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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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どうか無事でいてください――



自殺者の命を救え!
浮かばれない霊たちが、天国行きと引き替えに人名救助隊を結成、地上に舞い降りた。
救うべきは、100人の命…。
怒涛の人命救助エンタテインメント。
『別冊文芸春秋』連載を単行本化。 

***

物書き修行の一環として、
文章表現やキャラの造形、物語の構成等をチェックしながら本を読むのが
癖になっている私なのですが。。。

この小説ではそれができなかった。
そんなの忘れてただひたすら読み進めてしまった。
感情が思考を意識の外に追いやってしまう。
それほどに面白かった。

「あんたら自殺なんてもったいないことしたんだから
罪滅ぼしに100人の死のうとしている人間を救いなさい。
でないと天国に行かせてやんない」
神さまにそう宣告され、自殺志願者を思いとどまらせるために奔走する
四人の〝幽霊〟。

とてもわかりやすくシンプルな設定。
でもだからこそ書き手の技量が試される。
死にたいと一度でも思ったことのない人間なんてこの世にはきっといないし、
だから読者はいつしか救われる側の人間の立場で彼ら救助隊を見るようになる。
「おまえたちに自分を救えるのか?」と。
少なくとも私はそうだった。

命を救うということはつまり「命は大切にしましょう」と言っているのと同じで、
この言葉はよほど適切に用いない限りは
ただのつまらないきれいごとや説教にしか聞こえない。
けれどこの物語で使われるその言葉はちゃんと私の心に届いた。
ページを繰るたび泣いて笑って、読み終えるころには何だか自分も少しだけ
彼らに救ってもらった気がした。

たぶん彼らの〝救い方〟にはユーモアがあるからかもしれない。
直球じゃなく変化球で救いの手を差し伸べてくれる。
たとえば惚れた相手にフラれたときに、
「きっともっといい人が見つかるよ」とありがちな励まし方をされるよりは、
フラれた相手のめちゃくちゃかっこ悪い姿が写った写真を見せてもらったほうが
深刻に落ち込んでいたのがバカバカしくなって元気になる。
そういう感じ。

うつを初めとする精神的苦しみを克服するのに
その手のマニュアル本を読んだり心療科に通院したりすることに抵抗のある人は、
まず本書を手にとってみてほしい。
もしかしたらこの本一冊だけでもかなりの効果があるかもしれない。
著者の人間という存在に対する温かな等身大の眼差しを、
本書を通して受け止めるだけでも癒しになります。

精神の病に関する描写はちょっとその手の資料丸写しといった感があったけど、
別にこの物語のメインはそこではないし変にひねられるよりはいいのかな。
むしろ中盤で登場する指揮者を目指す少年の話で、著者が地の文で音楽用語を連発しすぎて
もはや悪ノリの域にまで達してたことを突っ込むべきか笑←いえ、話自体は素晴らしいのですが

救助隊メンバー4人の迎える結末は、
「たった一度のこの生を精一杯生きよう」
という本作のテーマに逃げ道を与えてしまっている気がしないでもないのですが、
そんなこと言ったらまず〝幽霊〟って設定から否定しないといけなくなるので
あえて眼をつぶることにします。

ふとした瞬間に意味もなく前向きな感情がこみ上げてくる、
誰しも一度はそんな経験があるでしょうが、
それはもしかしたら彼らがそばで励ましてくれてたのかもしれませんよ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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