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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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かつてみんなは何かであったのだ。



とある精神科病棟。
重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。
その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。
彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。
淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
山本周五郎賞受賞作。

***

帚木作品の中ではかなり評判がいいので読んでみましたが、
確かに素朴ながらも非常によくできた作品。
著者が現役の精神科医であるせいもあって、患者一人ひとりの個性が際立っており、
けれど著者は決して彼らを奇抜にデフォルメして描いたりはしておらず、
帚木氏の医師として、作家としての温かな視線を文章を通してずっと感じました。
それぞれの患者の過去も丁寧に描写されていて、彼らはちゃんと名前も人格もある
一人の人間なのだという書き手の、そして患者たちの切実な訴えが聞こえてくるようでした。

ただ、患者たちの過去が書かれている割りになぜ彼らがその病気を発症するに至ったかは
ほとんど触れられておらず、ちょっと彼らのバックボーンが想像しづらい感はあった。

そして中盤の殺人シーンがあまりにも唐突で、これまで淡々と、でもリアリティ溢れる描写で
展開してきた物語から浮いてしまっているようにも思えた。
実際にあんな事件が起こりうるなら、閉鎖病棟は相当杜撰な施設だと言わざるを得ない(まあ
今の時代においては〝閉鎖病棟〟という言葉自体死語に近いですが)。
本作においてあの殺人事件は必要だったのかな? どうも唐突に感じた。

退院していく者に対してのほかの患者の喜びと嫉妬が混じった複雑な感情、
そして患者と医師との相性、
そのあたりの描写は非常にリアルで何度もうんうん頷きながら読みましたが、
殺人を犯して精神病院送りになった登場人物の周囲の(病を持っていない普通の)人間が
その彼を少しも恐れない描写があったりして、偏見ではなくその点には疑問を持ちましたが。
病気うんぬんではなくやっぱり殺人者で初対面なら少しは警戒するはずだろうに。
作中にはやはり退院してきた元患者の身内を警戒し、そばで暮らすことに難色を示す
親族たちも出てはくるのですが。。。
何で場合によって無警戒だったりそうじゃなかったりするんだろう? と、その不統一感が
少し気になった。
義父にレイプされた少女が簡単に病棟の患者である中年の男たちと仲良くなる、というのも
違和感があった。まあ人によるんだろうけど。。。

個人的に一番切なかったのは、メインキャラたちのエピソードよりも、
殺された男が死の間際の一瞬に見せた表情。
(自分で言いたくはないけど)同じ心を病む者として、彼の心情が痛いほどわかって
泣きたくなった。

つい最近、統合失調症の母親を思い余って手にかけてしまった17歳の男の子のことが
ニュースになっていたけど、この病気ほど本人の苦しみが周囲に伝わりにくい病気も
ないと思う。看病をする周囲もつらいし。
この病に罹っている人すべてが寛解し、家族ともども少しでも楽になってくれるよう願います。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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