とは名ばかりの教護施設で、混血児イグナシオは友人を事故に見せかけ殺害した。
修道女・文子は偶然現場を目撃するが、沈黙することをイグナシオと約束する。
“人を裁けるのは、神だけです。”
静謐に言い放つ文子にイグナシオは強く女性を意識し、施設を脱走する最後の晩、
初めて文子と結ばれる。
そして、己の居場所を探して彷徨い新宿歌舞伎町に辿り着いたイグナシオは、
新たな生活を始めるが…。
芥川賞受賞作と対なす記念碑的名作、待望の文庫化。
***
私のバイブルであり、小説を書く上で一番影響を受けているであろう
花村萬月氏の著作〝王国記〟シリーズの原点ともいうべき作品。
確かに上記の一連のシリーズのプロトタイプであることを感じさせる内容でした。
ただ、萬月氏の初期の作品であるためか、シリーズに比べると多少
ストーリー展開や登場人物たちの挙動がオーバーで鼻白む部分もあったり。
それとは逆に、荒削りなぶんシリーズよりずっと生々しい表現が随所に見られて
何度もどきりとさせられるのですが。
本作で頻繁に言及される〝そうである人間と、そうでない人間〟、
これは〝そうである人間〟には読み終えたときに深い共感を覚えさせ、対して
〝そうでない人間〟には、賢すぎるが故に不器用で、一片の曇りもない愚かさを持った
イグナシオという一人の少年の哀しい物語、としか感じられないだろうと思う。
私は〝そうである人間〟なので、この物語の言わんとしていることが読み取れてしまった。
本当は読み取れないほうが幸せなことであるはずなんだけど。
読後「結局著者は何が言いたかったんだろう? イグナシオは何がしたかったんだろう?」
そう思って首をひねることができる人間でいたかった。
それにしても。。。
相手の哀しみを絶妙のタイミングで癒す能力、
危険の只中にあってもぴくりとも揺らぐことのない精神力、
イグナシオはやっぱり神だったのだな、と思う。
本当の神は彼のように、どこか突き抜けた存在ながらも
欠点も弱さも卑怯さも人間と同じように併せ持っているものだと思うから。
ちなみに本作は重松清氏の〝疾走〟と非常によく似ています。
なので片方が肌に合った人はもう片方もどうぞ。
聖イグナシオ教会。
――レエ……オグロアラダ……ロゴ………
「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」
ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。
その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、
「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。
そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。
しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。
道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。
未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。
血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
道尾秀介さん初直木賞候補おめでとう!
ということで(いや、単に偶然なんですが)、久々デビュー作を再読。
道尾氏、このころはまだバリッバリの本格ミステリ書いてたんだなーと思い出して
懐かしくなった。
主人公の独り言がやたら多いのも、
探偵役とワトソン役のキャラや全体的な文体がまんま島田荘司の御手洗シリーズなところも、
中年男性の登場人物だけやたらキャラが立っていて物語の中で浮いているのも、
デビュー当初ならではの道尾作品の特徴。
ギャグセンスのよさは今と変わらずですが。
でもやっぱり、29歳でここまでのものを書けるのはすごいと思う。
というか不思議なのが、どうして著者はこの作品を〝ホラーサスペンス大賞〟に
送ろうと思ったんだろ?
この内容はどうみても〝鮎川哲也賞〟だと思うのですが(賞金目当て。。。?)。
何にせよ、デビュー作である本作を読んですっかりファンになってしまった私としては
(まあ最近、幼女性虐待ネタを乱発するので若干引き気味でもあるのですが。。。)
直木賞受賞を支持したいところです。
作風が少し似た感じで、ずっとファンだった伊坂氏はノミネートを辞退してしまったし、
それ以前に彼の最近の作風は正直あまり好きじゃないので。。。
ちなみに本作の大元となった掌編というのがデビュー前の道尾氏によって
ネット上で公開されているのですが、読みたい方はこちらをどうぞ(若干ネタバレ入ってるので
本作を読み終えてからのほうが可)。
「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」
ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。
その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、
「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。
そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。
しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。
道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。
未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。
血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
道尾秀介さん初直木賞候補おめでとう!
ということで(いや、単に偶然なんですが)、久々デビュー作を再読。
道尾氏、このころはまだバリッバリの本格ミステリ書いてたんだなーと思い出して
懐かしくなった。
主人公の独り言がやたら多いのも、
探偵役とワトソン役のキャラや全体的な文体がまんま島田荘司の御手洗シリーズなところも、
中年男性の登場人物だけやたらキャラが立っていて物語の中で浮いているのも、
デビュー当初ならではの道尾作品の特徴。
ギャグセンスのよさは今と変わらずですが。
でもやっぱり、29歳でここまでのものを書けるのはすごいと思う。
というか不思議なのが、どうして著者はこの作品を〝ホラーサスペンス大賞〟に
送ろうと思ったんだろ?
この内容はどうみても〝鮎川哲也賞〟だと思うのですが(賞金目当て。。。?)。
何にせよ、デビュー作である本作を読んですっかりファンになってしまった私としては
(まあ最近、幼女性虐待ネタを乱発するので若干引き気味でもあるのですが。。。)
直木賞受賞を支持したいところです。
作風が少し似た感じで、ずっとファンだった伊坂氏はノミネートを辞退してしまったし、
それ以前に彼の最近の作風は正直あまり好きじゃないので。。。
ちなみに本作の大元となった掌編というのがデビュー前の道尾氏によって
ネット上で公開されているのですが、読みたい方はこちらをどうぞ(若干ネタバレ入ってるので
本作を読み終えてからのほうが可)。
かつてみんなは何かであったのだ。
とある精神科病棟。
重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。
その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。
彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。
淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
山本周五郎賞受賞作。
***
帚木作品の中ではかなり評判がいいので読んでみましたが、
確かに素朴ながらも非常によくできた作品。
著者が現役の精神科医であるせいもあって、患者一人ひとりの個性が際立っており、
けれど著者は決して彼らを奇抜にデフォルメして描いたりはしておらず、
帚木氏の医師として、作家としての温かな視線を文章を通してずっと感じました。
それぞれの患者の過去も丁寧に描写されていて、彼らはちゃんと名前も人格もある
一人の人間なのだという書き手の、そして患者たちの切実な訴えが聞こえてくるようでした。
ただ、患者たちの過去が書かれている割りになぜ彼らがその病気を発症するに至ったかは
ほとんど触れられておらず、ちょっと彼らのバックボーンが想像しづらい感はあった。
そして中盤の殺人シーンがあまりにも唐突で、これまで淡々と、でもリアリティ溢れる描写で
展開してきた物語から浮いてしまっているようにも思えた。
実際にあんな事件が起こりうるなら、閉鎖病棟は相当杜撰な施設だと言わざるを得ない(まあ
今の時代においては〝閉鎖病棟〟という言葉自体死語に近いですが)。
本作においてあの殺人事件は必要だったのかな? どうも唐突に感じた。
退院していく者に対してのほかの患者の喜びと嫉妬が混じった複雑な感情、
そして患者と医師との相性、
そのあたりの描写は非常にリアルで何度もうんうん頷きながら読みましたが、
殺人を犯して精神病院送りになった登場人物の周囲の(病を持っていない普通の)人間が
その彼を少しも恐れない描写があったりして、偏見ではなくその点には疑問を持ちましたが。
病気うんぬんではなくやっぱり殺人者で初対面なら少しは警戒するはずだろうに。
作中にはやはり退院してきた元患者の身内を警戒し、そばで暮らすことに難色を示す
親族たちも出てはくるのですが。。。
何で場合によって無警戒だったりそうじゃなかったりするんだろう? と、その不統一感が
少し気になった。
義父にレイプされた少女が簡単に病棟の患者である中年の男たちと仲良くなる、というのも
違和感があった。まあ人によるんだろうけど。。。
個人的に一番切なかったのは、メインキャラたちのエピソードよりも、
殺された男が死の間際の一瞬に見せた表情。
(自分で言いたくはないけど)同じ心を病む者として、彼の心情が痛いほどわかって
泣きたくなった。
つい最近、統合失調症の母親を思い余って手にかけてしまった17歳の男の子のことが
ニュースになっていたけど、この病気ほど本人の苦しみが周囲に伝わりにくい病気も
ないと思う。看病をする周囲もつらいし。
この病に罹っている人すべてが寛解し、家族ともども少しでも楽になってくれるよう願います。
とある精神科病棟。
重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。
その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。
彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。
淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
山本周五郎賞受賞作。
***
帚木作品の中ではかなり評判がいいので読んでみましたが、
確かに素朴ながらも非常によくできた作品。
著者が現役の精神科医であるせいもあって、患者一人ひとりの個性が際立っており、
けれど著者は決して彼らを奇抜にデフォルメして描いたりはしておらず、
帚木氏の医師として、作家としての温かな視線を文章を通してずっと感じました。
それぞれの患者の過去も丁寧に描写されていて、彼らはちゃんと名前も人格もある
一人の人間なのだという書き手の、そして患者たちの切実な訴えが聞こえてくるようでした。
ただ、患者たちの過去が書かれている割りになぜ彼らがその病気を発症するに至ったかは
ほとんど触れられておらず、ちょっと彼らのバックボーンが想像しづらい感はあった。
そして中盤の殺人シーンがあまりにも唐突で、これまで淡々と、でもリアリティ溢れる描写で
展開してきた物語から浮いてしまっているようにも思えた。
実際にあんな事件が起こりうるなら、閉鎖病棟は相当杜撰な施設だと言わざるを得ない(まあ
今の時代においては〝閉鎖病棟〟という言葉自体死語に近いですが)。
本作においてあの殺人事件は必要だったのかな? どうも唐突に感じた。
退院していく者に対してのほかの患者の喜びと嫉妬が混じった複雑な感情、
そして患者と医師との相性、
そのあたりの描写は非常にリアルで何度もうんうん頷きながら読みましたが、
殺人を犯して精神病院送りになった登場人物の周囲の(病を持っていない普通の)人間が
その彼を少しも恐れない描写があったりして、偏見ではなくその点には疑問を持ちましたが。
病気うんぬんではなくやっぱり殺人者で初対面なら少しは警戒するはずだろうに。
作中にはやはり退院してきた元患者の身内を警戒し、そばで暮らすことに難色を示す
親族たちも出てはくるのですが。。。
何で場合によって無警戒だったりそうじゃなかったりするんだろう? と、その不統一感が
少し気になった。
義父にレイプされた少女が簡単に病棟の患者である中年の男たちと仲良くなる、というのも
違和感があった。まあ人によるんだろうけど。。。
個人的に一番切なかったのは、メインキャラたちのエピソードよりも、
殺された男が死の間際の一瞬に見せた表情。
(自分で言いたくはないけど)同じ心を病む者として、彼の心情が痛いほどわかって
泣きたくなった。
つい最近、統合失調症の母親を思い余って手にかけてしまった17歳の男の子のことが
ニュースになっていたけど、この病気ほど本人の苦しみが周囲に伝わりにくい病気も
ないと思う。看病をする周囲もつらいし。
この病に罹っている人すべてが寛解し、家族ともども少しでも楽になってくれるよう願います。
夢の中でまた夢を見よう。
団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。
「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く――。
消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…
異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。
圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。
★収録作品★
けものはら
屋根猩猩
くさのゆめがたり
天化の宿
朝の朧町
***
圧倒的な想像力で創り上げた異世界を文章で描写する手腕は相変わらず、しかも
デビュー当時に比べ文章も圧倒的に上達している恒川氏ですが。。。
。。。何て言うんだろう、これまでは、荒い雑草が生い茂っていて景観は悪くても
その中にぽつ、ぽつとこちらの胸を衝いてくる言葉が小石のように散らばっていたのが、
雑草が全部刈られて全体的に洗練されても、その土地がアスファルトで均されてしまったせいで
宝石の原石みたいだった無骨だけれど魅力に溢れた〝小石〟までなくなってしまった、
本作にはそういう印象を受けた。
これだったらどんなに文章が拙くても〝夜市〟のほうがずっとよかった。
あの物語は未だに私の中にしっかりと残っているし、思い出すたびに心を締め付けてくるほど
なのに、今回のこの短編集は読み終えたばかりなのにもう既に内容が朧になってる。
〝天化の宿〟は、大人が読めば静かな勇気が胸の内に満ちてくるような秀作だと思うけど、
全体的には恒川氏独特の個性というのが今回はあまり感じられなかった。
同じ短編集なら、〝秋の牢獄〟のほうが圧倒的によかった。
今回はただ文章が整っていてきれいだというだけで、静謐さの中に垣間見える
荒々しく野性味溢れた表現が魅力の恒川作品から逸脱してしまっている印象。
これまでの彼の作品を読んでいなければこんな風には思わないのでしょうが。
。。。まあこれまでの氏の著作のレベルが高すぎたってことでしょう。こういうときもあるよな。
と、偉そうながらに思っておきます。
団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。
「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く――。
消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…
異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。
圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。
★収録作品★
けものはら
屋根猩猩
くさのゆめがたり
天化の宿
朝の朧町
***
圧倒的な想像力で創り上げた異世界を文章で描写する手腕は相変わらず、しかも
デビュー当時に比べ文章も圧倒的に上達している恒川氏ですが。。。
。。。何て言うんだろう、これまでは、荒い雑草が生い茂っていて景観は悪くても
その中にぽつ、ぽつとこちらの胸を衝いてくる言葉が小石のように散らばっていたのが、
雑草が全部刈られて全体的に洗練されても、その土地がアスファルトで均されてしまったせいで
宝石の原石みたいだった無骨だけれど魅力に溢れた〝小石〟までなくなってしまった、
本作にはそういう印象を受けた。
これだったらどんなに文章が拙くても〝夜市〟のほうがずっとよかった。
あの物語は未だに私の中にしっかりと残っているし、思い出すたびに心を締め付けてくるほど
なのに、今回のこの短編集は読み終えたばかりなのにもう既に内容が朧になってる。
〝天化の宿〟は、大人が読めば静かな勇気が胸の内に満ちてくるような秀作だと思うけど、
全体的には恒川氏独特の個性というのが今回はあまり感じられなかった。
同じ短編集なら、〝秋の牢獄〟のほうが圧倒的によかった。
今回はただ文章が整っていてきれいだというだけで、静謐さの中に垣間見える
荒々しく野性味溢れた表現が魅力の恒川作品から逸脱してしまっている印象。
これまでの彼の作品を読んでいなければこんな風には思わないのでしょうが。
。。。まあこれまでの氏の著作のレベルが高すぎたってことでしょう。こういうときもあるよな。
と、偉そうながらに思っておきます。
そして過去は現在となり、現在は未だ見ぬ時となる。
ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授の邸宅・蝙蝠館に招待されたゼミ生たち。
住民たちが先祖返りして獣同然の姿になったと伝えられる狗神窪にひっそりと佇むこの館が
吹雪に降り込められた夜、恐怖の殺人劇が幕を開ける――。
心理学やナチズム、中世の魔女裁判などにまつわる豊富な知識と、
鮮やかな仕掛けでミステリ・シーンに殴り込みをかける驚異の新人のデビュー作。
***
こう言っちゃ作者に失礼なのですが、ネット上のレビューサイトでの評価が
あまりに酷評なので逆に読みたくなって手にとった一作。
結論から言えば、そこまで言うほどひどくなかった。
突っ込みどころは異様に多かったけど、眼を覆いたくなるほどではまったくなかった。
むしろ楽しめた。
心理学うんちくを登場人物たちが語る部分も、大部分は(私は心理学オタクなので)
既に何かの文献で読んだことのあるものばかりだったけど、
異系交配が天才を生み出す、なんてくだりは初耳で興味深かったし、
探偵役が心理学の知識で犯人を追い詰めていくというのも斬新でよかったと思う。
ただ、どうしても眼を潰れない点はやはりあるので、以下に列記。
★フリッツの強迫神経症の原因を読者が推理するのはあれだけの材料じゃ到底無理。
せめて杏子のディナーのメニューだけソーセージにするとかしてくれないと(シモネタで
すいませんが本心です)。
★あの喋り方でホーエンハイム教授が女だと気づくのもやはり絶対無理。ていうか
アンフェア。もう片方は気づいた、というか最初からそうだと思っていたので別段驚くに
値しませんでしたが(むしろ「え、著者この人を女に見せかけてるつもりだったの?!」
と別の意味で驚いた)。
★根津が序盤で教授に取り入ろうと画策していたのが、途中からまったくなかったことに
なっていたのは一体何だったんだ? 伏線でもなんでもなくストーリーにも直接絡まないなら
別に描写する必要はなかったのでは?
★いろんなものを詰め込みすぎ。吹雪の山荘、過去の因縁、
精神病理学に臨床心理学に悪魔学にナチズム、叙述トリック。。。
本格推理によくある要素を手当たり次第ぶち込みすぎでまるで闇鍋のようだった。
★秀美の性格がありえない。精神病や虐待、そういった重い要素を軽く語るKYキャラ(ていうか
ただのバカ?)。そういう性格設定だとしてもありえない。こいつ物語が終わるまでに殺されろ、と
思わず願ってしまった。
★被害者が殺される際の描写が稚拙。まったく緊迫感がなく、〝小学○年生〟
とかの付録でついてくる『犯人を当ててみよう!』的な子供向け推理マンガでも読んでいるような
気持ちになった。
★中盤で探偵役が〝植物〟と言い出したときから嫌な予感はしてたんですが。。。
まさかあの植物は出てこないよな、まさか出てこないよなあんなベタな植物、と思っていたら
ほんとに出てきた。。。
ミステリではあまりにも使い古されたネタですよ、倉野先生。。。
有名作家でいったら乙一氏のこの本に入ってる短編とか。
〝スノウブラインド〟というタイトルが本筋にどう絡んでくるのかと思ったら
ラストに無理やり持ってきただけ、って感じなのもどうかなと。。。
そしてメフィスト作家でもそうそうやらないあのSF展開は何だったのかと。。。
でも本当に、皆が酷評するようなものではなかったと思う。
面白かったです。
ちなみに冒頭に出てくる曲はこれ↓ですね。
BGMにどうぞ(全然内容に合わないけどな。。。)。
ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授の邸宅・蝙蝠館に招待されたゼミ生たち。
住民たちが先祖返りして獣同然の姿になったと伝えられる狗神窪にひっそりと佇むこの館が
吹雪に降り込められた夜、恐怖の殺人劇が幕を開ける――。
心理学やナチズム、中世の魔女裁判などにまつわる豊富な知識と、
鮮やかな仕掛けでミステリ・シーンに殴り込みをかける驚異の新人のデビュー作。
***
こう言っちゃ作者に失礼なのですが、ネット上のレビューサイトでの評価が
あまりに酷評なので逆に読みたくなって手にとった一作。
結論から言えば、そこまで言うほどひどくなかった。
突っ込みどころは異様に多かったけど、眼を覆いたくなるほどではまったくなかった。
むしろ楽しめた。
心理学うんちくを登場人物たちが語る部分も、大部分は(私は心理学オタクなので)
既に何かの文献で読んだことのあるものばかりだったけど、
異系交配が天才を生み出す、なんてくだりは初耳で興味深かったし、
探偵役が心理学の知識で犯人を追い詰めていくというのも斬新でよかったと思う。
ただ、どうしても眼を潰れない点はやはりあるので、以下に列記。
★フリッツの強迫神経症の原因を読者が推理するのはあれだけの材料じゃ到底無理。
せめて杏子のディナーのメニューだけソーセージにするとかしてくれないと(シモネタで
すいませんが本心です)。
★あの喋り方でホーエンハイム教授が女だと気づくのもやはり絶対無理。ていうか
アンフェア。もう片方は気づいた、というか最初からそうだと思っていたので別段驚くに
値しませんでしたが(むしろ「え、著者この人を女に見せかけてるつもりだったの?!」
と別の意味で驚いた)。
★根津が序盤で教授に取り入ろうと画策していたのが、途中からまったくなかったことに
なっていたのは一体何だったんだ? 伏線でもなんでもなくストーリーにも直接絡まないなら
別に描写する必要はなかったのでは?
★いろんなものを詰め込みすぎ。吹雪の山荘、過去の因縁、
精神病理学に臨床心理学に悪魔学にナチズム、叙述トリック。。。
本格推理によくある要素を手当たり次第ぶち込みすぎでまるで闇鍋のようだった。
★秀美の性格がありえない。精神病や虐待、そういった重い要素を軽く語るKYキャラ(ていうか
ただのバカ?)。そういう性格設定だとしてもありえない。こいつ物語が終わるまでに殺されろ、と
思わず願ってしまった。
★被害者が殺される際の描写が稚拙。まったく緊迫感がなく、〝小学○年生〟
とかの付録でついてくる『犯人を当ててみよう!』的な子供向け推理マンガでも読んでいるような
気持ちになった。
★中盤で探偵役が〝植物〟と言い出したときから嫌な予感はしてたんですが。。。
まさかあの植物は出てこないよな、まさか出てこないよなあんなベタな植物、と思っていたら
ほんとに出てきた。。。
ミステリではあまりにも使い古されたネタですよ、倉野先生。。。
有名作家でいったら乙一氏のこの本に入ってる短編とか。
〝スノウブラインド〟というタイトルが本筋にどう絡んでくるのかと思ったら
ラストに無理やり持ってきただけ、って感じなのもどうかなと。。。
そしてメフィスト作家でもそうそうやらないあのSF展開は何だったのかと。。。
でも本当に、皆が酷評するようなものではなかったと思う。
面白かったです。
ちなみに冒頭に出てくる曲はこれ↓ですね。
BGMにどうぞ(全然内容に合わないけどな。。。)。
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kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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