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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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あれはバベルの塔だ。

 

友情、片思い、ときどき死――。
さっきまで元気だった陽介が目の前で死んだ。
愛犬はなぜ暴走したのか?
飄然たるユーモアと痛切なアイロニー。
青春ミステリー傑作。

***

大好きな作家さんです。
今回の話もとても面白く一気読み。

ただ、これまでのすべての道尾作品に共通する
意外性&ダークな迫力が本作には感じられず、
その点は少し物足りなかった。
敢えてそういう部分を抑えて書いたのかもしれないけど、
短編〝流れ星のつくり方〟なんかは
淡々としたストーリー運びながらもものすごいインパクトとやられた感があっただけに。

作中に伏線を配置するバランス感覚とそれを明かすタイミングも、
相変わらず天才的ではあるものの
肝心のトリックに「そりゃないだろ」と言いたくなるラインギリギリのものが
多かったことにも不満が残った。
(誰かが誰かを大切に思うが故に起きてしまった悲劇、
というコンセプト(動機)も、今となっては使い古された感があるし)
前作〝片眼の猿〟に比べ文章が拙くなっているのも(まあこれは自分が
小説を書いているからなのでしょうが)気になったし。

でもやっぱり、キャラを個性的&魅力的に描写する手腕にかけては
この著者本当に素晴らしい。
男性作家の書く女性は概してステロタイプになりがち(というか
〝女〟としての面しか描写されない印象)だけど、
道尾氏は女性を〝女性〟としてだけじゃなく〝人間〟としても書ける人なので、
同性の私から見ても魅力を感じる。
男性にも〝異性〟としてだけじゃなく、人間的に惹きつけられる部分があるし。
そして何より〝おっちゃん〟。
どうして道尾氏の描く中年男性は毎回ああもいきいきしてるんだろう?^^;
個性的すぎリアルすぎユーモラスすぎ。身近にモデルでもいるんだろうか?
本作に登場するエキセントリックな大学教授・間宮も、
相変わらず道尾節炸裂でかなり笑わせてもらいました(そして惚れた)。
たぶんこの著者は人間が好きなんだろうな。
人物描写に温かみがある。
どんないけ好かないキャラに対しても肯定の眼差しを感じる。
彼の著作に、それがどんなにドロドロのストーリーであっても
不思議と心地いい温度が漂っているのはだからでしょう。

ラストシーンはとても好きです。
本作は犬の動物的本能をトリックに用いたミステリですが、
ここでは人間のあるちょっとした〝本能〟が描写されていて、
それが読み手を「ああなるほどねえ」とニヤリとさせる。
〝人間の本能〟なんていうと浅ましく醜いものばかり思い浮かべがちですが、
このシーンで描かれているそれは微笑ましく、何だか感動もしてしまった。

トリックだけではなくストーリーも、「たぶんこう来るだろうな」というこちらの読みを
すがすがしいまでにことごとく外してくる道尾秀介氏の著作。
マイナス点のほうが多いかのようなレビューをしてしまいましたが、
あくまでこれまでの作品と比べての感想で、本作も傑作とまでは言えないものの
個性的で完成度の高い物語です。
おすすめ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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