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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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これが茶番でなくて、なんだ。



本年度、江戸川乱歩賞受賞作!
眠れるスパイ「沈底魚」が動き出した。正体は大物政治家か、それとも中国の偽装工作か。
真相究明に暗闘する刑事たちの姿をリアルに描いた、本格公安ミステリー!

***

ミステリ系文学新人賞最高峰の賞である〝江戸川乱歩賞〟。
とはいえ本格推理の賞ではないので
「これのどこがミステリ?」と首を傾げたくなる受賞作があることには今さら
突っ込んだりしません。
問題なのは〝ミステリ性〟ではなく、近年の受賞作に
〝エンターテインメント性〟が欠けてきていることだと思う。

文章も構成も飛びぬけて秀逸。
でも、読後抱く感想はといえば
「達者だなあ。。。」
「巧いなあ。。。」
であって、決して
「面白かったなあ。。。」
じゃない。
作文技術の素晴らしさににため息は出ても、
それはあくまで著者自身に対する評価で、物語への賛辞じゃない。
〝東京ダモイ〟しかり〝三年坂 火の夢〟しかり、最近の乱歩賞は、読んでいても
〝小説〟じゃなく、〝脚本〟とか〝資料集〟と向き合っている気がしてしまうのです。

同じ乱歩賞受賞作である

   

といった一連の作品がベストセラーになったのは、
若い年齢層や普段本を読みつけない人にも手に取りやすい文章の読みやすさや
物語の分かりやすさがあったことはもちろんですが、
何より読んでいて手放しで「面白い」と思えるエンターテインメント性があったから。
魅力溢れる登場人物たち、
次第に盛り上がりを見せる展開、
それらに魅せられのめり込んでしまいページを繰る手が止まらない。。。
そうなってしまうのは、その小説が〝物語〟だから。
でも〝脚本〟や〝資料集〟を読んでそんな風になる人はいない。
なぜならそこには〝物語〟という魂が込められていないから。

なんて書くと近年の乱歩賞受賞者に対して失礼であるのは承知ですが
(著者が自身の作品に魂を込めて書いていることもよく分かっているつもりですが)
本作〝沈底魚〟にも、私はやはり〝物語〟を見出すことはできなかった。

個性はあっても魅力に乏しいキャラクター、
あまりに淡々と、淡々と進むストーリー。
作中の要である〝芥川〟や〝若林〟という人物にしても、あまりに描写が浅く
彼らに関するある真相が解明されたところで何ら特別な感情が湧かない。
彼らがあまりに自分の中で〝他人〟すぎて、「ああそうだったんですか」としか思えない。
それは本作のほとんどのキャラ、ほとんどのエピソードについて同じことが言えた。
あともうちょっと掘り下げて書いてくれさえすれば一気に輝き&インパクトを増す要素で
構成された小説であるだけに、すごくもったいないなと思う。

〝起承転結〟もないに等しいので、読む側のテンションも終始平坦なまま。
ゲーム〝テトリス〟で例えるなら、
ある一つのピース(手がかり)をきっかけに何重にも積みあがったブロック(謎)が
連鎖・連鎖・連鎖でどんどん消えていって最後に何もなくなる(=真相解明)のが
醍醐味なのに、本作の場合は最後まで
〝一つのピースが一つのブロック列を消す〟の単調な繰り返し、といったような。
そしてゲーム内にはプレイヤーの士気を煽るBGMが一切流れておらず無音。
そんな印象だった。

敢えて〝物語〟として捉えても、
以前どこかで読んだことのあるようなシーンが多く、
登場人物たちも主人公に都合よく動きすぎている気がした。
ラストも、小気味よく爽快で私的には好きな終わり方ではあるけれど、
よくよく考えるとご都合主義だし。
主人公が能力・性格共にごく平凡な人間であるにも関わらず
ある大人物にやけに買われていたり
人嫌いの部下に慕われていたりすることについても
最後まで納得のいく描写がなく違和感が残った。

エスピオナージというジャンルは大好きで読むのを楽しみにしていただけに残念。
決してつまらないとは思わないし非常に実力ある作家さんだとも思いますが、
やっぱり私は〝物語〟を読みたかった。
むしろ、個性溢れる人生を送っているらしき著者の自伝のほうが面白そうだな
などとも思ってしまった。

〝日本ホラー小説大賞〟も、乱歩賞と同じで最近エンタメ性が薄れてきてるよなあと
ここのところ思っていたのですが、本作著者の曽根氏、あちらでも受賞されてるんですね。
どちらの賞も、〝エンタメ性〟〝物語性〟はもう求めていないということなのかな。
何だか少し寂しい気がする。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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